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エレベーターの安全設計について徹底的に考える

階段と比較すると、エレベーターは身体機能の低下した高齢者にとって安全な移動手段。ただ、ぶつかり事故、転倒事故などは発生していることから、様々な要介護状態の高齢者が利用することを前提に、安全に生活・介助できるエレベーターの仕様を検討する必要がある

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』

リスクマネジメントの視点から見た建物設備の安全設計
その四回目は、エレベーターの安全設計です。
要介護高齢者の生活・介護と言えば、食堂での食事、入浴介助、排泄介助などをイメージする人が多いのですが、介助時間も必要人員も、思いのほか手がかかるのが移動介助です。前回述べた、廊下や階段と同じように、エレベーターも要介護高齢者の生活上、また介護上も、大きなバリア、障害になります。
介護動線・生活動線の基本的に考え方については、『建物設計×介護システム(基礎編)』🔗 でも詳しく述べていますが、同程度の平均要介護度、定員、人員配置でも、廊下・エレベーターなどの生活動線や介護動線によって、必要となる移動介助の量は大きくかわってきます。
ここでは、エレベーターの事故予防の機能的側面から、その安全設計のポイントを整理します。

【事故・リスク例】
◇ エレベーターホールで、車いす入居者にぶつかって、転倒・骨折
◇ エレベーターホールで、自走している車いすに手を挟まれて指を骨折
◇ エレベーター内で、手すりに手が挟まったまま介助しようとして手首骨折

階段と比較すると、エレベーターは身体機能の低下した高齢者にとって安全な移動手段です。
ただ、エレベーターの中で車いす同士がぶつかったり、手すりに手を挟んだまま介助して骨が折れたり、混雑したエレベーターホールで、車いすや他の入居者とぶつかって指を骨折するなどの事故は発生しています。実際に、どのような事故が発生しているのか、その原因は何かを十分に検討し、自立歩行、自走車いす、介助車いす、また認知症による判断力低下や行動もイメージしながら、安全に生活・介助できるエレベーターの仕様を検討する必要があります。

移動動線から見たエレベーターの設計の基本

「エレベーターは入居者数等を勘案して、必要台数を設置する」
介護保険施設や高齢者住宅の設計書にはそう書かれていますが、そもそも食事や入浴などの生活においてエレベーター利用が前提になるような「居室・食堂フロア分離型」の建物設備は、要介護高齢者を対象とした介護保険施設や高齢者住宅には適していません。
それは、エレベーターが、移動において、大きなバリアになるからです。

食堂への移動を考え見ましょう。
2~4階に分かれて、それぞれ15名の入居者がいる場合、一日三度の食事に60名がエレベーターを使って降りてくることになります。福祉エレベーターの場合、一度の移動でほとんどが自立・独歩であれば、一度で10名以上の移送できますから、それほど問題はありませんが、車いすの場合、大型のものでも4台(4人)が限界です。
各居室から各エレベーターホールまでの移動、エレベーター内の付き添い、エレベーターから食堂までの移動介助が必要ですから、食事前後の移動だけで専従で2名~3名のスタッフと、1時間以上の時間がかかります。エレベーターが二台になれば、時間短縮できますが、必要人員も二倍になります。

特に、早朝の時間帯は、起床介助(起床・着替え・洗面歯磨き)と食事準備、食堂までの移動介助など、複数の介助が集中し、かつ夜勤スタッフと早朝スタッフのみという少ない人員で介護をすることになります。そのため、このタイプの高齢者住宅では、車いす利用の要介護高齢者が増えてくると、早朝三時半に起こし始め、四時前には食堂に移動させ、七時・八時までポツンと待機(放置)という生活スタイルになっているところもあります。それは「安心・快適」どころではなく、通常の生活スタイル・生活リズムではありませんし、通常の介護とは呼べないものです。

エレベーターの設計・選択 事故の発生予防対策

要介護高齢者を対象とした高齢者住宅・介護保険施設は、「日常生活にはエレベーターは使用しない」と言うのが原則です。これは食堂だけでなく、浴室も同じです。ただ、特殊浴槽だけは各フロアに設置できないため別フロアに設置するということはありますし、自走式車いすの人が一人で事務室に相談に行く、一階にある自動販売機にジュースを買いに行く…といったこともありますので、歩行高齢者だけでなく、自走車いす高齢者、介助車いすの高齢者、スタッフにとっても、安全性の高いエレベーターの選択、エレベーターホールの設計を行う必要があります。

【エレベーター(籠内)・エレベーターホール 検討一例】
<エレベーター>
◇ エレベーターの出入り口の有効幅員が900mm以上であること
◇ エレベータードアの開閉速度は遅く、開閉時間が長いものとすること
◇ 昇降速度が遅く、振動の少ないエレベーターを採用すること
◇ エレベーター扉の色は周囲の壁と異なる色とし、識別できるようにすること
◇ 籠内は自走車いすが回転できるよう幅1600mm、幅1500mm以上とすること
◇ 少なくとも一台は、ストレッチャーの移送ができる広さを確保すること。
◇ 両側面・正面の700 ㎜から900 ㎜の位置に手すりが設置されていること
◇ 手すりと壁の間に、腕が入り込まないようその広さ・形状に配慮すること
◇ 感染症防止のため抗ウイルス性能のある手すり部材を活用することが望ましい
◇ 正面壁面に、後方が確認できる鏡が設置されていること
◇ 操作ボタンが車椅子利用者にも対応できる高さに設置されていること
◇ 操作ボタンは左右の麻痺に対応できるよう複数設置すること。
<エレベーターホール>
◇ 自走車いすが回転できるよう一辺1500mm以上の正方形を確保すること
◇ 籠床と階床との段差・すき間が極力ないものとすること
◇ 足元が暗がりにならないよう、必要な照度を確保すること
◇ 籠床と階床は異なる色とし、識別しやすくすること





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