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重度要介護割合「介護付 < 住宅型」が示す「反・介護予防」の泥沼化

要介護高齢者向けの住宅として整備された「介護付有料老人ホーム」よりも、自立・要支援向けの「住宅型有料老人ホーム」の方が重度要介護高齢者が多いという現実。それは「住宅型やサ高住でも重度化対応可」という話ではなく、最低限のコンプライアンスも消費者保護の欠片さえない、高齢者住宅業界の泥沼化。

【NEWS & MEDIA 】 ニュースを読む、ベクトルを理解する <No 19>


株式会社TRデータテクノロジーが7月に発売した、「福祉施設・高齢者住宅データベース2019年度版」によって、現在の介護付、住宅型、サ高住それぞれの住宅種別毎の入居者の重度要介護割合の実体が見えてきた。このデータベースは、アンケートのような「一部抜粋」「回答のあったところだけ」の集計ではなく、現在全国の5万3千件の福祉施設・高齢者住宅の重要事項説明書から独自・個別にデータを収集したもので、個別企業のマーケティング、営業活動用としてだけでなく、全国、都道府県、それぞれの市町村の高齢者住宅の運営状況を見る上で、その信頼性は高い。

「福祉施設・高齢者住宅データベース2019年度版」 (外部リンク)

このデータベースをもとに、高齢者住宅の「住宅種別」毎に入居者の要介護度を整理したところ、要介護高齢者向けの住宅として整備された「介護付有料老人ホーム」の平均要介護度が2.48なのに対して、自立や軽度要介護高齢者が多いと思われていた「住宅型有料老人ホーム」は2.72と、実際の入居者の要介護状態は逆転していることがわかった。同様に、要介護3以上の重度要介護高齢者の割合も、介護付が41%であるのに対し、住宅型は50%と半数に上っている。


これは「介護付の方が重度要介護高齢者は多いと思っていた…」という軽い業界トリビアではない。
他のところでも述べているように、本来、区分支給限度額方式のポイント介助を増やすだけでは、重度要介護の高齢者の生活を支えることはできないからだ。

要支援・軽度要介護と重度要介護の介護サービスの違いは「介護サービス量」だけではない。要介護3以上の重度要介護になると、日々の体調の変化が大きく、かつ、ほぼすべての生活行動に介助が必要となる。そのため「ベッドから起こしてほしい」「テレビを点けてほしい」といった短時間のすき間のケア、「お腹の調子が悪いので何度も便がでる」「汗をかいたので着替えたい」といった臨時のケアなど、24時間の包括的なケアが必要になる。また認知症の高齢者は、失見当識によって混乱し、想定できない突発的な行動が多くなるため、継続的な見守りや声掛け、安否確認といった間接介助の充実が不可欠である。
しかし、区分支給限度額の訪問介護は、「介助項目」と「介助時間」を事前予約によってするポイント介助方式であり、これらの介助には対応していない。つまり、住宅型やサ高住は重度要介護高齢者の住宅としては不適格なのだ。


そう言うと、「実際は、入居者の半分も重度要介護高齢者が生活しているじゃないか…」と思うだろう。
それは、「重度要介護高齢者がたくさん入居している」ということと、「重度要介護高齢者が適切な介護を受けて生活している」ということは別だということだ。

住宅型有料老人ホームで重度要介護高齢者に対応するためには、対象外の介助を行うための介護スタッフを、10人に一人程度の割合で、常時、別途確保しておかなければならない。また、日々の体調に合わせて臨機応変に対応できる介護付と違い、事前予約方式の訪問介護の報酬算定は時間管理が厳格で、最低1人20分以上の介助を行うことが求められるため、訪問介護員は一時間に3人しか介護ではない。そのため、介護付の介護スタッフの2倍~3倍は確保しておかなければならない。

しかし、実際には、そのようにはなっていない。
「手が空いているスタッフが臨機応変に対応する」と言い訳する事業者が多いが、それは「手が空いていなければやらない」ということだ。もちろん、介護付きと違い、住宅型は「Aさんの訪問介護中にBさんからコールがあったから中断して向かう」ということはできない。また、自分でコールできない要介護4、5の重度要介護高齢者、認知症高齢者は「ほったらかし」ということを意味している。その結果、本人の生活リズムや要介護状態は無視され、「毎朝、3時半に起こされて、そのまま食堂やリビングで放置」「途中で排便があっても、次の排泄介助まで3時間待たされる」「コールをしない入居者は、寝たきり寝かせきり」というのが実態で、衛生環境の悪化・褥瘡の重度化で瀕死の状態で緊急搬送になったり、入浴中放置され溺水で発見されたりといった、劣悪な生活実体が数多く報告されているのだ。

それは入居高齢者だけの問題ではない。要介護高齢者の生活環境と介護スタッフの労働環境はリンクしている。多くの高齢者住宅で、ケアマネジャーは利益ありきのケアプランを作成させられ、訪問介護スタッフはケアプランと全く違うサービスを提供させられているが、事業者・経営者は「契約上、高齢者住宅は介護に無関係」という立場をとっている。そのため、骨折や死亡事故が起これば、働いているスタッフ個人が、「安全配慮義務違反」として莫大な損害賠償を請求されたり、業務上過失致死に問われることになるのだ。


なぜ、このようなグレーゾーンのビジネスモデルが横行するのかと言えば、利益率が高いからだ。
上の表の通り、介護付有料老人ホームに適用される特定施設入居者生活介護と、住宅型有料老人ホームに適用される区分支給限度額方式は、受け取ることのできる介護報酬が違う。要介護状態が重くなればなるほど、その差額は広がり、要介護3では一人当たり月額82590円、要介護5では134330円となる。
「24時間訪問介護併設で、介護付と一緒ですよ…」とセールスする住宅型は多いが、平均要介護度が同じ2.5で、同じ入居者数、同じ介護スタッフ数であれば、人件費を除いた利益は3倍~4倍は違ってくる。家賃や利用料を5万円以上安くしても、介護付きとは比較にならないほどの高い利益が見込める。
つまり、特定施設入居者生活介護の指定を受け、必要な人員・サービス体制を整えて高齢者住宅を運営するよりも、劣悪な環境に重度要介護高齢者を押し込んで、ケアマネジャーや訪問介護員に「押し売り介護」の不正を行わせる方が、この報酬差額、制度矛盾を利用したぼろ儲けができるのだ。

【参 考】 高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか 🔗


「反・予防介護」 要介護の重度化を加速させる高齢者住宅

住宅型有料老人ホームやサ高住など「区分支給限度額方式」をとる高齢者住宅の「囲い込み不正」や、制度の矛盾・課題については、これまでも繰り返し述べてきた。
しかし、制度上の不備やビジネスモデル上の矛盾だけでなく、実際に「住宅型で働いていた」という介護スタッフと話をすると、もう一段、深い闇が見えてくる。
それは、自立・要支援・軽度要介護で入居した高齢者の「短期間での要介護状態の重度化」だ。

これらの住宅型有料老人ホームやサ高住の「囲い込み型」のビジネスモデルは、「要介護度が重い人=利益率の高い人」ということになる。そのため、自宅で生活しているときは、自立・要支援1だったのに、住宅型有料老人ホームに入ると認定調査の見直しが行われ、半年もたたないうちに要介護2になった要介護3になったという話も少なくない。そのため、上記のように「住宅型では要介護3以上が50%」といっても、「実態要介護1 ⇒ 認定要介護3」のように、居宅支援事業所(ケアマネジャー)やかかりつけ医によって、より重度の認定になるように改竄されているケースも相当数に上るとされている。
しかし、実際に働いていたというケアマネジャーと話をすると、「実際に入居後、短期間で要介護状態が悪化する人も少なくない」というのだ。

高齢者住宅への入居希望は、「要介護状態が重くなって自宅で生活できないから…」という人ばかりではない。自立・要支援程度で、現在は不自由なく自宅で生活できていても、将来の介護不安から入居を決める人も多い。これを「早めの住み替えニーズ」という。
介護付有料老人ホームの場合、介護サービスと一体的に生活相談サービスや、安否確認サービスが提供されているため、要支援や軽度要介護高齢者にも、一人一人の高齢者の生活に合わせて、要介護状態の悪化や転倒事故の予防のための見守り・声掛けなどが行われている。
しかし、住宅型有料老人ホームでは、これらのサービスは一体的に提供されておらず、継続的・包括的な見守りや声掛けなどの機能もない。そのため、新しい生活環境に順応できず入居後、すぐに転倒・骨折したり、生活上の不安から体調を崩したり、認知症になる人が非常に多いというのだ。

これは、要支援高齢者の実際の生活をイメージするとよくわかる。
例えば、「風邪をひいた」「足をねんざした」という場合、医師の診察が行われたあと「二週間程度は安静に…」となる。それは私たちにも日常的に起こることだが、高齢者の場合は「二週間の安静」の副作用で、足の筋力が低下し、ふらつきによって転倒のリスクが顕著に上がることになる。
介護付有料老人ホームの場合、日中には一人以上の看護師が常駐するように人員配置が行われており、医師の診察が行われたあと、看護師が毎日、状態の変化を観察したり、介護スタッフと一緒に散歩をするなどの、筋力の回復や転倒防止のリハビリのサポートを行っている。
これに対して、住宅型やサ高住の場合は、看護師は常駐していない。いつもと同じ「訪問介護サービスの繰り返しだけ」で、「快方に向かっているか」「転倒リスクないか」というバイタルチェックや観察・見守りも行われない。そのため、風邪やねんざが治っても、筋力が著しく低下してしまい、すぐに転倒・骨折して、入院・寝たきりになってしまうのだ。

「住宅型やサ高住は介護付とは違う。自宅と同じだ…」という人がいるが、このような「囲い込み型高齢者住宅」での生活は、自宅での一人暮らしの療養環境にも遠く及ばない。
自宅で一人暮らしの場合でも、訪問介護スタッフから「Aさんが風邪で寝込んでいる」との連絡を受けたケアマネジャーが訪問し、「訪問看護・訪問リハビリ」の導入など、必要なサービス変更の手続きを行ってくれる。しかし、住宅型有料老人ホームの場合、大半が関連法人・併設サービスによる「囲い込み」を行っているため、収入低下となる外部の訪問看護や訪問リハビリなどのサービスの利用のサポートは行われない。同様に「手の空いたスタッフが定期的に支援を行っている」と反論する事業者も多いが、「その支援は計画的に行っているか」「看護師などの医療・看護の専門家がチェックしているか」「誰が病状やケガの状態を把握するのか」と問えば黙り込んでしまう。結局は、訪問介護スタッフが「まだ、ゴホゴホ言われてました…」「ちょっとフラフラしていて危ないなぁ…」と報告する程度でしかなく、実務的・効果的な対策は何一つ取られていない。

実際、ちょっとした風邪や不調でも、適切な看護サポートが行われないため、要支援・軽度要介護高齢者が、入居後に短期間で重度要介護状態になるという話は少なくない。つまり、高齢者・要介護高齢者が快適に生活するための高齢者住宅ではなく、元気に生活している高齢者を寝たきりにするための「反・予防介護」高齢者住宅になっているということだ。

一部の高齢者住宅では、「重度要介護化」を利益のために意図的に促進していると、憤る人もいる。
もちろん、意図的・作為的に重度要介護にしているということは信じたくはないが、訪問リハビリや訪問看護など、必要なサービスのアレンジを行わず、重度化を予防する対策を全くとっていないとすれば、そこに「未必の故意」があると言われても仕方ないだろう。「24時間スタッフが常駐していても、利益にならないことは最低限のことさえしてくれない」という、このような高齢者住宅に入居するのであれば、住み慣れた自宅で生活している方が、よほど安全・安心・快適だ。

ここでは、住宅型有料老人ホームを例に挙げたが、これはサ高住でも同じことが言える。
問題は、この不正な囲い込みが「一部の劣悪な悪徳事業者」の話ではなく、すでに住宅型有料老人ホームやサ高住の一般ビジネスモデルになっているということだ。
間違いなく、この数年の内に、サ高住の重度化率も介護付を超えるだろうし、住宅型有料老人ホームの重度要介護高齢者の割合も、60%、70%と特養ホームと同じレベルになっていくだろう。

それは、「介護付も住宅型も同じ」「住宅型やサ高住でも重度化対応可」ではなく、最低限のコンプライアンスも消費者保護の欠片さえない、高齢者住宅業界の泥沼化なのだ。


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