「囲い込み」は何が問題なのか

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か 


現在、サ高住や無届施設、一部の住宅型有料老人ホームで不正でないかと指摘されている入居者の「囲い込み」問題。一方で「どのような仕組みなのか、何が問題なのか、よくわからない」という困惑する声や「不正ではない」と擁護する声も小さくない。「囲い込み」とは何か。その問題とは何か。

高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、何が問題なのか 01 (全9回)


2019年2月3日の日経新聞一面トップに、「サ高住の異変 ~安いほど増える要介護高齢者」という記事が掲載された。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、国交省が作った「高齢者円滑入居賃貸住宅、高齢者専用賃貸住宅」の流れをくむ、住宅登録制度だ。目的は、年齢を理由に一般の賃貸アパートへの入居を断られることが多い「高齢者の賃貸住宅選びの支援」及び、「高齢者の生活に適した住宅の整備」である。既存住宅の登録からスタートしたが、2011年より国交省が建設補助や税制優遇を行ったことにより、全国で新規建設が爆発的に増加し、2019年1月時点で、登録件数は7230棟、24万戸となっている。
制度の目的や登録基準を見ると、「自立度の高い高齢者」を対象とした制度であることは間違いないが、「要介護高齢者を入居させてはいけない」と決まっているわけではない。

しかし、日経新聞社が全国のサ高住を調べたところによると、月額家賃8万円未満の住戸は、「要介護3以上」の重度要介護高齢者が半数を占め、同一法人・関連法人が併設する訪問介護や通所介護を利用させることによって利益を上げるという実体が明らかになってきたとしている。
このビジネスモデルが抱える様々な課題は、以前から指摘されており、「囲い込み(高齢者住宅)」と呼ばれている。

【日経新聞】「高齢者住宅 サ高住の異変」 ~安いほど増える要介護高齢者

その一方で、「どのような仕組みなのか、何が問題なのか、よくわからない」という声は小さくない。
また、経営者・入居者だけでなく、業界の識者と呼ばれる一部の人の中からも、

「サ高住は自立高齢者専用ではない。重度要介護高齢者増加が問題だと指摘することがオカシイ」
「囲い込み自体に問題があるような報道は間違いで、「良い囲い込み」と「不正な囲い込み」がある」
「グレーゾーンではあるが、介護保険法の報酬算定上には問題がない」
「入居者も低価格で喜んでいるし、事業者も利益が出ているのだから良い」

などと、擁護する声もあり、経営コンサルタントやデベロッパーは、セミナーを開催してそのビジネスモデルを「低価格・高利益型高齢者住宅」として積極的に提案し、彼らの書いた「囲い込み」を推奨する指南書まで多数発売されている。

しかし、この問題は、「グレーゾーンか否か」「どこまで許されるか」と言う話ではない。
「併設サービスを利用させる」「同一法人のサービスを利用させる」ということ自体が違法ではなく、またサ高住だから、自立高齢者しか入居させてはいけないということでもない。

問題は、介護保険制度の基礎であるケアマネジメントの中立性が、経営者に阻害されており、またそれを前提に高齢者住宅の商品設計・事業計画が行われているということである。
現在の「囲い込み」は、「要介護高齢者の自己選択」を隠れ蓑にした、介護保険や医療保険をターゲットとした貧困ビジネスであることは明らかで、介護保険制度の根幹に関わる不正だといって良い。
本人の希望や要介護状態に合わせて、必要なサービスが適切に提供されないというリスクは、要介護高齢者の生活を不安定にするだけでなく、働く介護スタッフ、ケアマネジャーにも及び、このような不正を見逃せば、地域包括ケアシステムの構築どころか、地域の介護財政・介護システムそのものが崩壊する。

この「囲い込み」は、現在の高齢者住宅業界・産業が抱える最大の課題だといって良い。
ここから、数回にわたって、その課題、リスク、影響について考える。


「囲い込み高齢者住宅」は、介護報酬算定の問題

初めに、よくわからない‥と言う声の多い「囲い込みとは何か」について整理する。
日経新聞の記事を始め、囲い込み高齢者住宅は、「サ高住の問題」だととらえている人は多いが、これは「介護報酬算定の問題」である。

図のように、高齢者住宅の制度は、厚労省の管轄する有料老人ホームと、国交省の管轄するサービス付き高齢者向け住宅(通称 サ高住)に分かれている。
「有料老人ホームか、サ高住か」という二者選択の制度だととらえている人も多いが、有料老人ホームは入居者保護を目的とした「届け出制度」であり、サ高住は「高齢者を対象とした賃貸集合住宅」として一定の基準を満たしたものを都道府県に登録するという、いわば「広報」の制度だ。そのため、(数は多くないが)双方の届け出・登録基準を見たせば、「有料老人ホームとして整備・届け出され、かつサ高住として登録している」という高齢者住宅もある。

もう一つが、その高齢者住宅の要介護状態の入居者にどのような介護サービスを提供するのか・・という介護保険制度上の選択・分類だ。
「特定施設入居者生活介護」は、高齢者住宅が同時に介護サービス事業者になって、介護スタッフ・看護スタッフを雇用し、直接介護サービスを提供する。老健施設や特養ホームなどと同じような介護システムであり、高齢者住宅への「入居契約」と「介護サービス契約」は一体的に締結される。
これに対して、「区分支給限度額方式」は、高齢者住宅は、生活相談などのサービスは提供するが、介護サービスは提供しない。入居者個々人が外部の訪問介護、訪問看護、通所介護などの介護サービス事業者と契約をしてサービスを受けるというものだ。一人暮らしの高齢者が自宅やアパートで介護サービスを受けるのと同じだといって良い。

特定施設入居者生活介護の指定を受けた有料老人ホームを「介護付有料老人ホーム」と言い、区分支給限度額方式の有料老人ホームを「住宅型有料老人ホーム」という。
同様に、サ高住でも「介護付サ高住」「住宅型サ高住」に分かれるはずだが、現在のサ高住のほとんど(合わせて有料老人ホームの届け出をしているものを除く)は、区分支給限度額方式をとっている。そのため、ほぼ「サ高住=区分支給限度額方式」であり、あえて「住宅型サ高住」と言わないのだ。ちなみに、有料老人ホームにも届け出をせず、サ高住の登録もしていない違法状態の無届施設も、ほぼすべて区分支給限度額方式をとっている。

ここで論じる、「囲い込み」は、有料老人ホームかサ高住か・・ではなく、区分支給限度額方式をとる高齢者住宅(住宅型有料老人ホーム、サ高住、無届施設)で発生している介護報酬算定上の問題だ。

「囲い込み高齢者住宅」というビジネスモデル

介護付有料老人ホームは、直接介護看護サービスを提供するため、「要介護状態になれば(私たちが責任を持って)介護サービスを提供します」と説明することができる。
一方の、住宅型有料老人ホームやサ高住の場合は、高齢者住宅が介護サービスを提供するわけではない。そのため「要介護状態になれば、それぞれに個人で契約し、外部の介護サービスを利用していただきます。高齢者住宅は関係ありません」という説明になるはずだ。

しかし、高齢者住宅への入居を検討している高齢者・家族のニーズは、「介護への不安解消」「終の棲家」であり、「介護は関係ありません。一般の賃貸アパートと同じ」となると、入居者は集まらない。
そのため、ほとんどの住宅型有料老人ホームやサ高住では、訪問介護や通所介護を併設・近接している。

もちろん、それ自体は問題でも、不正でもない。
大学生が学生アパートを探しているとして、「近くにコンビニがありますよ…」「一階はマンションオーナーがやっているコンビニなので便利ですよ…」というのは大きなセールスポイントになるだろう。
ただ、「少し家賃を安くするから、できるだけうちのコンビニで買い物してほしい…」と言われるとどうだろう。家賃の引き下げ額にもよるだろうが、「コンビニなんてどこでも同じだし、特に不都合でもないから良いか…」と思うかもしれない。しかし、「うちのコンビニで、毎月商品を3万円以上は必ず買うこと…」「外食禁止、必ず夕食はうちのコンビニ弁当を買うこと…」となるとどうだろう。事前説明はなく、保証金や敷金を支払って引っ越しした後に、一方的に決められるとどうだろう。

住宅型有料老人ホームやサ高住の「囲い込み」の仕組みは、これと全く同じだ。
建物内に訪問介護の事業所があれば便利だし、安心だし、要介護状態になれば、よほど問題がないかぎり、その事業所を使うだろう。同一法人や関連法人で運営されていると、色々と融通も利くだろうし、緊急コールが訪問介護・通所介護の事業所に繋がっていて、すぐに来てくれるとなるとより安心だ。
ただ、「家賃を安くしてやるから、併設の訪問介護以外使わないでほしい」と言われるとどうだろう。
更に「介護保険の90%以上は、系列の事業者を使うこと」「部屋で寝ていたいのに、無理やりデイサービスに行かされる」「訪問看護を受けたいのに訪問介護しか使えない」となるとどうだろう。

もちろん、最終的に、どの介護サービスを選択するのかは「高齢者・家族」の決めることである。
しかし、要介護高齢者は身体能力だけでなく、サービスの対する理解力や判断力も低下している。家族も自分で介護できないという引け目もあり、「介護のプロのケアマネジャーさんや、お世話になっている相談員さんがそう言うなら…」と、どうしても事業者任せとなってしまう。

また、事業者の依頼を断って、自分で介護サービスを選択すると、日々の体調変化による介護サービスの変更や、食事サービスなどの変更をすべて自分で、ケアマネジャーに電話して行わなければならない。
認知症高齢者や重度要介護高齢者、離れて暮らす家族に、そんなことができるはずがない。
「契約・自己選択」と言っても、結局、事業者の言いなりになるしか選択肢はないのだ。

更に問題は、本人の自己負担は1割の3万円であっても、残りの9割の27万円は、保険料や税金でまかなわれているということだ。ご存知の通り、高齢者の医療費や介護費用は、今でも、社会保障財政を圧迫しており、どんどん厳しくなっていくことは間違いない。
「実際に介護サービスを提供しているから不正ではない…」という話ではない。

「同社(サ高住)の事業計画上は、入居者が区分支給限度額の85%以上をつかうことが前提」
「デイサービスを「行って寝てればよい」と職員に説得されて仕方なく使った」

それが社会的にも、法的にも問題ないと言えるのかが問われているのだ。

「知っておきたい」 高齢者住宅の「囲い込み」の現状とリスク

  ⇒ 高齢者住宅・老人ホームの「囲い込み」とは何か     🔗
  ⇒ なぜ、低価格のサ高住は「囲い込み」を行うのか 🔗
  ⇒ 不正な「囲い込み高齢者住宅」を激増させた3つの原因 🔗
  ⇒ 「囲い込み」は介護保険法の根幹に関わる重大な不正 🔗
  ⇒ 要介護高齢者の命を奪った「囲い込み介護」の死亡事故 🔗
  ⇒ 拡大する囲い込み不正 ~介護医療の貧困ビジネス詐欺~ 🔗
  ⇒ 加害者・犯罪者になるケアマネジャー、介護スタッフ 🔗
  ⇒ 超高齢社会の不良債権となる「囲い込み高齢者住宅」 🔗
  ⇒ 囲い込みを排除できなければ地域包括ケアは崩壊 🔗

【TOPIX】 キーワードを切り取る、超高齢社会を読み解く

  ☞ 地域包括ケアは超高齢社会を救う「魔法の呪文」ではない (全8回)
  ☞ 地域包括ケアシステム 構築の要件とポイント (全7回)
  ☞ 高齢者住宅の「囲い込み」とは何か、グレーかブラックか (全9回)
  ☞ 老人ホーム崩壊の引き金 入居一時金経営の課題とリスク (更新中)





関連記事

  1. 「地域包括ケア」が進まない理由 ~危機感・責任感の欠如~
  2. 地域包括ケアの誤解 ② ~安易な地域密着型の推進~
  3. なぜ、低価格のサ高住・住宅型は「囲い込み」を行うのか
  4. 犯罪者になるケアマネジャー、加害者になる介護スタッフ
  5. 地域包括ケアの誤解 ③ ~方針なき地域ケア会議~
  6. 拡大する囲い込み不正 ~介護医療の貧困ビジネス詐欺~
  7. 前払い入居一時金を運転資金に流用する有料老人ホーム
  8. 超高齢社会の不良債権になる「囲い込み高齢者住宅」

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

TOPIX

NEWS & MEDIA

WARNING

FAMILY

RISK-MANAGE

PLANNING

PAGE TOP