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放置され続ける不正 「囲い込み高齢者住宅」は国家ぐるみの犯罪行為

 この囲い込みは、「ケアプランの不正」「認定調査の不正」だけではない。
 その多くは、報酬請求の書類だけで、実際には介護サービス、看護サービスを提供していないという本質的な問題に発展している。

 「介護付ではないけれど、訪問介護併設で安心・快適」
 そう聞くと、介護付も訪問介護付も同じようなものだと思うかもしれないが、繰り返し述べてきたように、「介護付有料老人ホームの介護」と「訪問介護の介護」は根本的に違う。
 介護付有料老人ホームでは、Aさんの排泄介助が終わり、Bさんからコールがあれば駆けつけることができる。一人の介護スタッフが一時間に関わる要介護高齢者は、排泄介助、臨時のケア、隙間のケアなどの「直接介助」、見守り、声掛け、状態把握などの「間接介助」を含め10人以上に渡る。
 これに対して訪問介護の場合、個別契約による介護のため「Aさんの排泄介助:13時30分~14時00分」と対象者と時間、内容がケアプランで決められている。1時40分に排泄介助が終わっても、そのまま14時00分まではトイレを掃除したり、状態の確認をしたりと、Aさんのためだけに時間を使わなければならない。それは、砲門介護は、「訪問介護サービス事業者」と「Aさん」との個別契約・直接契約であり、Aさんの区分支給限度額を使って、30分という介助時間を購入しているからだ。
 もちろんこれは、「Aさんが納得しているからよい」という問題ではない。その介護報酬の九割(一割自己負担)は、税金や社会保険料から拠出されているため、介護保険制度に基づいて厳格にサービス時間を守る必要があるのだ。
 訪問介護は最も短い時間の介助でも、20分以上30分未満(身体介護Ⅰ)であり、一人の介護スタッフが一時間にできる介助は2人しかいない。臨機応変に介護できないため、同じレベルの介護サービスを提供するには、少なくとも介護付有料老人ホームよりも4倍~5倍の介護スタッフが必要になる。
 この考え方は「定期巡回随時対応型訪問介護看護」でも同じだ。定期介助に加えて、「定期巡回・随時対応」を行うだけで、はじめから「随時対応だから臨機応変で良い」という話ではない。  


 しかし、実際には、サ高住や住宅型有料老人ホームでたくさんの訪問介護員が働いているわけではない。低価格の住宅型やサ高住のほとんどは、夜勤帯、日勤帯を含め介護付有料老人ホームの基準配置と変わらない。それは書類上、ケアプランの時間通りに介助したことになっているが、実際は全く違う内容、時間で介助を行っているからだ。
 囲い込みを行っているサ高住や住宅型で働いていたというケアマネジャーや訪問介護員と話をすると、「常に、臨機応変に介助している」「ケアプランなんて見たことない」「実施報告はまとめて管理者が書いている」という話がゴロゴロとでてくる。介護報酬請求に齟齬が生じないよう、ケアマネジャーと訪問介護の管理者、高齢者住宅の担当者が毎月調整会議を行うところもあるという。
 本当の実施計画は書類に残せないため、実際に誰がどれだけ介護を受けているのかわからない。でも、指導や監査は、表面上の書類でしか行われないため、それが揃っていればなんでもありなのだ。

 この囲い込みは医療の分野にまで拡大している。
 自宅にいるときは、「高血圧の薬を月二回、内科にもらいに行くだけ」だったのが、高齢者住宅に入ると、内科に加え精神科、歯科、整形外科などを受診させられるという。
 最近は、医療法人や診療所が株式会社を作って高齢者住宅に参入するケースも増えている。
 病院のベッドの平均在院日数の管理にサ高住の入居者を利用して、「不要な入退院」を繰り返しているところもある。低価格で要介護高齢者を集め、高齢者住宅そのものの利益は低いが、「+介護報酬」だけでなく、「+診療報酬」「+病院経営」で莫大な利益を上げているのだ。

 一部の低価格のサ高住・住宅型には、家族がいない人や生活保護受給者が多いところがある。
 「行き場のない高齢者、生活保護受給者のために」というイメージで語る無届施設やサ高住の経営者は多いが、実際はそれがもっとも良いお客さんだからだ。生活保護費の金額に合わせた「生活保護受給者専用価格」を作っているところもある。それは、生活保護受給者はどれだけ医療や介護を使わせても自己負担がなく、家族がいない要介護高齢者、特に認知症高齢者は、介護をしてもしなくても、誰からも文句がでないからだ。
 更には、ナーシングホームなどと評して、医療依存度の高い高齢者を囲い込んで、「在宅」のサービスをフルスペックで利用させるというところもでてきている。これを「最新高齢者住宅モデル」として、一部の悪徳コンサルタントか医療法人に販売攻勢をかけているという。

 その不正の一旦がパーキンソン専門の有料老人ホーム「サンウェルズ」で見つかっている。
 この企業は、40か所程度の中規模の事業者だが、短期間で巨額の利益を上げ、東証プライムに上場している。指導監査の目が届かないことをいいことに、「入居者が眠っているのを看護師が数秒確認しただけで約30分訪問したように記録」「実際には2人で訪問していないのに複数人で訪問したことにして加算報酬」などの不正だけで28億円をゆうに超える。この企業だけでなく、いまも、この「医療・介護フルスペック」のナーシングホームと言う名の有料老人ホームは増加しており、サ高住や住宅型有料老人ホームの囲い込みによる不正は、全国で数千億円~数兆円規模になると推定されている。
 ただ、数十億規模の巨額の不正を行っても、「ケアマネや看護師に任せていた」と責任転嫁をすれば、事業者や経営者が刑事罰に問われることもなく、その一部を返金すれば免責となる。その時効は二年のため、それを超えた部分については、返さなくても良い。だからやりたい放題なのだ。
 その間に、その不正の規模は爆発的に拡大を続け、いまや全国で数兆円規模の医療介護費が湯水のように搾取され続けている。その金額は、介護保険支出総額の二割に達する。

 言うまでもなく、「囲い込み型住宅」「囲い込み型ナーシングホーム」が激増した背景には、明らかに制度矛盾、指導監査体制の不備がある。また、この問題は、いま始まったことではなく、10年、15年以上も前から、介護保険法や高齢者の住まいの根幹に関わる不正であると指摘されている(少なくとも、わたしは2009年上梓した書籍『有料老人ホームがあぶない』で指摘している)。
 さすがに、15年もあれば、介護保険制度の改定や報酬改定など、幾度となくその改善、規制の機会はあったはずだ。しかし、厚労省はいまだ、「指導監査は自治体責任」「不正が確認された場合は対応する」と手をこまねいているというより、我関せずと傍観を貫いており、この囲い込みや押し売り介護・医療を根本的に解決する気はない。天下りなどで甘い汁を吸い続けているからた。これは政治家も同じ。このような事業者や団体から巨額の企業団体献金を受けているため、社会保障の不正、矛盾を解決しようとしないのだ。
 ここまでくれば、国家ぐるみの悪質な詐欺、犯罪行為だと言っても良い。それでも「不正ではない、グレーゾーンだ」と抗弁する人は、現実を意図的に歪曲したいのか、「何が不正なのか」ということさえわからなくなっているかのどちらかだ。

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