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「自立向け住宅」「要介護向け住宅」の違い ~生活支援サービス~

高齢者住宅の整備においてまず理解しなければならないことは、「自立要支援向け住宅」と「要介護向け住宅」は、その商品性・ビジネスモデルが根本的に違うということ。
二つ目のポイントは、介護や生活相談、緊急対応などの生活支援サービスの契約形態だ。

高齢者住宅は一般の賃貸マンションやアパートとは違い、入居者の生活を支えるために「食事」「介護」「生活相談」「安否確認」など、様々な生活支援サービスが提供されている。ただ、その提供体制、契約形態はそれぞれに違い、高齢者住宅事業者から、すべての生活支援サービスが一体的・包括的に提供されるところもあれば、逆に、「高齢者住宅は賃貸契約のみ」「食事は、食事業者との契約」「介護は外部の介護サービス事業者との契約」など、それぞれ別事業者、外部事業者との個別契約というところもある。前回述べた、建物設備設計同様に、「自立向け住宅」か「要介護向け住宅」かによって変わって、どちらの契約形態が適しているのかは変わってくる。

「自立向け住宅」は、高齢者住宅と生活支援サービスは切り離し、必要なサービスだけを個別に契約する「生活支援サービス分離型」が基本だ。食事でも「朝食だけ」「メニューを見て好きなものだけ」という人は多いだろう。「明日の夕食は友達と外で食べるから、キャンセル」など、その日のスケジュールや気分の変化で、臨機応変に契約変更したりできる。
子供家族が近隣に暮らしており、銀行や行政手続きへの対応を含め、頻繁に訪問できるのであれば「生活相談」は必要ない。脳梗塞による麻痺や心臓病があり「イザというときに不安」という人は、「定期巡回による安否確認」や「緊急コール対応」などのサービスを申し込めばよいし、「定期的に来られるのは煩わしい」と思う人もいるだろう。個々人で、必要なサービスだけを組み合わせて選択すれば良く、使ってみて不要だと思えば解除する。それだけ入居費用は安くなる。

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一方の「要介護向け住宅」は、食事、介護、生活相談などの生活支援サービスが、高齢者住宅事業者から、一体的・包括的に、オールインワンで提供されるのが原則だ。それは、中度~重度要介護、認知症高齢者になると、提供されているすべてのサービスが必要となり、かつ臨機応変にサービスを選択したり、変更したり、解除したりできないからだ。

例えば、デイサービスの当日に熱がでて休むことになれば、その連絡や、訪問介護や食事サービスなどの代替サービスの調整が必要となるが、その対応は要介護の本人にも離れて暮らす家族にもできない。そのためケアマネジメントや生活相談サービスは必須となる。

これはサービスの連携にも深く関わってくる。
認知症高齢者が転倒して怪我をした場合、「安否確認」⇒「緊急対応」⇒「家族への連絡」⇒「介護サービス変更」「食事サービスの変更」は一体的に行われなければならない。すべての生活支援サービスが、それぞれ別の事業者で、個別契約になってしまえば、事業者間でうまく連携がとれず、「入院したのに介護や食事が止まっていなかった」「入院中も不要な安否確認サービスが継続されていた」ということになりかねない。重度要介護や認知症高齢者は、熱発や体調不良の自己申告ができないため、安否確認による早期発見、早期対応含め、介護だけでなく食事や看護、生活相談などのスタッフが包括的・一体的に連携しなければ、その生活を支えることはできないのだ。

これは高齢者住宅のビジネスモデルという点からも、重要なポイントだ。
「自立要支援向け住宅」の場合、入居者個別の契約となるため、入居者が決まるまで「食事サービスは何パーセントの人が契約するか」「安否確認の人員はどれだけ確保しておくべきか」がわからない。そのため、各種サービスの価格は高額にならざるを得ない。逆に、住宅サービス(入居契約)に付随して、すべてのサービスが同一事業者から「オールインワン」で契約・提供されるのであれば、効率的・効果的にビジネスモデルの構築ができ、価格を抑えられる。

「高齢者住宅は施設ではないから、生活支援サービスの分離が原則」
そう言う学者、識者、テレビコメンテーターは多いが、それは自分で個別に選択や介助ができる自立~要支援高齢者に限られる。重度要介護・認知症になれば、「個別に生活支援サービスを選択できる高齢者住宅」よりも、「自分が必要な生活支援サービスを包括的・一体的に提供してくれる高齢者住宅」を選ぶ方が安心なのだ。
逆に、重度要介護になると、「個別契約・分離契約」を原則としながら、実質的にその高齢者住宅が提携している生活支援サービス、推奨する事業者からのサービス以外は利用できないため、個別契約にする意味はない。また「介護が必要になっても安心・快適」を標榜していても、各種サービス契約がバラバラになるため、それを誰が担保しているのか、事故やトラブルがあった時、だれがどのように対応してくれるのか、その責任の所在が曖昧になるなど、入居者にとってはデメリットしかない。

「自立向け高齢者住宅」の生活支援サービスは個別契約・分離契約、逆に「要介護向け住宅」は、住宅サービスに付随し、食事、介護看護、生活相談、安否確認など要介護高齢者の生活に必要なサービスがすべてオールインワンで契約・提供されることが原則なのだ。



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