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【w016】 要介護の重度化に対応できない素人事業者

「介護が必要になっても安全・安心・快適」を満たすには二つの基準が必要。

現在の6割~7割の高齢者住宅は「重度要介護高齢者への対応は不可」


 

過剰な期待で激増した素人事業者🔗で述べたように、今でも、一般の賃貸マンション、賃貸アパートは高齢者お断りのところが大半です。
サ高住は、もともと要介護高齢者向けではなく、自立・要支援程度の高齢者が、マンションやアパートを探しやすくするために整備された高齢者専用賃貸住宅(高専賃)が前身です。
そのため、制度設計上、要介護高齢者の生活を十分に考えられたものではありません。

もちろん、「自立・要支援高齢者の住宅は不要だ」と言っているわけではありません。
ただ、高齢者やその家族が、高齢者住宅への入居にあたって重視しているのは、「介護が必要になっても生活できる」ということです。「介護が必要になれば退居」「重度要介護になれば生活できない」という高齢者住宅は、その基本ニーズを満たしていません。

そこでとりあえず、入居者を確保するために高齢者住宅事業者が考え出したキーワードが、「早めの住み替えニーズ」です。
これは、将来の介護不安に対して、「体が動かなくなってから、介護が必要になってから住み替えるのではなく、元気なうちから高齢者住宅に転居して、住み慣れた環境で介護生活をスタートした方が安心だ」というニーズを表した言葉です。

 

~「早めの住み替えニーズ」は商品として欠陥~

このキーワードは、将来不安を持つ多くの高齢者や家族に受け入れられ、全国でサ高住が増加しました。
しかし、それはそう簡単なことではありません。なぜなら、「元気な高齢者を対象とした住宅」と、「要介護高齢者を対象とした住宅」は、建物設計上も介護システムも根本的に違う商品だからです。

高齢者住宅や老人ホームでの要介護高齢者への対応力は、一般に「重度化対応力」といいます。
この「介護が必要になっても安心」を満たすには二つの基準をクリアする必要があります。
一つは、個人の重度化です。これは、「入居時は、自分で歩いていたAさんが、加齢や疾病によって要介護3、要介護4という重度要介護状態になっても生活できる」ということです。

もう一つは、全体の重度化(重度化割合の増加)です。
開設時は、生活が自立している高齢者が多くても、すべての入居者が同じように歳をとります。そのため三年、五年経つと、車いすが必要な高齢者の割合が増えていきます。身体機能の低下だけでなく認知症になる人もいます。そのため、要介護3、4といった重度要介護高齢者がゼロ、もしくは数名程度だったのが、3年後、5年後には、3割、4割となっていきます。

しかし、介護保険を知らない素人事業者🔗で述べたように、自立~軽度要介護と、重度要介護高齢者、認知症高齢者では、必要となる介護システムが基本的に全く違います。
区分支給限度額方式では、要介護3以上の重度要介護、認知症高齢者に対応できません。

 

~建物設備が重度要介護高齢者の増加を想定していない~

この問題は、介護保険制度の使い方、介護システムだけではありません。
この重度化対応を阻む、最大の課題は「建物設備設計」です。
現在の「早めの住み替えニーズ」を目的に作られた、サ高住の多くは、下図のように、一階に食堂と浴室が整備され、居室階とは分離しています。
バリアフリー設計ですが、大学の学生寮や企業の独身寮と同じような居室配置だといって良いでしょう。
しかし、この「居室・食堂分離型」は、車いすの高齢者には、とても使いにくいのです。

例えば、食事時間。
一日、三回の食事時間ごとに、エレベーターを使って食堂まで降りる必要があります。
エレベーターの籠の中で歩行器や車いすを回転させなければなりませんが、筋力低下に加え、脳梗塞、脳出血などで身体に麻痺がある場合、一人ではできません。他の入居者も一緒に降りてきますから、回転せずにバックすると、他の入居者とのぶつかり事故、転倒事故の原因にもなります。

歩行器や車いすを利用する高齢者が増えてきた場合、更に食堂への移動は難しくなります。
通常の12人乗りのエレベーターでは、車いすが入るのは2人まで、福祉施設等に導入されている大型のエレベーターでも、歩行器や車いすでも、ぎりぎりに詰めても、最大で4台しか入りません。食事時間ごとに、各階のエレベーターホールの前には長い列ができ、一階食堂前も大混雑し、食事に行って部屋に戻るだけで、相当の時間がかかります。

高齢者だけでなく、介助をおこなう介護スタッフも大変です。
食事時間帯は、食事の準備や配膳、直接介助、見守りなどたくさんの介助が重なります。加えて、一人でエレベーターの操作が難しくなれば、各階に移動や移乗のための介護スタッフを配置しなければなりません。一日三回の食事に、その移動の送迎だけで、たくさんの介護サービス量と介助時間が必要です。

中でも、特に、大変なのが起床、洗面、着替え、排泄、食事の準備などの介助が集中する朝の介助です。
この時間帯は、介助サービスが集中しますが、夜勤と早朝勤務の少人数の介護スタッフだけで対応しなければなりません。
そのため、ある高齢者住宅では、車いすの高齢者は毎朝四時前に無理やり起こされ、そのまま食堂で3時間以上待機させられると言います。部屋に戻ってくるのは9時、10時、人が足りない場合、そのままお昼ご飯まで、ぽつんと一人食堂で待たされるということもあると言います。更に、介護付でなく、サ高住や住宅型の場合は、移動・移乗介助は介護保険の対象外ですから、これを誰がやるのかという問題もでてきます。

この「生活し難さ、介護し難さ」は、夜勤帯の介助でも入浴介助でも同じことが言えます。
「要介護高齢者の対応は介護サービスの問題」だと考える人が多いのですが、高齢者住宅において、その基礎となるのは「建物設備」です。「生活動線」、介護スタッフの「介護動線」を考えて設計されていなければ、要介護状態になれば、生活も介護もできません。

介護システムや価格設定は、(簡単ではありませんが)まだ途中で内容を調整、変更することは可能です。
しかし、建物設備はハードですから、生活動線や介護動線を作り直すことはできません。
最近では、サ高住だけでなく、介護付有料老人ホームにもこのような居室階と食堂浴室が分離している高齢者住宅がたくさんありますが、このような建物設備は、要介護高齢者の生活や質の高い介護サービス提供には不適格なのです。
今はまだ、軽度要介護高齢者が多くても、加齢によって重度要介護高齢者は増えてきます。
そうなると、高齢者住宅の機能・サービスは停止することになります。

高齢者住宅は、「サ高住だ・有料老人ホームだ」「介護付だ、住宅型だ」と介護システムばかりが注目されがちですが、建物設備を見ただけで、要介護高齢者に対応できない欠陥商品だとわかるのです。

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