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「補助金・利権目的に素人事業者を激増させた」 国交省の大罪


高齢者住宅の事業特性を全く知らずに目先の利権確保のために、サ高住を作った国交省。その結果素人事業者が大挙参入し、事故やトラブル、倒産が増えている。
高齢者住宅産業の安定的な発展を阻害し、ひいては入居者の生活を大混乱に陥れている国交省の罪は軽くはない。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 010 (全 29回)


2017年5月、朝日新聞に、「サ高住 進む介護施設化」という記事が掲載されました。
サ高住で生活する要介護高齢者の事故やトラブルが増えているというものです。
「サ高住は賃貸住宅で、特養ホームなどの介護施設とは違う」「しかし、入居者の88%が要介護認定を受け、要介護3以上の重度者も30%以上と介護施設化が進んでいる」「要介護高齢者の増加が、事故やトラブル増加の最大の原因」と、記事は分析しています。

この記事の中で、「サ高住に重度要介護高齢者が多く、事故が増えている」という事実は正しいのですが、残念ながら、それ以外の分析は全て間違いです。
ただ、それは記者だけの責任だとは言い切れません。この記事の中で一番驚いたのが、取材を受けたサ高住を管轄する国交省安心居住推進課の担当者のコメントです。

「サ高住は要介護の高くない、中所得層のための住居として整備」
「想定と違い、要介護度の重い人が入居している」
「早めにサ高住に住み替え、自立が難しくなったら施設や病院に移る想定」
「サ高住の事故は自宅で起きるのと同じで、自室での事故は自己責任」

これら一連の発言を聞くだけで、国交省は高齢者住宅というものの性質や事業特性を知らないまま、高齢者、家族のニーズをまったく理解しないまま、補助金と利権だけが欲しくてサ高住という制度をつくったということがわかります。

施設と住宅は基本的に何が違うのか

なぜそう言えるのか、まずは現在の高齢者の住宅と施設の種類について簡単に整理します。
制度化されている高齢者住宅と高齢者の施設を分類したのが下の図です。

「施設」というのは一般の住宅ではないもの、民間の住宅以外のものです。
軽費老人ホーム、養護老人ホームは、自宅で生活できない社会的弱者の福祉施設で、児童養護施設や障害者施設と同じ部類に入ります。老人保健施設や介護療養病床は、リハビリ目的や医療依存度の高い要介護高齢者の施設で病院と同じカテゴリーのものです。特養ホームは、そのどちらの役割も持つものです。
これらの施設は、児童施設や病院と同じく、「法律に定められた住宅以外の特別な役割」ですから、老人福祉法や老人保健法などによってその対象者は厳格に規定されています。また、北海道でも沖縄でも、また運営者が違っても、全国ほぼ一律の基準、価格で、一律のサービスが提供されます。

これに対して、住宅群は、アパートやマンションと同じ、民間企業による営利目的の住宅事業です。
有料老人ホームでもサ高住でも、どのような高齢者を対象とするのか、どのようなサービス内容を提供するのか、どの程度の価格で提供するのかは、それぞれの事業者が、それぞれの経営判断によって自由に設定することができます。
ですから、「サ高住に要介護高齢者が多い」ということも、何の問題もありません。
要介護高齢者のみを対象とするサ高住をつくることもできますから、「サ高住が介護施設化している」というとらえ方は、用語的にも制度的にも意味不明だということがわかるでしょう。

そもそも高齢者住宅への入居を検討する高齢者や家族の最大の希望は、「介護が必要になっても安心して生活できる」ということです。ですから、国交省の言う通り、サ高住が「自立の時だけの高齢者住宅」「介護が必要になったら生活できない」というのであれば、その基本ニーズを満たしていません。
また、もしそうなのであれば、制度設計時に「サ高住は自立高齢者の住まい」「サ高住で重度になれば生活できない」と高齢者や家族に説明しなければなりませんし、サ高住事業者にもそのように指導しなければなりません。

しかし、現在経営している、ほぼすべてのサ高住は、「介護が必要になっても安心」「重度要介護状態になっても生活できる」ということを前提にセールスしています。
いま、サ高住に入居している自立度の高い高齢者も、加齢によって要介護高齢者になり、その状態は重度化していきます。国交省の「サ高住は要介護の高くない高齢者が入れる住居?」「想定と違い、要介護度の高い人が入居している?」という見解は、「高齢者は歳をとらないと思っていた」「サ高住に入ると要介護状態は悪化しないと思っていた」と言っているのと同じです。

また、現在は、財政的な問題から「脱病院、脱施設」というのが基本的な流れです。「サ高住は元気な人の高齢者住宅」「介護が必要になれば、病院へ、特養ホームへ」などと真剣に言っているのであれば、社会保障財政や高齢者住宅の事業特性に対する行政マンとしての基本的な感覚が欠落しています。

サ高住での転倒・骨折事故は自己責任の嘘

「サ高住は自宅で起きるのと同じで、自室での事故は自己責任」というのも、明らかな間違いです。
サ高住であれ、特養ホームであれ、有料老人ホームであれ、事業者は入居者が事故なく安全に生活できるように最大限配慮する義務があります。特に対象は身体機能や判断力が低下した高齢者ですから、その義務は通常のマンションやアパートとは比較にならないほど高いものです。

もちろん、「高齢者住宅内で発生した事故は、すべて事業者の責任」ではありません。
しかし、その責任の範囲、安全配慮義務は介護付有料老人ホームでもサ高住でも、特養ホームでも同じです。もし違いがあるとすれば、排泄介助中に介護職員の明らかな介助ミスで転倒骨折した場合、その介護職員が外部の訪問介護のヘルパーなのか、特養ホームのスタッフなのかによって、責任の所在が少し変わってくるという程度です。

訪問介護のホームヘルパーのミスであっても、サ高住は無関係ではありません。
高齢者や家族からみれば、「介護が必要になっても安心」と説明を受けサ高住に入居したのに、実際に事故やトラブルが起きれば、「それは自宅で起きるのと同じで自己責任」「高齢者住宅には関係ない」というのであれば、何のために入居したのかわかりません。常識的に考えて、民事責任や刑事責任を問われるようなケースで、「施設は責任重いが、住宅は責任が軽い」「厚労省の管轄と国交省では、事故の民事責任の範囲が違う」などというはずがありません。
言っていることすべてが、あまりにも無責任でトンチンカンなのです。

指導監査をなくし、素人事業者を激増させた国交省の大罪

記事にあるような転倒事故や誤嚥事故、トラブルが増えているのは、制度云々ではなく、建物設備やサービス内容が要介護対応になっていないのに、その準備や配慮を十分にしないまま「介護が必要になっても安心」と、要介護高齢者をたくさん入居させているからです。
個々の事故責任は、言うまでもなく個々のサ高住事業者にあります。

ただ、この事故やトラブル激増の原因は、制度をつくった国交省にあります。
それは、高齢者住宅としての基本的な役割や機能、責任を無視して、目先の補助金目的にこのような素人事業者を激増させたのは、他ならぬ国交省だからです。

高齢者住宅の制度には、有料老人ホームとサ高住がありますが、入居する高齢者や家族から見るとわかりにくいだけで、制度や基準が分かれている全く意味はありません。
しかし、事業者から見れば違います。
有料老人ホームは「届け出制」です。開設するためには、「有料老人ホーム設置運営指導指針」という届け出基準に従って計画し、建設、開設に向けて自治体の担当課と何度も事前協議をして、届け出を受理してもらう必要があります。開設後も定期的な指導や監査が行われます。

それは、有料老人ホームは民間の高齢者住宅ですが、
「身体機能の低下した高齢者・要介護高齢者の生活の拠点であること」
「判断力の低下などによって、不透明な契約、劣悪なサービスが行われやすいこと」
「自宅に戻れないケースも多く、高齢者や家族が弱い立場に立たされやすいこと」
といった特性があるため、事故の隠蔽やスタッフによる虐待などの人権侵害が発生しやすく、かつ表面化しにくいからです。劣悪な虐待が起きていても、運営上の不備や不正があっても、行き場のない入居者が人質となるため、強制的に事業停止を命じることはできません。そのため、「民間経営」であることを前提にしながら、経営やサービスが不安定で劣悪にならないように、開設までの経営体質やサービス管理体制のチェックが行われているのです。

しかし、一方のサ高住は「登録制」です。
事前の協議や指導もなく、登録用紙一枚記入するだけで、誰でも開設することが可能です。なぜだかわかりませんが、同じ高齢者住宅でも、「有料老人ホームの入居者は保護しなければならないが、サ高住の入居者はすべて自己責任で保護の必要なし」という発想なのです。

加えて、このサ高住には一事業所あたり、建設のための数千万円単位の補助金がでます。
基準や監査の厳しい有料老人ホームにはでない補助金が、サ高住にはでるのです。
その結果、「高齢者住宅の需要が増える」「サ高住は簡単に開設できる」と、高齢者介護などしたこともない素人事業者が「これからはサ高住だ」「土地の有効利用だ」と高齢者住宅業界に押し寄せ、トラブルや事故、倒産が激増しているのです。

高齢者住宅の整備が重要であることは間違いありません。しかしそれは素人事業者でも悪徳業者でも、どんなものでも、とりあえず高齢者住宅と呼ばれるものを増やせば良いというものではありません。
更に、この有料老人ホームとサ高住の歪みをついて、届け出も登録もしない「無届施設」が激増し、実際に指導を行う自治体は混乱し、サ高住だけでなく、有料老人ホームの届け出制度や指導監査体制も崩壊しています。その数はこの5年で4倍に膨れ上がり、全国で1200ケ所を超え、今なお増え続けています。

これは、事故やトラブルだけでなく、今後サ高住の倒産は激増します。
現在のサ高住の半分以上は、この10年以内に倒産することになるでしょう。
高齢者住宅の事業特性やその基本ニーズさえ知らずに、目先の補助金確保、利権確保のためにサ高住の制度をつくり、入居者保護施策を有名無実化し、入居者の生活を大混乱に陥れている国交省の罪はそう軽くはないのです。

(参照 サ高住が本当に危ない理由 ~10年で半分は潰れる)




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