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「補助金・利権ありき」で大混乱した高齢者の住宅事業


厚労省・国交省の『利権ありき・補助金目的』の政策で、大混乱する高齢者住宅制度。説明できない制度の混乱の中、「あれは住宅だ、これは施設だ」「施設から住宅への転換を」という意味のない言葉遊びの議論だけが進む。
介護・福祉と言えば、「何でもあり」で生まれた福祉国家 日本の姿。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 007 (全 29回)


高齢者住宅や介護保険施設での事故やトラブル、倒産、虐待などのニュースや報道が増えてきました。
その一方で、高齢者や家族だけでなく、新聞記者やマスコミ関係者と話をしていても、「高齢者住宅・老人ホームが良くわからない」という声が大半です。テレビや新聞などでは、「介護施設」という言葉がよくでてきますが、「あなたの言う、介護施設って何ですか?」と逆に新聞記者やテレビのディレクターに質問をして、きちんと答えられる人は一人もいません。(そもそも、介護施設と言う用語はない)

しかし、それは、単純な勉強不足というだけではありません。
「難しい」のではなく、系統立てて論理的に説明ができない矛盾だらけのものだからです。

『あれは施設だ、これは住宅だ』という議論の意味のなさ

「施設の特養ホームではなく、サービス付き高齢者向け住宅を整備すべき」
「サービス付き高齢者向け住宅は住宅で、有料老人ホームは施設だ」
「有料老人ホームは厚労省の制度で、サービス付き高齢者向け住宅は国交省の制度です」
「厚生労働省の管轄しているものが施設で、国交省の管轄しているものが住宅」
「〇〇ホームと名の付くものが施設で、住宅と名のつくものが高齢者住宅だと考えて良い」

この手の分類をよく聞きますが、このような分類や議論にはほとんど意味がありません。
それは、「あっちが施設だ、こっちが住宅だ」と分けてみても、「施設と住宅は、何が違うのか」、また 「なぜ、有料老人ホームとサ高住の二つに分かれているのか」「なぜ、国交省と厚労省に分かれて管轄しているのか」 という、そもそもの根幹が説明できないからです。

それは、「介護付有料老人ホーム」と「住宅型有料老人ホーム」も同じです。
それぞれの基準や、介護保険の利用方法の違いは説明できても、「なぜ二つの制度・基準に分かれているのか」「対象者やターゲットはどのように違うのか」が、説明できません。

これは、厚労省と国交省、またそれを利権化し推進した国会議員の責任です。
「これからは高齢者住宅の時代だ」「そこに利権の芽を育てよう」と、厚労省と国交省、国会議員がそれぞれ補助金・利権目的に高齢者住宅制度、社会保障制度を乱用してきたために、整合性がないというだけでなく、分類することに意味がない、説明がつかない状態になっているのです。

制度の混乱が招く不公平な社会保障制度・財政悪化

それは「施設も住宅も、有料老人ホームもサ高住も同じようなもの」という単純な話ではありません。
現在の高齢者住宅と高齢者施設を要介護度別、資産階級別に大まかに示したものが、次の図です。
グレーのものが社会福祉法に規定された非営利で行われている社会福祉施設(老人福祉施設)、カラースールのものが営利目的で行われている民間の高齢者住宅です。

例えば、自宅で一人暮らしをしていたおばあさんが転倒・骨折して入院、要介護状態となり、自宅で生活するのは難しいので、家族が近くに老人ホームを探そうと考えているとしましょう。毎月18万円程度の老齢年金と、1000万円くらいの預貯金があるので、その金額内で探せるところを検討しています。
この場合、民間の高齢者住宅で言えば、介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サービス付高齢者向け住宅(サ高住)が対象となります。要介護状態が重いのであれば特養ホーム、軽度要介護なのであればケアハウスなどの老人福祉施設も検討の一つになるでしょう。

「選択肢がたくさんあることはよいこと」と思うかもしれませんが、そうではありません。
これは商品・サービスとしての選択肢があるのではなく、制度が混乱、輻輳しているのです。

それは、価格の比較をすればよくわかります。
テレビや新聞などでも、一般向けの「老人ホーム・高齢者住宅の選び方」の特集が増えてきましたが、その前提として紹介されているのが、次のような価格比較表です。
「介護付有料老人ホームは、入居一時金や月額費用も高額です」
「特養ホームは13~15万円程度で入居できますが、待機者が多くどこも一杯です」
「そこで、最近増えているのが、10万円台で入居できるサービス付き高齢者向け住宅です」
と、どの番組でも同じようなナレーション、説明が加えられています。

しかし、この説明はどこかおかしいと思わないでしょうか。
特養ホームであれ、サ高住であれ、有料老人ホームであれ、建物設備、食事、介護などのサービスの内容が同じであれば、それにかかる食材や調理費、介護看護スタッフの人件費などのコストは同じはずです。居室の広さや介護サービスの手厚さなど、サービスの違いによって月額費用に差が出るのは当然ですが、制度の違いによって、入居者の支払う金額に大きな差が生まれるというのは説明がつきません。

なぜ、このようなことが起きているのか。
その理由は簡単です。自己負担が安いところには、その差額分以上の社会保障費が投入されているからです。つまり、 同じサービスでも、どの制度を選ぶかによって、投入される社会保障費、利用者が支払う自己負担が変わってくるのです。

これが現在の「高齢者介護施設、高齢者住宅」が抱える、最大の矛盾です。
現在の「高齢者の住まい」を巡る制度の混乱は、
  「非営利の老人福祉施設と、営利目的の高齢者住宅の役割の混乱」
  「厚労省の有料老人ホームと、国交省のサービス付き高齢者向け住宅の混乱」
  「介護付き・住宅型といった高齢者住宅に対する介護保険適用の混乱」

の3つに分かれます。

それが、現在社会問題化している「入居者囲い込み」の劣悪なビジネスモデルの横行、社会保障費の垂れ流しによる財政悪化、高齢者住宅の倒産・虐待の増加の原因です。厚労省・国交省の利権争いで生まれた制度矛盾が、高齢者住宅産業の健全な育成を潰してきたと言っても過言ではありません。

ここでは、これらの高齢者住宅に関係する制度問題について、考えます。





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