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虐待・拘束・窃盗など悲惨な生活を余儀なくされる無届施設


 第二章で、高齢者住宅、特に要介護向け住宅には入居者保護施策が不可欠だと述べた。
 しかし、指導監査体制が完全に崩壊したいま、一部の要介護高齢者・認知症高齢者は極めて劣悪な環境で、悲惨な生活を強いられている。
 ひとつは無届施設の問題だ。
 厚労省は、7月4日に、法律で自治体への届け出をしていない、2024年で有料老人ホームが全国で584ケ所、前年度20か所減少したと発表している。この無届施設を生んだ背景は、厚労省と国交省が「有料老人ホーム」と「サービス付き高齢者向け住宅」の利権争いにある。しかし、厚労省はすでに我関せずで、「自治体が頑張ってね」と丸投げででまったくすすんでいない。

 東京北区の医療法人が運営するシニアマンション(無届施設)では、二四時間、紐や拘束具で入居者の手足(四肢)をベッドに括りつけるなど日常的に虐待が行われていた。その数は入居者160人中130人とその八割に上ったとされている。入所者は、10年、20年と死ぬまで狭いベッドの上に四肢を括り付けられた状態で暮らすのだ。
 名古屋の無届施設では、働いていた3人の介護職員が暴行罪で逮捕されている。93歳の認知症高齢者に対して暴行している様子を自らのスマートホンで撮影、動画をLINEで共有していた。その映像には鼻の中に指を入れて上に持ち上げたり、口の中に手を入れて上下に動かすなど暴行の様子や「いやいや、やめて」といった悲鳴、撮影する三人の笑い声が記録されていたという。
 行われているのは暴言や暴行などの身体的虐待だけではない。
 より表面化しにくいものが入居者の金銭を搾取する「経済虐待」だ。
 特養ホームでも、家族のいない認知症高齢者など、利用料や日々の生活費支払いのために施設側が印鑑や通帳を管理することがある。保証人のいない独居高齢者が亡くなった場合、残った財産や預貯金をどうするのかという問題もあり、行政への報告も義務付けられている。
 預金通帳と印鑑は別の人間が保管する、入出金はダブルチェックを行うなど厳格に管理しなければならないが、無届施設ではそんな手間のかかることはしていない。定期預金がいつの間にか解約されていたり、持っていたはずの貴金属が行方不明というケースもある。明らかな窃盗だが、家族がいない場合、年金や預貯金がどうなったのかさえ誰にも分らない。

 これは、防災や感染症の問題も同じだ。
 高齢者は火災や災害が発生すると逃げ遅れることが多い。一般住宅の火災でも死者数の七割は六五歳以上の高齢者であることがわかっている。特に、要介護高齢者が集まって生活している介護保険施設、高齢者住宅では、ほとんどの人が自力で避難できないため大災害に発展する。
 そのため、老人福祉施設や有料老人ホームは一般の賃貸マンションよりも高い防災基準・対策が求められている。しかし、サ高住は一般マンションの建築基準と同じ、無届施設は建築基準法や消防法さえ守っていないところも多い。徘徊の入居者が外に出ないよう外から鍵をかけて監禁しているようなところさえある。群馬県渋川市の無届施設で10人の入居者が亡くなった火災死亡事故を覚えている人もいるだろう。
 また、高齢者は抵抗力が落ちているため、コロナやインフルエンザ、О157、ノロウイルスなどの感染症・食中毒にかかると、重篤化するリスクが高い。集合住宅であること、食事や入浴などを共用部で集まって行うことからクラスターも発生しやすい。そのため、感染症や食中毒が発生すると保健所に届け出ることが義務付けられている。
 しかし、ある無届施設ではインフルエンザとノロウイルスが同時に発生、一月の間に12人、四ヶ月に合計28人もの入居者が亡くなっている。それでも届け出も報告もされていない。
 これらの事例は多くが四、五年以上前のもので、ここ数年は無届施設や高齢者住宅での虐待、暴行についてはほとんど報道されていない。それは生活環境が改善されたわけではなく、コロナ禍の中、家族の面会さえも制限され、指導や監査も行われないため、より閉鎖性が高まっているからだ。

 救急病院の医師から話を聞くと、適切な食事や介助・看護さえ行われておらず、ガリガリの状態で腰の骨が見えるほどひどい褥瘡(じょくそう)のまま、半死半生で搬送されてくる高齢者もいるという。
 しかし、先ほどのような医療法人が関係している無届施設では、それを経営している医師によって死亡診断書が書かれるため、警察も入らず、すべてが闇の中だという。家族がいない人はスタッフの虐待や暴行で亡くなっていてもわからないのだ。完全に社会から隔離され、クローズされた環境の中で悲惨な生活を余儀なくされている要介護高齢者は、全国で数万人にのぼるとされている。
 「無届施設にもきちんとしているところある」と擁護する識者がいるが、そうであればすべての建築業、飲食業などの届け出すべてが必要ないことになる。逆に、きちんとしているのであれば、届け出を促されてもしないのはなぜかという話になる。
 「届け出をしてもらわなければ、手を出せない」と自治体は言うが、これも詭弁だ。
 届け出をしていないからこそ、厳しいチェックをしなければならない。 犯罪行為が行われているリスクがあるが、それを届け出してもらわなければ対応できないと言っているのと同じだ。今でも、届け出をしない事業者に対する罰則があるが、それも活用しようとしない。
 厚労省も自治体も政治家も、自分達の利権争いで生まれた制度矛盾を突かれたくないという一心で、違法施設、犯罪者を野放しにしたまま、「知らぬ存ぜぬ」を決め込んでいるのだ。
 これがいまの、日本の医療介護の現実だ。

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