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「介護付より格段に安いサ高住」そのカラクリとは・・


要介護高齢者が集まって生活すると、少ないスタッフ数で効率的・効果的にサービスを提供することが可能となるため、結果、社会保障費の削減につながるはず。
しかし、高齢者住宅に適用される介護報酬の混乱によって、高齢者住宅が増えれば社会保障財政の悪化につながるという本末転倒の事態になっている。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 011 (全29回)


数年前、NHKの高齢者住宅の無届施設を特集した番組に出演したことがあります。無届施設とは法的義務である有料老人ホームの届け出やサ高住の登録を行わず、無届で行っている違法施設、脱法施設のことを言います。

無届施設は個室ではなく、ベッドを入れただけの雑魚寝のような状態のところもありますが、要介護高齢者でも、食事付きで10万円未満というところも多く、生活保護受給者も多く生活しています。
「特養ホームにも入れない、社会的弱者のためにやっている」
「社会奉仕の一つとして、行き場のない人のためにやっている」
と篤志家のような立派なことを言う人も少なくありません。
その崇高な理念を揶揄するつもりはありませんが、実際には、事業者や経営者が私財を投げうって行っているわけではなく、そのほとんどすべては営利目的の事業です。

「なぜ、無届施設は非合法の施設なのに、全国で1200施設もあり、拡大しつづけているのか」
「なぜ、サ高住は介護付有老ホームよりも月額費用が5万円~10万円も安くなるのか」

それは、介護保険制度と高齢者住宅との歪な関係にあります。
まずは有料老人ホームやサ高住などの高齢者住宅に適用される介護報酬について、簡単に整理します。

区分支給限度額方式と特定施設入居者生活介護の違い

現在、高齢者住宅に適用される介護報酬は、「特定施設入居者生活介護」と「区分支給限度額方式」の大きく二つに分かれます。

特定施設入居者生活介護は、高齢者住宅事業者みずからが介護サービスの提供事業者になるというものです。決められた数以上の介護看護スタッフを雇用し、入居者に介護サービスを提供します。要介護度別に一日の介護報酬が決められており、一ヶ月単位で入居している日数で介護報酬を包括的に算定します。
人員配置基準や報酬単価は違いますが、特養ホームや老健施設と同じような介護システム、報酬体系だといって良いでしょう。
この特定施設入居者生活介護の指定を受けた有料老人ホームが「介護付有料老人ホーム」です。介護報酬の中には介護看護サービスの費用だけでなく、サービス管理費(ホーム長などの人件費)、ケアプラン作成費(ケアマネジャーの人件費)、生活相談サービス費(生活相談員の人件費)なども含まれています。

これに対して、もう一つの区分支給限度額方式は、一般の自宅で介護サービスを受けるのと同じ方式です。高齢者住宅が提供するのは住居や食事サービスのみで、介護や看護は、それぞれの入居者が外部の訪問介護や訪問看護、通所介護などと個別に契約し、サービスを受けます。要介護度別に一ヶ月単位の「区分支給限度額」が設定されており、この限度額を上限に、実際に「訪問介護」「訪問看護」などを受けたサービス内容と回数で、介護報酬を個別に出来高で算定します。

例えば、要介護1の区分支給限度額は16692単位です。一単位およそ10円で計算しますから、一ヶ月16万6920円分のチケットを使って、訪問介護や通所介護を利用するというイメージです。ただし、特定施設入居者生活介護とは違い、サービス管理費、生活相談サービスなどは含まれておらず、ケアプラン作成費(居宅介護支援費)も入居者と外部の居宅支援サービス事業者と契約し、別途介護報酬を算定します。サービス管理、生活相談サービスなどの費用も介護報酬の中には含まれていませんので、別途契約・全額自費となります。
この区分支給限度額方式をとる有料老人ホームを住宅型有料老人ホームと言います。
サービス付き高齢者住宅も「特定施設入居者生活介護」の指定を受け、「介護付サ高住」になることはできますが、ほぼすべてのサ高住は、この区分支給限度額方式をとっています。

それは何故かといえば、算定方法だけでなく、受け取ることのできる報酬額が違うからです。
述べたように、特定施設入居者生活介護の介護報酬には、サービス管理、ケアプラン作成、生活相談サービス費も組み込まれています。それはホーム長などのサービス管理者、ケアマネジャー、生活相談員などを配置が義務付けられ、それらの人件費も介護報酬の中に含まれるということです。
これに対し、区分支給限度額方式の報酬には、これらのサービス・費用は含まれていません。自宅には生活相談員や管理者はいませんし、ケアマネジャーも別途契約(介護報酬)となります。そのため普通に考えれば、区分支給限度額よりも、特定施設入居者生活介護の方が介護報酬は高いと思うでしょう。

しかし、実際の報酬額は、表のように区分支給限度額の方が高く、その差は、重度要介護になるほど、大きくなっていきます。

もちろん、それには理由があります。
区分支給限度額は、高齢者住宅ではなく、一般の自宅に適用される介護報酬です。
ホームヘルパーが、一軒一軒、離れた自宅を訪れて排せつ介助や入浴介助を行うのですから、移動時間も必要となりますし、待機時間も発生します。8時間労働の一人の常勤ホームヘルパーが、訪問できる人数は一日に6人~7人程度が限界です。また、あくまでも限度額ですから、すべての入居者が全額利用するわけではありません。自宅で生活する要介護高齢者の区分支給限度額の平均利用割合は要介護1~2の軽度要介護高齢者で50%程度、要介護3以上の重度要介護高齢者でも60%程度です。

更に、介護付有料老人ホームの場合、介護報酬は定額であり、その特定施設入居者生活介護の報酬すべてが有料老人ホームの収入になりますが、区分支給限度額方式の場合、訪問介護、通所介護など、その入居者が利用したそれぞれの介護サービス事業者の収入になります。

違法な【囲い込み型ビジネスモデル】が一般化してしまった

このように、二つの報酬は考え方もシステムも違います。
ですから、区分支給限度額の方が高いのは当然なのです。
問題は、一般の自宅に適用されるのと同じ「区分支給限度額」を、集合住宅である高齢者住宅である有料老人ホームやサ高住に適用するのは適切なのか、ということです。

多くのサ高住は、同一法人、関連法人で訪問介護や通所介護を併設しています。
そして、入居者に対し、併設の介護サービスを限度額一杯まで集合的に利用させています。移動時間も待ち時間もないため、一人のホームヘルパーは連続的に一日に15人~20人に対して介護をおこなうことが可能です。これはサ高住だけでなく、無届施設や一部の低価格の住宅型有料老人ホームでも同じ手法をとっています。つまり、「家賃や食費を抑えて入居者を集め、併設の介護サービスをたくさん利用してもらうことで利益を出す」というビジネスモデルであり、「たくさん介護サービスを利用する重度要介護高齢者の方が利益は高くなる」のです。

一部の識者やコンサルタントは、
「高齢者住宅は民間住宅だから、一般住宅と同じ区分支給限度額の介護報酬にすべき」
「住宅と介護は分離型にし、個別契約による自己選択を推進すべき」
と言っていますが、それは報酬の高い区分支給限度額を高齢者住宅に適用させたいがための詭弁でしかありません。実際には同一法人の併設サービスしか利用することができず、他の介護サービス種類や事業者を選ぶことはできません。本人の意向を無視して限度額一杯まで使わされる押し売りサービスなのです。

それは介護報酬だけではありません。特養ホームや介護付有料老人ホームは、医療保険(健康保険)利用に対する診療報酬の規制がありますが、一方のサ高住は「一般の住宅と同じだから…」と規制はありません。その結果、系列やテナントの「内科、整形外科、歯科、眼科、精神科」などの訪問診療をほぼ強制的に利用させられ、ここでも無駄な医療費が垂れ流しになっているのです。
これを「囲い込み」と言います。その意味は明確です。安い家賃や食費で高齢者をひきつけ、併設の介護サービスや医療サービスで囲い込んで利益を上げるという手法です。

高齢者住宅を全く知らない国交省が作ったサ高住🔗述べたように、有料老人ホームの届け出には、行政との事前協議も必要になりますし、事前の指導も入ります。更に、特定施設入居者生活介護の指定を受けて「介護付」になるためには、別途、介護保険担当の指導や監査も必要です。
しかし、「サ高住+訪問介護」だと、これらの手続きは何も必要ないのです。その結果、このようなものが、「誰でも、すぐに開設できる」国交省のサ高住と連動して、無秩序に増えてきたのです。

マンションの一階にコンビニエンスストアがあれば便利ですが、「そこでしか買い物できない」「毎月一定額の買い物を義務付けられる」となれば、話は変わってくるでしょう。高齢者住宅の場合、それは一人当たり年間数百万円に上る社会保障費なのです。
更に、押し売りサービスで「重度要介護になっても安心です」とセールスしながら、事故やトラブルが起きると「介護は個別契約なので、高齢者住宅は無関係です。自宅で転倒するのは同じですから責任ありません」と、事業者も国交省も一緒になって責任回避をしているのです。
入居者や家族、社会保障財政はそっちのけで、あまりにも、ご都合主義がすぎるといって良いでしょう。

これは、一部の事業者の問題ではありません。
また、違法な無届施設だけの問題だけではなく、一部の中小の劣悪事業者の話でもありません。
現在、大手事業者を含め、低価格路線のサ高住、住宅型有料老人ホームのほぼすべてが、この「囲い込み」のビジネスモデルなのです。
そう考えると、現在の高齢者住宅業界の問題の深さが見えてくるでしょう。





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