年間、120兆円の社会保障費を使ってできあがった「福祉国家」日本。
政治家、官僚、自治体、事業者、そして国民すべてが総ゆでガエル状態。他人任せの責任逃れ、財政課題の先送りの借金頼みで誰も未来のことを考えていない。
【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 006 (全29回)
日本では、重大事故や災害が発生した場合、「想定外だった」という言葉がよく使われます。
しかし、2025年、2035年に「要介護高齢者がどの程度増えるのか」「財源はどうなるのか」「介護労働者は足りるのか」という課題は、数字で表すことのできる直線的に現実となる事実です。
そして、それはずいぶん前からわかっていたことです。
格差を増大させる富裕層に優しい社会保障政策
しかし、残念ながら、この「重度要介護高齢者増」「労働人口減」「更なる財政悪化」というトリプルリスクに対する対策はほとんど進んでいません。
なぜ、このような状況になってしまったのか。
それは、これまで日本の社会保障制度は、中長期的なマネジメントを基礎とした政策ではなく、選挙目的の目先のポピュリズムや、厚労省や国交省、自治体などの既得権益として利用されてきたからです。
超高齢社会に向けた社会保障制度の構築には、「限られた財源」「限られた人材」を、効率的、効果的に運用するというマネジメントの視点がより重要になってきます。しかし、財政問題や借金問題を全く議論しないまま、「老人医療費無料」に代表されるような、高齢者向けの「バラマキ福祉」ばかりが行われてきました
その結果、税収の半分以上が社会保障費で、その七割以上が高齢者対策です。
現在の社会保障制度は、初めから「高齢社会では維持できない制度」なのです。
問題はそれだけではありません。
社会保障制度は、市場経済の中だけでは対応できない介護や医療、年金などの生活課題に対応するための公助、共助を目的として作られているものです。何よりもすべての国民にとって公平、公正であることが求められます。しかし、年間120兆円という、国家予算を大きく超える莫大な金額の社会保障費を投入しながら、本当に困っている人、必要な人に適切な支援が行われる、公平な制度となっているかと言えば、首をかしげざるを得ません。
例えば、労働者の収入格差が社会問題となっていますが、日本の年金制度は、その収入格差がそのまま高齢期になっても引き継がれる制度です。収入が安定し、高額の退職金を受けられる公務員や大企業の社員がたくさんの老齢年金を受けられるのに対し、零細企業の社員や専業主婦は退職金もなく、支給される年金も少額です。
高額な金融資産を持つ富裕層が、働く若者の収入よりも多い老齢年金を受け取る一方で、最低限の医療や介護も受けられない高齢貧困層の増大が問題になっています。
「掛け金(支払った保険料)が多いのだから…」という意見もあるでしょうが、老齢年金の目的は生活保障です。民間保険ではなく、そこには多額の税金が投入されていること、財源が極度に厳しいということを考え合わせると、本来の役割を明らかに逸脱しています。
「年金2000万円問題」が話題になりましたが、20万円の年金収入のある高齢世帯の懐具合を国が心配する必要はまったくありません。彼らは制度によるメリットを受けている人たちだからです。
問題の本質は、現在の年金制度は総中流社会と言われた昭和~平成初期のモデルであり、現在の格差社会モデルではないことです。「現在の年金制度は維持できるか・・・」と言えばYESですが、問題は現在の年金制度では生活を維持できない高齢者が激増し、生活保護受給世帯が激増することなのです。
『総ゆでガエル』から抜け出せない日本の未来
それは、老人福祉、介護保険、高齢者住宅制度も同じです。
例えば、「特養ホームが足りない・・」と、この数年で16万床のユニット型特養ホームが整備されましたが、この個室型の特養ホームは、お金のない人は入れません。
「富裕層優先」の老人福祉施設を莫大な費用をかけて作り続けている国など、日本くらいのものです。その結果、「特養ホームの待機者増加」「一部の特養ホームは入所者不足」という、考えられないような事態になっているのです。
国の制度設計の問題だけではありません。
社会保障費の増加は、国だけでなく自治体の財政も圧迫します。
地域包括ケアという言葉が聞かれるようになりましたが、それは「それぞれの市町村で、その地域性や社会資源に合わせた効率的、効果的な医療介護システムを構築する」というものです。実際に介護サービスの整備計画を策定する各自治体のマネジメントの視点、強化が不可欠です。
しかし、いまだ「国からの指示・指導がないのでよくわからない」「この三年で高齢者が二割増加するので、国の基準に従ってすべてのサービスを二割増やす」といった、マネジメントの意識や財政問題の意識のない市町村が大半です。医療や介護の不正請求にも目をつぶり、違法な無届施設や「囲い込み高齢者住宅」も放置されたまま、その数はどんどん増えています。その結果、現段階で、すでに介護報酬の支出が市税収入の金額を超えている末期的な状態の自治体も生まれています。
介護経営者の中にも「バレなければ良い」「誰でもやっている」と補助金不正を行っても罪の意識が薄い人が増えてきました。「介護、福祉の充実だ」と言いながら、社会福祉法人の理事長になり、社会保障費をお財布がわりに使っている地方議員、天下り施設長もたくさんいます。
また、社会保障制度というものは、利用しないで生活するのが一番幸せなのですが、いつの間にか国民の間でも「どっちが得だ、損だ」という話ばかりになってしまいました。
まさに社会保障にどっぷりと浸かった「日本総ゆでガエル状態」だといっても過言ではありません。
本当に悲しいことですが、政治家や官僚を筆頭に、他人任せの責任逃れ、財政課題の先送りばかりで、日本がこの先どうなるのか、誰も考えていないのです。
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