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「ケアプランって何」介護保険の基本さえ知らない素人事業者


包括算定の「介護付」と出来高算定の「訪問介護」は、介護保険の対象となるサービスが基本的に違う。重度要介護高齢者や認知症高齢者は、区分支給限度額方式だけでは対応することはできない。介護保険制度の基礎を知らない素人事業者の激増が、今後大きな障害に。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 013 (全 29回)


介護サービス事業・高齢者住宅事業の最大の特性は、営利目的の事業でありながら、公的な介護保険制度にその収入の大部分を依存しているということです。
制度の理解・徹底は、高齢者住宅ビジネス・経営の根幹だといって良いでしょう。
しかし、現在の高齢者住宅事業者・経営者と話をすると、「介護サービスの基礎であるケアマネジメント」や「介護保険制度の適用範囲」をきちんと理解しないまま、またやっていることが適法なのか不正なのかさえわからないまま参入している人がとても多いのです。

「介護付」と「訪問介護付」は介護保険では全く違うもの

「介護付より格段に安いサ高住」そのカラクリとは🔗で、述べたように、介護保険財政悪化の一つの要因は、高齢者住宅に適用される「特定施設入居者生活介護」と「区分支給限度額」の制度矛盾です。
ほとんどのサ高住や住宅型有料老人ホームは、関連の訪問介護、通所介護等を併設しており、「介護付きではありませんが、訪問介護併設で介護が必要になっても安心」「訪問介護のホームヘルパー二四時間常駐で安心」とセールスしています。
ただ、この「介護付」と「訪問介護付き」は全く違うものです。
その、両者の違いのポイントは、大きく分けると二つあります。

一つは、対象となる介護サービスの内容の違いです。
高齢者住宅で要介護高齢者が生活するために必要な介助内容を考えてみましょう。
介護サービスと言えば、一般的には「排せつ介助」「食事介助」「入浴介助」などの直接的・定期的なポイント介助をイメージしますが、要介護高齢者の生活を支えるためには、そのほかにもたくさんの介助・介護が必要となります。

例えば、「ベッドから車いすに降ろしてほしい」「テレビを点けてほしい」といったごく短時間の隙間のケアのほか、事故やトラブルを早期発見するための状態把握や見守り、「ゆっくり食べてくださいね」「気を付けてくださいね」といった声かけなどの間接介助も必要です。
また、日々の随時のコール対応や急変時の緊急対応も不可欠な介護サービスの一つです。
特に、重度要介護高齢者や認知症高齢者になると、「お腹の調子が悪く何度も便が出る」「頭が痛いのでご飯は後で食べたい」「熱があるのでお風呂は中止、清拭対応」といった日々の体調変化に合わせて、臨機応変に対応しなければならないケースが増えていきます。

しかし、「特定施設入居者生活介護(介護付)」と「訪問介護」では、これらの介護サービスに対して、介護保険の対象となる範囲が異なります。

下表の通り、特定施設入居者生活介護は、介助の種類を限定していません。すべての介護サービスが対象になります。これに対して、通常の訪問介護で介護保険の算定対象となるのは、定期介助のみです。「急にトイレに行きたくなった」という臨時のケアも、ケアマネジャーや家族の承諾を得て、ケアプランの変更を経なければ、介護保険の対象にはなりません。事前に変更できなかったり、それによって区分支給限度額を超えてしまった場合、介護保険の適用外となり全額自己負担となります。

また、見守りなどの間接介助や隙間のケア、コール対応などは、すべて対象外です。
訪問介護は、それぞれの要介護高齢者との事前予約に基づく個別契約、ポイント介助ですから、隙間のケアや緊急対応など臨機応変に対応する、すべての入居者に対して、広く対応するという介助には適用できないのです。

区分支給限度額方式の訪問介護では重度化対応不可

もう一つは、時間管理の違いです。
特定施設入居者生活介護は、「一日〇〇単位」という包括算定です。「どの時間がAさんの介助時間」と決められているわけではありません。必要な排せつ介助が終われば、次の介助に向かうこともできますし、食事の片づけの途中でコールが鳴れば駆け付け、その対応を優先します。

一方、通常の訪問介護は、述べたように入居者Bさんの個々人の区分支給限度額というチケットを使って、個別に契約し、個別に介助するという方式です。「12時〜12時30分」「2時30分〜3時」と個別の介護契約(ケアプラン)の中で介助時間が予約・指定され、それに基づいて介助します。そのため、10分程度でオムツ交換が終わっても、決められた30分は、トイレの掃除や、体調を確認するなど、Bさんの介護のために時間を使わなければなりません。

これを実際の高齢者住宅での夜勤帯での介護業務に置き換えて考えてみましょう。
介護付有料老人ホームの介護スタッフは、一時間あたり5~6人程度の排泄介助をこなし、その間にコール対応や見守り、声かけ、巡回や状態把握、翌日の準備、配茶、洗濯など様々な業務を行っています。
これに対して、サ高住併設の訪問介護の場合、介助時間は基本30分単位、最低20分以上ですから、一時間あたり2人~3人の介助しかできません。

食事介助も同じです。一般的な食事介助は、一人で食事ができない高齢者に対して、となりに介護スタッフが座って直接スプーンを口に運ぶイメージです。しかし、実際は、直接的な介助だけでなく、声かけや促し、誤嚥や窒息の見守り、更には食堂への移動介助や車いすや椅子への移乗、配膳や片付けなど、食事に関する介助業務は多岐にわたります。特に、要介護高齢者は咀嚼機能、嚥下機能が低下しているため、直接的な介助が必要ない場合でも、誤嚥や窒息にたいする見守りや緊急対応は必要です。

介護付有料老人ホームの場合、包括算定ですから、これらすべての業務を含みます。
これに対して、訪問介護の場合は、個別契約に基づくマンツーマンの食事介助です。また、その対象になるのは食事が一人でできない高齢者に対する直接介助だけです。

もう少し細かく言えば、「食事の直接介助が必要な高齢者」の場合、食堂までの移動も食事介助の一環として報酬算定が可能ですが、「食事は一人で食べられるけれど、移動介助だけが必要」という高齢者は算定対象外です。促し、見守り、配膳や片付けも、食事介助の算定はできません。
更に、デイサービスを利用予定だった高齢者が、当日、体調不良で利用を取りやめた場合、その代替サービスをどうするのか、という問題もでてきます。代替の訪問介護が手配できなければ、その高齢者は食事介助を受けることができなくなります。

これは「軽度要介護」と「重度要介護」は、介護サービス量が増えるだけではなく、必要な介護サービス内容・介護システムが変わるということです。
上図のように、要支援~軽度要介護高齢者は、身の回りのことは基本的に一人でできますから、「入浴介助だけ」「通院の付き添いだけ」といったように、ポイント介助で対応が可能です。あとは緊急対応の相談員や宿直員がいれば対応できます。

これに対し、重度要介護高齢者、には、「すき間のケア」「臨時のケア」など、24時間365日の継続的・包括的な細かな介助の連続になります。また、認知症高齢者は、直接的な食事の介助は必要でなくても、急いで食べたり、手拭きタオルを口に入れたりするなど、誤嚥や窒息のリスクが高く、また予想できない行動をするため、見守りや声かけなどの間接介助がより重要です。
「介護付ではないが、訪問介護併設で介護が必要になっても安心」「認知症高齢者でも対応可」などと、安易にセールしているサ高住や住宅型有料老人ホーム多いのですが、重度要介護、認知症高齢者の生活は、区分支給限度額方式のポイント介助だけでは支えることはできないのです。

しかし、ほとんどのサ高住や住宅型有料老人ホームでは、「介護が必要になっても安心」「重度要介護、認知症でも対応可」とセールスしています。それは、意図的に入居者・家族への虚偽の説明をしているのではなく、この介護保険制度の基礎さえ知らないサ高住や住宅型有料老人ホームの事業者が多いのです。
そう考えると、「訪問介護付きで介護が必要になっても安心」「ホームヘルパー二四時間常駐で重度対応可」「サ高住は住宅だから区分支給限度額方式が適切だ」などと言っている事業者のレベルが、どの程度のものだかわかるでしょう。

これは一部の中小事業者だけでなく、大手の住宅型有料老人ホームやサ高住の事業者でも同じように「安心・快適」と言っていること、その陰には、様々な不正が行われていること、さらに行政がそれを半ば黙認してきたことに、この問題の根深さがあるのです。




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