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高齢者の住まいの混乱による医療介護費の無駄は数兆円規模


 現在の高齢者の住まい、特に、これから社会資源として不可欠な「要介護高齢者の住まい」には、三つの大きな矛盾がある。

① 民間の高齢者住宅と特養ホームの役割の混乱・矛盾
② 有料老人ホームのサービス付き高齢者向け住宅の混乱・矛盾
③ 高齢者住宅に適用される介護報酬の混乱・矛盾

 それが、ここまで述べてきた特養ホームの迷走や高齢者住宅のビジネスモデルの欠陥に繋がり、 ひいては、巨額の社会保障費の無駄を生んでいる。

 これらは、すべてリンクをしている。
 現在の特養ホームと民間の有料老人ホーム・サ高住のミスマッチを整理しておこう。
 85歳以上の後後期高齢者の激増によって、「高齢者の住まい」への入所・入居を希望する、要介護3以上の重度要介護高齢者は増えている。「特養ホームが足りない」「待機者が多い」と、目先の選挙目的に巨額の社会保障費を投入して、全室個室のユニット型特養ホームを作り続けてきたが、厚生年金や国民年金の平均受給額だけでは、とてもユニット型特養ホームに入所することはできない。「お金のない人は福祉の対象外」「富裕層のための高級老人福祉施設」という本末転倒の事態に陥っている。
 一方、介護付有料老人ホームは、ユニット型特養ホームと同レベルの、手厚い介護システムの介護付有料老人ホームを造ると、その価格設定は30万円を超える。そのターゲットとなるアッパーミドル層は、その半額、15万円程度で利用できるユニット型特養ホームにとられてしまうため、入居者が集まらない。その結果、介護付有料老人ホームは、要支援・軽度要介護高齢者を対象とした「20万円前半」の【3:1配置】【2.5:1配置】程度のものが多くなる。ただ、この人員配置では、重度要介護高齢者が増えると介護システムが破綻するため、過重労働によるトラブル多発で、介護スタッフは次々と逃げ出している。

 重度要介護になっても、金銭的にユニット型特養ホームにも介護付有料老人ホームにも入所できない、低所得低資産の重度要介護高齢者が頼る先が「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」だ。囲い込み型のサ高住や住宅型有料老人ホームはユニット型特養ホームと同等か低価格に抑えられている。そこにも入所できない生活保護などの貧困層は、月額費用一〇万円未満の無届施設に流れていくのだ。


 ここには、価格だけでなく入所までの期間の問題もある。
 要介護の問題は、ある日突然発生する。転倒骨折・脳梗塞などで突然要介護状態になり、病院から早期退院を求められて頭を抱えている家族にとって、「申し込んでも数か月~数年待ち」「いつ、入所できるかわからない」という特養ホームは役に立たない。
 申し込んだ翌日にも入居できる「囲い込み型高齢者住宅」や「無届施設」に頼らざるを得ない。彼らは低価格でもグレーゾーン、不正請求で巨額の利益を上げているため、それをお得意様にする紹介事業者に百万円以上の紹介料を支払ってもおつりがくる。
 言い換えれば、特養ホームに入所できるのは、本来の「要福祉高齢者」「緊急性の高い高齢者」とは正反対の、金銭的にも時間的にも、精神的にも余裕のある人だけなのだ。
 これが特養ホームの待機者が一気に減少し、その一部には空床ができている最大の理由だ。
 「特養ホームの整備によって待機者が減った、待機期間も短くなった」
 「特養ホームの供給が需要を上回っている地域もでてきている」
 そんな単純な話ではない。

 この制度の矛盾と混乱は、「公平・公正」であるはずの社会保障制度が、「不公平・不公正」にみちたものとなっていることを示している。そしてそれは、巨額の社会保障費の無駄・浪費につながっているのだ。
 自宅や高齢者住宅で生活する要介護高齢者と比較すると、このアッパーミドル層を対象としたユニット型特養ホームの入所者一人にかかる費用は、プラス年間180万円、これが増加分の30万人として年間5400億円に上る。
 低価格の「囲い込み型高齢者住宅」は、このユニット型特養ホーム以上にお金がかかる。
 医療介護特定施設入居者生活介護と区分支給限度額方式の差額は、8万円~13万円程度。平均をとって10万円としても、一人当たり、年間120万円。それに加えて、不必要に押し売りされる医療費も同程度の額に上るとされている。合わせて250万円~300万円、要介護3以上の重度要介護高齢者が40万人と仮定すると、それだけで一兆円規模。合わせて1.5兆円規模になる。いま、問題となっている「サンウェルズ」などのナーシングホームには、介護付有料老人ホームより一人当たり1000万円以上の社会保障費が搾取されていると言われている。

 これ以外にも、囲い込み型高齢者住宅では、自立の人が「要介護2」とされたり、要介護2の人が「要介護5」になったりという『要介護認定の改竄』、また、書類上介護したことになっているが、実際は何も行われていない『書類介護』など不正のオンパレードであることを考えると、さらにその金額は数兆円規模で膨らむ。その無駄な医療介護費は、少なくとも合わせて2兆円~3兆円規模になるのだ。2024年度の国内の介護費用の総額が11兆円規模であることを考えると、その金額の大きさがわかるだろう。
 こんな、矛盾制度の中で、湯水のように無駄な医療介護費を垂れ流ししていれば、いくらお金があったも足りなくなるのは当たり前だ。しかし、厚労省は、この15年以上、この問題を放置し続けており、その被害額、悪質性、及び無駄に搾取される社会保障費は拡大の一途を辿っているのだ。

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