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過剰な期待で激増した素人事業者

高齢者住宅の事業特性やリスクを知らないまま参入した素人事業者

問題は「ノウハウが足りない」のではなく、「必要ない」と思っていること


 

高齢化の伸展だけでなく、核家族化による独居高齢者の増加、家族介護機能の変化など、様々な要因が重なり、これから十数年の間に、自宅で生活できない重度要介護高齢者は激増します。
高齢者住宅事業は需要がますます高まる、将来性の高いビジネスであることは間違いありません。
しかし、高齢者、要介護高齢者の生活の根幹をなす、公共性の高い、社会的責任の重い事業です。
「収益があがらないから」と途中で投げ出すことはできません。
また、「需要が高いから、経営は安定する」というほど単純なものでもありません。
今後、要介護高齢者の増加によって行財政、社会保障財政は更に逼迫し、少子化によって介護人材の確保はますます難しくなっていきます。基準に沿って建設・開設することは誰でもできますが、経営環境が厳しく変化する中で、30年、40年、長期安定的に質の高いサービスを継続、経営を維持し続けることは、そう容易ではありません。

しかし、国の補助政策などの後押しによって、「高齢者住宅の需要は増える」「高齢者住宅は儲かる」と異業種からの参入が殺到し、先を争うように全国で開設競争が行われてきました。その結果、事業特性や事業リスクの検討やその対策、ノウハウの蓄積は、後回しになっています。
「説明不可、制度政策の混乱」🔗で述べた、制度の混乱に加え、もう一つ、現在の高齢者住宅産業が抱える大きな課題が、素人事業者の激増です。

 

~介護保険までなぜ、高齢者専用住宅がなかったのか?~

2016年10月現在、有料老人ホームは全国で11739ケ所、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は6342ケ所となっています。その数は、特別養護老人ホームの2倍に達します。
ただ、このような状況になったのは、介護保険制度が発足した2000年以降のことです。
それまで、自宅で生活できない高齢者が入所、生活するのは、軽費老人ホーム、養護老人ホーム、特養ホームなど老人福祉施設が中心でした。唯一の民間の高齢者住宅と言える有料老人ホームは、入居一時金が数千万円と、一部の超富裕層を対象とした高級なもので、東京や大阪など大都市圏を中心に、全国で300ケ所程度しかありませんでした。
数字で見れば、介護保険制度以降、その数は60倍に増えたことになります。

これは、高齢者住宅が急増したという、単純な話ではありません。
介護保険制度がスタートするまでは、「高齢者を対象とした専用の住宅がない」というのでなく、ほとんどの賃貸アパートや賃貸マンションは、「高齢者はお断り」だったのです。
それは、身体機能の低下や認知症によって、事故やトラブルが増えるからです。
足の筋肉や視力の低下によって、転倒するリスクは大きく、骨密度や体感バランスも低下するため、大腿骨骨折や脳出血などの可能性も高くなります。自宅での食事中の誤嚥や窒息、入浴中の溺水、疾病の急変による死亡事故は、社会問題となっている高齢者の交通事故死の数倍に上ります。

一人暮らしの多くの高齢者は、仕事などの日々の予定がありませんから、急変や事故で無くなると、死亡後数週間も見つからないという孤独死の状態になります。そのため、腐敗して大変な臭いがして、初めて発見されるというケースも少なくありません。また、認知症になると、部屋が片付けられずに、ごみ屋敷となったり、ゴミ出しの時間や曜日を忘れる、大きな音でテレビをつける、タバコの失火によるボヤ騒ぎなど、近隣とのトラブルも増えます。
これらは、一人暮らしの高齢者の生活上のリスクというだけでなく、マンションの家主・オーナーにとっても居住価値の低下や事故物件となる経営上のリスクです。
そのため、いまでも、一般の賃貸マンション、賃貸アパートの多くは「高齢者お断り」なのです。
それが「高齢者専用賃貸住宅」「サービス付き高齢者向け住宅」の整備が必要だとされ、建設補助の支出や税制優遇が行われている最大の理由です。

 

~多くの高齢者住宅は、リスクに目をつぶっている~

高齢者住宅には、一人で生活することが不安な、身体機能、判断力の低下した高齢者が集まって生活しているのですから、事故やトラブル発生の可能性は一般のマンションの比ではありません。たばこの失火で火災が発生すると多くの人が逃げ遅れ、大惨事に発展します。抵抗力が低下しているため、インフルエンザやノロウイルス、O157などの感染症や食中毒が発生すると、感染が蔓延し、重篤化するリスクが高くなります。

これらは、高齢者住宅事業者にとっても、大きなリスクです。
しかし、残念ながら、現在の高齢者住宅事業者に、その認識があるかと言えば、そうではありません。
それは、「リスクの対策が甘い、不十分」というのではなく、「自分たちにはリスクは関係ない」と目を背けたまま参入している事業者が、あまりにも多いのです。

それが最も顕著なのが、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)です。
「サ高住は施設ではなく住宅だ」という理解のもと、「住宅サービス」と「生活支援サービス」の分離が行われてきました。
そのため、事故対策、防災対策、感染対策などのリスクマネジメントの重要性を説いても、「サ高住は、賃貸アパートと同じだから、これらの生活上のリスクは負わない」「事業者責任は、一般の賃貸マンションと同じだ」と、当たり前のように言う識者・経営者がたくさんいます。「介護が必要になれば、訪問介護など介護保険を利用する」と言いながら、「介護スタッフの確保や、サービスの質の向上はどうするのか?」と聞くと、「自分たちの責任ではない」という回答です。

しかし、それは大きな間違いです。
一般の賃貸マンションのオーナーが、そう言うのであればまだわかります。
しかし、有料老人ホームやサ高住は、「高齢者専用の住宅」として整備されたものです。法的に求められる安全配慮義務は、一般の賃貸マンションの比ではありません。
また、入居時には、「要介護高齢者にも対応」「介護が必要になっても安心」とセールスしているのですから、サ高住であれ、有料老人ホームであれ、介護付きであれ、住宅型であれ、入居者が要介護状態になっても安全に生活できるように、生活環境を整える義務は、高齢者住宅事業者にあります。
「安心・快適」と入居者を集めておいて、事故やトラブルが発生してから、「私たちには関係ない」という言い訳が通るはずがありません。

また、直接的な法的責任の有無に関わらず、これらは高齢者住宅経営の根幹に関わる問題です。
しかし、
「併設のレストランで食中毒が発生すればどうするのか」
「併設の訪問介護が倒産したり、スタッフが確保できなければどうするのか」
「火災や地震が発生し、多数の入居者が亡くなった場合、どうするのか」
などのリスクに対して、「自分たちの責任ではないから・・」と、まったくといってよいほど、その対策を検討していないのです。
これが、高齢者住宅で事故やトラブルが激増している、最大の理由です。

少子高齢化社会の中で、自宅で生活できない高齢者は増えることは、誰でもわかっています。
高齢者の賃貸住宅に高い事業性があるのなら、補助金がなくても、登録制度を作らなくても、民間企業がどんどん参入しているはずです。
言いかえれば、これらのトラブル・リスク要因に目をつぶり、「需要が高い」「補助金がでる」と、安易に参入している人ばかりが参入しているのです。

 

 

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