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「看取りケアを行っている高齢者住宅は優秀」は間違い

「看取り加算届け出=看取りケアができる」という意味ではない。

リスクを理解しないまま安易に「看取り対応可」という事業者は素人


2018年6月27日のNHKの朝の情報番組、あさイチで、「遠距離介護」の特集が行われていた。
このテーマについては、「どちらを選ぶ・・住み慣れた場所? 家族の近く?🔗」で個人の見解を述べているが、一長一短ありどちらが正しい、どちらが良いというものではない。ただ、日本の人口動態から、「親は田舎の実家暮らし・・」「子供は東京など都会暮らし」というケースは増加しており、離れて暮らす老親の介護をどのように行うのかは、超高齢社会における大きな課題である。

今回の特集の中で、他にもいくつか気になったこと(遠距離に暮らす認知症の老親の住まいとしてサ高住が取り上げられたこと等・・)はあるのだが、最も違和感を覚えたのは、高齢者住宅、介護保険施設の見分け方、ポイントとして、「看取り介護を行っている事業者」が推奨されたことだ。識者として出演された社会福祉士の方は、「看取りは大変だろうけど、すぐに救急車を呼ばずに、看取りを頑張っている介護スタッフのいるところは優良だ・・」という趣旨のコメントをしていたが、これには賛同できない。

これはNHKだけの問題ではなない。
一週間ほど前にも、テレビ東京で特集された、とあるサービス付き高齢者向け住宅でも「看取りケアに力を入れている」「看取りケアをやるのが高齢者住宅の当然の役目」という社長の言葉や、その先進性が高く評価、報道されていたが、本当に現在のポイント介助のサ高住の介護システムで適切な看取りケアができるのか・・と言えば疑問を感じてしまう。
それは「看取りケア」は、「介護スタッフが頑張る、頑張らない」の話ではなく、また「看取りやっている事業者は優秀」「看取りを行っていない事業者はダメだ」という単純な話ではないからだ。

 

~看取りケアって何だろう・・~

高齢者住宅や特養ホームでの看取りケアというのは、病状の改善が見込めない高齢者に対して、本人や家族が望むことを前提に、入院による積極的な治療や延命治療は行わず、住み慣れた高齢者住宅内で最期の時を迎えてもらうためのケアのことを言う。望まない医療をなくすことによる財政負担軽減という目的もあり、介護保険でも「看取り介護加算」というものを設置し、その後押しをしている。

看取り介護加算 対象要件
◆ 常勤看護師を1名以上配置し、施設又は病院、訪問看護等の看護職員との連携による24時間の連絡体制を確保していること。
◆ 看取り指針を定め、入所の際に本人・家族等に説明し同意を得ていること。
◆ 看取りに関する職員研修を実施していること。
◆ 医師が一般的な医学的知見に基づき回復の見込みがないと診断した場合であること。
◆ 本人や家族等の同意を得て、介護計画を作成していること。
◆ 医師、看護師、介護職員等が共同し、利用者の状態を、随時、本人や家族に説明し、同意を得て介護を実施していること。
◆ 医師、看護師、介護職員等が協議の上、当該施設の看取り実績を踏まえ、適宜、看取りに関する指針の見直しを行うこと。

この看取り介護加算は、特別養護老人ホーム、グループホーム、介護付有料老人ホームといった、「日額包括算定方式」の施設・高齢者住宅に適用されるものである。上記のように、基準はそれほど高くないとこと、また「実際に看取り介護を行った場合のみ、算定する」という特性があるため、とりあえず、この加算の届け出をしているという事業者は多い。

そのため、「看取り加算の届け出を行っている=看取り介護を行っている」と考える人は多く、厚労省の調査では、76%の特養ホームが看取りを行っていると回答している。
しかし、実際はそう単純な話ではない。看取りは、介護現場にとって、そう簡単なケアではないからだ。

適切な看取りケアを行うには、二つの条件が必要になる。
一つは、介護・看護・医療システム上の整備。
看取りを行うために最も大きな壁になるのが、「夜勤帯での看取り」である。
昼間の時間帯は、介護スタッフ数も多く看護師が常駐しているため、入居者が亡くなった場合でも、その専門知識や経験のある看護師が中心となって対応することができる。
しかし、夜勤帯の少ない介護スタッフだけで看取りケアをしようとすれば、通常の忙しい夜勤業務にプラスして、その対応を行わなければならない。また、そもそも介護スタッフだけでは「亡くなったのか、眠っておられるのか」さえ、正確な判断はできない。
そのため、少なくとも、「24時間看護師の指示を仰ぐことができる」「すぐに来てくれる訪問診療医と連携している」など、介護スタッフが安心して看取りケアができるだけの人員体制、システムを整えておく必要がある。その基礎は「介護スタッフが頑張っている、頑張っていない」ではなく、「看取りケアのシステムが構築できているか、できていないか」である。

もう一つは、家族への説明と、リスクの共有、理解、同意。
看取りは、家族にとっても、「親・親族の死」という重大局面である。冷静にその時を迎えられる人ばかりではない。
また、「眠るように穏やかな最後・・」という高齢者ばかりではなく、意識はなくとも、苦しそうな表情をしたり、息が荒くなったりということもある。一方、夜間の少人数の介護スタッフでできるケアには限界があり、当然、介護スタッフは医療行為もできないし、法的にもしてはいけない。
そのため、どのような可能性があるのか、どのようなケアを行うのか、どんな時に医師を呼ぶのかといった看取りケアの内容や、そのリスクを含めた対応方法を、それぞれ対象者ごとに、医師や家族と十分に話し合ったうえで、書類を作成するなどの対策が必要とある。
そうでなければ、亡くなられた後に、「看取り対応可能と言いながら、適切な介護が行われなかった。何もしてくれなかった」と、事業者や介護スタッフ個人が訴えられる可能性があるからだ。
また、死亡後には腐敗が始まるため、葬儀社の手配や家族の引き取りなどの迅速な対応が求められる。

看取りケアは、「延命措置」や望まない医療行為は行わないというだけで、「何もしないで自然死を迎えること」でも、単純に「救急車を呼ばないこと」でもない。死に直面するという精神的負担や、トラブルのリスクの高いケアであり、何をすべきか、何をすべきでないか、亡くなった後どうするのか等についての、スタッフに対する十分な研修や精神的なサポートも必要となる。
夜勤帯の介護スタッフに、相当の負担がかかるため、加算の届け出を行っている事業者であれば、必ずできる、やっているという話ではないのだ。

 

~その体制で「看取りケアができる」って本当ですか?~

私の旧知の施設長が行っている介護付有料老人ホームが名古屋にある。
介護看護スタッフ配置は【1.5:1配置】と基準の二倍で24時間看護師が常駐している。また、この老人ホームの土地のオーナーは医師であり、同一敷地内に診療所(自宅兼用)が設置され、24時間往診を行っている。そのため、一般の介護付有料老人ホームでは対応できないような、気管切開や胃ろうなどの医療依存度の高い高齢者も積極的に受け入れている。ここでは、常に終末期の高齢者が多く生活しており、一旦病院に入院しても、「できれば老人ホームで・・」と希望する家族がほとんどだと言う。

「ここなら、看取りケアも十分に可能ですね・・」と問うたところ、その施設長は首を横に振った。
看取りケアもシステム的には十分に可能であるが、この老人ホームが「看取りできます・・」「看取り可能です・・」と大々的にアピールしているかと言えばそうではない。実際には、入院せずに老人ホーム内で亡くなられる高齢者は多いが、希望する家族、入居者には、すべて看取りケアを行っているわけではないというのだ。

それは、看取りケアは、働いている介護スタッフにとっても本当にきな負担になるからだ。
ここでは、終末期が近づいてきた入居者の看取りケアについては、急変の可能性、その方の病状、看護医療ケアの密度、介護スタッフの負担、そして家族の看取りケアに対する理解度やトラブルの可能性など、様々な視点から施設長が中心となって医師や看護師、介護スタッフ、家族と話し合い、その上で、その終末期のケアがどうあるべきか、看取りケアができるかを決めているという。
中でも重視するのは「現場の負担」と、看取りケアに対する「家族の理解度」だという。また、それを最終的に決定するのは施設長だが、現場を取り仕切る介護看護部長の判断が尊重されるという。

もちろん、すべての介護付有料老人ホームで、このような質の高い看取りケアを行うことができるわけではない。また、ここまで「看取りケア」というサービスが管理できている高齢者住宅はそう多くはない。
少なくとも、「看取りケアできます」「看取りケアをやっている施設は優秀だ」「看取りをやっている介護スタッフは頑張っている」という単純な話ではないことは、ご理解いただけるだろう。

この看取りケアについては、昨年10月に取材を受け、週刊朝日から発売された「高齢者ホーム ~プロに教わる安らぎの選び方~」という対談の中でも議論となった。上記のような「看取りケアをやっているのは優秀」というイメージが蔓延したためか、多くの介護付老人ホームで「看取り可能」と言っている。
しかし、実際の人員体制や夜勤体制を見ると、「本当に可能ですか?」と首をかしげるような老人ホームは少なくない。

また、低価格の区分支給限度額方式のサ高住や住宅型の一部でも「看取り対応可」と標榜しているところもあるが、専門の介護スタッフさえ常駐しておらず、時間通りのポイント介助しかできないのに、誰が、どのように看取りをするのだろう・・と理解不能である。あるサ高住の経営者は、「看取りケアは何もしないこと・・」「救急車は呼んではいけない」と断言しているが、素人経営者のその独善的なリスクに付き合わされる現場のスタッフはたまったものではない。

これは医療ケアや認知症対応などでも同じことが言える。
「あれもできます、これもできます」は、現場を知らない事業者の特徴である。特に、看取りケアは入居者の生死のはざまのケアである。「看取りできます・・」と安易に約束できるようなものではなく、逆に難しさやリスクも理解しないまま、「なんでもできる」と言っているところは、入居者の生命や介護労働の安全性を脅かす素人の極みだと言っても過言ではないのだ。

もちろん、看取りケアができるように医療との連携を行い、その機能を強化することは、これからの高齢者住宅に不可欠な機能である。上記のように看取りケアに真摯に取り組む高齢者住宅も増えていることも事実だ。また、高齢者住宅は「終の棲家」を求める人が大半であること、また「無理な延命措置はしてほしくない」と考える家族、高齢者が増えていることから、「看取りケア」に対する期待は大きい。
ただ、この問題の解決には、これまで病院頼みだった「看取り」を在宅に戻すための、国民的な終末期、死生観の意識の変革も必要になるため、そう拙速に答えを出せる問題ではない。少なくとも、「看取りケア」を推奨するのであれば、「看取りケアとは何か」くらいは、調べるべきだろう。

このような安易な報道がなされると、「看取りケア可能、OK」と安易に言い出す高齢者住宅は確実に増える。それは働く介護スタッフの大きなリスク、業務負担として圧し掛かり、事故やトラブルの増加、更なる介護労働離れ、介護スタッフ不足が進むことになる。
今に始まったことではないが、このような事実に基づかない報道は真摯に看取りケアに取り組む事業者にとっても、また要介護高齢者を抱える家族にとってもプラスにはならない。社会問題を取り上げるのであれば、上っ面だけをとらえるのではなく、もう少し丁寧に、きちんと取材、報道してもらいたいと切に願う。

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