親の住み慣れた地域で探すのが良いか・・・子供が住んでいる場所の近くに探すのが良いか・・は高齢者住宅選びにおいて重要で、かつ難しい課題。ただし、要介護状態が重くなった時のことを考えると、本人だけでなく、家族にとっても「すぐに顔を見に行ける距離」というのは大切。
高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 015
現在の人口動態を考えると、高齢者住宅への入居を検討している家族の生活実態は「子供は仕事で都会に住んでいる」「親は田舎の実家で暮らしている」というパターンが多くなります。そのため、住み慣れた地元で探すのか、子供のいる場所に越してくるのか、どちらが良いのか…という問題がでてきます。ただ、これはこれまでのように「絶対こっち!!」というものではなく、なかなか難しい課題です。
「どちらでも、高齢者住宅には入れば同じだろう…」「特に、要介護状態になれば、地域にこだわる必要はないだろう」という人がいますが、そう単純な話ではありません。ここでは、「親は田舎の地方都市」「子供は東京・大阪などの大都市」と仮定して、それぞれのメリット・デメリットを考えてみましょう。
家族のいる地域・住み慣れた地域のメリット・デメリット
子供家族の暮らす地域に転居する最大のメリットは、「安心」です。
身体機能の低下した高齢者・要介護にとって、いざというときに頼りになる家族や子供が近くに住んでいるという安心は、何よりも代えがたきものです。
それは、子供にとっても同じです。
「介護できないのが申し訳ない」と悔やむ必要はない? で述べたように、「高齢者住宅に入居したから、すべて高齢者住宅にお任せ」というものではなく、家族の役割、責任は変わりません。
それをわかっている優良な事業者は、家族との関係をとても大切にします。
特に、要介護状態になれば、「どのような生活・介護を行っていくか」という介護サービス計画を策定するためのケアカンファレンスには必ず参加を求められますし、「病気になって入院する」「転倒してケガをした」といった身体上の変化、「下着が足りなくなった」「新しい服が欲しいと言われている」と言った金銭的な問題については、必ず家族に相談・連絡がきます。
近くにいると、いつでも顔を見に行くことができ、何かあれば、すぐに訪問することができます。
逆にデメリットもあります。
新しく入居した時、他の入居者とのあいさつは「どちらにお住まいでした?」から始まります。
住み慣れた地域だと、「私は隣町の〇〇ですよ…」「そうですか。妹の嫁ぎ先があって…」などと会話がはずみます。しかし、遠く離れてしまえば、共通の話題が減りますし、言葉や方言も大きく変わりますから、うまく他の人の会話に溶け込むことができません。
食べ物の味も変わります。同じ大都市でも、関西圏の大阪と関東圏の東京、中部圏の名古屋では違います。自分で調理をしたり、外食に出られるわけではなく、365日、高齢者住宅から提供される食事を食べるわけですから、歳をとってから味噌や醤油の味が変わるというのは、なかなか大変なことです。
その結果、食欲が減退したり、人の輪に入ることができず、部屋に閉じこもりがちになることから、体調を崩したり、うつ病や認知症になる人もいます。
家族の暮らすエリアではなく、住み慣れた地域の高齢者住宅に入居する場合は、この逆のメリット・デメリットを考えればよいでしょう。とても重要な課題ですが、同時になかなかに悩ましい問題なのです。
それでも、要介護になれば、やっぱり家族の近くがいい
ただ、プロの目からみれば、特に要介護高齢者の場合は、「家族の近く」が望ましいと考えています。
それは、体がうまく動かない要介護状態になってからの高齢者住宅への転居は、高齢者にとって大きなストレス・不安だからです。それを軽減するためには、頻繁に家族の顔が見られるということが、何よりも重要です。
遠く離れてしまうと、月に一度の訪問にも、それだけ費用と時間がかかります。それが、毎月ということになり、いつまで続くかわからないということになれば、金銭的にも精神的にも相当大変です。だからといって、三ヶ月、半年と誰も家族が、訪問しないというのでは、あまりにもさみしいものです。
また、「転倒・骨折して入院した」と言う場合は、会社を数日休んで、実家に戻るということになりますし、「急変した」ということになれば、臨終に間に合わないということにもなりかねません。
更に、距離が離れてしまうと「日々のことはすべて高齢者住宅にお任せ」になってしまいがちです。サービスに不満や不安を聞かされても、親を無理に説得して、後ろ髪をひかれるような思いで、帰路につくということになります。
親が近くに住んでいれば、無理をしなくても、仕事帰りや買い物帰りなど、ちょっとした時間に会いに行くことができます。いつも長居をする必要はなく、「変わりない?」「コーヒー買ってきた」と、10分、15分くらいで良いのです。時間があるときは、ご近所さん(他の入居者)やスタッフと話をしたり、介助しながら一緒にご飯を食べるということもできます。
味付けが濃い、薄いなど口に合わないのであれば、事業者に対応を相談することもできますし、難しいようであれば、本人の好きな副菜やお漬物などを、家族が持っていけばよいでしょう。
介護や食事の提供などは、高齢者住宅に任せればよいのですが、精神的なサポート、不安の解消というものは、家族にしかできないのです。
ただし、都会で探すとなると同程度のサービスでも費用が高額になります。
子供が住んでいる地域と離れた高齢者住宅を選ぶ場合には、定期的な連絡など、密にコミュニケーションを取ってくれる事業者を選ぶ必要があります。IPホンも日進月歩で進化していますから、スマホを使って、顔を見ながら話しをするなど、工夫が必要になるでしょう。
ここでも、本人の生活を安定させるために、家族の支援を一緒に考えてくれる、プロの高齢者住宅を選ぶことが重要になるのです。
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