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介護施設・高齢者住宅のコロナウイルス対策について Ⅰ


介護施設・高齢者住宅のコロナウイルス対策は、平時の感染対策の強化では不十分。「現場任せにしない」「感染予防だけでなく、発生・拡大を想定した対策」「基本的なことを業務化して徹底」の3つの鉄則。発生予防策は、「感染ルートの遮断」「事業所内感染の拡大予防」の二つに分けて検討



2020年4月、本来であれば、東京オリンピックに向けての機運が高まっていたのかもしれません。
しかし、コロナウイルスが全世界を席巻し、私たちの生活を直撃しています。爆発的な感染拡大が強く懸念されるとして、東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に「緊急事態宣言」が出されました。私の暮らす京都でも感染者の数は、右肩上がりで増えています。

もちろん、宣言が出されても介護関連施設、介護サービスは規制対象外です。
しかし、それはリスクが低いからではありません。
入所者・入居者・利用者は、症状が重篤化しやすい高齢者・要介護高齢者です。介護保険施設・高齢者住宅・デイサービス等で感染が発生すると、クラスターとなって一気に蔓延することが予測され、被害は働く介護看護スタッフやその家族にも拡大します。それでも「介護サービスが止まれば要介護高齢者の生活が止まる」という事業の特性上、続けざるを得ないのです。

病院で医師や看護師の方々が、身を犠牲にして日夜奮闘されている様子がニュースで報道されています。同様に、多くの施設、事業所で、戦々恐々としながらも、管理者・スタッフが一丸となって、手探り状態で発生予防・拡大予防を懸命に行っておられると思います。
私は医師でも、感染対策の専門家でもありません。実務については、医師や看護師、また行政や保健所と連携しながら行っていただければと思いますが、頭を整理するためのブレインストーミング・議論のたたき台として、まだ感染が発生していない事業者の対策について考えます。

コロナウイルス対策の3つの鉄則

まず理解しなければならないことは、今回のコロナウイルスの感染対策は、インフルエンザが発生する季節などに行ってきた「通常の感染予防対策の強化」だけでは不十分だということです。今回のコロナウイルスは新型であり、いまだ有効ワクチンがありません。確立された治療法がないため、有効な手立てを講じることができなければ、感染は一気に拡大します。
また、今回の感染対策は、「少しずつやる」「段階的にやる」というものではありません。例えば、「レベル10の対策が必要だ」というのであれば、多少の不都合・不便は廃して「レベル15の対策を行う」ということです。「今回はレベル8で、次はレベル9で・・・」という対策はゼロに等しいのです。

コロナウイルス対策の鉄則は3つあります。


第一は、現場ではなく事業者・経営者が責任を持って行うということです。
「感染対策については医療の専門家である看護師の方が詳しいから、お任せ…」という声を聴きますが、それは「責任逃れ・現実逃避」でしかありません。入所者・入居者・利用者の安全な生活を守る義務、働く介護看護スタッフの安全な労働環境・命を守る責任は事業者・経営者にあります。

二つ目は、「予防対策」だけでなく「発生・拡大」を予測して対策を行うこと です。
厳しいようですが、今回のコロナウイルスは感染を100%予防することは不可能です。「手洗いの徹底」「家族面会の制限」「マスクの着用」などの、発生予防策は言うまでもなく重要ですが、同時に「介護スタッフが感染した」「利用者が陽性になった」という場合、どのような対応・対処を行うのかをあらかじめ想定・検討・整理しておかなければなりません。

最後の一つは、できること・基本的なことを確実にやっていくこと です。
「あれもこれも・・・」となりがちですが、できることには限界があります。
感染対策が必要だと言うことはみんなわかっていますが、何しろ「面倒くさい」のです。「あれもこれも」となると、どれも中途半端になりますし、「指示のしっぱなし」「実務は現場で考えて」では意味がありません。まずは「できることを、基本を徹底する、確実に行う」ことです。


ウイルスの感染ルートに合わせて、予防策を理解・徹底する

繰り返しになりますが、現在の状況は、「平時の感染予防」とは全く違います。平時の感染予防を強化するだけで、対応できるものでもありません。
行うべき対策は、
 ① 感染ルートの遮断・事業所内感染予防 
 ② 感染発生を想定した事前の入居者・家族への伝達・広報 
 ③ 事業所内で感染が発生時の対応策の検討
 
の大きく3つに分かれます。

ここでは、主に介護保険施設や高齢者住宅などの「入所入居系サービス」を例に、①の予防対策を整理します。(②③についてはコロナウイルス対策について Ⅱ (発生前提の対策)で解説しています)

① 感染ルートの遮断 (事業所内にウイルスを入れない)

コロナウイルスは、主として感染者から発せられるものです。
そのため感染ルートは、「入所・入居者」「従業員・スタッフ」「家族」「その他外部スタッフ」です。
まずは、「事業所の外からウイルスを中に入れない」ための対策です。

特養ホームや老健施設と違い、自立度の高い高齢者の多いケアハウスや養護老人ホーム、サ高住などの場合、一人で外にでてしまいます。特に「緊急事態宣言」の出された地域や感染が増えているエリアにおいては、「不要不急の外出は禁止(強力に控えてもらう)」というのが基本です。

「従業員・スタッフ」の感染を防ぐというのも重要な視点です。
コロナウイルスのリスクを十分に説明し、「体調の悪いスタッフの出勤停止」「出勤時・退勤時の検温」「複数人が集まっての飲食の禁止」「家族に発熱者がいる場合の申告」など、業務時間外での行動も一定の抑制をお願いすることになります。

三番目は「家族」です。
家族への対応は、「訪問は極力控えてもらう」から、「訪問時には事務所で受け付け、マスク必須・体温測定」「訪問は二人まで、30分以内」「不要不急の訪問禁止」といった、いくつかの段階が考えられます。大切なことは単なる「家族の訪問抑制」ではなく、きちんと事業所の努力、窮状、リスクを訴え、理解してもらうということです。
これは次回の「感染者発生を前提とした各所への伝達・依頼」で、もう少し詳しく述べます。

最後は、「その他 外部スタッフ」です。
高齢者住宅、高齢者施設には、内部の介護スタッフだけでなく、給食業者や配送事業者など、多数の外部スタッフが出入りします。
給食業者や配送業者には、それぞれの事業者で行っている感染予防対策を提出してもらうほか、事業所内に入るときには必ず事務所を通る、手洗いを徹底させるなどの通常時とは違う対応が必要になります。訪問サービスは「当該入居者の居室以外では活動しない」などの申し合わせも必要になります。


② 事業所内 感染拡大の予防 (事業所内で蔓延させない)

今回の新型コロナウイルスは、2週間ほどの潜伏期間があるということ、また感染しても熱発や咳などが発生しない無症状である人も多いことが報告されています。一方、潜伏期間内であっても無症状であってもウイルスは放出されることから、ウイルスが事業所内に入り込んでも、その時点では誰も気づくことができず、一人が発症した時には、ウイルスは間違いなく事業所内に蔓延しているということです。

高齢者施設・高齢者住宅は、単なる集合住宅ではなく食事など集団生活の側面も大きいこと、一人の介護スタッフが複数人に介助すること、対象は身体機能の低下した高齢者であること等、クラスターが発生しやすく、かつその症状が重篤となるリスクが高いという特徴があります。それだけ抑え込むことが難しいということです。
そのため「誰だかわからないけれど、一人のスタッフ、一人の入所者がすでに感染している」ということを前提として、スタッフ配置や業務、生活を見直し、組み立てるということが必要になるのです。

一つは、「手洗い」「消毒」「マスク着用」「換気」など基本的な感染対策の徹底です。
述べたように、各スタッフの意識に任せるだけでは、対策にゆるみがでてきます。「手洗い・マスクの徹底・・」ではなく、「手洗いはいつ、どこで行うのかを明確にする」「勤務前にはきちんとマスクが着用できているか相互にチェックする」「休憩中、勤務後などマスクを外すときにウイルスが他のところにつかない方法を検討する」「入居者・スタッフが触れるところ(ドアノブ・リモコン・エレベーター等)は、時間を決めて毎日消毒液で拭く」「毎日の換気の場所・時間を決めて行う」など、日常業務として、組み入れることが必要です。


もう一つは、「ゾーンディフェンス」です。
例えば、ユニット型特養ホームであればユニット単位で、そうでない場合はフロア単位で、入所者・介護看護スタッフの交流を避けることができれば、Aユニット、1階フロアで感染が発生した場合、その中の高齢者・スタッフを重点的にクラスターが発生していないかチェックすることかできます。
もちろんこれは、建物設備設計や介護システムにも関わってきますし、スタッフの勤務体系を考えても「100%分離する」ということは不可能です。
ただ、今後、感染者がでれば、間違いなく、そのフロア・ユニットの隔離・分離が必要になってきます。「そんなこと無理」と初めからあきらめるのではなく、感染蔓延・クラスター発生のリスクを少しでも減らすため、「食堂の座る位置をフロア単位で分ける」「申し送りは少人数で行う」「入浴の順序をユニット単位にする」「スタッフがユニットを移動するときは必ず手洗い・消毒を行う」「スタッフの休憩時間を分散させる」といった、意識的に、できることから、できるだけ分離する必要があるのです。



以上、二つの感染予防策についてポイントを整理しました。
このように整理をすると、「決めるべき対策・検討すべきルールは何か」「介護現場ですべきことは何か」「管理職・事務方ですべきことは何か」「誰に何を依頼・指示するのか」が見えてくるでしょう。

報道されている通り、個々人の感染予防対策の基本は、「まず自分が罹らないように細心の注意を払うこと」、かつ「すでに罹っていると思って人にうつないよぅ細心の注意を払って生活すること」です。
同様に、事業所内の感染予防対策は、「まず、事業所内にウイルスを入れないように細心の注意を払うこと」、かつ「すでに感染者がいると想定して蔓延させないよう、最新の注意を払って業務を行うこと」なのです。


この感染予防策と合わせ、もう一つ重要なのが「感染発生を前提とした対策です。」

>>> 高齢者住宅 介護施設のコロナウイルス対策について Ⅱ (発生前提の対策) に続く





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