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自由選択型高齢者住宅への回帰の動きが加速する背景


囲い込み批判を避けるため、本来の高齢者住宅の形である「自由選択型」への回帰を探る動きが加速している。しかし、この方向転換には責任逃れではなく「要支援~軽度要介護向け住宅はどうあるべきか」という冷静な議論と十分な戦略が必要。行き詰り始めている低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームの再生の方向性を探る

【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る 01
(全 9回)


現在の高齢者住宅は、厚労省の管轄する「老人福祉法」に基づく有料老人ホームと、国交省の管轄する「高齢者住まい法」に基づくサービス付き高齢者向け住宅(以下 サ高住)の制度に分かれています。しかし、制度・基準の違いについては説明できても、「なぜ民間の高齢者住宅に二つの基準が存在するのか」については誰にも説明できません。縦割り行政の弊害で生まれた制度の錯綜・混乱は、入居者保護施策の崩壊や素人事業者の増加だけでなく、囲い込みや無届施設など劣悪な事業者の激増を招き、今や、高齢者住宅の存在意義を脅かすものになっています。

【WARMING】  超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか (参照)


ふたつの高齢者住宅 制度の目的・背景の違い

有料老人ホームは、老人福祉法に規定された昭和30年代からある古い制度です。
その目的は「入居者保護」。老人福祉施設ではないため、一律の規制にはなじまないものの、高齢者の生活の根幹となる住居であることから、最低基準と行政による指導・監査体制を整備することで、劣悪な業者を排除し、入居高齢者の生活の安定、権利の保護を図るというのが法制度の趣旨です。各都道府県で設置・運営に関する基準・指針(有料老人ホーム設置運営指導指針)が示されており、これに基づいて事業計画を策定し、都道府県との協議を重ね、事前に届け出を行わなければなりません。事前協議・事前届け出ですから、需要を超えて有料老人ホームが増えすぎないように自治体でその数をコントロールすることも可能です。指導監査や契約、重要事項説明書の作成、情報公開の徹底など、運営上の注意点についても細かく規定されています。

対して、「サービス付き高齢者向け住宅」は、制度の背景が違います。
一般の賃貸マンション、賃貸アパートは、今でも入居後の認知症や孤独死などのトラブルを恐れ、「高齢者お断り」というところが大半です。どれほど元気でも80歳を超えるとほとんど不可能、70代でも難しい、60代でも断られる物件は少なくないというのが現実です。特に、高齢者が生活しやすいスーパーや駅に近い生活利便性の高いエリアは若年層にも人気があるため、その傾向が強くなります。
そこで、高齢者の住宅探しを支援するために、国交省は2001年に「高齢者でも断りませんよ・拒みませんよ・・」という賃貸マンションを都道府県単位で登録させました。これを高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)といい、その中で高齢者のみを対象とした賃貸アパート・マンションを高齢者専用賃貸住宅(高専賃)と言います。

「それはいい制度だよね」「困っている家族や高齢者は助かるね」と誰もが納得するでしょう。
一般のアパートやマンションと高齢者のマッチングを支援する制度であり、従来の有料老人ホームと役割が輻輳するものでもありません。
しかし、既存の賃貸マンションの登録制度だけでは数が増えなかったため、国交省はこれをサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)と改称し、「健全な高齢者住宅を整備する」と建設補助金を出して開設を促し、かつ、参入障壁を下げるため「有料老人ホームとしての事前協議や事前届け出は不要」としたのです。その結果、「サ高住は面倒な事前協議や届け出が必要なくて簡単」「指導や監査もなく、逆に数千万円の補助金がもらえる」と、高齢者住宅に参入したい素人事業者やデベロッパーが大挙して飛びつき、「建てよ、増やせよ」で無軌道に増えていったのです。

現在のサ高住は、低価格で要介護高齢者を集め、系列の介護・医療サービスの押し売りによって利益を出す「囲い込み」というビジネスモデルが増えています。そのため「普通の賃貸マンションを探したい」という高齢者のニーズには対応していません。60代70代の自立度の高い元気な高齢者は一般の賃貸マンションからは断られ、サ高住からも弾かれるという本末転倒の状態になっています。そればかりか、素人事業者の大量参入を招き「入居者保護施策崩壊による人権侵害・虐待の増加」「介護医療保険を対象とした貧困ビジネスの拡大」という社会保障制度の根幹に関わる問題を引き起こしているのです。

「自由選択型」 高齢者住宅への回帰が加速する

サ高住の経営者の中には、今も「安いから入居者は喜んでいる」と考える人は少なくありません。
しかし、その経営の土台となる社会保障財政や人材確保はより厳しくなっていきます。現行制度のまま、高齢者の介護・医療需要に比例して、介護費・医療費を拡大し続けることは不可能です。有料老人ホーム、サ高住、無届施設に関わらず、「低価格で入居者を集め、値引き分を社会保障費に付け替える」という公共性・社会性に反する貧困ビジネスが、長期安定的に経営できるはずがありません。

【TOPIX】 拡大する囲い込み不正 ~介護医療の貧困ビジネス詐欺~ (参照)

骨折や死亡などの重大事故も増加しています。「サ高住で起こる介護事故は事業者の責任ではない」と考える人は多いのですが、その責任は雲散霧消するわけではなく、働いているケアマネジャーや介護スタッフ(訪問介護)個人に直接かかってくるというだけです。実際、入居者の死亡事故で、ケアマネジャーやヘルパー個人が業務上過失致死に問われる事例は増えています。事業者に命じられて囲い込みをさせられ、「事故が起これば介護労働者の個人責任」「不正請求が見つかればケアマネ・ヘルパーが弁済」という、ブラック企業の極みのような劣悪な労働環境で働く人はいなくなるでしょう。

【TOPIX】 加害者・犯罪者になるケアマネジャー・介護スタッフ  (参照)
【RISK】 「囲い込み高齢者住宅」で起こる介護事故の法的責任と怖さ (参照)

囲い込みへの批判が強まるにつれ、一部の高齢者住宅事業者から本来の形である「自由選択型」にシフトしようという声が高まっています。
高齢者住宅事業者は、純粋な住宅サービスであり、加齢や疾病によって重度要介護高齢者、認知症高齢者になった場合には、それぞれの入居者・家族が必要なサービスを自由に選択、個別に契約し、「どのような生活ができるか」「どの程度の費用がかかるのか」はそれぞれで判断してもらおうというものです。
「囲い込み型」であっても、形式上は自由選択・個別契約が前提ですから、「何を今さら・・・」という声が聞こえてくるのは当然です。
ただ、この変化の背景には、批判の高まりによる規制強化の動きだけでなく、社会保障費の削減や介護人材不足、介護事故リスクに直面する中で、これまでのように高齢者住宅事業者が「介護が必要になっても安心・快適」を安易に請け負うことが難しくなっていることも関係しています。十分な説明と自己選択、選択責任を明確にすることによって、高齢者住宅事業者の「要介護対応」への義務や責任、付随するリスクを軽減することが、高齢者住宅事業者の主たる目的だといって良いでしょう。


「高齢者住宅の生活支援サービスは、入居者の自由選択であるべきだ」という意見はその通りです。
それはサ高住だけでなく、住宅型有料老人ホーム、介護付有料老人ホームでも同じです。
高齢者住宅が超高齢社会の社会インフラとして正常に機能するには、「契約上は自由選択だが、実態は強制利用」「高齢者住宅・ケアマネ・介護サービス事業者が一体化し、事業者都合でサービスの押し売り提供」「介護サービスに関係しない高齢者住宅が安心・快適を約束」といった、建前と実態が全く異なるという不適切な運用からは一刻も早く脱却しなければなりません。それは不必要な介護保険や医療保険などの社会保障費の削減にもつながります。

しかし、この方向性の転換には、冷静な議論と十分な戦略が必要です。
それは「自由選択型こそが本来あるべき高齢者住宅の姿」という理念と、「事業・ビジネスモデルとして成立するのか」は全く別の話だからです。
答えを先に言えば、そう簡単な話ではありません。不正ではないというだけで商品としては欠陥品です。
その一方で、介護保険制度や介護保険施設が重度要介護高齢者への傾斜を強める中で、要支援~軽度要介護高齢者を対象とした高齢者住宅は、独居・夫婦世帯の後後期高齢者が激増する超高齢社会において不可欠な社会インフラであることも事実です。それは、すでに行き詰り始めている低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームの再生の方向性を探るものでもあります。ここでは、高齢者住宅のビジネスモデルの土台となる「要介護対応力」の視点から「自由選択型 高齢者住宅」の問題点と、これまでまったく検討されてこなかった、その先にある「要支援~軽度要介護高齢者向け住宅」のビジネスモデルについて考えます。




【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る ?連載更新中

  ♯01  自由選択型 高齢者住宅への回帰の動きが加速する背景
  ♯02  「高齢者住宅は要介護対応に関与しない」というビジネスモデルは可能か
  ♯03  高齢者住宅の「要介護対応力=可変性・汎用性」とは何か
  ♯04  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅰ ~建物・設備~
  ♯05  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅱ ~介護システム~
  ♯06   要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅲ ~リスク・トラブル~
  ♯07  「早めの住み替えニーズ」のサ高住でこれから起こること
  ♯08  自由選択型 高齢者住宅は不安定な「積み木の家」になる
  ♯09  これからの高齢者住宅のビジネスモデル設計 3つの指針




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  5. その収益性は本物なのか Ⅱ ~囲い込み不正による収益~
  6. これからの高齢者住宅のビジネスモデル設計 視点の転換
  7. 要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅰ ~建物・設備~
  8. 地域包括ケアシステムに必要な「4つ」の構成要素

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