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特養ホームの空床の謎とその課題 (下) ~地域包括ケアの崩壊~

現在の特養ホーム空床の原因は「介護スタッフ不足」「資産階層の限定」。それは、要介護高齢者の住まいの崩壊、地域包括ケアシステムの崩壊につながっている。介護財源、介護人材ともに絶対的に不足する中、公平・公正、効率的・効果的な「要介護高齢者の住まい」をどのように整備していくのか

特養ホーム空床の謎とその未来 (上) 🔗 >>> より続く



12月16日の日本経済新聞の一面トップで報じられた、「足りない特養、実際には空き、首都圏で6000人分」🔗 という記事について、その理由は「介護スタッフ不足で、高齢者を受け入れできない」「要介護度だけでなく、富裕層や年金額の多い人しか、申し込むことができない」の、二つあると述べました。

記事は「埼玉西部では空床率7.6%」「東京の目黒、世田谷、渋谷では8%」といったデータとして挙げていますが、この「全体の平均値としての空床率」には、あまり意味がありません。
特養ホームは、85歳以上で重度要介護高齢者が多いため、大半は死亡退所です。常時満床で、待機者が多くても、亡くなられたあとに入所者選定、ケアマネジメント、最終面談、入所日の調整などを行いますから、一般的な空床率は1~2%程度、病院に入院中の高齢者を含めると3~5%になります。

この特養ホームの空床は、「世田谷区で〇%」という特養ホーム全体の問題ではなく、この5年以内に開設された一部のユニット型特養ホームを中心に、空床率が「20%~50%」と異常に高くなっているということです。ユニットケアの特性上、ユニット単位、フロアー単位で空床が発生している特養ホームを再生させることは難しく、他の力のある社会福祉法人への事業譲渡など、抜本的な対策が行われなければ、倒産・事業閉鎖となる特養ホームが増えるでしょう。

しかし、これは「一部の地域、個別の特養ホームの経営問題」だけではなく、ままた「特養ホーム業界」だけの問題でもありません。
要介護高齢者の住まいや、地域包括ケアが崩壊するという、高齢社会に影を落とす大問題なのです。

特養ホームの待機者が減っている理由

最近、「特養ホームの待機者が減った」というニュースやデータをよく耳にしますが、それは、
 「対象を要介護3以上に限定した」「特養ホームがたくさんできた」
  ⇒「特養ホームの待機者が減った」 ⇒「一部の特養ホームには空床もできている」

という単純な構図ではありません。
データ上、待機者が減った、待期期間が短くなったように見える理由は二つあります。

① 待機者は「旧型特養ホーム」に多い
一つは、種類の違う「旧型特養ホーム」と「ユニット型特養ホーム」を合わせた数字のトリックです。
「特養ホームの待機者は全国で〇〇万人」と一律に数値化されていますが、現在の特養ホームは、従来の複数人部屋の旧型特養ホームと、個室のユニット型特養ホームの二つに分かれます。
述べたように、ユニット型特養ホームは「要介護3以上」というだけでなく、「一定以上の収入・資産」がなければ、実質的に申し込みはできません。
一方の旧型特養ホームの場合、生活保護などの低所得者の自己負担は0円で、最高でも6万円程度と低価格に抑えられていますから、低所得者を中心に特養ホームの申し込みはここに集中しています。

厚労省は「特養ホームの待期期間は短くなった・・」と公表していますが、旧型特養ホームとユニット型特養ホームの待期期間は全く違います。『自治体ごとに「旧型特養ホーム」と「ユニット型特養ホーム」の待機者数や待機年数の違いを分析すべき・・・』と、ずいぶん前から何度も言っていますが、厚労省
も自治体も「待機者が多い」「待機者が減った」というだけで、それが行われた形跡はありません。

② 生活保護可の低価格の高齢者住宅の増加
もう一つの理由は、低価格の高齢者住宅の増加です。
述べたように、「ユニット型特養ホーム」の待機者数はそう多くはありません。多くの地域で数か月以内に入所できるようになっており、待期期間のない施設もあります。
問題は、旧型特養ホームに入れない低所得・低資産の重度要介護高齢者、特に、自宅で生活できない緊急性の高い高齢者がどこ行っているか・・・です。
それは、無届施設と呼ばれる違法施設か、急増したサービス付き高齢者向け住宅です。
無届施設の場合、月額費用は10万円未満、サ高住でも10数万円程度とユニット型特養ホームいうところがふえており、生活保護受給者も受け入れ可というところも少なくありません。

これには、申込から入所までの期間も関係しています。
特養ホームの場合、各施設に事前の申し込みが必要ですし、入所面談やケアマネジャーのアセスメント、ケアプランの作成、入所日の調整なども行われますから、空床があっても、通常、申込から入所までに一ヶ月程度はかかります。
これは手続きに問題があるのではなく、「要介護状態の把握」「受け入れ環境の整備」「転倒などの事故リスクへの対応検討」などを適切に行うためには、介護スタッフ、看護スタッフ、栄養スタッフ、相談スタッフ、ケアマネジャーの情報共有の他、家族への十分な説明も必要だからです。

これに対して、一方のサ高住や無届施設は、「前日に申し込めば、翌日入居」、中には「午前中に申し込めば、午後から入居できる」というところもあります。
「田舎で一人暮らしをしていた母親が脳梗塞で緊急入院、一命はとりとめほっとしたものの右半身に重い麻痺が残り自宅で生活することはできない。病院から早期の退院を急かされるが、年金で入れるような低価格の特養ホームは一杯。途方に暮れていたところ、病院から紹介されたサ高住なら退院日午後から入居できると聞いて、ひと安心・・・」  
となるのです。

「不安のある家族のために迅速に対応・・」と言えば聞こえは良いのですが、「要介護状態を把握しないまま入居」というのは、「どのような状態か、どのように介護するのか決めないまま入居する」ということです。入居後に事故やトラブルが増えるだけでなく、認知症や医療行為などで介護看護スタッフにも過重なストレスがかかるため、非常に危険な行為です。しかし、サ高住も入居者が集まっていないことから、このように「すぐに入居」「誰でも、何でも入居」しというところが、とても多いのです。

つまり、特養ホーム待機者が減っている原因は「重度要介護高齢者に限定されたから」ではなく、
① 特養ホームの待機者は、旧型特養ホームに集中している。
② ユニット型特養ホームは、(お金があれば) 待期期間も短く、スムーズに入所できる
③ お金のない人、緊急性の高い人は、低価格の無届施設やサ高住に入っている

といった背景、特徴があることが、わかるでしょう。

特養ホームの混乱が、劣悪な高齢者住宅を生みだす

「低価格の高齢者住宅には入れるなら、それでもいいじゃないか」と考える人がいるかもしれません。
しかし、ここで一つの疑問がでてきます。
「無届施設やサ高住は、何故、そんなに安いのか・・・」です。
経営努力によって、良質のサービスを低価格で提供できるのであれば問題はありません。

しかし、特別に手厚い介護看護体制、広く豪華な部屋を望まなければ、「要介護3の濱田さん」に必要となる生活環境、介護サービスは、特養ホームだろうと介護付だろうと、サ高住だろうと同じです。
述べたように、高齢者住宅や特養ホームは、建物設備費用や介護の人件費などの固定費比率の高い事業です。そのためユニット型特養ホームと同じ基準の建物、設備、介護システムの介護付有料老人ホームを作ると、毎月の利用料は30万円程度になります。特養ホームの月額費用がその半額程度と格段に安いのは、数億円の建設補助金や、高い介護報酬、福祉医療機構による低金利など、莫大な社会保障費が投入されており、かつ社会福祉法人は非課税だからです。
しかし、サ高住と有料老人ホームは、同じ営利目的の民間の高齢者住宅です。
篤志家が行っている慈善事業でない限り、それほど安く提供できるはずがありません。

では、なぜサ高住は、それほど安いのか・・・。その理由は簡単です。
その不足分は、介護報酬や医療報酬の不適切な利用によって賄われているからです。
この問題については、【w011】 なぜ「サ高住」は「介護付」よりも格段に安いのか🔗 で述べていますので繰り返しは避けますが、簡単に言えば、入居者の月額費用を10万円安くするために、無駄な介護保険や医療保険が、毎月50万円、100万円と使われているからです。全体の介護費、医療費で見ると、それはユニット型特養ホームの比ではありません。

これを「囲い込み型高齢者住宅」と言い、一部の低価格の住宅型有料老人ホームでも同じです。低価格で要介護高齢者を集め、系列の訪問介護や関連する診療所などから医療や介護を押し売り的に利用させて、利益を得るというビジネスモデルです。

もちろん、これは制度矛盾をついた不適切な行為というだけでなく、明らかな脱法行為です。
賃貸マンションの一階に、そのオーナーが経営するコンビニエンスストアがあれば便利ですが、「そこでしか買い物できない」「毎月、給与全額を無理やり買い物させられる」となれば、話は変わってくるでしょう。高齢者住宅の場合、本人、家族が同意していたとしても、介護保険・医療保険の原資は公的な社会保障費です。生活保護の人を低価格のアパートに住まわせて保護費を搾取する「貧困ビジネス」が社会問題になっていますが、それと同じ構図です。ただし、金額はけた違いで高齢者住宅の場合、それは一人当たり年間数百万円~一千万円に上ります。無届施設の中には、「行き場のない入居者、家族のために」という詭弁を弄する人もいますが、その実態は、利益率の高い「スーパー貧困ビジネス」なのです。

問題は、制度上の不正、社会保障費の搾取だけではありません。
無届施設は、そもそも違法施設ですから、生活環境は劣悪です。誰もチェックしないため、暴言、暴力などの身体虐待だけでなく、年金や生活保護費などの財産を奪われる(都合の良いように勝手に使われる)という経済的虐待も横行しています。

それはサ高住でも同じです。
そもそも、サ高住は自立高齢者向けの住宅施策ですから、重度要介護高齢者に対応できる建物設備、介護システムにはなっていません。また、有料老人ホームのように事前の監査や届け出が必要なく、かつ建設補助があるため、その大半は、異業種からの参入や遊休土地の資産運用目的の素人事業者です。骨折や死亡事故が多発しており、重度要介護状態になれば「お腹の調子が悪く便がでてもほったらかし」「褥瘡ができても知らんふり」などで、瀕死の状態で救急搬送されるというケースもあります。

しかし、それが何故社会問題にならないのか、家族が声を上げないのかと言えば、低所得・低資産の高齢者は特養ホームに入れず、他に行き場所がないため、どのような劣悪な環境でも耐えざるを得ないからです。また、自治体も「倒産されると行き場のない高齢者が増えて困る・・」と、適切な指導や監査を行わないため、野放し状態になっているのです。

特養ホームの混乱が、民間の高齢者住宅の育成を阻害する

このユニット型特養ホームの役割の混乱は、サ高住などの囲い込み型高齢者住宅だけでなく、介護付有料老人ホームの商品性、経営にも影響を与えています。

述べたように、ユニット型特養ホームと同じ基準の建物、設備、介護システムの介護付有料老人ホームを作ると、その月額費用は30万円程度になります。私は「建物設備×介護システム」の一体検討による低価格の要介護高齢者住宅のあり方を模索していますが、それでも介護スタッフの安全な労働環境を基にした介護スタッフ数をシミュレーションすると、25万円を下回ることはできません。

しかし、ユニット型特養ホームは、同程度のサービスがその半額程度の費用で入所できますから、重度要介護の富裕層は、民間の介護付ではなくユニット型特養ホームに入ります。「同じサービスで13万円と30万円、どっちを選ぶ」と聞かれて、後者を選ぶ人はないでしょう。
それは、本来、介護付有料老人ホームのターゲットであるはずの富裕層が、ユニット型特養ホームに奪われているということです。

問題は、更に続きます。
ユニット型特養ホームに対抗する形で、大手事業者を中心に20万円前後の低価格の介護付有料老人ホームが急増しましたが、そこで働く介護スタッフ数はユニット型特養ホームの半分程度でしかありません。無理な低価格化は、介護スタッフ数を減らすことでしか実現しないからです。

現在、低価格の介護付有料老人ホームには、特養ホームに入れない「要介護2」までの軽度要介護高齢者が多いのですが、加齢によって重度要介護高齢者が増えてくると、介護スタッフの過重労働となり事故・トラブルが増加します。そのため、今でも、低価格の介護付有料老人ホームの離職率は、特養ホームや老健施設と比較すると突出して高いのです。
今後、ますます加齢によって全体の要介護度割合は重度化していきますから、この数年の内に、そのほとんどは介護スタッフによって経営が立ち行かなくなるでしょう。

埼玉、神奈川などの近郊の三県は、「今後も需要の高まりがみられる」として20年度までの3年で1万1千床、東京都は25年度までに1万5千床の新設を見込んでいます。
しかし、このような「富裕層しか入れないユニット型特養ホームを、莫大な社会保障費を投入して作り続ける」といった手法は「空床を増やすだけ」でなく、民間の重度要介護高齢者住宅の健全な育成を妨げ、「低資産・低収入層を対象にして、介護報酬を搾取するような無届施設・サ高住」「重度要介護高齢者の増加に対応できない低価格の介護付有料老人ホーム」という、社会のニーズに逆行する欠陥商品を生みだしているのです。

要介護高齢者の住まいの崩壊は、地域包括ケアの崩壊

現在、高齢者住宅の経営悪化、倒産だけでなく、介護業界では「財政悪化」「介護人材不足」を中心に、様々な課題が噴出しています。 現在の高齢者の社会保障政策は、「85歳以上、1000万人時代、35年超」に対応できるものとなっておらず、このままでは高齢者の介護、医療システムは崩壊します。

介護問題の討論番組も増えてきましたが、その時に、切り札のように使われるキーワードが「地域包括ケアシステム」です。 それは、これまで国が全国一律の老人福祉、介護政策を行ってきたのを改め、それぞれ自治体で地域ニーズに合わせて、きめ細かくマネジメントしていこうというものです。
都心部と地方都市、山間部、農村部など、それぞれの地域でニーズは違いますから、自治体のマネジメント力を強化して、独自の高齢者介護・医療システムを構築しようという方向性は、正しいものです。

しかし、勘違いしてはいけないのは、地域包括ケアは、「魔法の呪文」でも「打ち出の小づち」でもないということです。

(地域包括ケアは「打ち出の小づち」「魔法の呪文」ではない 参照)

今後、財源や権限の一部は国から、都道府県や市町村などへ移譲されることになるでしょうが、それでも財源も人材も絶対的に不足することは間違いありません。それぞれの自治体は知恵を絞って、限りある介護財源、介護人材を、いかに公平・公正、かつ効率的・効果的に運用できるか、どのように要介護高齢者の生活や生命を守るか、真剣に知恵を絞って考えなければなりません。
しかし、現状を見ると、国や自治体は、公平性や効率性とは、まったく正反対の政策を行ってきたことがわかるでしょう。

「低価格の高齢者住宅が増えた」と言いますが、それは経営努力によるものではありません。
劣悪な無届施設や囲い込み型高齢者住宅が、そのまま経営できるわけではなく、制度改定、指導監査体制の強化が行われると、途端にビジネスモデルは崩壊し、倒産することになります。 同様に、「介護できない介護付き」は、重度要介護高齢者が増えると、過重労働や事故やトラブルの増加、介護スタッフの離職で早晩、事業継続はできなくなります。

高齢者住宅の倒産は、単なる介護サービス事業者の倒産ではなく、生活の場を失うということです。
特に、要介護高齢者の場合、サービスが止まれば命に関わる問題に発展しますから、地域の介護福祉ネットワークは大混乱します。だからといって、介護財政が極度に悪化する中、「いつまでも劣悪な囲い込みを続ける不正事業者を延命させる」ということもできませんし、「低価格の介護付の商品性を変える」ということもできません。
つまり、空床問題に揺れる「ユニット型特養ホーム」だけでなく、サ高住などの「囲い込み型高齢者住宅」も「低価格の介護付有料老人ホーム」も総倒れになるのです。
厳しいようですが、これは「悲観的な観測」ではなく、この数年内に確実にそうなります。

(参照 【w020】 サービス付き高齢者向け住宅が直面する三重苦)
(参照 【w021】 低価格の介護付が直面する介護スタッフ不足)

地域包括ケアシステムに残されたものは知恵しかない

この問題解決の方向性は、ふたつあります。

① 高齢者住宅ではなく、要介護高齢者住宅の整備
一つは、民間の重度要介護高齢者住宅を整備することです。
これまでも「特養ホームなどの施設ではなく、高齢者住宅の整備を推進すべき・・」という声は多いのですが、そう単純な話ではありません。
高齢者住宅といっても、自立高齢者を対象とした住宅と、要介護高齢者を対象とした住宅は、その商品性(建物設備・介護システム)は根本的に違います。それは同じ学校といっても小学校と大学が全く違うのと同じです。「元気な高齢者が、重度要介護状態になっても安心・快適」と言っているのは、「小学生から大学生まで、同じカリキュラム、同じ机で勉強する」と言っているのと同じです。

日本の高齢者介護、高齢者医療問題の根幹は85歳以上の後後期高齢者の増加です。その2/3は独居高齢者、高齢夫婦世帯ですから、自宅で生活できない重度要介護高齢者は激増します。
本来、特別養護老人ホームの役割は、「周辺症状のある認知症「家族の虐待など社会的弱者救済」など、民間の高齢者住宅では対応が難しい認知症や福祉的支援が必要な要介護高齢者の住まいです。
そのため、特養ホームは本来の役割に限定し、要介護高齢者の住宅は、福祉施策ではなく、「住宅対策+介護対策」で行う必要があります。

「民間の高齢者住宅の増加は、財政悪化の要因だ」という人がいますが、それは、述べてきたような健全なビジネスモデルではないからです。
本来、重度要介護高齢者住宅が増加すると、バラバラに住んでいる自宅に一軒一軒訪問するよりも、一人の介護スタッフが効率的・効果的にサービスを提供することができますから、少ない介護スタッフ数でたくさんのサービス提供が可能です。それは、重度要介護高齢者の生活の向上だけでなく、財政の抑制にもつながります。
「サ高住・有料老人ホーム」「介護付・住宅型」といった説明不能な縦割り行政による制度矛盾を解消し、重度要介護状態になっても安全に生活できる要介護高齢者住宅の整備に注力しなければなりません。

② 低所得者対策の抜本的な見直し
もう一つは、低所得者対策の抜本的な見直しです。
本来、低所得者対策は、個々人の入居者の資産・収入に応じて個別に行うべきものです。
しかし、それを「本人負担の低価格化」だけを目的に、老人福祉施策である特養ホームや囲い込み型高齢者住宅など、目的外の社会保障費の乱費で賄おうとしたために、本人負担は安いけれど、その数倍、十数倍の社会保障費がかかるという事態になっています。

これからは、「負担できる人には、サービスに応じて負担してもらう」というのが前提です。
またこれは、不適切な運営を行う劣悪な事業者の排除、指導監査体制の強化と一体的に行うべきものでもあります。 きちんと監査を行い、適切な運営を行っている高齢者住宅を限定し、その入居者に対しては低所得者対策を行うという方向に向かうべきです。


ここまで、特養ホームの空床問題とその未来について、二回に分けて述べてきました。
それは「特養ホームは充足しているのか、不足しているのか」という単純な話ではなく、「特養ホーム業界」だけの問題でもないということがわかるでしょう。

このコラムの中では触れませんでしたが、この問題はユニット特養ホームだけでなく、そこに併設されているショートステイの整備やその活用にも悪影響を与えています。
ショートステイは、自宅で介護する家族の「介護疲れ予防」のための大切なサービスです。
しかし「ユニット型特養ホーム」は何とか大規模な空床を生まずに運営していても、介護スタッフ不足から「併設のショートステイ受け入れは休止、制限している」という事業者は少なくありません。
また、同様に「ユニット型の併設ショートステイ」は、高額なため富裕層しか利用できないため、「ユニット型併設ショートはガラガラ」「旧型特養ホーム併設ショートは一杯で利用できない」という、ここでも「資産階層の限定による空床」が生まれています。
その結果、自宅介護も崩壊しているのです。

「福祉は住宅に始まり、住宅に終わる」と言われているように、要介護高齢者の住まいの確保は、これからの高齢者介護・医療対策の根幹であり、地域包括ケアシステムの中核となるものです。
日本が直面する、「85歳以上後期高齢者、1000万人時代」は、2035年から30年以上続く過酷なものです。その間にも労働人口はどんどん減少していきます。財源も人材も、時間さえもありません。
私たちに残されたものは、「知恵」しかないのです。



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⇒ 児童虐待死亡事件に見る社会福祉の崩壊 🔗
⇒ 特養ホームの空床の謎とその課題 (上) ~高級福祉施設~ 🔗
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