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介護施設・高齢者住宅のコロナウイルス対策について Ⅱ


コロナウイルスの感染対策は「感染予防対策」だけではない。感染発生を想定した行動・対策が必要になる。事前に家族や入居者、スタッフに何を伝えておくのか、感染が発生した時に迷わず、迅速に行動するために今すべきことは何か。また、担当行政・保健所との連携・調整をどのように行うのか。


>>>高齢者住宅 介護施設のコロナウイルス対策について Ⅰ (鉄則・予防策) から続く


現在の状況は、「平時の感染予防」とは全く違います。平時の感染予防を強化するだけで、対応できるものでもありません。
行うべき対策は、
 ① 感染ルートの遮断・事業所内感染予防 
 ② 感染発生を想定した事前の入居者・家族への伝達・広報 
 ③ 事業所内で感染が発生時の対応策の検討 

の3つに分かれます。
前回は、①について述べましたので、ここからは②③について解説します。

感染発生を想定した事前の入居者・家族への広報 

②の感染発生を想定した事前の連絡・広報活動です。
一つは、入居者・入所者に対する連絡・伝達です。
ケアハウスやサ高住など、自立度の高い高齢者には、直接、「不要不急の外出の抑制」について個別に依頼を行います。普段の買い物や通院など、個別に必要な対応がでてきますから、「スタッフが代行できることなのか」「本人が行く必要があるのか」「延期できないのか」など判断をして、外出する場合は事前に届け出制とし、帰宅時には事務所に連絡、手洗いの徹底などを行います。また、「体調が悪い」「熱っぽい」「咳がでる」などの症状があった場合、必ずすぐにスタッフに連絡してもらうこと、部屋から極力でないようにしてもらうことなど、必要な対策を伝えます。

もう一つ大切なのが、家族に対する連絡・伝達です。
「コロナウイルスの蔓延により、ご家族の面会は・・・」といった文言が張り出されているのを目にします。しかし、それだけでは十分ではありません。「面会時の注意点」「不要不急の面会禁止」という結論だけでなく、「現在、事業所内でどのような対策を行っているのか」「事業所が今、困っていること・大変なこと」、そして「スタッフが一丸となって頑張っていること」を、手紙・メールなどで丁寧に伝えることです。

合わせて、以下のような点についても、伝達します。
① レクレーションや外出時の送迎など、一部のサービスを休止する(その可能性がある)こと。
② 体調不良の方は居室内で生活してもらう等、一定の行動制限を行う(その可能性がある)こと。
③ 熱・咳など感染の可能性がある入所者の通院は家族に依頼する(その可能性がある)こと。
④ 事業所内に感染者が発生した場合の事業者の対応方針。

 
現在、多くの介護施設・高齢者住宅で「スタッフ不足」に悩まされています。加えて感染症対策には手間・時間がかかること、体調不良のスタッフは休みを取らせることなど、様々な事情が重なり、医療現場だけでなく、多くの事業所で労働環境が崩壊の危機に近づいています。家族も親を預けている老人ホーム・高齢者住宅で、「何が起こっているのか」「どのような対策を行っているのか」「何に困っているのか」を知りたいという人は多いでしょう。
それぞれの地域の感染状況にもよりますが、「平時の対応ではない」ということを入所者や家族に十分に説明し、スタッフが疲弊しきってしまう前に、必要な協力を仰ぐ(またその準備をする)ということも、重要な対策の一つです。

感染が発生した時の対応を事前に決めておく 

もう一つ重要な対策は、スタッフ・入居者(入所者)への感染が確認されたときに、何をすべきかを事前に想定・整理しておくことです。
ポイントは3つあります。

① 家族・スタッフ・行政への連絡

まずは、感染が発生したことを、内外に迅速に伝える必要があります。
「入居者・入所者」「家族」「スタッフ」「行政(担当課・保健所)」など、連絡先と連絡方法を決めておきます。周辺の施設・事業所に対しては行政(担当課)から連絡をしてもらいます。
感染症の発生は、その罹患者だけの問題ではなく、業務内容、勤務体制などすべてが一変します。
伝えるのは「発生しました」だけでなく、「濃厚接触者の範囲」「初期対応の概要」です。
例えば、ユニット型特養ホームの二階のAニットで、一人の入所者が感染した場合、濃厚接触者は「そのユニット内の入居者」「そのユニットで働く介護スタッフ」ということになります。二階にはA・B二つのユニットがあり、同じスタッフが介護している場合、Bユニットも対象となるかもしれません。まずは、行政や保健所に連絡して、どこまでが濃厚接触者になるのかを確認し、経過観察・PCR検査などを行うことになります。
Aユニット・Bユニットの家族には直接「電話連絡」、それ以外のユニット・フロアの家族ついては書面で連絡します。


家族からは色々と質問を受けることになりますが、この段階でまだ先のことまではわかりません。「たら・れば」と予断をもって答えることはせず、また書面連絡でも「家族からの問い合わせもしばらく控えてください」「後日、追って連絡します」ということを添えます。

② 業務・サービスへの対応

感染者が出たからと言って、高齢者施設・住宅は「しばらく閉鎖」というわけにはいかないため、感染拡大を予防しながら、生活を維持するための基本的な介護・支援を行わなければなりません。
ただ、通常の業務・サービスはとてもできません。
対応を想定するポイントは「期間」「業務内容」「スタッフ配置」を意識することです。

まず、想定すべき期間は「潜伏期間の二週間」です。その間に、最初の罹患者以外に感染者が出なければ、少しずつ通常の業務体制に戻していきますし、第二第三の感染者がでれば、より厳しい対応を続けていかざるを得ないということになります。

二つ目はサービス内容の見直しです。
発熱・咳などの症状が発生し「PCR検査」で陽性と確認された人は入院となります。ただ、現在のところ症状がなければ検査が行われませんから、感染拡大・クラスター発生を抑制するには「ゾーンディフェンス」しかありません。個室の場合は、その部屋から出ないで生活してもらうこと、「感染リスクのあるユニット」で業務を行う介護スタッフは、完全防備の上で他のユニットの行き来を行わないことなど、対応方針を決めていきます。ユニット型特養ホームなどでトイレが共用の場合は、各居室にポータブルトイレを設置することになりますし、食事も「居室内で採ってもらう」「テーブルを離す」「食事時間を分ける」などの方策を検討します。入浴に関しては、「週二回の入浴を週一回、あとは居室内での清拭にする」といった対応をとります。

もう一つは、スタッフ配置です。
「濃厚接触者のスタッフは自宅待機」というのは簡単ですが、ただでさえ、介護スタッフが慢性化していることに加え、感染予防強化のために通常業務に加えて手間も時間もかかりますから、そう簡単な話ではありません。その余力はそれぞれの事業者の規模や勤務体系によって変わってくるため、「濃厚接触者はすぐに全員休ませる」(本来はそうすべきですが・・・)となると、すべての業務が止まるというところもあるでしょう。これは「サービス内容の見直し」と一体的なものですから、限られた人数で「最低限の生活・生命維持のためにできることだけをやる」ということになります。
また、「感染リスクのあるユニット」での業務を行う場合、できるだけ対応するスタッフを限定して行うことになります。
そのため、「健康チェック」だけでなく、「リスク手当」などその労働に報いるだけの仕組みを確保しておく必要があります。

③ 発生から収束までの記録

最後の一つは、記録です。
ウイルスの発生が発生してから、収束するまでの一連の流れを、後日検証できるように日々、時系列で記録をしておくということです。
この記録は、リスクマネジメント上とても重要です。


以上、3つのポイントを挙げました。
これらは「感染が発生すればその時に考える」のではなく、「感染が発生した場合を想定し、何をしなければならないのかを想定し、事前に決めておく」ということです。できればマニュアル化しておくべきものです。「わからないことが多いから想定するのは無理」という人がいますが、感染が発生すれば、冷静にゆっくり考える時間はありません。問い合わせが殺到、あれもこれも・・となり、その間に感染リスクはどんどん拡大していきます。
「万一、感染が発生した場合にどうするか…」を事業者が主体となって考え、それを事前にスタッフに伝えることができれば、少なくとも「この先、どうなるんだろう・・」という妄想的不安をなくすことができますし、対策・収束に向けた近隣事業者や行政との協議ができます。いかに普段からの感染予防対策・ゾーンディフェンスが重要になるのかもイメージできるでしょう。
言われているように、100%削減はできないからこそ、「冷静に対峙する」と言うことが必要なのです。


行政(保健所・担当課)に感染予防対策について積極的に働きかけを行う

この感染予防策は、基本的に事業所内部・法人内部の対策です。
ただ対策を推進していくためには、保健所・担当課など行政との連絡・調整、働きかけが必要です。
ポイントを3つ挙げておきます。

一つは、地域の感染状況、感染予防策に関する最新情報の収集・蓄積です。
述べたように、このコロナウイルスに関しては、わからないことが多すぎるというのが現実です。そのウイルスの特性や感染予防策について、厚労省や介護保険等の担当課、保健所等を通じて、最新のニュース・データ・知見を集める必要があります。ホームページをチェックするなど、感度を高くしておきましょう。また「緊急事態宣言」が出された都道府県以外であっても、担当課に対して「事業所内で感染が発生した場合、どうするのか」「行政はどのような対応を考えているのか」「各事業者への支援策」等々…について確認をしておく必要があります。
例えば、「軽症者は「ホテルなどで隔離する」とされていますが、「要介護高齢者はどうするのか」ということが明確になっていません。わからないことも多く、混乱しているのは行政も同じですから、「どうなっているんだ!!」とこぶしを上げるのではなく、「現場からの声」として届けることです。

二つ目は、介護保険課・老人福祉課などに対して、各事業者が行う予定のウイルス対策を報告・連絡しておくことです。
事業所内でクラスターが発生し、多数の入居者が亡くなった場合、「事業者の感染対策は適切だったのか…」と苦情を受けたり、最悪、「安全配慮義務を怠った」として裁判になる可能性もゼロだとは言えません。その時に、「できる限りの対策を行っていた」「適切な対策を行っていた」ということを証明するためには、その対策の内容について事前に行政に報告、確認してもらっておくことです。

三つ目は、感染予防対策の強化に向けての積極的な働きかけです。
現在、多くの事業所でマスクや消毒薬が不足しています。
それを見計らったように転売業者から、「一枚50円」などと通常の10倍以上の価格で買わないかと電話がかかってくると言います。
マスクの増産が進められており、マスク不足は早晩解消すると思います。「病院や医療機関と同じように最優先せよ・・・」とは言いませんが、その感染リスクやクラスター発生リスク、重篤化のリスク等を考え合わせると、各自治体で確保し、高齢者住宅や介護保険施設、老人福祉施設、介護サービス事業所には、早急に届けてもらえるように団体などを通じて、働きかけを行いましょう。

「感染者が発生した事業所への支援」についても検討してもらうよう申し入れをしましょう。感染者が発生した場合、マスクや消毒液だけでなく、ゾーニングのためのポータブルトイレや仕切り、更にはスタッフの応援など、人員・物資が必要になります。何が必要になるのかを想定し、協議を始めましょう。

合わせて、今後重要になるのが「検査の優先」です。
現在、コロナウイルスの確定には、「PCR検査」が行われていますが、検査体制の問題もあり「熱がある」「咳がある」といっても誰でもすぐに受けられるという状態ではありません。しかし、病院の医師や看護師だけでなく、介護保険施設や介護サービス事業所で働くスタッフは、そんな悠長なことは言っていられません。一日も早く検査を行い、「コロナウイルスか否か」を確定させなければ、その間に感染は次々と拡大していくからです。

自治体ごとに取り組みは違うようですが、業界団体などを通じ「蔓延・重篤化しやすい介護施設の特性」「コロナウイルス蔓延下での介護業務の困難さ」などをしっかりと伝え、少しでも疑いのある場合は、優先的に検査を受けることができるようにしてもらわなければなりません。
そうでなければ「介護スタッフのAくん、熱あるようだけど大丈夫かな?」「入居者のBさんゴホゴホ言ってて怖いよね…」「一緒に仕事していた私たちもこのまま介護していて良いのかな?」という不安ばかりが増幅し、そのまま感染も蔓延していくことになります。「介護サービス業界、介護施設は、緊急事態宣言の閉鎖対象外なので頑張って・・」ではなく、その厳しい労働環境が少しでも安全なものになるよう対策を厳しく求めるべき時です。




ここまで、二回にわたって、コロナウイルスの感染対策について考えてきました。
地域によって、危機感にかなりの差がありますが、感染者の少ない地域であっても「対岸の火事ではない」ということを事業者・経営者が十分に認識しなければなりません。すでに、多くの事業所で対策を進めておられることと思います。また、「ここで書いたことをすべてやれ」という話ではなく、できることできないこと、それぞれにあるでしょう。ただ、対策を少しでも進めれば、少しでも感染リスクは減らせる、また混乱せずに乗り切れると言うことは事実です。
事業者の使命は「入居者入所者・スタッフの生命・生活を守ること」です。相当の危機意識をもって取り組む必要があります。「レベル10に対してレベル15」の話をしましたが、「大騒ぎをして大したことなかった…」「うちの管理者・経営者はホント大げさなんだから…」ですめば、それが最も良いのです。


(追 伸)
全国で頑張っておられる介護スタッフの方へ・・
東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡に「緊急事態宣言」が出されたい都道府県だけでなく、感染が広がっている地域の介護スタッフ、看護スタッフは、本当に厳しい状況の中で勤務を続けておられると思います。「小さな子供がいる」「私が感染すれば生活が破綻する」という人も多く、「でも、休むわけにはいかない・・・」と歯を食いしばって勤務を続けておられると思います。

コロナウイルスとの闘いは、短距離走ではなくマラソンだと言われています。
「いつまで続くかわからない」と張り詰めていればすぐに疲弊してしまいます。
しんどくなれば、遠くを見ないで、今日一日のことだけ、目の前にあるすべきことだけを考えましょう。
できるだけ笑顔で、優しい言葉で、「私たちホント頑張ってるよね」と褒め合いましょう。
勤務中は「しっかりと感染対策」を行い、勤務外は仕事のことはわすれましょう。
家で美味しいものを食べて、甘いものも我慢せず、ゆっくりお風呂に入って、ゆっくり寝ましょう。
完璧主義者はやめて、感染対策以外は、少し手を抜きましょう。

「この春はホント大変だったね・・・」「去年の今頃はてんてこ舞いだったね・・・」と笑って話せることができる日が、一日も早くくることを京都の町から願っています。
この危機を乗り越えたら、ぜひ京都に遊びに来てください。

高住経ネット 濱田





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