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地域ケアネットワークの推進方法 ~地域包括ケアのプロセス~


「地域ケアネットワークを整備します」というだけでは、議論百出となりまとまらない。「参加したい事業所だけが参加すれば良い」ということになれば、地域包括ケアにつながらない。ネットワーク構築には「地域包括ケアとは何か」「なぜ必要なのか」を伝えるプロセスが重要

【特 集】 地域包括ケアの土台となる地域ケアネットワークを構築する 008 (全9回)


ここまで、地域包括ケアシステムの土台となる、地域ケアネットワークの重要性とその機能と目的、構築例について述べてきました。 ここからは、その地域ケアネットワークの導入・構築をどのように進めていくのか、その推進実務の課題について考えていきます。


地域ケアネットワークの推進・導入・管理責任は自治体

地域包括ケアシステム ~ネットワーク構築の基本~ の中で、ネットワーク構築の基礎として、「自治体の責務」「情報ルールの作成」「包括的連携」「地域の個別化」の四つのポイントを挙げました。地域包括ケアシステムの構築の主体者は、いうまでもなくそれぞれの自治体ですから、当然、その土台となる地域ケアネットワークの整備も自治体が中心となって行わなければなりません。

① ネットワークの管理者
  市町村を中心とした自治体 (都道府県は財政面などからの後方支援)
② 包括的ネットワークの構築
  地域包括ケアシステムの要員である介護サービス事業所、各種関連団体、診療所等は参加義務
③ 情報共有・発信・管理に関するルールの策定
  情報ルールの素案については「地域ケア会議」で検討を行い、最終決定は管理者(自治体)

情報ルールの検討や見直しなどについては、地域の事業所や業界団体の代表が集まる「地域ケア会議」で行えばよいのですが、「参加したい事業所だけが参加すれば良い・・・」ということになれば、「実際に参加している事業所は半分以下」「情報ルールに沿って運用している事業所は三分の一以下」となる可能性があります。それでは、ここまで述べてきたような、「チームケアの推進による地域の連帯・連携の強化」「マッチング機能による効率的・効果的なサービス運用」にはつながりません。逆に「ネットワークに参加する事業者」「参加しない事業者」の歪みができるだけで、情報の管理・蓄積も進みませんから、「地域包括ケアシステム」は構築できません。

また自治体が主導しなければ、域内のすべての介護関連サービス事業者に、一定の強制力をもって参加、情報ルールを徹底することはできません。
域内の福祉系団体が、業界団体内だけのネットワークを構築したいという相談もありますが、それは業界団体内の情報連絡ネットワークにすぎず、それ以外の老健団体や民間の介護サービス事業者は入れません。各団体がそれぞれのシステム、それぞれの情報ルールを設定して綱引きになると、ブロック化が進むだけです。

しかし、内容や情報ルールを自治体が定めて「地域ケアネットワークを構築します」「全事業者強制参加で来年度から開始します」と一方的に宣言しても、「現状の個別の連携体制で特段困っていない…」「電話とメールで十分だ…」「そんなことにお金を使うなら別のことに…」といった異論、反論、議論百出となり、「全員参加」「情報ルールの順守」ができなくなります。また、月額2000円程度と、経営上のメリットから見れば格段に低価格なものであっても、参加したくないという事業者にまで強制的に参加、徴収を強制することはできません。
「地域包括ケアシステムの推進」と言えば誰もが賛同しますが、全ての関連サービス事業者が参加する地域全体を網羅する包括的・有機的なネットワークシステムを、どのように推進・導入していくのか・・・と言えば、なかなかに難しい問題なのです。
ここでは、自治体が中心となった地域ケアネットワークの推進・導入のプロセスについて考えます。


地域ケアネットワークの推進・導入のプロセスを考える

【StepⅠ】 地域ケアネットワーク導入に向けての検討・決定

繰り返し述べているように、「地域包括ケアシステム」は、高齢者介護の地方分権です。それぞれの自治体で、10年後、20年後に介護需要がどの程度増加すると見込まれるのか、特に重度要介護高齢者や認知症高齢者の増加について、きちんと整理・分析しなければなりません。医療保険のように「自己負担が上がれば、不必要な介護保険利用は抑制される」という人がいますが、これは間違いです。介護保険制度が二割負担になろうと三割負担になろうと、介護サービスがなければ生活できないため、重度要介護・認知症高齢者の介護需要は変わらないからです。それは言い換えれば、基本的な介護システムが構築できなければ、重度要介護高齢者、認知症高齢者は生きていくことができないということです。

それぞれの自治体で10年後、20年後の介護需要とそれを基礎とした必要介護サービス量をシミュレーションするだけで、想定される財政負担・介護人材の確保が相当厳しくなることがわかるはずです。それをきちんと想定し、厳しい財政状況であることをきちんと示して危機意識を共有できなければ、地域包括ケアシステム構築に対して、各業界団体・介護サービス事業者の協力は得られません。
その将来の介護需要・財政シミュレーション、地域特性、地域ニーズに沿って、なぜ、ケアネットワークが必要なのか、どのような目的でどのような機能をもったネットワークを構築するのか、その全体像と導入に向けたスケジュールを検討・決定します。基礎自治体といっても、複数の市町村にまたがって運用しているケースもありますから協議を行うことや、都道府県や国に財政的な支援が求められないか打診することも必要になるでしょう。この段階で、それぞれの自治体がリーダーシップを発揮して、きちんとした枠組みをつくることができなければ、ケアネットワークも包括ケアシステムも、夢のまた夢です。

【StepⅡ】 地域ケアネットワークについての勉強会・研修会の開催

二つ目は、ステップⅠで検討した内容に基づき、地域ケアネットワークの構築・導入について、地域の業界団体や介護サービス事業者に説明を行うことです。
10年後、20年後の当該市町村・地域の介護需要や財政見込みなどを基礎として、地域包括ケアシステムとはどういうものか、地方行政としてどのような方向、指針をもって進むのか、公平・公正、効率的・効果的なシステム構築のためになぜケアネットワークが必要なのか、更には、どのような機能・目的をもって導入するのか、事業者にはどのようなメリットがあるのかについて、勉強会や研修会、質問や意見聴取を行います。
合わせて、情報ルール策定のための「地域ケア会議・地域ケアネットワーク推進委員会」を設置します。

【StepⅢ】 自治体・業界団体からの情報発信の一本化からスタート

地域ケア会議の中で検討され、「情報発信・情報共有機能」「マッチング機能」など、様々な機能を有する地域ケアネットワークを一斉にスタートできればよいのですが、一般のパソコンソフト・アプリケーション同様に多機能になりすぎると、すべての機能を使いこなすまでに時間がかかります。また、インターネットの発信に馴れている事業者、馴れていない事業者、その規模も人員体制も様々ですから、すべての事業者が同じレベルで一斉にスタートすることは容易ではありません。それは、このネットワークのメリットを享受できる事業者、できない事業者に分かれ、ネットワークに対する意識の格差につながります。

まずは、最低限必要な情報を、しっかりと全事業者が共有できる「情報発信・情報共有・情報管理」の土台づくりからのスタートです。「自治体・団体からの情報は地域ケアネットワークに統一する」という情報ルールを統一すれば、研修会や届け出について「聞いた、聞いていない」「知らなかった」というトラブルはなくなりますし、事業者からの「出席・欠席」を事前に把握し、「どの事業者から出欠状況」「研修不参加事業者」を一覧でチェックできます。
合わせて事故の裁判や不正事例、介護に関する介護関係のニュースの配信も有効な手段の一つです。それは、すべての事業者が、定期的にこのアプリケーションをチェックするという動機付けにもなります。

【StepⅣ】 ネットワーク参加に関する情報ルール設定・説明(発信・管理・費用負担など)

ここから、包括的ネットワークの構築(全事業者の参加)を前提とした、各事業者からの情報発信、マッチング機能の管理方法などの情報ルールを定めていきます。 各事業者からの情報発信の内容については、地域包括ケアシステムの強化を目的とした事業者向け・事業者間の情報に限定します。個人的な発言や他の事業者の批判や過度に商業的・セールス的なもの、更には利用者個人が特定されるような情報は好ましくありません。各サービス事業所が独自に企画したセミナー・勉強会や、ケアマネ・家族向け見学会などのイベントの紹介のほか、域内事業者の合同忘年会のお知らせ「譲ります・探しています」といった情報はそれぞれの事業所が責任をもって行い、問題や苦情があれば訂正・削除する権限を管理者(行政の担当者)に持たせます
「地域ケアネットワークの担当者・責任者を決める」といった情報ルールも必要となるでしょう。

合わせてネットワークを運営している上での、費用負担をどのように進めていくのかも、考えていく必要があります。 全額、市町村や都道府県が負担するだけの補助金が確保できればよいのですが、各介護サービス事業者から月額利用料を徴収する場合の負担額をどうするか、全事業者一律とするのか、事業種別、事業規模ごとに負担額を変えるのか、広告収入などを検討するのかなどを定めていきます。基本的には、「情報発信・情報共有機能」に関する部分については、自治体・業界団体負担で、事業者個別の収益に関する「マッチング機能」についてはその一部を事業者に負担を依頼することになるでしょう。企業などが行う新作発表のセミナーなど利益目的の情報については、別途有料とすることもできます。

【StepⅤ】 介護サービス種別単位で、マッチング機能の運用開始

次に、マッチング機能の検討・開始です。
地域ケアネットワークによるマッチング機能は、「域内サービスの効率的・効果的利用の促進」と「サービス供給課題の蓄積」という二つの役割があります。
アプリケーションのマッチング機能の基礎は、空き情報の絞り込み「各サービス事業者の空き情報をケアマネジャーが探しやすくする」というというものです。
地域ケアネットワーク 構築例 ② ~サービスマッチング~ で述べたような、空き情報の検索機能のついたアプリケーションを作ることはそう難しいことではありませんが、その機能・メリットを維持するために最も重要なのが、「サービス空き情報の信ぴょう性」です。「空き情報が一か月変わっていない」「全く更新されていない」ということでは、全く使いものになりませんし、その結果、誰も検索しなくなれば、目的を達成できません。

そのため、発信する事業者には、「変更があれば随時変更すること」「変更がなくても週に一度は更新すること」といった情報ルールを定める必要かあります。もちろん、全事業者に徹底することはそう容易ではありませんが、情報共有・情報管理は地域包括ケアシステムの一員としての責務であり、マッチング機能の維持・向上は事業者の収益向上にも役立つということを丁寧に伝えていく必要があります。実際には、このマッチング機能は、一気にスタートすることは難しいため、「福祉用具貸与・購入」「短期入所系サービス」「通所系サービス」「訪問系サービス」など、スケジュールに沿って半年程度の時間をかけて作っていくことになります。

【StepⅥ】 地域ケアネットワークの進捗状況の把握、情報ルールの見直し・改定

この地域ケアネットワークは、「一度プログラムをつくれば、それでずっと運用していく」というものではありません。 ネットワークを維持するために最も重要なのは「モニタリング」です。
運用の中で、「マッチング機能が上手く活用できていない」「一部事業者で情報ルールが守られていない」といった様々な課題がでてきますから、情報ルールの見直し・変更が必要ですし、「空き情報検索の機能を追加できないか」「事業者紹介の内容を増やしたい」といった希望もでてくるでしょう。また、「クラウドコンピューティング」も進化していきますから、それに応じたバージョンアップも必要です。
それらの課題を、モニタリングを通じて把握し、「地域ケア会議」の中で改善策を探していくことになります。

以上、地域ケアネットワークの推進・導入・維持管理の流れについて、6つのポイントを挙げました。上記図のように、「地域ケアネットワークの重要性」について全体で理解すること、そして情報ルールを進化させ、システムを進化させ、ネットワークを進化させていく流れとなります。
このように「地域ケアネットワーク」が適切に稼働すれば、それがそのまま「地域包括ケアシステム」の構築につながるということが、おわかりいただけるでしょう。

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