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要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅰ ~建物・設備~


自立高齢者向け住宅と要介護高齢者向け住宅は、建物設備設計の考え方が根本的に違う。自立高齢者向け住宅の建物設備では、要介護高齢者の増加に対応できず、要介護高齢者向け住宅の建物設備では、自立高齢者のニーズを満たさない。両方のニーズを満たそうとすると不必要にコストがあがる

【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る 04
(全 9回)


前回、高齢者住宅の商品設計には、一般集合賃貸住宅にはない「可変性・汎用性」の視点が必要になると述べました。可変性・汎用性の面積・容積の大きい高齢者住宅は、自立高齢者から多様な要介護高齢者のニーズに対応できる要介護対応力の高い高齢者住宅だということになります。
しかし、自立高齢者から重度要介護高齢者まで対応できる高齢者住宅を、一つの商品として構築することは簡単ではありません。それは建物設備・介護システムが根本的に違うこと、そして多様なニーズに対応するには、それだけコストがかかるからです。

自立向け・要介護向け 周辺環境・住戸内設備・共用設備の違い

まずは、自立高齢者向け住宅(自立・要支援程度)と、要介護高齢者向け住宅(要介護3以上)に求められる建物設備設計の違いを考えてみます。

① 立地・周辺環境

ご存知の通り、高齢者の運転操作ミスによる自動車事故が社会問題となっています。平衡感覚も低下するため自転車も危険です。そのため、自立高齢者を対象とした高齢者住宅の場合、徒歩圏内に駅やコンビニ・スーパー、病院などが近くある便利な場所であることが必要です。駅やバス停まで遠い、近隣に商業施設がないなど、不便な場所では日々の買い物や通院が困難になり生活が立ち行かなくなります。
要介護高齢者の場合も、「家族の訪問を考えると、交通の便利な場所の方が良い・・」ということは事実ですが、日々の買い物や通院は家族や介護スタッフが自家用車や事業所の車を使って行いますから、徒歩圏内の利便性は自立高齢者向けほど重要ではありません。

② 各専用住戸内設備

自立度の高い高齢者は自住戸内で日常生活を完結させるため、「寝室+LDK」の設備・機能が求められます。ワンルームタイプであっても25㎡以上、住戸内には水栓トイレだけでなく、独立したキッチンや洗面設備、浴室、また夏物・冬物など衣服なども多くなりますから十分な収納も必要です。
これに対して、要介護高齢者の住戸の機能は「居間兼 寝室」です。住戸というよりも部屋・居室というイメージが強くなります。基本的に、各住戸の中で調理・食事・入浴はしませんから、水栓トイレと簡単な水回り(簡易的な洗面キッチン)があれば十分です。ただトイレは、車いすからの移乗や介助がしやすいように、一般のものよりも広いスペースや手すりなどの設置が必要です。


③ 共用部・共用設備

要介護高齢者向け住宅の建物設備設計で、求められるのが共用部・共用設備の充実です。
自立高齢者向け住宅の場合、「自分で食事をつくる」「好きなものを外で食べる」というのが基本です。ただし、「買い物や調理など毎食の準備は大変」「朝食だけは出してほしい」という高齢者や、高血圧や糖尿病、腎臓病など生活習慣病の人も多くなりますから、食堂やレストランの併設・隣接は検討すべき事項です。
一方、要介護高齢者になると、自分で買い物や調理はできませんし、食事は介助が必要ですから、原則、朝昼夕の三食とも食堂で食べることになります。車いすの利用者が多いことを想定し、生活動線、介助動線を含めた十分な広さが必要です。入浴にも介助が必要になることや要介護状態によっては特殊な機能をもつ浴槽が必要となるため、各住戸の設備ではなく共用部の共用設備として必要台数を設置します。

各住戸と共用部(食堂)の位置関係 ~「分離型」OR「一体型」~

もう一つの違いは、各住戸と共用部の位置関係です。
自立高齢者向けの住宅は、自室内で日常生活を完結させるため独立性が強くなります。そのため、下図のように各住戸フロア(プライベートスペース)と食堂フロア(パブリックスペース)が分離しているのが一般的です。一方の要介護高齢者向け住宅は、各住戸フロアと食堂フロアが同一フロアに位置しているのが鉄則です。


これは「生活動線・介護動線」の問題です。
自立度の高い高齢者は、移動・配膳・食事・後片付けなどに介助が必要ありませんから、「朝食7時~8時半」のように、決められた食事時間内に、それぞれの入居者が食堂に降りてきて、厨房で食事を受け取って、好きな場所に座り、食事が終われば食堂にトレイを返して部屋に戻ります。
一方の要介護高齢者は、移動・配膳・食事・後片付け等、すべてに介助が必要になります。
居室と食堂のフロアが分離している場合、その最大の障壁になるのがエレベーターです。車いす対応の広いエレベーターでも、一度の昇降で移動できるのは4人が限界です。60名定員で、一階が食堂・二階~四階に各15人の要介護高齢者が生活している住戸フロアから、全入居者をエレベーターで食堂に降ろすには、移動だけで4~5人の介護スタッフと一時間以上の時間がかかります。往復を考えると×2、一日三食であることを考えると更に×3です。特に、朝は移動・食事介助だけでなく、起床介助(洗面、着替え、排泄など)が重なりますから「食堂・各住戸分離型」では介助ができません。

【PLANNUNG】 居室・食堂分離型は介護システム構築が困難 (証明) 

「食堂・各住戸一体型」が自立高齢者住宅に適さない理由も同じです。
自立向け高齢者住宅の場合、基本的に食事介助は必要ありません。ただ、60名定員で「15名の住戸+食堂」×4フロアとすると、一階の厨房から各階の食堂まで食事を運んだり、降ろしたりする設備とスタッフが必要になります。配膳や下膳を手伝ったり、食後にテーブルを拭いたり、後片づけを行うスタッフも、各フロアに配置しなければなりません。それだけコストがかかるということです。
このように、自立高齢者向け住宅の設計は「各住戸と共用部の分離」、要介護高齢者住宅の設計は「各住戸と共用部の近接」が鉄則です。要介護度の変化は、介護看護サービスの増減で対応できると安易に考えている人が多いのですが、建物設備の考え方が基本的に違うということがわかるでしょう。

「駅近・商業施設周辺」「住戸内設備も共用設備も充実」にすれば自立・要介護どちらにも対応できるじゃないか・・・。「食堂・住戸一体型」にしておけば、多少、食事の昇降にコストはかかるかもしれないが、要介護高齢者が増えても対応できるじゃないか・・・と思う人がいるかもしれません。
しかし、各フロアに、自立高齢者向けの広い・設備の充実した住戸と、車いす対応の広い食堂や要介護高齢者対応の浴室、特殊な浴槽を整備すると、広い敷地が必要となり、建築面積・建築コストともにあがります。それが「駅や商業施設に近い利便性の高い場所」となると土地取得費用も高額になります。
また、朝・昼・夕と食事時間に合わせて、各フロアに一人ずつ、担当スタッフを配置するとなると、相当の人件費が必要になります。その結果、自立高齢者にとっても、要介護高齢者にとっても、使わない設備、必要のないサービスに高額の費用を支払うことになり、「汎用性・可変性は広がったけれど、価格競争力で負ける」ということになります。つまり、高齢者住宅を商品としてみた場合、機能的にも価格的にも「可変性・汎用性」には限界があるのです。

その違いは、「生活支援サービス」においては、更に広がることになります。



【特 集】 要支援・軽度要介護高齢者住宅の未来・方向性を探る ?連載更新中

  ♯01  自由選択型 高齢者住宅への回帰の動きが加速する背景
  ♯02  「高齢者住宅は要介護対応に関与しない」というビジネスモデルは可能か
  ♯03  高齢者住宅の「要介護対応力=可変性・汎用性」とは何か
  ♯04  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅰ ~建物・設備~
  ♯05  要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅱ ~介護システム~
  ♯06   要介護対応力(可変性・汎用性)の限界 Ⅲ ~リスク・トラブル~
  ♯07  「早めの住み替えニーズ」のサ高住でこれから起こること
  ♯08  自由選択型 高齢者住宅は不安定な「積み木の家」になる
  ♯09  これからの高齢者住宅のビジネスモデル設計 3つの指針




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