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【Plan 13】 要介護高齢者住宅には適正な規模がある

高齢者住宅 開設者向け 連載 『高齢者住宅の崩壊と成長の時代がやってくる』  No 13

要介護高齢者住宅が一つの商品・サービスとして成立するためには適切な規模がある。「地域密着型」など全体の定員数やフロア単位・ユニット単位の定員数・入居者数が少なくなれば、生活支援サービス・介護システムの効率化は低下し、商品は脆弱なものになる



高齢者住宅のプランニングに不可欠な視点として、「安全性」「可変性」「汎用性」「安定性」「効率性」の5つを挙げています。すべて重要な視点ですが、これまでの高齢者住宅の商品設計の中で、特に欠けていたのが、「効率性」です。
それは、これまで老人福祉や高齢者介護の世界では、効率化・合理化は「反福祉的」として許されない視点だったからです。

もちろんそれには理由があります。
老人福祉というのは、「要介護」ではなく、「要福祉」の対策です。近年では高齢者虐待、介護拒否(ネグレクト)、独居認知症高齢者への対応といった、介護サービスだけでは解決しない複雑な福祉的な課題への対応が求められています。一人ひとり、一つひとつのケースが違い、答えのない難しい福祉課題について、時間をかけて解決策を見出す必要があり、民間の効率性や合理性の視点とはかけ離れたものです。

介護サービスにおいても、同じことが言えます。
現代の高齢者介護は、ケアマネジメントによる高齢者個々人の生活リズム、生活希望に合わせた「個別ケア」が基本となっています。しかし、民間の視点だけで「効率性・合理性」を追求すると、従前のような事業者の都合による「流れ作業の一斉入浴」「時間を決めての一斉排泄介助」といった「集団一斉ケア」に戻ってしまいます。介護をよく知らない素人事業者による「効率性の追求」は、サービスの質、生活の質の低下につながるのです。
「個別ケアに、営利目線の効率性はいらない・・」というのはある意味正しいのです。

特養ホームの建物配置は理想的が故に非効率

しかし、「効率性」は全く無視してよいのかというと、そうではありません。
「建物設備」×「介護システム」の一体的検討を🔗で、要介護高齢者の生活を全く無視した建物設備の設計例を挙げましたが、これとは全く逆に、要介護高齢者の生活や介護のしやすさ、個別ケアの実践のみを追求して作られたのが、現在のユニット型特養ホームです。

入所者10人で一つのユニットを作り、ユニット内に食堂や浴室が設置されています。
食堂までの距離も近く、エレベーターを利用する必要もないため、自分で起きてくる人も増えます。
入浴や食事などの日々の生活が、ユニット内で完結するため、認知症の高齢者も混乱しにくく、介護スタッフの目も届きやすくなります。
確かに、「重度要介護高齢者の住まい」としては理想形なのですが、なぜユニット型個室特養ホームを作ってはいけないのか🔗で述べたように、この理想の「10人1ユニット」の介護システムは、「1ユニット単位」で介護スタッフを配置しなければならないため、たくさんの介護スタッフが必要になるのです。

同じように、食事介助の例を挙げてみましょう。
食事介助は、まったく一人では食べられない人への「全介助」のほか、促しや少し手伝えば一人で食べられる「一部介助」、そして直接的な介助は必要ない人でも、誤嚥や窒息がないようにする「見守り介助」があります。
「直接介助」と「見守り介助」を適切に行うためには、1ユニット当たり必ず複数人の介護スタッフが必要になります。ですから、60名定員の特養ホームでは食事時間に、少なくとも1ユニット2名、6ユニットでは12名の介護スタッフが必要になります。それ以下だと、見守りが不十分となり、誤嚥や窒息などの事故が増えることになります。
しかし、逆に、「全介助」「一部介助」の高齢者が少ない場合、20名の入居者が集まって食事をすれば、4人ではなく3人で対応可ということもあります。重度要介護高齢者が増えてきても、「10人当たり3人」でなくとも、「20人あたり4人、5人で十分」ということもあります。

つまり、同じ個室・ユニットケアであっても、1ユニット当たりの人数が少なくなれば、それだけたくさんのスタッフが必要となるのです。その結果、60名定員の特養ホームの介護スタッフの基準配置は20名ですが、実際には、その二倍程度の34~40名の介護スタッフ数が必要になっているのです。

この効率性の低下は、「介護スタッフの負担を増やす」ということでもあります。
60人定員の特養ホームの場合、3名の介護スタッフで夜勤をすることが多いのですが、このような建物設備の場合、一つのフロアに一人の夜勤スタッフを配置し、2つのユニットを見ることになります。しかし、一人が休憩すると目の行き届かないフロアがでてきますし、また急変などが起こった場合、他のフロアのスタッフの協力を受けることも難しくなります。
その結果、一人一人の責任が重くなり、精神的なストレスが大きくなるのです。

高齢者住宅には適切な規模・定員数がある

もう一つ大切なことは、要介護高齢者専用住宅には、適切な規模があるということです。
現在、「地域密着型」という定員29名以下の小規模の特養ホームや、介護付有料老人ホームの介護報酬が設定されています。「大規模施設は、隔離施設のようで好ましくない」「地域に密着した小規模の施設をたくさん作るべきだ」という提言から、整備されたものです。
しかし、このように、定員規模が小さくなれば、業務の効率性は更に低下し、コスト増加します。

例えば、夜勤配置でも、29名に対して2人の介護スタッフは必ず必要になります。
それは、夜中に一人の入居者が急変したり、転倒したり、また認知症の高齢者が混乱して起きだしたという場合、一人では対応できないからです。
こうして、必要な介護スタッフ数を数えていくと、29名の入居者に対して、22名から24名の介護看護スタッフが必要になります。もちろん、それだけ手厚い介護、理想の介護ができるのですが、逆にそれ以下の人数では、最低限の介護さえできなくなります。
つまり、29名定員の小規模特養ホームを二つ作ると、非効率なユニット型特養ホームよりもさらに、8名から10名多くの介護看護スタッフが必要になるのです。
そのため、現状でも、地域密着型特養ホームの約半数が赤字なのです。

これは、小規模の介護付有料老人ホームでも、同じことが言えます。
特に、民間の有料老人ホームは社会福祉施設ではありませんから、減額制度もありませんし、基準配置を超えた人件費は上乗せ介護費用として、入居者に負担してもらうことになりますから、40万円近い自己負担となります。
しかし、その入居者は要介護高齢者です。ほぼ日常生活はユニット内で完結するため、全体の定員規模など、それぞれの生活に全く関係しません。厳しい言い方をすれば、「小規模施設であるべき」というのは作り手の自己満足であり、実際に「60名定員よりも、29名定員の方が5万円高いけど、後者を選ぶ」という人はいないのです。
そもそも、この地域密着型は、山間部・農村部などで、「特養ホームの整備は必要だが、対象者が少なく50名60名規模のものは不要」「30名以下で十分だ」という市町村が導入する制度です。
つまり、「地域密着型特定施設入居者生活介護」という制度、介護報酬の設定はありますが、その介護付有料老人ホームの事業性はゼロなのです。

最近では、一般の小さな建物設備をリニューアルして高齢者住宅として活用しようという動きがありますが、それでは建物設備の費用が少し安く上がっても、その数倍の介護サービス費用が掛かるのです。高齢者のシェアハウスも同じで、要介護高齢者の住宅としては、事業性としてはゼロ、論外なのです。
もちろん、大きければ大きいほど良いというものではありません。
しかし、高齢者住宅には、ビジネスとして成立する最低限の規模・定員数というものがあるのです。



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