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激増する介護離職 予備軍

「重度要介護になる85歳以上の後後期高齢者の激増・・・」
「核家族化による独居後後期高齢者、後後期高齢の夫婦世帯の激増・・・」
「親の暮らす地域と、子供の暮らす地域の遠距離化・・・」
「少子化による、子供世代の減少、未婚率の上昇・・・」
「ロストジェネレーション世代の親の後後期高齢化・・・」
「介護人材不足による介護サービスの供給不足・・・」
「社会保障財政の悪化、自己負担割合の上昇・・・」

 これからの日本が直面する社会情勢を考えたとき、確実に増加すると考えられているのが、親の介護を理由として、子供世代が仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」です。



 「田舎で独り暮らしの父が脳梗塞の疑いで救急搬送された」と会社に突然の電話。慌てて病院に駆けつけ「命を取り留めた」とホッとしたのもつかの間、「重い麻痺が残る」「ひとりで生活するのは難しい」と聞き、不安で目の前が真っ暗になります。
また、離れて暮らしていると、認知症の発見が遅れます。
「便りがないのは元気な証拠」「悠々自適に暮らしているのだろう…」
 そう思っていたのに、突然、警察から母親を徘徊で保護したと連絡。慌てて帰省すると、髪はぼさぼさ、家の中はゴミだらけ、冷蔵庫の中の食べ物も腐り、キャッシュカードは暗証番号のミスで使えなくなっているという現状に愕然とします。
 地域包括支援センターに相談するも、「一人で生活するのは難しい」「特養ホームも一杯ですぐには入れない」と言われ、他の兄弟姉妹も、「うちのマンションは狭いから」「子供が受験だから」とそれぞれに事情があり、八方ふさがりとなり解決方法が見つかりません。
 更に、財政悪化を抑えるために医療や介護の自己負担も二割、三割へと上がる可能性が高くなっています。二割負担となれば、一人でも月額三万円、四万円、二人になると六万円、八万円です。
 


「私が実家に帰るしかないか……」
「まだ独身だし……」「うちは子供もいないし……」 
「親の家と預貯金があるし、親の年金もあるし……」
「景気も悪いし、ボーナスも減ったし……」
「子育ても終わったし、いまなら早期退職で割増退職金が出るし……」
「親の介護が落ち着けば、また働けばいいし……」
「介護の自己負担、払うくらいなら、家族が介護したほうが…」


 そう、少しずつ、介護離職に気持ちが向かっていきます。
 就業構造基本調査(令和4年)によると、介護を理由に仕事を辞めた人は年間約10.6万人、介護をしながら仕事をしているビジネスケアラーは364万人、2030年には438万人になると予測されています。ただ、この数字は氷山の一角だとされており、東レ経営研究所によると、企業内隠れ介護者数は、サラリーマンの四人に一人(1300万人)にのぼるという報告もあります。
 また、三菱UFJリサーチの「仕事と介護の両立支援に対する調査」によれば、現在介護をしていない人でも、四割の人が五年以内に介護が始まる可能性があると答え、その三人に一人は、「仕事は続けられなくなるだろう」と答えています。


 「介護離職はダメ」という人が多いのですが、「良いか悪いか」という問題ではありません。
 「大切な父母だから、できるだけ自分で介護をしたい」と思うのは、子供として当然のことです。様々な事情を勘案して、最大の努力をしても「介護離職を選択せざるを得ない」というケースもあるでしょうし、「実家に戻って家業を継ぐつもりだった…」「実家に戻っても仕事のあてがある…」などのある程度の心づもりがある人もいるでしょう。それ以前に、社会保障費の圧縮や介護人材不足で、一人暮らしに必要な介護サービスがスムーズに利用できなくなれば、家族が同居して、介護するしかありません。
 また、「親の介護のために実家に帰ってきた…」と言うと、その他の親戚、近隣の方からは、「優しい息子さん、娘さんでお父さん、お母さんは幸せね…」と評価してもらえるかもしれません。
 しかし、「介護離職をしてよかった」という話はあまり聞いたことがありません。
 それは、介護離職は、個人・家族にとって、極めてリスクの高い選択だからです。
 そして、それは、これからの日本を覆う企業や社会へのリスクにつながっていくのです。

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