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高齢者住宅事業の成否を握る「設計事務所」の選択


高齢者住宅の成否は、建物設備設計によって決まると言っても過言ではない。その中心となるのが設計事務所・一級建築士の選択。高齢者住宅の建築設計を行う設計事務所、デベロッパーは増えているが、その能力・資質は、二極化している。設計事務所の選択は最重要ポイント

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 023


高齢者住宅の事業計画に不可欠なのが、設計士・設計事務所の選択です。
高齢者住宅の設計は、「有料老人ホームか、サ高住か」というものではなく、その前提として、建築基準法や都市計画法、消防法など様々な法律・基準があるため、どんな建物でも建てられるわけではありません。事業者のすべての希望を叶えることは、物理的にも法的にもできない言った方がよいでしょう。そのため、創意工夫によって事業者の意思、希望、理念を可能な限り形にしてくれる、優秀な設計士、設計事務所との連携が不可欠です。

最近は、高齢者住宅や介護保険施設などの建設・建築に力を入れる設計事務所・設計士は増えています。
しかし、その実力・ノウハウは二極化しています。私も、いくつかの設計事務所さんとお付き合いがありますが、入居者・介護スタッフの動きを、事業者と共同でアセスメント、検討し、事後の聞き取り調査まで行っている事業者もあれば、「福祉設計に自信があります」「設計事例多数」といっても、建物を見ただけで、「こりゃダメだ・・」というところも、たくさんあります。
これは個別の設計事務所だけでなく、大手デベロッパーでも同じです。
高齢者住宅の成否の起点は、設計士・設計事務所の選択で決まると言っても過言ではないのです。


設計事務所・一級建築士も二極化している

設計士・設計事務所にとって、建物は自分の手掛けた物件・商品というだけでなく、作品でもあります。
ただ、「事業者と一緒に良い商品・作品を作ろう」という思い入れのある人だけでなく、残念ながら、口では立派なことを言いながら、「できるだけ手を抜きたい」「楽に仕事をしたい」「何度も書き直ししたくない」という人・設計事務所も少なくありません。
設計士・設計事務所の選択を間違えないための、二つのポイントを整理します。

【事業者の立場で仕事をしているか】

設計士・設計事務所にとって、顧客は施主(事業者)なのですが、これまでの仕事の関係上、実際の建築を請け負う建築会社との関係が強い設計士もいます。中には、「一級建築士」という名前で活動はしているものの、実際には自分では設計しない、建築会社・デベロッパーに丸投げの外部営業マン、ブローカーのような人もいます。
その場合、確実に、「開設ありき」「設計会社への利益誘導」の設計となりますし、設計監理が甘くなり、開設後のトラブルも多くなります。厳しい言い方ですが、お金を払って欠陥商品を作っているようなもので、このような設計士に仕事を依頼すると、最悪の結果になります。

【高齢者住宅の設計に詳しいか・勉強しているか】

高齢化が進む中で、高齢者の生活に関わる建築資材、福祉機器は、日進月歩で進化しています。
設計士は介護のプロではありませんが、建物設計のプロです。そのため、建築資材や福祉機器などについては、十分に理解し、価値・価格を比較したうえで、事業者や介護の責任者に対して、「どのような建築資材・福祉機器があるのか」「他の事業者の評判」について、きちんと説明できなければなりません。
制度基準に沿って作った高齢者住宅は欠陥商品🔗で述べたように、有料老人ホームやサ高住の建物基準は要介護高齢者対応ではありませんし、「サ高住だからOK」「現行法はクリアしている」ということと、それが商品として適したものかは別です。
「サ高住は、防災の建築基準が緩いので、安価に上がります・・」といった設計士は基本的に失格です。


どのように優秀な設計士を選択するのか

設計士の選択は、事業の成否に直結する重要課題です。
優秀な設計士をどのように選ぶのか、二つの視点を挙げておきます。

【コンペで選ぶ場合の注意ポイント】

高齢者住宅の設計は、大きく「ボリュームチェック」「基本設計」「実施設計」の流れで行います。

土地には、用途地域、斜線制限、建蔽率、容積率、日影規制、高度制限など、様々な法的規制があるため、思い通りの建物をつくることはできません。「市街化調整区域」などのように基本的に建物が建てられない地域もあります。ボリュームチェックとは、予定している土地にかかる法的な規制を調査して、その敷地にどの程度の延床面積の建物が建つのかを検討することです。
特に、新しく建築用地を購入する場合、その判断材料の基礎となります。ただ、述べてきたように、高齢者住宅は必要な居室数、容積を確保できれば良いというものではありません。この時点で判断を間違うと、「定員50名」という事業計画は満たされても、まったく使い物のならない建物設備になってしまいます。

次の基本設計は、建物の基本計画の決定を行うための設計です。
「ボリュームチェック」をもとに、仕様書や配置図、平面図、断面図、立面図、概算見積りを行います。フロア単位の居室数や、居室と浴室、食堂との位置関係、生活動線・介護動線など商品設計、ビジネスモデルの基本はすべてここで決まります。
そして、最後の実施設計は、基本設計をもとに、施工を念頭において、建築資材などの選定、壁の色など、より具体的・詳細に設計行うものです。

コンペで設計事務所を選ぶ場合、基本設計までを求めることが多いのですが、ここまでの作業で全体の設計業務の半分以上になりますから、設計事務所にとっては大きな負担です。実際は、ボリュームチェックと基本設計の中間くらいで、平面図や立面図、予算概要程度があれば、その事業者の能力を把握することは可能です。
大手だけでなく、中小の事業者にも優秀な設計事務所はたくさんありますから、門戸を広げ、プレゼンを聞くと、その設計士の熱意や能力は十分に伝わります。
これは、単独の設計事務所だけでなく、デベロッパーの選択においても同じです。

【設計に入るまでに重要な事業コンセプトのすり合わせ】

設計を行ってもらう前に、事業者、設計士と共同で行わなければコンセプトの検討です。
設計士は施主(事業者)の希望やニーズを形にするのが仕事であって、「いいものを作ってください」と言っても、「どのような高齢者住宅を設計すればよいのかわからない」では、設計士は何もできません。
「どのような要介護状態の高齢者をターゲットにするのか」
「どの程度の価格設定とするのか」「どのようなサービスを提供するのか」
「その高齢者住宅のセールスポイント、他の事業所に対する強みは何か」

といった商品の基礎を指示するのは事業者の責任です。
その上で、「医療依存度の高い高齢者にも対応できるようにしたい」「内部はぬくもりのある木調を基本としたい」「お風呂は一般浴槽にしたい」など、設計上の特性をすり合わせていくことになります。
このコンセプトかしっかり検討できていないから、特徴もセールスポイントもない、制度基準に沿っただけの、どこにでもあるような「介護付有料老人ホーム」「サ高住」となり、入居者もスタッフも集まらないのです。

設計士に支払う設計監理費用は、建設費の数パーセントですが、全体の事業計画を考えるとその影響は絶大です。繰り返しになりますが、熱意とノウハウのある設計士、設計会社に出会えるか否かによって、事業の成否が決まると言っても過言ではありません。
また、優秀な設計士・ノウハウの設計会社でも、建築会社のブローカー的な設計士・設計会社でも、設計料はほぼ同じです。「地元の事業者だから・・・」「大手だから安心だろう・・」と安易に決めるのではなく、設計担当者の人柄や、設計実績、設計に対する考え方など、しっかり確認して依頼することが必要です。


要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~

  ⇒ 高齢者住宅 建物設備設計の基礎となる5つの視点
  ⇒ 「安心・快適」の基礎は火災・災害への安全性の確保
  ⇒ 建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことかできる 
  ⇒ 高齢者住宅設計に不可欠な「可変性」「汎用性」の視点 
  ⇒ 要介護高齢者住宅は「居室」「食堂」は同一フロアが鉄則 
  ⇒ 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計・入浴設備 
  ⇒ ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計 
  ⇒ 長期安定経営に不可欠なローコスト化と修繕対策の検討
  ⇒  高齢者住宅事業の成否のカギを握る「設計事務所」の選択 

要介護高齢者住宅の基本設計 ~介護システム設計の鉄則~
  ⇒   「特定施設の指定配置基準=基本介護システム」という誤解
  ⇒ 区分支給限度額方式では、介護システムは構築できない
  ⇒ 現行制度継続を前提にして介護システムを構築してはいけない 
  ⇒ 運営中の高齢者住宅「介護システムの脆弱性」を指摘する 
  ⇒ 重度要介護高齢者に対応できる介護システム 4つの鉄則 
  ⇒ 介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護 
  ⇒ 要介護高齢者住宅 基本介護システムのモデルは二種類 
  ⇒ 高齢者住宅では対応できない「非対象」高齢者を理解する 
  ⇒ 要介護高齢者住宅の介護システム 構築から運用への視点 
  ⇒ 介護システム 避けて通れない「看取りケア」の議論 
  ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ① 
  ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ② 




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