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【p007】 経営者が注力すべきは「顧客満足度」より「従業員満足度」

高齢者介護は、専門的な技術や知識が必要なプロフェッショナルの仕事

経営者の第一の仕事は、介護看護スタッフが気持ちよく働ける労働環境の整備


 

大手・中小を含め介護サービス事業、高齢者住宅事業の経営者の方々と話をすると、勢い込んで話をされるのが、「入居される高齢者のために・・、ご家族のために・・」です。
特に、介護サービス事業は、長い間「社会的弱者の支援」という老人福祉施策の中で行われていたこともあり、他の一般サービスと違い、「お客様」「顧客」という立場ではありませんでした。
しかし、介護保険制度以降は、老人福祉の時代のように行政が、利用者・入所者を斡旋してくれるわけではなく、レストランや一般の賃貸アパートと同じ民間の営利目的の事業です。高齢者や家族に選んでもらわなければ、そのサービスに満足してもらわなければ、事業を継続することはできません。
中には、
「ご利用者、ご家族の笑顔が、私たちの幸せ・誇りです」
「入居者様は自分の大好きなおじいさん、おばあさんです」
などと、聞いている方が赤面するような美辞麗句を重ねる人も少なくありません。

しかし、(もちろん私見ですが・・)、このような経営者がつくる高齢者住宅はほとんど欠陥品です。
それは、高齢者住宅の事業特性やノウハウを軽視して、自分の思い込み、思い入れだけで事業を推進するからです。立派なことを言うだけで、介護の専門性を理解しないために、事故やトラブルが激増し、介護スタッフが次々と離職し、事業の継続が困難になるのです。


~高齢者介護は、専門性の高いプロの仕事~

「介護って、お風呂入れたり、オムツかえたりすることだよね」
「家族でもできるんだから、いわば家族の代わりの仕事だよね」
介護経営者の中にも、そう誤解をしている人は少なくありません。特に、「笑顔とやさしさで・・」「大切な家族の代わりに・・」などという美辞麗句型の経営者は、その傾向が強いものです。
しかし、「プロの介護」と「家族の介護」は基本的に違うものです。

例えば、排泄介助は、その高齢者の生活意欲、尊厳にかかわる最も重要な生活行動の一つです。
プロの介護は、現在の排泄方法が適切なのかを検証し、身体機能や尿意、便意の有無を確認し、本人の希望や転倒転落などのリスクなどから、最適な排泄方法を探っていきます。

右麻痺、左麻痺など身体状況によっても、ベッドの位置や向き、トイレまでの生活動線、必要な手すりの高さ・位置は変わってきます。それが適切なものでなければ、転落や転倒などの事故につながります。作業療法士などのリハビリの専門職種、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーターとの連携も必要です。ケアマネジメントの中で詳細に検討し、「尿意や便意はあるので、コールを押してもらい、トイレでの自力排泄を支援しよう」「排泄の間隔を把握し、事前に声掛けをしよう」「間に合わない時があるので、リハビリパンツを履いてもらおう」などの目標、計画を立て、介助方法や介助時の注意点を本人、家族、すべてのスタッフと共有します。

また、排泄時には「尿量」「尿の色」「排便の量」「排便の状態・色」などから日々の健康状態もチェックします。「排便が数日間ない」「尿の色が悪い」といった場合、看護師や医師と相談しながら対応を検討します。身体に発疹がないか、オムツかぶれや床ずれなど予兆はないかといった点も確認します。

適切な排泄方法、介助方法は一人一人違い、それを間違うと生活への意欲を失い、うつ病や認知症になるリスクも高くなります。
質の高い排泄介助を行うためには、介助技術だけでなく、高齢者の身体機能や認知症などの知識、声掛けなどのコミュニケーション技術、更には食事や栄養、感染症や食中毒、福祉機器や生活環境、事故リスクなど、広い範囲の高い専門性が求められます。
それは「入浴介助」「食事介助」「移動介助」「見守り介助」なども同じです。
言いかえれば、この介護の専門性を理解しておらず、家族介護の代わりだと思っているから、素人経営者は「愛情が・・」や「家族として・・」という言葉ばかりになるのです・

もう一つ、厳しいことを言えば、この介護の仕事に就く人の多くは、医師や看護師と同じように、「高齢者の役に立ちたい」と考えるホスピタリティの意識の高い人たちです。介護の経験も知識もないまま、「高齢社会だから需要が増える」「介護ビジネスは儲かる」と参入してきた経営者が、上から目線で介護スタッフに向かって、「ご利用者の笑顔が・・・」などというのは、まさに「釈迦に説法」であり、傍目から見ていると、あまりにも滑稽なのです。

 

~経営者の第一の仕事は「労働環境の整備」~

「利用者・入居者が安心して、安全に生活するために何が必要か」を考え、実践するのは、高い技術や知識をもった介護看護スタッフ、ケアマネジャーの仕事です。経営者の仕事は、彼らが介護のプロとしての高い専門性を発揮できるように、その労働環境を整えることです。
その環境整備に必要な視点は、大きく分けると3つあります。

一つは、「安心して働ける環境」です。
高齢者介護の対象は、身体機能の低下した要介護高齢者です。小さなミス、一瞬のスキが重大事故に直結し、介護スタッフ個人が業務上過失致死に問われることもあります。無理な姿勢で介助して腰痛など体を痛めることもありますし、高齢者を庇って転倒し骨折することもあります。感染症に気が付かないまま介護をして、罹患するリスクもあります。
介護スタッフが安心して働き続けるには、安全に介護ができる適切な人員を配置するとともに、マニュアルの整備や教育訓練など、そのリスクの対策を講じなければなりません。

二つ目は、「成長できる環境」です。
高齢者介護は、労働集約的な事業ですが、機械的な仕事ではなく、専門的なプロの仕事です。
ただ、「完成された介護のプロ」ばかりが仕事をしているわけではありません。そのため、新人教育やキャリアアップ研修など、リスクマネジメントやケアマネジメントを基礎とした、質の高いサービスが提供できるように、またプロの介護人材になれるように、教育環境を整える必要があります。

三つ目は、「努力が報われる環境」です。
介護は専門職種ですから、年功序列で段階的に給与が上がっていくような仕事ではありません。しかし、上位資格をとっても給与が上がらない、どれだけ努力しても、自分の望む役職や業務には就けないということでは、やる気がなくなってしまいます。
大手事業者でも、資格手当も賞与も低く、サービス管理者になっても責任が重くなるだけで、給与は一般の介護スタッフと変わらない、400万円程度というところもあります。
一部上場を目指すという介護企業もありますが、税金や社会保険料で運営される介護サービス事業、高齢者住宅事業が、利益配当を行う株式公開や、高額のロイヤリティを求められるフランチャイズに適しているとは思えませんし、それができるならば、その費用は本来、働く介護スタッフに還元すべきものです。

 

以上、3つのポイントを挙げました。
これらはすべて経営上の課題ではなく、プランニング上の課題です。
「介護しやすい建物設備設計になっているか」「事故やトラブルへのマニュアルが整備されているか」「安全に介護できるだけの適切な人員配置がされているか」「公平な人事体制・教育体制、給与体制が整備されているか」など、事業計画・プランニングの段階で検討できていなければ、働きやすい環境にはなりません。

介護ビジネス、高齢者住宅ビジネスのサービスの質は、働く介護スタッフの質です。
経営者の仕事は、「顧客満足度(CS)」ではなく、「従業員満足度(ES)」を高めることです。
介護スタッフが安心して、快適に仕事ができる環境を整えれば、おのずとサービスの質は向上し、顧客満足度は高まっていくのです。

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