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「介護コンサル任せ」の幼稚な素人経営者が殺到

 起業ブームが続いている。特殊な技術や高いノウハウを持つ人、その業界で経験を積んで「自分ならもっと……」というアイデアや熱意のある人が次々と新しい会社、ビジネスを立ち上げている。大学生で起業する人もいれば、定年後に起業する人もいる。「社内ベンチャー」も活発だ。飲食業でもホテル業でも、IT、AI、ロボット産業でも、起業する人が多い業界は、彼らが新しい風を吹き込み、活気を生んでいる。
 介護業界、高齢者住宅業界も同じように見えるかもしれない。
 しかし、その内情はまったく違う。介護や高齢者住宅の知識やノウハウ、サービス上のトラブル、リスクに対する理解がないまま、「需要が高まるから」「儲かりそうだから」「補助金がでるから」と、ブームにのって参入してきた素人事業者が圧倒的に多いのだ。
 この素人経営者には、4つの特徴がある。

 他の業界との一番の違いは、高齢者介護や高齢者住宅に関する知識がまったくないということ。
 普通の業界であれば、飲食店(例えばラーメン店)を開業するとしても、少なくとも数年間は他の店で修業をして、スープの味を研究したり、そのビジネスモデルや経営ノウハウ、失敗事例、成功事例などを検討してから、出店するだろう。

 しかし、この業界の経営者には、介護福祉士や社会福祉士、ケアマネジメントなどの国家資格を所持している人は極めて少ない。「介護するのは初めて」「介護なんてしたこともない」という人が多数を占める。建築業で独立する、IT企業を立ちあげるのに、「大工の経験も建築業界で働いたこともない」「コンピューターのことなんて何も知らない」と言っているのと同じだ。

 経営コンサルタントとして、介護経営や高齢者住宅開設のセミナーに呼ばれて話をすることが多いが、参加者の多くは、介護保険制度がどのような制度なのか、個別ケア、ケアマネジメントという言葉さえも知らない。知ろうともしないと言った方が良いかもしれない。「それは、介護の現場のケアマネジャーや介護福祉士が考える事なので経営者には関係ない」「僕は経営者なので現場には口出ししない」と口にする人もいる。
 自分たちの提供するサービスや商品に興味がないのだろうか。


「元気な時に入居して、重度要介護・認知症になっても安心・快適」
「自立要支援から重度要介護・認知症まで対応可」


 そうセールスしているのも素人事業者の特徴だ。
 第二章で述べたように、自立要支援向け住宅と要介護向け住宅は、基本となる商品・ビジネスモデルが違う。しかし、現在の高齢者住宅のビジネスモデル・商品設計をみると、「要介護向け住宅セールスしているのに食堂・居室フロア分離型」「個別契約型なのに認知症対応可」など、どちらでもないチグハグなものが多い。
 それは小学校をつくるのか、大学をつくるのか、どんな校舎・校庭が必要になるのか、何を教えるのかさえ考えないまま、建物をたて、適当に机と先生だけをかき集めた学校のようなものだ。介護をしたことも、高齢者住宅で働いたこともなく、「高齢者住宅の需要が増える=高齢者住宅を作ればもうかる」という発想以外には何もない。それは「小学生から大学生まで誰でも入れる学校だとすれば、対象者がたくさんになって、入学希望者が増えるはずだ」という、あまりにチープな発想でしかない。


 俗に言われる「早めの住み替えニーズ」も同じ。
 確かに、独居高齢者は増えているため、「要介護になる前に高齢者住宅に住み替えたい」というニーズはあるだろう。事業としても、要介護高齢者だけでなく、自立・要支援高齢者にまで対象(ターゲット)を広げれば、それだけ多くの入居者が集まると思うのかもしれない。
 しかし、介護サービス一つをとっても、「要支援・軽度要介護」と「中度~重度要介護」の介護は、サービス量だけでなくその中身が違う。認知症介護と身体介護とは介助の方法、視点が変わってくる。建物設備設計の考え方も契約形態も根本的に違う。ターゲットを広げれば、それだけ多様なニーズ、多様なリスクに対応しなければならないため、経営もサービスも安定しない。

 【「要介護向け住宅」しか事業は安定しない🔗】で示したように、一つの高齢者住宅で、自立要支援から身体重度、認知症高齢者まで対応することはできない。特に、「早めの住み替えニーズ」は、様々な要介護状態の高齢者が混在するため事故や多発し、また、当初は自立要支援高齢者が多くても、加齢によって重度要介護高齢者・認知症高齢者が増えるため、どこかの段階で商品が破綻するのだ。
 「高齢者住宅事業は、そう簡単なものではない」
 「介護現場を全く知らないのに、安易に参入しても失敗する」
 当たり前のことを説明をしても、「高齢者住宅の需要は増えるから、儲かるに違いない」という一点突破の思い込みからは、離れられない人が多い。
 こんな素人経営者がたくさんいる業界は、介護業界以外にはない。


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