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高齢者住宅の商品性・ビジネスモデルはどこに向かうのか


これからの高齢者住宅は現在の「自立・要支援高齢者向け住宅」ではなく、「要介護高齢者向け住宅」に集約されていく。その「対象・ターゲット」「建物設備設計」「介護システム」「サービス・機能」など、求められるビジネスモデル、商品設計の基本について整理する。

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もう一点は、高齢者住宅のビジネスモデルの方向性です。
自立高齢者と要介護高齢者のビジネスモデルは基本的に違うものです。
「特養ホームからの脱却」「介護保険のリバランス」によって、高齢者住宅の商品は、要介護3以上の「重度要介護高齢者専用住宅」に集約されていることになります。
その商品性の詳細については、開設者向けの「PLANING(リンク)」で述べていますが、ここでは簡単に「対象」「建物設備」「介護システム」「サービス・機能」から、これからの高齢者住宅のビジネスモデルについて整理します。

① 対象・ターゲット

一つは、対象・ターゲットです。
老人福祉施設はどこに向かうのか🔗で述べたように、特養ホームは認知症高齢者、要福祉の高齢者の住まいとして役割が限定され、要介護高齢者は高齢者住宅へという役割・対象者の分離が進みます。
これからの高齢者住宅の対象の中心となるのが「身体重度」の要介護高齢者です。
要支援、要介護1、2といった要介護状態のときには、デイサービスや訪問介護、またそれぞれの市町村の配食サービス、総合事業を使って自宅で生活し、24時間365日の介助が必要となった場合、介護機能の整った高齢者住宅に入居するというのが基本的な流れです。
富裕層の中には、自立や軽度要介護状態でも、早くから高齢者住宅に入居したいという人や、特養ホームや老健施設以上に広い居室で生活し、医療や認知症ケアを受けたいという人もいます。東京や大阪などの大都市部では、その富裕層ニーズに合わせて、商品性・ターゲットが広がることになります。

② 建物設備設計

居室は、その広さに関わらず車いすでも移動しやすいワンルームタイプの個室が中心です。
重度要介護高齢者の安全な入浴には、シャワーキャリー(浴室用車いす)やつり上げリフトなど、安全に入浴や脱衣ができる、またその介助のしやすい広い入浴環境が必要です。そのため、浴室・脱衣室は居室内に設置するのではなく共用となります。

また、現在、ほとんどすべての有料老人ホーム、サ高住の居室にはトイレが設置されていますが、これも検討が必要です。要介護状態が重くなると、排せつ介助、おむつ排せつの高齢者が増えるため、狭い居室内トイレではなく、介助しやすい広い共用部のトイレを使う人が多くなります。自立排せつの人でも、車いす利用の高齢者は、「ベッドから車いすに乗り変えていくのでは、間に合わない」と、ポータブルトイレを利用する人が増えます。

使わない居室内トイレは、居室や入口が狭くなるため車いすでは出入りしにくくなりますし、その利用の有無に関わらず、家賃は高くなります。また利用の有無に関わらず定期的にトイレ掃除が必要になるため、介助スタッフの手間も増えます。
「施設ではなく個人の住宅なのだから、トイレは必置だ」と反論する人が多いのですが、「トイレくらいは居室内にあったほうがいい」という人は(少し高額でも)そういう部屋を選べば良いことです。「必ずすべての居室内にあるべき」という理想の押し付けは好ましくありません。

重度要介護高齢者の建物設備は、居室内ではなく、共用部・共用設備の充実が必要です。
特に、居室・浴室・食堂は同一フロアが原則です。車いす利用の高齢者が多くなるため、エレベーターを使用しないで日常生活をおくることができるコンパクトな生活動線の設定が必要です。
これは介護のしやすさをはかる介護動線にも関係しています。重度要介護高齢者は、「入浴介助」「食事介助」というポイント介助ではなく、移動や移乗、また見守りや声かけ、様子観察など様々な介助の連続です。「食堂」「浴室」が居住空間と分離すると、介護スタッフ間の業務や連携が分断され、移動介助にばかり手間や時間がかかるため、事故やトラブルが多くなります。

③  介護システム

高齢者住宅の制度はどこに向かうのか🔗で述べたように、これからの高齢者住宅は、介護サービスの提供責任の明確化という観点から、包括算定方式である「特定施設入居者生活介護」、もしくは高齢者住宅事業者が外部の訪問介護や通所介護事業者と提携して入居者に介護サービスを提供する「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」が基本になります。
ただ、高齢者住宅に適用される介護報酬は、それだけで入居者を支えるものではなく、それぞれの高齢者住宅で質の高い介護システムを構築するためのツールです。
「介護付だから、介護が必要になっても安心」ではなく、
「食事の時間に、見守りなど安全に食事ができるスタッフが揃っているか」
「事故リスクの高い入浴は、マンツーマンで介助できる体制になっているか」
「夜勤帯の介助は、過重労働にならずに適切に休憩が取れる体制になっているか」
など、それぞれの高齢者住宅で、重度要介護高齢者が増えても安全に生活できる介護システム、介護看護スタッフが安全に介助できる労働環境を整備しなければなりません。

この介護システム検討は、②で述べた建物設備設計と大きく関係してきます。
例えば、下の図のCタイプは、現在のユニット型特養ホームの基準で、10人×6ユニットで三フロアに分かれ、それぞれのユニットに食堂と浴室が設置されています。これに対してBタイプは15人×4ユニットで二フロアに分かれており、フロア毎に食堂や浴室が配置されています。
BタイプもCタイプも定員数は同じ60名ですが、平均要介護度の変化に合わせて、必要となる介護看護スタッフ数を比較すると8人~9人の差がでます。

これは定員の規模にも関わってきます。高齢者住宅の経営は、効率的な定員数というものがある程度決まっています。定員数が少なくなれば、建築費だけでなく、運営の人件費も高くなります。「小規模の高齢者住宅が理想」という人がいますが、30人定員の高齢者住宅は、60人定員の高齢者住宅の半分の介護看護スタッフ数で運営できるというものではありません。60名定員の高齢者住宅と、30名定員の高齢者住宅を二つ作るのとでは、後者の介護看護スタッフ数は、相当多くなります。
現在でも、特養ホームや特定施設入居者生活介護で、二九名以下の「地域密着型」というものが報酬設定されていますが、これは「山間部などでニーズが限定される」という特殊な環境のもとで整備されるもので、民間の営利目的の事業には不適格なものです。

建物設備や定員規模によって、介護スタッフの介護のしやすさや、必要配置は変わってきます。
現在の介護付有料老人ホームは、【3:1配置】【2:1配置】と一律に決めていますが、そのような硬直的、画一的な介護システムでは、これからの重度要介護高齢者の増加に対応できません。要介護高齢者住宅の介護システムは、建物設備と一体的に要介護状態の変化に合わせて、安全に生活、介助できる体制をシミュレーションして構築し、その一部を介護保険適用でカバーするという発想の転換が必要です。

④ 強化すべき機能・サービス

これからの高齢者住宅に不可欠となるのが、医療ケアの充実と、ターミナルケアです。
高齢者の医療は、若年層の医療とは違い、ケガや病気など緊急時に必要となるものではなく、介護と同じく日常生活に欠かせないサービスです。
また、同時に「病気を治せばよい」という単純なものではありません。
入院や手術というものは、高齢者にとっては非常に大きな副作用を伴います。それまで歩いて生活し、トイレや食事も自立していた人が、一週間程度の入院で、寝たきり状態となり、トイレも食事も自分でできなくなり、加えて認知症を発症する人もいます。

多くの高齢者住宅では、「協力病院」を定めていますが、中には「病院のベッドの空所を高齢者住宅の入居者で埋める」といった本末転倒のところもあり、「肝機能が少し低下している」と無理やりに理由をつけ、病院の経営の都合で強制的に入院・退院させるところもあります。それは医療費の無駄、搾取というだけでなく、「医療が高齢者の生活を崩壊させる」「医療が高齢者の命を縮める」というケースも少なくありません。

以前、勤めていた老人ホームで、家族や入居者と個別面談をして、どのような医療を受けたいのかを聞いたところ、九割以上の人は「無理な延命や入院はしたくない」「痛くないように、苦しくないようにだけしてほしい」という回答でした。これからは、「ケアプラン・介護サービス計画」と同じように、本人や家族が、病気になった場合、どのような医療を受けたいのか、どのような終末期を迎えたいのかを、高齢者住宅や医師と事前に話し合って、ある程度の方向性を定めておくということになるでしょう。

医療の充実のためには、「協力病院」ではなく、高齢者や家族の望む医療を提供してくれる、在宅医、診療所との連携が不可欠になります。また、疾病の急変、突然死、家族が間に合わない場合など、様々な可能性やリスクを丁寧に説明しなければなりませんし、それに合わせた、介護スタッフの教育訓練やノウハウも必要です。
これからは、高齢者は病院ではなく、自宅や高齢者住宅で亡くなるというのが一般的になります。
医療ケアの充実、看取り介護(ターミナルケア)は、これからの高齢者住宅には不可欠な機能なのです。

【関連 (開設者予定者向け連載)】  高齢者住宅の崩壊と成長の時代がやってくる

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  ⇒ 現在の特養ホーム・老人福祉施設はどこに向かうのか 🔗
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