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介護離職は世代を跨いだ負のスパイラルへ

これから、介護離職が激増することが予測されています。
「大切な親だから、自分で介護したい…」
「税金も保険料も、自己負担も上がるから、自分で介護したほうがいい」
「子育ても終わったとこだし、実家に帰ってゆっくりするか・・・」
それぞれに、介護離職に向かう理由はあるはずです。
ただ、親の介護が子供の育児と一番違うところは、事前に「要介護期間、要介護状態が予測できない」ということです。それは、どのような介護が必要になるのか、それにどの程度お金がかかるのか、それがどの程度まで続くのか、計画ができないということです。

介護離職のリスクの三つ目は、子供家族の崩壊のリスクです。
夫婦の場合、要介護になるのは、自分の親だけではありません。

「そっちの親はいいけど、こっちの親が要介護になったらどうするの?」
「うちの家に嫁にきたんだから、うちの親が優先だろう」
「わたしは、田舎で暮らすのは嫌ですよ。行くならあなた一人で行ってください」
親の介護が、夫婦間の諍いの原因となるケースは多く、介護別居、介護単身赴任が、いつの間にか、「介護離婚」にまで進むケースは少なくありません。


「どうして、長男だからって、うちばかりが負担しないといけないの」
「次男や妹は、『忙しいから無理』と言って、押し付けっぱなし」
次第に、他の兄弟姉妹との関係も悪くなっていきます。
親の介護をどうするのかは、家族の話し合いで決めることになりますが、公平に分担するということは容易ではありません。「できることは何でもやるから言ってね」という人は多いのですが、それでは一番負担している人が、普段何もしない人にお願いをするということになってしまいます。「お盆やお正月に数日だけ…」「たまに帰ってきて、自分も協力した気になっている…」というケースがほとんどです。
介護離職をしたからと言って、その収入や退職金の減額分、年金が減った分を残りの兄弟で分担してくれるかと言えば、そんな話しは聞いたことがありません。

最も大きいのが、お金の問題です。
多くの介護離職者が陥るのが、金銭的な困窮です。
「親の状態が落ち着けば仕事を探す」という人もいますが、40代、50代で、常勤で自分の望む仕事、かつ残業もなく介護と両立できる仕事など、よほどの特殊技術をもつか、幸運が重ならない限り見つかりません。実際、介護離職をして再就職できた人の割合は50%程度、常勤で働ける人は二割に満たないと言われています。看護師や介護福祉士などの全国で人材が不足しているエッセンシャルワークでなければ、常勤職で復職することはほぼ不可能です。
結局、「年金や貯金があるから、ゆっくり探そう」と、ずるずると先延ばしになります。そして、そのまま二年、三年が経つと、働く気力がなくなっていきます。

「親の貯金や年金もあるから」という人も多いのですが、それは甘い考えです。
一般サラリーマンで、働きながら1000万円、2000万円を貯蓄するには、10年~15年かかりますが、働かなければ数年でなくなります。親の介護を抱えながら、切り詰めた生活を持続するのは苦しいものですし、親が死亡すれば年金はなくなります。早期退職のため、退職金・年金ともに少なく、ストレスから糖尿病や高血圧などのリスクも高くなり、70代、80代になれば、あなたも介護が必要になります。


80代の親の介護をするために50代で介護離職をすると、「親+自分の生活費」が10年~15年、「その後の自分の生活費」が10年~15年、更に「自分が要介護状態になった時の生活費」が10年~15年程度は必要になります。
更に今後、年金支給額や年金支給開始年齢の見直し、固定資産税や市民税の増税、介護医療保険料の値上げ、医療介護が必要になった時の自己負担の値上げが予想されます。そう考えると、50代で介護離職をするには、親の年金、自分の年金以外に、預貯金が五千万円以上はないと余裕をもって介護離職後の生活を維持することはできないでしょう。
今でも、親が亡くなった途端に生活保護の受給申請という人が少なくありません。近年、「パラサイト・シングル」「8050問題」が社会問題として取り上げられることがありますが、40代、50代での介護目的の離職・同居であっても、結果は同じことになります。

さらにそれは、孫世代の人生や進学にも大きく影響してきます。
お爺ちゃんの介護が原因で、両親が離婚、父親は介護離職して収入がなくなり、子供が望む進学ができなくなれば、その貧困のスパイラルは、何世代にもわたって続いていくのです。

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