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ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計


重度要介護高齢者住宅は、居室・浴室食堂同一フロア・同一介護システムのユニットケアが原則。ただし、10人1ユニットはあまりにも非効率であるため、介護スタッフの精神的・肉体的負担が大きくなる。メリットを活かしたまま介護の効率性、働きやすさを基礎とした緩やかなユニットに移行する必要がある。

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 021


高齢者住宅は「居室・食堂同一フロア」が鉄則🔗、 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計🔗で述べたように、居室と食堂・浴室は同一フロアが鉄則です。「同一フロアタイプ」言うと、高齢者住宅に少し詳しい人はユニットケアを思い浮かべるでしょう。そのため、「要介護高齢者対応はユニットケアだ」という人も多いのですが、そう単純な話ではありません。
プロの視点から、一歩踏み込んでそのメリット・デメリットについて考えます。


高齢者介護のユニットケアとは何か

ケアマネジメントによる個別ケアの概念が導入されるまで、特養ホームでの介護は、時間を決めての一斉トイレ介助、流れ作業の入浴介助など、老人ホームの決めた日課・スケジュールに従って集団的に介助を提供するという手法がとられてきました。
しかし、このような介助方法では、入居者個々人の生活支援という視点が乏しいだけでなく、サービスに対する依存心がたかまり、生活意欲を失わせることになります。そのため、「集団的なケア」ではなく、それぞれの生活リズム、個別ニーズに基づく「個別ケア」の重要性が叫ばれるようになりました。

この「個別ケアの実践」の手法として、「建物設備×介護システム」の一体的検討の中で考え出されたのがユニットケアです。京都大学の外山義教授の研究によって、施設の居室を10人程度のユニットにし、ユニット単位で食事や入浴、レクレーションを行うユニットケアが提唱され、特養ホームや介護付有料老人ホームの建築・介護手法に大きな影響を与えました。


要介護高齢者の生活支援には、食事、排泄、入浴といったポイント介助ではなく、生活の連続性・ケアの継続性の視点が重要です。毎日違う介護、看護スタッフが、その場だけの排泄介助、食事介助を行っても、全体として質の高いサービスを提供することはできません。特に、重度要介護高齢者、認知症高齢者の場合、日々の体調や要介護状態の変化が大きく、またその変化やニーズを表すことのできない人が多いため、介護スタッフが、小さな変化に積極的に気が付いて介助を行わなければなりません。
ユニットケアでは、介護スタッフはユニット単位で配置され、一人一人の心身の状況やその変化をユニット内の全スタッフが把握し、生活環境、個別ニーズに即した個別ケアが行われます。調査によると、このユニットケアによって入居者の食事量が増加し、ポータブルトイレの設置台数が減るなど、入居者の生活向上に様々なメリットがあることが、報告されています。
そのため、現在のユニット型特養ホームは、この10人1ユニットのユニットケアが原則となっています。

しかし、デメリットもあります。
このユニットケアを行うには、あまりにもたくさんの介護スタッフが必要になるということです。
なぜユニット型特養ホームをつくってはいけないのか🔗で述べたように、現在のユニット型特養ホームには、基準配置の二倍程度の【1.7:1配置】の介護スタッフ配置が必要になります。「福祉施設なので【3:1配置】【2:1配置】でも、それに応じた基本的な介護をすればいい」という人がいますが、基準程度の配置では、ユニットケアは機能せず、最低限の介護サービスさえも提供できません。
また、ユニット単位でスタッフを固定すると、スタッフの都合に合わせてスムーズな勤務割ができないことや、夜勤帯は他のユニットの入居者も介助しなければならないため、逆に状態把握が不十分で、事故やトラブルが増えると指摘する人もいます。

ユニットケア自体は、素晴らしい考え方ですし、「集団的なケア」から「個別ケア」への実践だけでなく、建物設備設計が介護システム、要介護高齢者の生活に大きな影響を与えることを初めて明らかにした、画期的な研究です。ただ、理想のみを追求したがゆえに、介護システムを含め、ビジネスモデルとしてみるとあまりにも非効率なのです。


ユニットケアを基礎とした効率的・効果的なシステムを

高齢者住宅は民間の営利事業ですから、非効率なユニット型個室特養ホームの【10人1ユニット】のユニットケアをそのまま引き継ぐことはできません。現在のユニットケアから見えてきた課題と、その手法やノウハウ、メリットを活かし、個別ケアを基礎とした効率的・効果的な建物設備のあり方を検討しなければなりません。
「ユニットの関連性」と「ユニット規模」から、二つの考えを示しておきます。

【フロア単位でユニットを形成し、食堂や浴室はフロア単位で設置】

一つは、「食事も入浴もすべてユニット単位内で完結」というものではなく、食堂や浴室は、フロア単位で設置し、複数のユニットが共有する緩やかなシステムで、介護サービスを提供するというものです。
この10人1ユニットのユニットケアに、なぜたくさんの介護スタッフが必要になるかと言えば、それぞれのユニット単位で介助を完結しなければならないからです。

食事介助の時間帯を例にあげてみましょう。
食事介助は、まったく自分では食べられない「全介助」のほか、促しや適宜のケアで対応できる「一部介助」、誤嚥や窒息予防のための「見守り・声掛け介助」など多岐に渡ります。
「全介助の高齢者が3人いる場合、介護スタッフが3人必要」「一部介助2人に対して介護スタッフ1人」というマンツーマンではなく、一人の介護スタッフが二人の全介助の高齢者の介助をしながら、他の入居者を促し、「ゆっくり食べてくださいね・・」といった声掛けを行っています。

ただ、高齢者の数に関わらず、ユニット当たり最低2人の介護スタッフは必要です。
直接的な食事介助だけではなく、食事の配膳や下膳を行う必要がありますし、食事中に排せつ介助や、誤嚥への対応が必要になった場合、他の高齢者の食事が止まってしまうことになるからです。
介助高齢者が増えてきた場合、2人ではなく3人、4人と介護スタッフを増やさなければなりません。 2ユニット単位で見ると6人、8人と必要な介護スタッフ数が倍々で増えていくのです。

これに対して、右図のように食堂を20人で一つにすると、全介助の食事介助が必要な高齢者が少なければ、3人では対応することが可能です。食事介助が必要な高齢者数に応じて、4人、5人、6人と細かく介護スタッフをふやしていくことができます。

これは、介護スタッフ一人一人の労働負荷にも関わってきます。
例えば、1ユニット当たり2人で食事介助をしている場合、一人の入居者が風邪などで、居室介助する場合や、排泄や誤嚥、急変などで1人のスタッフが付き切りになる場合、他の入居者を1人の介護スタッフだけで対応しなければならず、その労働負荷は2倍になります。
これに対して、20人の入居者に対して4人で介助している場合、1人の介護スタッフが食堂から抜けても、他の介護スタッフの労働負荷は1.33倍です。
食事が終わった人から、片付けを行ったり、居室への送迎をしたりということもできます。このように、【10:2】と【20:4】は、数学上の対比は同じですが、実際の介護スタッフの動き、一人当たりの労働負荷は全く変わってくるのです。

これは食事だけでなく、入浴の介護スタッフ配置も同じです。
ユニットを完全に崩す必要はありませんが、双方が協力し合いながらケアができるように、「ユニット単位」ではなく、「フロア単位」で、介護システムを緩やかに融合するだけで、効率性や介護のしやすさは大きく向上するのです。

【ユニット・フロア単位の最適な入居者数】

ユニットケアは、「ユニット内で介護スタッフを限定して、介護を行う」ということが前提ですが、ユニット型特養ホームのような10人1ユニットだとユニット当たりの介護スタッフは6名程度となり、希望休暇や勤務体制のやりくりが難しくなります。また、夜勤はユニット単位で一人の介護スタッフがついて行うわけではありませんから、Aのユニットのスタッフが、普段介助していないBのユニットのケアも行うことになります。そのため、現在の特養ホームでも、実際はA、Bのユニット単体で固定するのではなく、A・Bのユニットで一つの介護システムを構築している特養ホームが少なくありません。

ここでもう一つの検討課題となるのは、ユニット・フロア単位の最適な入居者数です。
全体の入居者の定員数が同じでも、ユニット内の定員数(居室数)が少なくなればなるほど、介護システムは細かく分散されますから、それだけたくさんの介護スタッフ数が必要になります。同様に、居室階と食堂・浴室フロアが同一であっても、フロアごとの定員数が少なくなれば、たくさんの介護スタッフ数が必要になります。
もちろん、多ければ多いほど効率的かと言えばそうではありませんし、あまり多すぎると、「少人数単位の状況把握を基礎とした個別ケア」という理念そのものが崩れてしまいます。

「最適な人数は〇〇人だ!!」と決められるものではありませんが、1フロア25人~30人程度が、最も介護スタッフが働きやすく、効率的な介護ができるのではないかと考えています。

そう考える、最大の理由は夜勤体制です。
60名の定員数の介護付有料老人ホームで、【20名(上記の例)×3フロア】のタイプの建物と、【30名×2フロア】の建物で、3人の介護スタッフの夜勤体制を考えてみます。
【20名×3フロア】の場合、1フロア毎に1人の介護スタッフですから、一人が休憩をすると、自分のフロア以外に他のフロアのスタッフの介護を行う必要があります。目が行き届かなくなりますし、コールに対して階段をつかって走り回ることになり、かなり大変です。また、急変や転倒が発生した場合も、他のスタッフの応援を頼むことができませんから、一人で対応しなければなりません。

これに対して、【30名×2フロア】の場合、同じ3人でも、各フロアに一人ずつ介護スタッフが配置されるため、残りの一人が休憩をとることができますし、急変や転倒があった場合も、そのフロアに2人体制で介護を行うことができます。
身体的な負担というよりも、精神的な負担の違いは非常に大きいのです。


以上、現在のユニット型特養ホームのユニットケアの利点と課題から、「緩やかやユニットケア」「ユニット単位の最適な定員数」という二つの視点、方向性を挙げました。

同じ、「居室階、食堂・浴室同一フロア」という、要介護高齢者住宅の鉄則に基づいても、【10人1ユニット】【ユニット毎に食堂・浴室】という現在のユニット型特養ホームタイプと、【15人1ユニット】【食堂・浴室は共同】という緩やかなユニットケアタイプを、実際の業務シミュレーションの中で比較すると、必要な介護スタッフ数は8人~9人変わってくることがわかっています。

これは、「介護スタッフが少なくて済む」という単純な話ではありません。「介護のしやすさ」は介護スタッフの身体的・精神的な介護負担の軽減だけでなく、入居者に対する介護サービスの向上、ひいては、一人一人の労働条件のアップにもつながります。「要介護高齢者が安全に暮らせる生活環境」は「スタッフが安全に介護できる労働環境」と同意です。高齢者住宅の設計は、「強い高齢者住宅のビジネスモデル」の基礎だということがわかるでしょう。

もちろん、建物設計は土地の広さや形状によっても規制されますし、その他の検討事項もたくさんありますから、【これが最終的な答えだ!!】というものではありません。ただ、「要介護高齢者対応はユニット型だ・・」「浴室・食堂は同一フロアであればよい」という単純な話ではなく、強い商品を作るためには、「個別ケア」を基礎としつつ、生活動線、介護動線、そして介護スタッフの動き、実務をしっかり理解して、効率性の高い建物設備を設計する必要があるのです。


要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~

  ⇒ 高齢者住宅 建物設備設計の基礎となる5つの視点
  ⇒ 「安心・快適」の基礎は火災・災害への安全性の確保
  ⇒ 建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことかできる 
  ⇒ 高齢者住宅設計に不可欠な「可変性」「汎用性」の視点 
  ⇒ 要介護高齢者住宅は「居室」「食堂」は同一フロアが鉄則 
  ⇒ 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計・入浴設備 
  ⇒  ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計 
  ⇒ 長期安定経営に不可欠なローコスト化と修繕対策の検討
  ⇒ 高齢者住宅事業の成否のカギを握る「設計事務所」の選択 

要介護高齢者住宅の基本設計 ~介護システム設計の鉄則~

  ⇒   「特定施設の指定配置基準=基本介護システム」という誤解
  ⇒ 区分支給限度額方式では、介護システムは構築できない
  ⇒ 現行制度継続を前提にして介護システムを構築してはいけない 
  ⇒ 運営中の高齢者住宅「介護システムの脆弱性」を指摘する 
  ⇒ 重度要介護高齢者に対応できる介護システム 4つの鉄則 
  ⇒ 介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護 
  ⇒ 要介護高齢者住宅 基本介護システムのモデルは二種類 
  ⇒ 高齢者住宅では対応できない「非対象」高齢者を理解する 
  ⇒ 要介護高齢者住宅の介護システム 構築から運用への視点 
  ⇒ 介護システム 避けて通れない「看取りケア」の議論 
  ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ① 
  ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ② 



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