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運営中の高齢者住宅 「介護システムの脆弱性」を指摘する


高齢者住宅の介護システムの可否は、リスクマネジメントに集約される。現在の低価格の介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サ高住の介護システムは何が間違っているのか。何故、経営・サービスが安定しないのか。現在運営中の高齢者住宅の八割を占める「脆弱な介護システム」のリスクについて指摘する

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 027


いまの高齢者住宅は、「サ高住だ、介護付有料老人ホームだ」という制度選択の時代です。
しかし、トラブルや倒産の増加によって、一気に「商品性・サービス力」の時代に変わります。それは高齢者住宅業界が本格的な競争の時代に入るということを意味しています。経営収支、入居者の生活、労働環境を安定させるには、民間企業の創意工夫、ノウハウの積み重ねによって、より強い商品性、介護システムを探求、構築していかなければなりません。
ここまでの議論を含めて、現在運営中の高齢者住宅の8割を占めると言われている低価格化モデルの「介護システムの脆弱性」について考えます。


「強い介護システム」は利益率の高い介護システムではない

まず、考えなければならないことは、「強い介護システム、強い商品性とは何か」です。
一般的な商品で言えば、「利益率の高い商品」「よく売れる商品」ということになるでしょうが、高齢者住宅や介護ビジネスは、まったく逆の発想が必要です。

その理由の一つは、高い利益率が継続できる事業ではないということです。
高齢者住宅は「特許」で守られるような性質の事業ではありません。「あの手法は利益が高いぞ…」となると、類似の高齢者住宅が次々とでてきます。
また、「現行制度継続を前提に介護システムを構築してはいけない🔗」で述べたように、収入の基礎を公的な社会保障制度に依存した「A to B to C」の商品ですから、制度上の矛盾を突いたり、介護報酬や診療報酬をうまく使って高い利益を出すというビジネスモデルは通用しません。介護保険財政は極度に逼迫しており「高い利益がでているなら、介護報酬を下げよう…」「矛盾や抜け道はふさいでいこう…」ということになるからです。

もう一つの理由は、価格設定、サービス内容を途中で変えられないということです。
私たちの周りには、新商品・新サービスが溢れていますが、実際はそれ以上の種類の商品・サービスが消えています。5年前、10年前に大ヒットを飛ばした商品であっても、今、そのまま残っているものはほとんどありません。新しい機能を付加したモデルチェンジが加えられています。
しかし、高齢者住宅は不動産商品です。社会環境や経営環境が変化しても、途中で建物設備や介護システムを大きく変えることはできません。介護報酬が下がっても、スタッフが不足しても、不正に対する締め付けが強化されても、ビジネスモデルは変えられないのです。

では、強い高齢者住宅のビジネスモデル・介護システムとはどのようなものか。
その診断の起点となるものが、「リスク」です。
今後、自宅で生活できない重度要介護高齢者の増加、少子高齢化による家族介護機能の低下によって、高齢者住宅の需要は確実に高まります。その一方で、社会保障財政の悪化、労働人口の減少など、その経営環境は厳しくなります。入居者・家族の権利意識は強くなり、事故やトラブル、クレームも増加します。
つまり、強い高齢者住宅、強い介護システムとは、「経営環境の変化、サービス上のトラブルなど、事業を不安定にする様々なリスクに強い介護システム、商品」なのです。
介護システム構築においては、サービスや経営を不安定にするリスクを理解し、その対策・対応ができているのかを検討する必要があるのです。
ここまでの議論をもとに、経営・サービスを不安定にする「リスク」という観点から、現在の高齢者住宅の介護システムの脆弱性について整理します。


指定基準配置の介護付有料老人ホームのリスク

まずは、特定施設入居者生活介護の指定配置基準の介護付有料老人ホームの介護システムです。
低価格の介護付有料老人ホームは【3:1配置】~【2.5:1配置】程度のものが多いのですが、 「特定施設の配置基準=基本介護システム」という誤解 🔗 で述べたように、基準配置程度では重度要介護高齢者の増加に対応できません。
その結果、転倒、転落、誤嚥などの事故が激増し、入居者、家族からのサービスに関する不満やクレームも増えていきます。防災対策や手洗い、うがいなどの徹底ができず、入居者の異変にも気づくこと難しく、災害対策や感染症のリスクも増加します。無理な体制での介護による労務災害や、「サービス飛ばし」「入居者に対する暴言」などの虐待発生のリスクも高くなります。

最近、介護業界でも、介護事故やクレーム、トラブルに対する「リスクマネジメント」という言葉がよく聞かれるようになりましたが、それは介護技術や知識、サービス管理のノウハウだけで対応できるものではありません。「事故報告書だ!!」「見守り強化だ!!」と言ってみても、絶対的にスタッフが足りていない時点で、事故、トラブル予防には限界があるのです。

最大のリスクは、介護スタッフの確保ができなくなることです。
基準配置程度の介護付有料老人ホームで重度要介護高齢者が増えると、その負担は少ない人数で対応しなければならない介護スタッフに集中し、過重労働となります。事故やクレーム、労災などのトラブルが増えると、更に離職率は増加し、「あそこは大変だ…」と新しい介護スタッフは入ってこなくなります。
それでも法律で定められた介護スタッフは確保しておかなければなりませんから、高額な派遣会社利用の人件費や、スタッフ募集の広告費用がかかります。

「景気が鈍化すれば、介護労働市場にも人は戻ってくる」という見通しは正しいのですが、それでも介護労働環境の低い低価格の介護付有料老人ホームに人は戻ってきません。
現在の基準配置の介護付有料老人ホームには、要介護1、2程度の軽度要介護高齢者が多いのですが、重度要介護高齢者が増えてくれば、介護労働環境は、より悪くなっていきます。その結果、更に事故やトラブルが増加し、更にスタッフが辞めていくという負のスパイラルに陥ることになります。

加えて、制度変更リスクも、経営に大きな影響を及ぼします。
述べたように、介護保険の自己負担は、今後、2割、3割負担と増えていきます。この基準配置のものは、20万円前後と有料老人ホームとしては低価格化路線のものが多いのですが、自己負担は5万円、8万円と上がりますから、30万円に近づくことになり、そのターゲットを直撃することになります。
今後は、ポイント介助で対応できる要支援、軽度要介護の時は自宅で生活し、高齢者住宅は重度要介護高齢者になってから入居するというスタイルが一般的になりますが、低価格の介護付有料老人ホームは、重度要介護高齢者に対応できない「介護付」という矛盾とジレンマを抱えることになります。


サ高住・住宅型有料老人ホームのリスク

もう一つは、区分支給限度額方式のサ高住や住宅型有料老人ホームです。
そのリスクの背景にあるのは法令違反です。

現在の低価格の住宅型有料老人ホーム、サ高住の大半は、低価格の家賃設定で入居者を集め、同一法人・関連法人で訪問介護、通所介護などを運営し、要介護高齢者を囲い込んで、介護サービス、医療サービスの利用促進で利益を上げようという「囲い込み」と呼ばれるビジネスモデルです。これを低価格モデルだという人もいますが、その低価格は企業努力ではなく、制度矛盾をついて、入居者負担を社会保障費に付け替えているにすぎません。
介護保険制度や介護報酬が改定されなくても、「それ不正ですよ・・」と言われた時点でビジネスモデルは崩壊します。

 【TOPIX 「囲い込み」とは何か、何が問題なのか】

中でも、倒産が激増しているのが、一か所しか運営していない単独のサ高住です。
平成29年に出された野村総研の資料「高齢者向け住まい事業者の運営実態に関する調査」によれば、サ高住の約半数(49.3%)が、一か所しか運営していない単独経営、個人経営のものです。それは、サ高住は「補助金がでるから…」と、ノウハウも何もないままにデベロッパーやコンサルタントに言われて、遊休土地の有効利用で始めた人が多いからです。そのほとんどは、ノウハウどころか、自分がサ高住の事業者だ‥と言う責任感もなく「単なる家主」という認識でしかありません。

このようなサ高住は、実質的に、コンサルタントや併設の訪問介護サービス事業者が入居者募集やケアマネジメントを行っているのですが、入居者が集まらなくなったり、「囲い込み禁止」で制度の締め付けが厳しくなれば、彼らは「我さきに…」と逃げ出してしまいます。また、介護スタッフが集まらなかったり、不正請求によって倒産するリスクもあり、そうなれば、突然、サ高住の介護、食事サービスは止まり、入居者の生命にかかる問題に発展します。

それが、事業者間契約リスクと呼ばれるものです。責任感の乏しい単独の素人事業者が集まっている、不安定な積み木のような高齢者住宅なのです。


それは、介護スタッフの確保や事故やトラブルなどの業務上のリスクにも波及します。
囲い込みの不正に対して、指導監査によるチェックが厳しくなれば、働くホームヘルパーやケアマネジャーはいなくなります。不正が発覚すればその法的責任は個人のヘルパーやケアマネが負うことになるからです。また、現在のサ高住には、要支援・軽度要介護高齢者が多いのですが、重度要介護高齢者が増えてくれば、事故やトラブルも激増します。
「囲い込み型ビジネスモデル」の低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームは、制度上も業務上も維持することは不可能なのです。




以上、指定基準配置の介護付有料老人ホームと、サ高住・住宅型有料老人ホームの介護システムのリスクについて述べました。
残念ながら、現在の8割を超える高齢者住宅は、どちらかの介護システムです。
このようにリスクを整理すると「介護報酬が高い、低い」「介護スタッフは頑張っている、頑張っいない」という感情的な話ではなく、現在の高齢者住宅のビジネスモデル、介護システムそのものに致命的な欠陥があるということがわかるでしょう。
言いかえれば、これからの介護システムは、「利益率が高いビジネスモデル」ではなく、リスクの観点から、上記のような失敗例・失敗ケースをしっかり頭に入れて介護システムを構築する必要があるのです。



要介護高齢者住宅の商品設計 ~建物設備設計の鉄則~

  ⇒ 高齢者住宅 建物設備設計の基礎となる5つの視点
  ⇒ 「安心・快適」の基礎は火災・災害への安全性の確保
  ⇒ 建物設備設計の工夫で事故は確実に減らすことかできる 
  ⇒ 高齢者住宅設計に不可欠な「可変性」「汎用性」の視点 
  ⇒ 要介護高齢者住宅は「居室」「食堂」は同一フロアが鉄則 
  ⇒ 大きく変わる高齢者住宅の浴室脱衣室設計・入浴設備 
  ⇒ ユニットケアの利点と課題から見えてきた高齢者住宅設計 
  ⇒ 長期安定経営に不可欠なローコスト化と修繕対策の検討
  ⇒  高齢者住宅事業の成否のカギを握る「設計事務所」の選択 

要介護高齢者住宅の基本設計 ~介護システム設計の鉄則~

   ⇒  「特定施設の指定配置基準=基本介護システム」という誤解
   ⇒ 区分支給限度額方式では、介護システムは構築できない
   ⇒ 現行制度継続を前提にして介護システムを構築してはいけない 
   ⇒ 運営中の高齢者住宅 「介護システムの脆弱性」を指摘する 
   ⇒ 重度要介護高齢者に対応できる介護システム 4つの鉄則 
   ⇒ 介護システム構築 ツールとしての特定施設入居者生活介護 
   ⇒ 要介護高齢者住宅 基本介護システムのモデルは二種類 
   ⇒ 高齢者住宅では対応できない「非対象」高齢者を理解する 
   ⇒ 要介護高齢者住宅の介護システム 構築から運用への視点 
   ⇒ 介護システム 避けて通れない「看取りケア」の議論 
   ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ① 
   ⇒ 労働人口激減というリスクに介護はどう立ち向かうか ② 

 

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