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「要介護向け住宅」だけを規制した不可解な高齢者住宅施策

第2章で述べたように、高齢者住宅と言っても「自立要支援向け住宅」と「要介護向け住宅」は、商品性・ビジネスモデルが根本的に違う。

「自立向け住宅」「要介護向け住宅」の違い ~建物設備設計~    🔗
「自立向け住宅」「要介護向け住宅」の違い ~生活支援サービス~  🔗
「自立向け住宅」「要介護向け住宅」の違い ~介護システム (上)~  🔗
「自立向け住宅」「要介護向け住宅」の違い ~介護システム (下)~  🔗


 要介護向け住宅の介護システムの土台となるのは、「特定施設入居者生活介護」だ。重度要介護になれば、臨時のケア、隙間のケアを含め、24時間365日、包括的・連続的な介助が必要となる。認知症になると、本人がコールをしたり、体調不良を訴えることができないため、日々の生活行動、体調変化を見守りながらの介助が求められる。
 また、「特定施設入居者生活介護」の人員指定基準の中には、管理者(ホーム長など)、生活指導員、ケアマネジャーなども含まれている。介護看護サービスだけでなく、定期巡回や安否確認、生活相談、ケアマネジメントなどの各種サービスが提供され、サービスの見直し、家族への連絡相談、事故トラブルへの対応なども一体的に行われる。


 「区分支給限度額方式」では、臨時のケア、隙間のケア、見守り・声掛けなどに対応できないことや、個別契約でサービス提供責任が分散することから連携が難しく、重度要介護・認知症高齢者の介護システム・契約形態には適していない。
 繰り返し述べているように、絶対的に不足しているのは、「自立要支援向け住宅」ではなく、「要介護向け住宅」だ。特に単独の「自立要支援向け住宅」は、入居者間のトラブルが多く要介護状態の変化に対応できないため、経営・サービス共に安定しない。
 しかし、この10年の高齢者住宅の入居者数・登録数の推移をみるとそうはなっていない。

 下表のように「要介護向け住宅」に適した特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付有料老人ホームの居室の増加数は、この10年で65.8千人程度であるのに対し、「要介護向け住宅」には適さない区分支給限度額方式をとる住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、合わせて214.2千人(戸)と、介護付有料老人ホームの三倍以上に増えていることがわかるだろう。

 なぜ、このような事態になっているのか。
 それは、介護保険法の中で「特定施設入居者生活介護」だけが規制されてきたからだ。総量規制とは、介護保険事業計画で必要とされる介護サービスの見込み量(整備量)を定め、それを超える場合や計画の達成に支障が生じる恐れがあると認められる場合には、市町村あるいは都道府県が指定を拒否できるとしたものである。各市町村には、三年ごとに介護保険事業計画(施設・サービスなどの整備計画)を立てることが求められている。高齢者住宅は民間の営利事業であるため、行政が規制をすると「早い者勝ち」となり、事業者間競争が働かないというデメリットがある。一方で、その地域に必要数以上の高齢者住宅が乱立すれば、過当競争となり経営が不安定になるリスクもある。地域包括ケアシステムの中で、地域特性・地域ニーズを勘案し、高齢者住宅の必要数を見極め、計画的に整備をすることは必要だろう。
 しかし、規制されたのは介護付有料老人ホームのみで、住宅型有料老人ホームやサ高住は自由に開設されてきた。

 特に、サ高住はもともと自立高齢者を対象として制度化された高齢者住宅だ。建物設備基準は「要介護向け」ではなく「自立要支援向け」のものになっており、そのほとんどは建物設計も食堂フロアと居室フロアが分離したものとなっている。加えて、提供されるのは住宅サービスだけで、介護サービスやケアマネジメント、生活相談、安否゜確認などの各種生活支援サービスは、入居者が個別の外部の介護サービス事業者と個別契約することになっている。これを事業所あたり数千万円もの補助金支出や、固定資産税の税制優遇を行って作り続けてきたのだ。
 繰り返すが、これからの超後後期高齢者に置いて、必要とされるのは、「自立向け住宅」ではなく、「要介護向け住宅」だ。しかし、この厚労省と国交省の利権目的、補助金ありきの政策ミスによって、要介護高齢者の住まいには適さない高齢者住宅が、その七割を占めるという状況になっているのだ。

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