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小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 (証明)


地域密着型など定員が小さくなれば、介護システムの効率性は大きく低下する。【2:1配置】は指定基準配置の1.5倍だが、小規模で厳格なユニット型の建物配置では、とても手厚い介護配置とは呼べるようなものではなく、介護スタッフにとっては過酷な労働環境となる

高齢者住宅開設者向け 連載 『社会価値・市場価値の高い高齢者住宅をつくる』 047


現在のユニット型特養ホームは基準配置では介護できない(証明)🔗 で、現在のユニット型特養ホームに適用されている厳格な「10人1ユニット」のユニットケアは、【2.5:1配置】でも全く機能しないことを証明しました。
これは60名定員の例ですが、その規模が小さくなれば、介護スタッフの労働環境はさらに厳しくなります。それが地域密着型と呼ばれる、29名定員以下の特養ホームや、介護付有料老人ホームです。


地域密着型ユニット型特養ホーム 前提条件の整理

まずは、29名定員の地域密着型特養ホームの業務シミュレーションの前提条件を整理します。
29名のユニット型特養ホームも、10人1ユニットが原則で、ユニット単位で浴室・食堂に分離しています。29名ですから、ユニットは10名、10名、9名ということになり、9名のフロアと、10名×9名のフロアに分かれています。10人のユニット一つで介護システムを構築することはできないため、ここでは全体の29名で一つの介護システムを構築します。
現在の特養ホームの入居者は、原則要介護3以上に限定されていますが、措置入所などで若干数、要介護2の高齢者も入居しているものとし、平均要介護度は、3.7としています。


同様に、介護看護スタッフ配置と勤務体制を設定します。
特養ホーム(介護老人福祉施設)の介護看護スタッフ配置の指定基準は、【3:1配置】ですから、入居者29名に対して、常勤換算で9.7名です。
この9.7名で日勤や夜勤など24時間365日の勤務体制を組むことになります。介護スタッフの日中の介護システムは早出勤務(7時~16時)、日勤勤務(9時~18時)、遅出勤務(12時~21時)とし、夜勤は16時~翌朝の10時までの二勤務体制を採るものとします。看護師は、早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代をとります。介護看護スタッフの年間勤務日数は250日と設定します。

ここから、ユニット型特養ホームの建物設備設計、要介護度設定、労働条件で、どこまで介護できるのかを考えてみます。


地域密着型ユニット型特養ホーム 介護システムの検討

まずは、最低限必要となる看護師の数の設定です。
看護師は、朝食時の服薬管理から眠前の服薬管理までを行う必要があるため、早朝7時~21時まで、少なくとも一人の看護師が常駐するように配置します。一人で勤務することはできないため早出勤務(7時~16時)、遅出勤務(12時~21時)の二交代とします。


表のように、一日2名の勤務ですから、一年間に必要な看護スタッフの延べ人数は2名×365日=730日分です。一人当たりの勤務日数は250日ですから、これを割り返すと、常勤換算で2.9人の看護師が必要になります。29名以下の特養ホームや介護付有料老人ホームの場合、基準では看護師配置は常勤換算で1人でも良いということになっていますが、勤務日数は年間250日ですから、看護師の休みの日は看護師がゼロということになってしまい、服薬管理や健康管理、急変時の対応を行う人がいなくなってしまいます。
看護師業務は、介護とは違い「業務独占」の仕事ですから、看護師業務を介護スタッフが代替して行うということはできません。60名定員から29名定員と、入所者数が半分になっても、最低限必要な看護師の数は変わらないということです。

次に、実際に働く夜勤帯と日勤帯の介護スタッフを想定していきます。
まずは夜勤です。29名の入所者であっても、少なくとも2名の夜勤スタッフは必要です。夜勤帯の人員が一人だと休憩できないだけでなく、入所者の状態が急変したり、転倒・骨折などの事故が発生した場合に、対応できないからです。

一日当たり2名の夜勤者、一回の夜勤で2勤務(16時~翌朝の10時まで)ですから、一年間に必要な夜勤者の延べ人数は1460日分(2人×2日×365)となり、これを年間勤務日数の250で割り返すと、常勤換算では5.8人の介護スタッフが必要となります。


そうなると、日勤帯に対応できる人数か常勤換算で1名(9.7人−2.9人−5.8人)、実際に日勤帯で働く介護スタッフは、0.7人となり、1人以下ということになってしまいます。この時点で荒唐無稽な数字だということがわかるでしょう。


地域密着型(小規模)の特養ホーム・介護付は【2:1配置】でも難しい

業務シミュレーションを行うと、地域密着型(小規模)の特養ホーム・介護付有料老人ホームの場合、基準の1.5倍の【2:1配置】でも介護システム構築が難しいことが見えてきます。

下記の計算のように、【2:1配置】の場合、常勤換算で14.5名となります。
看護師(2.9名)、夜勤介護スタッフ(5.8名)を除くと日勤帯で働く介護スタッフ数は常勤換算で5.8名、これを実際の労働日数(250日/365日)で割り返すと日勤帯での介護スタッフ配置は4人ということになり、早出勤務1名、日勤勤務2名、遅出勤務1名という配置になります。

これを実際の勤務体制に合わせて、一日の介護看護スタッフ配置を示したのが以下の図です。


朝・昼・夕・それぞれの食事時間は、3名しかいませんから、各ユニット10人の要介護高齢者の食事介助を介護スタッフが1人で行わなければなりません。
入浴介助も困難が予想されます。29人の入居者を最低週二回入浴させるとなると、述べ回数は週58回、一日あたり8人以上の入浴介助が必要となります。要介護高齢者ばかりですから、マンツーマンの個別入浴介助が必要です。ただ、午前中の9時半~11時半の介護スタッフは3名、午後の13時半~17時の時間帯も休憩時間を除くと同程度です。介護スタッフが一人で、午前中に3名、午後に5名の入浴を行うのは物理的に不可能です。それを無理やり行ったとしても、各フロアに一人ずつしか残りませんから、2階の2ユニットでは、どちらか片方のユニットは介護スタッフがゼロという状態になります。

一般的に【2:1配置】と言えば、【3.1配置】の1.5倍の介護看護スタッフ配置ですから、「手厚い介護配置だ・・」と考えがちですが、定員数や建物設備によっては、とても「手厚い介護体制」などと呼べるようなものではないということ、そして、それは介護スタッフにとっても、相当過酷な労働環境だということがわかるでしょう。


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高齢者住宅 「建物設計」×「介護システム設計」 (基本編)

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   ⇒ 小規模の地域密着型は【2:1配置】でも対応不可 (証明)  
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