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未来倶楽部に見る入居一時金の脆弱性(中) ~居住権・商品性~

有料老人ホームの生活・経営を阻害する入居一時金という価格システム。
そこから透けて見える「利用権の脆弱性」「商品の脆弱性」「経営の脆弱性」。
借家権と利用権は何が違うのか。高額な入居一時金を支払えば追加費用なしで、「終の棲家」「終身利用」は本当に約束されるのか。


<<<< 未来倶楽部に見る入居一時金の脆弱性(上) ~詐欺事件の背景~

前回、未来倶楽部で発生した、有料老人ホームの入居一時金を巡る事件の概要について、解説しました。
これは故意的な不正経理による詐欺事件であり、特殊な事例であることは間違いありません。
ただ、この事件の背景には、「終身利用権」と「建物設備・居室利用料を入居一時金として前払いさせる」という有料老人ホームの特殊な価格方式があります。この入居一時金を巡っては、これまでも途中退居時の返却金など様々なトラブルが発生していますが、今後、経営悪化、倒産事業者の激増によって、大きな社会問題となることは避けられません。

問題は、大きく「居住権の脆弱性」「商品の脆弱性」「経営の脆弱性」の3つに分かれます。
この3つの脆弱性は、それぞれに関係しており、法的にも経営的にも複合的な課題を抱えています。

最大のポイントは、入居者・家族が希望する「終の棲家・終身利用」が本当に可能かという点です。
最近は、「終身利用権」という言葉は誤解を招くとして、行政用語としては使われなくなりましたが、今でも、ほとんどの有料老人ホームは「一時金を支払えば、追加費用なしで、亡くなるまで生活することができる」と説明しています。

しかし、それはそう簡単なことではありません。
現状を見ると、できない有料老人ホームの割合が多いと言った方が良いでしょう。
まずは、入居者保護にかかる居住権の脆弱性について、整理します。

有料老人ホームの「利用権の脆弱性」

私たちの暮らす一般の住居の権利は、基本的に「所有権」と「借家権」の二つに分かれます。
その土地や建物等の不動産を買い取る所有権は、物件の一つであり、所有者は自由にその所有物を「使用・処分・収益」できます。分譲マンションは、その区画を購入することで区分所有権が得られます。売ることも、人に貸すことも、改築するのも自由です。

借家権は、その家を所有者(いわゆる家主)から借りることによって発生する権利です。
落語の「因業大家」と言ったイメージとは違い、日本では、「借地借家法」という法律によって、細かく規定されており、居住の安定を図るという観点から、借家人の権利は強く守られています。家主が変わっても、それを理由に退居させられることはありませんし、「ビルを建てたいから・・」と大家の都合で退居を求められることも、勝手に値上げされることもありません。賃貸契約書に家主に都合のよい内容が記されていても、法律に違反するものはすべて無効です。

これに対して利用権には、その根拠となる法律がありません。
事業者と入居者との間で取り交わされた契約に基づく権利です。
そのため「利用権」と言っても、契約内容によって、有料老人ホーム毎にその内容や運用方法は異なります。事業者の都合で規定されているため、事業者に強い、都合の良いものとなっており、借家権と違い「居住の安定を図る」という観点から問題は多いと指摘する人は少なくありません。

借家権と最も大きく違うところは、退居事由(事業者からの契約解除の要件)が、法律ではなく、それぞれの契約によって決められているということです。
借家権の場合、相当の事由(家主が住むところがない、老朽化で危険など)がない限り、家主からの一方的な賃貸借契約の解除は法的に認められていません。しかし、有料老人ホームの場合、契約違反や利用料滞納だけでなく、認知症の周辺症状やトラブル等によって、老人ホームで生活することか困難だと事業者が判断した場合、退居を求めることができる旨の契約となっているのが一般的です。
「事前に話し合う」ということが全体となっていますが、その基準はあいまいですし、介護看護、食事などの生活支援サービスが一体的に提供されるため、事業者から「これ以上、サービス提供は無理」と言われると、入居者や家族にはどうしようもありません。


高齢者は、自宅で生活、介護を受けることが困難なために、終の棲家として有料老人ホームに入居しています。また、若年層と違い、何度も転居することは身体的にも、精神的にも大きな負担となり、生活環境の急激な変化は認知症の発症や悪化にも直結します。
安定した居住権は、一般の賃貸住宅(借家権)以上に、保護されるべきものです。

ただ、これは「有料老人ホームなどの高齢者住宅も、一般と同じように所有権や借家権等の強い権利がが望ましい」という単純な話ではありません。
一部地域でシニア向け分譲マンションが増えており、「高額な利用権を払うのならば、資産価値のある所有権を・・」とセールスしていますが、所有する以上、固定資産税などの税金もかかってきますし、建物の修繕や改築などの費用負担やその手続きも自分で行わなければなりません。
また、「資産価値」と言っても、シニア分譲マンションにはマーケットがありませんから、金銭に替えるにはそれを買いたいという人を、高齢者自身や家族が自分たちで探さなければなりません。また、相続されても子供が住むことはできませんから、残るのは高額の管理費や維持費、修繕費用、税金だけがかかる「マイナス資産」でしかありません。

また、自分の権利が強いということは、他の入居者の権利も強いということです。
例えば、認知症によって暴言、暴力などの迷惑行為が発生しても、転居を求めることはできません。
「寝たばこで火災の危険性が高い」「布団に焦げ跡ができている」と指摘しても、「自分の部屋でタバコを吸うのが悪いのか」と言われるとその通りですし、喫煙を禁止することも、もちろん強制的に転居を求めることもできません。一方、火の不始末で火災になれば、災害弱者が集まって生活しているのですから、多くの高齢者・要介護高齢者が逃げ遅れ大災害に発展します。
その他、騒音やひどい臭い、ゴミの散乱なども、他の入居者の生活に影響を及ぼすことになります。

高齢者の場合、本人の常識・マナーではなく、認知症が関係してくるためにより対応が難しく、更に、行き場がない場合、その後の生活をどうするか・・という福祉的な課題にも関わってきます。この強すぎる権利のため「借家権」の一般の賃貸マンションやアパートは、高齢者お断りのところが多いのです。
つまり、高齢者住宅の居住権は、「所有権・借家権」は強すぎ、「利用権」は弱すぎで、まだ法的にきちんと検討できているわけではなく、また利用権においても「有料老人ホームから契約解除する場合の事業者の責務」「その後の生活への支援をどうするか」といった課題は、残されたままのです。

この問題を、更に大きくしているのが、この曖昧で脆弱な「利用権」を、高額な入居一時金で購入するという「前払い方式」です。 有料老人ホームの入居者の中には、自宅を売却して入居一時金に充てている人も少なくありません。
そのため、ほとんどの人は「入居一時金を支払えば、終身利用できる」「終の棲家として死ぬまで生活できる」と思っています。しかし、述べてきたように、その基礎となる「利用権」という権利があまりにも弱いため、高額の一時金を払っていても「これ以上の介護は難しい」と事業者が判断した場合、途中で退居を求められる可能性があるのです。

もちろん、途中退居を求められても、支払った入居一時金が全額戻ってくるわけではありません。
前回、「金額900万円」「初期償却20%」「償却期間6年」の事例をあげましたが、
  「介護1で有料老人ホームに入居し、7年目に認知症の症状がでて要介護3になった」
  「事業者から、「通常の介護では難しい」と退居を求められた」
という場合、償却期間の6年は経過していますから、返還されるのは180万円だけ・・ということになります。また、次の住処を有料老人ホームが責任をもって探してくれるわけでもありません。
「高額な入居一時金を支払えば、死ぬまで、終身このホームで生活できる」というのは幻想であり、その契約の運用によっては事業者の都合の良い契約となっていることがわかるでしょう。

有料老人ホームの「商品の脆弱性」

この有料老人ホームの「居住権の脆弱性」と大きく関わってくるのが、「商品の脆弱性」です。
有料老人ホームへの入居を考える高齢者、家族が求める最大のニーズは、「介護の不安」です。
高齢者、家族にとって「終の棲家」とは、「介護が必要になっても、重度要介護になっても安全・安心に生活できる」ということが大前提です。契約上の「通常の介護では防止できないケース」というのは、述べたような認知症による暴言や暴力など特殊な事例、または禁止事項違反に限られると考えるでしょう。
しかし、現在の有料老人ホームは、素人事業者が多いことから、「介護が必要になっても安心・快適」「終身利用」と説明していても、建物設備や介護システムが、重度要介護高齢者の生活に対応できないところが、とても多いのです。

① 住宅型有料老人ホーム
住宅型有料老人ホームは、一ヶ月単位のケアプラン(事前予約)で外部の訪問介護や通所介護を利用する方式のもので、サ高住と同じ介護システムです。要介護1、2程度の軽度要介護高齢者の場合、基本的に身の回りことは自分でできますから、「食事の準備」「入浴時の洗髪」「通院への付き添い」など、できないことを、それぞれのポイントでケア・介助してもらうというのが基本です。
これは、事前予約制の訪問介護だけで対応することができますから、住宅型でも対応可能です。

しかし、要介護3以上の重度要介護になると、食事や入浴だけでなく、排泄や立ち座り、移動移乗を含め、日常生活のほぼすべてに介助が必要な状態となります。
日々の体調変化によって、「お腹の調子が悪く何度も便がでる」「汗をかいたので寝間着を着替えたい」ということもありますし、「リビングに行きたいので車いすに移乗させてほしい」「テレビを付けてほしい」など、臨時のケア、すき間のケアが増えていきます。
認知症高齢者の場合、勝手に外出したり、他の人の部屋と間違えたりといった、想定できない行動を起こすことがありますから、見守りや声掛けといった「間接的なケア」が重要になります。
しかし、通常の訪問介護は一ヶ月単位の事前予約制ですし、訪問介護事業所が併設され、介護スタッフが常駐していても「すき間のケア」「臨時のケア」は介護保険の対象外です。

参照🔗 【F009】 どちらを選ぶ ・・ 介護付か? 住宅型か? ①
参照🔗 【F010】 どちらを選ぶ ・・ 介護付か? 住宅型か? ②


② 車いす増加に対応できない建物施設備設計
もう一つは、建物設備設計です。
車いす利用など要介護状態が重くなると、私たちが普段から何不自由なく使っている建物設備、備品が、生活上、大きな障壁になります。バリアフリー設計、有料老人ホームの設計基準であればよいというものではなく、生活動線や介護動線なども、生活や介護のしやすさと大きく関わってきます。

例えば、高級有料老人ホームのパンフレットを見ると、一階に豪華なエントランスや広いワイドビューのレストラン、二階以上に居室が並んでいるというイメージのところが大半です。
自立歩行の高齢者が大半の場合はそれでも問題ありませんが、移動に介助が必要な高齢者、車いす利用の高齢者が増えてくると、各フロアからレストランに降りてくるだけで、相当の時間とたくさんの介護スタッフが必要になります。定員数が50名以上でエレベーターが一台、二台しかなければ、一度に数名しか移動できないため、朝、昼、夕と一日三回、食事の時間に合わせて食堂に降りてくるだけでエレベータホールは大混乱、大混雑します。

入居当初は、自立歩行ができる自立、要支援高齢者が多くても、加齢によってほぼすべての入居者の要介護状態は重度化していきます。「重度要介護高齢者に対応できる」というのは、「重度要介護高齢者が数人いる」というだけでなく、「半数以上の人が重度要介護」でも安全、快適に生活できるという二つの基準をクリアすることが必要です。
「食堂・居室フロアの分離タイプ」の建物設備は、要介護高齢者の住居に適さないのです。

参照🔗 【F32】 中度重度要介護高齢者住宅の基本② ~建物設計~


入居一時金の目的である「終身利用権」は「終の棲家」を前提としています。
そのためには「要介護状態になっても生活できる生活環境、サービス環境が整っている」ということが必須条件なのですが、現在の有料老人ホームの商品・サービス内容を見ると「終の棲家、将来的な重度要介護」には対応できないという致命的な欠陥を抱えているホームが少なくないのです。

問題はそれだけではありません。
もう一つのリスク、最大のリスクは、有料老人ホームの時限爆弾と呼ばれる「長期入居リスク」です。

続く >>>> 未来倶楽部に見る入居一時金の脆弱性(下) 





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