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AIスピーカーが変える超高齢社会 (下) ~地域・社会・産業~

要介護高齢者の生活を支援するAIスピーカーの開発は、社会保障政策の根幹に関わる国家プロジェクト。85歳以上の独居高齢者、高齢夫婦世帯が激増する日本で、膨張する社会保障費を抑制し、地域包括ケアを推進するためには、AI、IT、ロボットの活用は不可欠



AIスピーカーが変える超高齢社会 (上)🔗 で、AIスピーカーと高齢者の未来の生活をイメージした。
もちろんこれはフィクションであるが、SF小説でも、遠い未来の話でもない。
個人情報の保護やセキュリティなどの対策は十分ではないが、それぞれの機能はすでに発売されているか、実証段階に入っている。このような「AI+IT+ロボット」の複合的な機能をもつAIスピーカーを開発することはそう難しいことではないだろう。

このAIスピーカーが「便利」ではなく、「必要」になるのは、若年層ではなく高齢者である。
高齢者・要介護高齢者の生活を支援するAIスピーカーの開発は社会保障政策の根幹に関わる国家プロジェクトであり、その利用料は介護保険の対象にするべきだと考えている。85歳以上の独居高齢者、高齢夫婦世帯が激増する日本で、膨張する社会保障費を抑制し、地域包括ケアを推進するためには、AI、IT、ロボットの活用は不可欠だからだ。
ここからは介護予防、社会保障費抑制、地域包括ケアなど、超高齢社会から見た、AIスピーカーの未来像と、役割と機能について考える。

介護予防 (認知症・身体機能低下・疾病予防)の充実

高齢者向けAIスピーカーには、認知症など介護予防の強化のために、3つの機能が想定される。

① 会話機能の充実
私たちの日常生活行動の多くは無意識のまま行っていると言われているが、その中で「会話」は意識的に行うものの一つだ。
そのため会話は、脳をフル回転する作業でもある。伝えたいことを言葉に置き換えること、聞いた言葉を理解すること、また口や舌を動かしたり、聴覚を働かせたり、記憶を呼び戻したり、聞いたことを記憶する際にも脳が活発に活動する。また、その中で共感や感情が生まれ、シナプスが連鎖的に繋がっていく。
会話が増えるということは、ニュースや情報などを取り入れ、地域・社会とのかかわりが増えるということでもある。それは認知症予防だけでなく、唾液の増加や嚥下機能の低下を防ぎ、誤嚥や窒息などの事故予防にも効果がある。

音声認識機能や情報の蓄積によるAIの会話機能は、今後もますます進化していくだろう。
ただ一つ、注意が必要なのは、認知症予防だからと言って、「子供の玩具をイメージした癒しロボット」と一緒にしないことだ。
現在、認知症の高齢者向けに、小さな子供が抱いて遊ぶような「おしゃべり お人形さん型ロボット」が多数開発されているが、認知症になったからと言って子供に返るわけではない。「重度の女性認知症高齢者がロボットを抱いて癒されている」といったイメージで販売されているものもあるが、それは抱いている肌触りや感触がよいだけで、AIスピーカーを搭載したり、人工知能に会話をさせる必要はない。この対象者や役割を混同させると、間違った方向に進んでしまう。
求められるのは「高齢者対応」であり、重度認知症専用でなく介護予防に重点を置くべきである。

② 認知症予防・体力低下予防プログラム
二つめは、認知症や体力低下の予防プログラムの実践だ。
現在でも、頻繁に高齢者向けの認知症予防の遊びやクイズ、体力低下予防の体操がテレビで紹介され、デイサービスなどでも活用されている。しかし、特に一人暮らしの高齢者は、自分から積極的・意欲的に行動することが少なく、始めても三日坊主となってしまうことが多い。

高齢者の日々の生活行動を活発にするには、誰かが積極的に促す必要がある。
AIスピーカーが、ケアマネジャーやPT・OT、かかりつけ医の支援のもと、本人に適した認知症予防の脳トレを一緒に行ったり、リハビリや身体の機能低下を防ぐ運動をアプローチすることができれば、効果的、効率的、また持続的に介護予防を行うことが可能となる。YouTubeなどの動画配信だけでなく、インターネットサイトと連動したタッチパネルモニターの活用なども有効な方法だろう。

③ 孤独・不安の軽減・解消
三つ目は、孤独や不安の軽減だ。
日本では、「おひとり様のススメ」と言った書籍が発売されるなど、孤独をポジティブに捉える向きもあるが、孤独は健康を阻害する重大なリスクである。アメリカのホルトランスタッド教授の調査によれば、孤独のリスクは、『1日たばこを15本吸うこと』や『アルコール依存症』に匹敵するという。医学的にも、孤独な人はそうでない人よりも冠動脈性の心疾患リスクが29%も上がり、心臓発作のリスクも32%上昇、アルツハイマー認知症になるリスクは2.1倍とされている。

一つ、我が家の介護の実例を挙げる。
義父は、義母の突然の死亡(心筋梗塞)によって、86歳で独居高齢者となった。
大正生まれの義父は生活家事全般について義母まかせで、一人では何もできない。
とはいえ、徒歩20分程度のところに私たち夫婦が住んでおり、義姉夫婦も市内にいるため、毎日、誰かが朝と夕に訪問し、食事や洗濯、入浴の見守りなどを行っていた。時折、真夜中に「いま何時だ・・」と電話があったり、義母が亡くなったことを忘れる(説明すると思い出す)ということがあったりで、「軽い認知症かな・・」とは気づいていたが、日中は変化がないこと、また死亡当初は頻繁だった電話も減っていたため、一時的混乱で少しずつ落ち着いてきたのだと、都合よく勘違いしていた。

そんなある日、突然、義父の隣の家の方から、「大変なことになっている」と真夜中に電話がかかる。
かけつけると、そこには見たこともないほど興奮した義父がいた。はだしのまま外にでて、大声をあげて隣家のドアをどんどんと叩いたのだという。
落ち着かせて話を聞くと、幻視が表れているということ、また電話をしないのではなく、電話ができなくなっているということもわかった。典型的なレビー小体型認知症の症状だが、日中は話をしてもほとんど変化がなく、その悪化に気が付かなかった。

しばらく、誰かが泊まって様子を見ていたが、仕事も都合もあり、また直接介護することも少ないので、様子を見ながら再び通い介護に移行した。電話機を交換し、ワンプッシュでかけられるものに変えると、夜中に「船が走っている」「子供がたくさんでてくる」などと、再び夜中に電話がかかってくる日が続いたが、「何か子供が悪さするか?」「船はどれくらいの大きさや?」「映画やと思って楽しんだらどう?」と、ゆっくり話を聞くと落ち着くようになった。
それから、在宅での介護は2年ほど続き、あれこれ大変なこともあったが、興奮することや近隣の人に迷惑をかけることはなくなった。

もちろん、これは我が家の介護の一例でしかない。
認知症は、アルツハイマー型や血管性、レビー小体型など様々な種類があり、それぞれに特徴があるが、同じ種類のものであっても、人それぞれ症状の発現は違ってくる。
しかし、中核症状である記憶障害や判断力の障害、また見当識障害などは共通しており、そこには強いストレスや不安、恐怖が発生することは間違いない。認知症の発生・症状の悪化の予防には、怒らない・叱らないというだけでなく、孤独にさせない・不安にさせないということが何よりも重要だ。

同居することができなくても、前回示したようなAIスピーカーを使えば、不安や孤独を和らげるための「見守り」は可能である。セキュリティをとるか、プライバシーをとるかというバランスは一人一人違ってくるが、昼夜を問わず、何かあった時にすぐに相談できる、家族や地域が見守ってくれているという安心、孤独の解消は、高齢者の介護予防には不可欠である。


社会保障費(介護費用・医療費用)の削減

二つめの視点は、社会保障費の削減だ。

日本の高齢者医療介護問題の本丸は、「85歳以上の後後期高齢者の増加」にある。
2015年~2035年の20年という短い間に85歳以上の高齢者は500万人から1000万人へと2倍になり、労働人口が減少し続ける一方、後後期高齢者1000万人時代は、2070年代まで続くと推計される。特に、東北、四国、中国などの地域では相当厳しい状況になることが予想される。

【参照】 激増する介護需要 激減する労働人口🔗

更に、年齢が上がるにつれて、介護費用や医療費は倍々に上がっていく。80歳未満の高齢者の一人当たり平均の年間介護費用は10万円台だが、80歳~84歳では40万円、85歳~90歳では80万円に、90歳を超えると150万円となる。同様に、85歳以上の医療費は、74歳までの前期高齢者の2倍になる。

【参照】 崩壊している社会保障の蛇口を修理できるのか🔗

介護予防の充実は、拡大の一途をたどる介護費用、医療費用の直接的な抑制効果を持つ。会話機能や脳トレなどの認知症の予防、高齢者向けの筋トレや体操などを行うことによって、認知症の発症や悪化を予防するだけでなく、転倒・骨折などの自宅内での事故予防、廃用症候群の予防にも役立つ。

それは「施設から在宅へ」というこれからの超高齢社会の方向性づけにも有効なものである。
「早めの住み替えニーズ」など、高齢者やその家族が老人ホーム・高齢者住宅への入居を望むのは、一人での生活が不安だからだ。
示したようなAIスピーカーがあれば、住み慣れた地域・自宅で、家族や地域の見守りを受けながら、安心・安全に長く生活できるようになる。もちろん、周辺症状(BPSD)のある認知症高齢者や、AIスピーカーを使えない重度要介護高齢者は、特養ホームなどの施設対応となるが、その対象者は現行制度における「要介護3以上」ではなく、より細かく限定できるはずだ。

更には、一部の高齢者住宅や在宅介護・在宅医療で見られる不正防止にも役立つ。
現在、無届施設や一部のサ高住・住宅型では、「囲い込み」など不適切なケアプランの作成や、「実際の時間通り・サービス内容通りに訪問介護を行っていない」「訪問診療を行っていないのに報酬請求をしている」といった不正請求が激増しているが、実際に摘発されるのは氷山の一角でしかない。

AIスピーカーによって、実際の訪問時間やサービス内容を正確に管理させることができれば、不正請求の防止だけでなく、「虐待されているのではないか」「きちんとサービス提供されていないのではないか」といった家族の不安や不満を軽減させることもできる。事業者にとっても、誤解や不満を招くこともなくなり、家族への連絡帳や、ケアマネジャーへの報告書を作成したりする必要もない。リアルタイムで遠方に住む家族と相談できるなど、ホームヘルパーやケアマネジャーの業務負担軽減にもつながる。

地域包括ネットワーク構築、ビッグデータの活用

もう一つのポイントは、AIスピーカーを通じて、高齢者の生活や介護・医療情報を含め様々なサービスの情報を一括で管理・共有・運用できるということだ。
その情報活用の方向性は、大きく分けて3つある。

① 利用者情報の集約・管理・共有
電話、メール、ファックス、手書きメモなど、情報ツールの多様化によって、多くの現場で利用者情報が混乱・錯綜している。特に、医療と介護の連携は進んでおらず、ケアマネジャーの仕事がケアマネジメントなのか、各サービス間の連絡・調整・変更係なのかわからなくなっている。

ITを使った複合的な機能を持つAIスピーカーを活用すれば、「Aさんが インフルエンザ」「Bさんが退院する」など、在宅で生活する要介護高齢者の生活や、日々の状態変化をすべてのサービス担当者がリアルタイムで共有することが可能となる。サービスの変更や中止、ケアマネジメントの見直しも容易になり、訪問看護や訪問診療との連携もスムーズに行うことができる。

今後、自宅での「看取りケア」の推進によって、介護と医療の連携はより重要になってくる。
ケアマネジメントの基本はチームケアであり、利用者情報の管理・共有システムの改善なくして、効率的・効果的な介護システムの構築、サービス向上はできない。AIスピーカーは、すべての関連サービス事業者をつなぐ、ネットワーク構築の中核となるツールとなる。

② 地域包括ケアシステム構築へのデータ活用
①の情報の一元管理は、地域包括ケアシステムの構築ともリンクしている。
地域包括ケアシステムについては、地域包括ケアシステム構築の視点🔗 で詳しく述べているが、その基礎となるのは、地域の介護、医療、看護、食事など高齢者に関わる各種サービスのネットワーク化だ。
「地域包括ケアシステムとは、地域包括ケアネットワークのことだ」と言っても過言ではない。
地域包括ケアシステムが有効に稼働するには、情報発信、情報共有のルールを策定・徹底し、個別連携ではなく、すべての事業者が参加する包括的連携・ネットワークを構築しなければならない。

AIスピーカーによって情報を一元化できれば、地域のネットワーク化だけでなく、そこから得られる情報を「不足しているサービス内容・エリアの把握」「施設入居者の選定方法見直し」「不適切なサービスの洗い出し」「地域の介護課題の分析」など、多方面に活用することができる。また、自治体が独自に、地域で暮らす高齢者やサービス利用している家族に対して、「インフルエンザの注意喚起」「地域の高齢者向けイベント」などの情報を発信をするだけでなく、「介護サービスに対する満足度」「不足しているサービス」といったアンケートなど、双方向での情報のやり取りが可能となる。

いまでも、ラインのような利用者情報を共有するクラウドサービスを使った情報ツールがあるが、「使う事業者・使わない事業者」が分かれており、また複数の情報ツールを事業者や業界団体で別々に運用すると、余計に手間がかかり、情報が錯綜し、収拾がつかなくなる。
AIスピーカーの開発は、民間企業主導で行うべきものだが、囲い込みや陣取り合戦ではなく相互の情報共有・情報管理ができるようなシステムでなければならない。またその導入は、地域包括ケアシステムの構築を目指して、国とともに、各自治体が積極的・包括的に推進すべき事項である。

③ ビックデータを活用したアプリ開発・機能向上・周辺産業の活性化
三点目は、ビッグデータの活用だ。
管理されたビッグデータは行政だけでなく、AIスピーカーの技術の進化、生活全般に関わるアプリケーションの開発、高齢者ニーズの発掘に向けて、民間企業にも開示・活用されるべきものである。

そこから生まれる技術革新は、超高齢社会を大きく変える原動力になる。
将来的には、行政からの連絡、行政手続きや選挙などもAIスピーカーを使ってできるようになり、病状が安定している場合、かかりつけ医の診察は自宅にいながら受けられるようになる。
認知症予防、リハビリという範囲を超えて、ゴルフゲームや対戦ゲームを楽しむ要介護高齢者も増えてくるだろう。

判断力の低下した認知症高齢者も利用することから、買い物の御発注や誤送信の他、セキュリティや悪質な業者の排除なども課題になるだろうが、高齢者・要介護高齢者にもお金を使ってもらわなければ経済は活性しない。高齢者、要介護高齢者のマーケットを大きくするための、工夫・知恵が必要になる。


以上、ここまで二回にわたって、「AIスピーカーが変える超高齢社会」の未来像について述べた。

超高齢社会は、現在の高齢者・要介護高齢者の生活そのものを変える必要がある。
また、現在の介護保険制度は、「介護報酬=介護の人件費」が基礎となっているが、そこから脱却できなければ、日本の超高齢社会に未来はない。「介護はロボットにはできない」という人も多いが、直接的な介助はできなくても、見守りや声掛けなど「ロボット・AI・IT」にできることは、どんどん移譲していかなければならない。制度設計も、ロボットやITの運用による、介護労働の軽減、人的コストの削減という新しい時代に入っていくべきだろう。

更に、その最先端の技術力・デザイン力・ノウハウは、国内だけでなく、超高齢社会に突入する多くの先進国に、産業として輸出することも可能だ。
日本は、他に類例のない速度で未曾有の超高齢社会に突入し、また財的にも人的にも絶対的に足りないという大ピンチの状態にあるが、それを知恵と技術で克服できれば、世界に誇る大きなノウハウ・財産となるだろう。

そうしなければならないのだ。


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