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仕事選びの基本は「何のプロになるのか」


二〇代、三〇代の若いころには気が付かないが、四〇代、五〇代になれば、少しずつわかってくる。仕事選びは「自己実現・幸せな人生」と「まともな給与をもらって質の高い生活をする」という二つの命題をクリアするための、人生における最重要課題である。

介護スタッフ向け 連 載 『市場価値の高い介護のプロになりたい人へ』 001


「仕事は、給与をもらうのだから、辛く、厳しいものだ」
「仕事が楽しくなければ、人生が空しいものになってしまうぞ」

サラリーマンになった頃に、二人の上司から言われた言葉を思い出す。
その年齢になった今、振り返ると、それぞれの仕事観、人生観が表れている言葉だと感じる。
正反対のことを言っているようだが(人物的には正反対のタイプだが)、もちろん、どちらも正しい。

この時代、男性、女性関係なく、与えられた人生の時間の半分以上は、仕事に縛られる。
「働き詰めの人生なんてまっぴら御免…」というのはその通りだが、仕事は自分を成長させてくれる自己実現の場でもある。その中でやりがい・生きがいを見つけることができれば、人生はより豊かで、有意義なものになる。その時間が苦痛で無意味なもので占められてしまうと、人生そのものが空しくなる。

一方で、仕事は日々の生活の糧を得るためのものである。ボランティアやクラブ活動のように、「やりたいことだけを、やればよい」「気分次第で、やってもやらなくてもいい」というものではない。
また、その労働に対する評価は、常に自分以外の第三者が行う。そこには反りの合わない上司・同僚との人間関係の煩わしさや、無理難題を押し付ける理不尽な担当者、消費者とのトラブルも発生し、下げる必要のない頭を下げなければならないことも、胃が痛くなるようなことも多い。

これはサラリーマンだけの話ではない。
自営業者や会社経営者、芸能人やスポーツ選手は、より厳しい市場からの評価にさらされている。
10年以上続いている居酒屋、テレビや映画などで活躍し続けている芸能人、タレントの割合を考えれば、その競争の激しさがわかるだろう。
「給与が安い」と不満を口にする人は多いが、それが労働市場における現在のあなたの価値であることは間違いない。違うと思うのであれば、会社や組織に属さずに、自分の力だけで今貰っている以上の金銭を生み出すことができるか考えてみればいい。「給与が安いから辞めた」「社長に退職届をたたきつけてやった」といった武勇伝は、その日だけの溜飲は下がるだろうが、ほとんどの人は次の日からハローワークに通って、それよりも低い待遇の仕事を探すことになる。

仕事には、「生きがい・やりがい」という人生を豊かにする側面と、「生活のための糧・給与を得る」という厳しい側面がある。
ただ、それは「安い給与でも、自分のやりたいことを選ぶか」 「厳しい仕事だけれど給与のために我慢して頑張るか」という、相反する命題のどちらかを選択するものではない。
20代、30代の若いころには気が付かないけれど、40代、50代になればわかってくる。仕事選びは「自己実現・幸せな人生」と「まともな給与をもらって質の高い生活をする」という二つの命題をクリアするための、人生における最重要課題なのだ。


仕事とは、「何のプロになるのか」を選ぶこと

ここで言う「仕事」というのは、短期的なアルバイトやパートとは違う。
どちらも、自分の時間、労働を金銭に変換するという点では同じだが、一生の仕事を選ぶのは、あなたが何のプロフェッショナルになるのか、どのような知識や技術を糧に生きていくのか、どのように社会に貢献をするのかを選ぶことだ。
それは、誰でもできるような仕事、その人がいなくても困らない仕事に高い報酬を払う人はいないし、また、やりがいや生きがいにもならないからだ。

1936年、チャップリンがモダンタイムスという映画の中で、工場の製造ラインの歯車に巻き込まれた労働者を演じ、資本主義社会・機械文明を風刺したが、完全な自給自足の生活をしている人を除けば、みな巨大な資本主義経済のメカニズムの一員として働いていることに変わりはない。自営業、経営者、サラリーマン、自由業を問わず、いくらでも取り換えがきく歯車と取り換えの利かない歯車とでは、その扱い、値段が変わってくるのは当然のことだ。
その差は、映画が公開された80年前とは比較にならないほど大きく開いている。

そう考えると、「あっちの水は甘い、こっちは苦い」と短期的に職業を変えるというのが、最も損な働き方だということが見えてくるだろう。
「自分の能力を活かす仕事は他にもある」という移り気と、「他の芝は青く見える」という錯視が起こるのは、仕事を選ぶ際に「自分は何のプロになるのか、なりたいのか」を真剣に考えていないからだ。目的のないまま転職を繰り返すと、「こっちのほうが楽だ」「今の仕事は損、あっちが得」と、微々たる労働条件や目先の給与の違いに目を凝らすことになり、自分がどのようなことが好きなのか、何にやりがい、生きがいを感じるのかという、仕事選びに最も重要な視点からどんどん離れていく。
何のプロになりたいのかを考えず、その努力もしないまま、「そのうち自分にピッタリの仕事が見つかる」という可能性はゼロに等しい。 そうしている間に、どんどん時間は経過していくが、給与、待遇はどこに行っても、学生アルバイト・新人扱いでしかない。

それは転職をしてはいけない、一つの会社で働き続けるのが望ましい、嫌なことでも我慢しろといった前時代的な話をしているのではない。
学校を卒業するときには、「自分は何になりたいのか」「どのような仕事をしたいのか」を、学校の先生や就職課の職員と話をして真剣に考えるだろう。しかし、希望する業種・会社に就職できても、「働いてみると描いていたイメージと違った」「人間関係のストレスで身体を壊してしまった」ということはある。「想像していた通りだった!!」という人の方が少ないだろう。
そのような事態に陥るのは当然のことで、かく言う私も、大学を卒業して最初に就職した銀行を、わずか三年で退職している。その他、リストラにあった、家庭の事情で辞めざるを得なかった、会社がつぶれたという人もいるだろう。
そこで重要なのは、その経験や挫折をもとに、もう一度「自分は何のプロになりたいのか…」を自らに問い直すことだ。それは、20代であっても、30代であっても、40代の転職であっても同じだ。
   

プロフェッショナルになるために必要な3つの視点

どのような職種・業種・働き方であれ、有意義な人生を送るためには、たゆまぬ努力を続け、その産業・業界・企業に求められるプロフェッショナルになる必要がある。
ただ、どのような仕事についても、すぐにやりがいのある仕事ができ、高級取りになれるわけではない。
プロフェッショナルな職業人になるために、必要なことは3つある。

一つは、不断の努力でノウハウや知識・技術を蓄積し続けること。
どのような業種・職種にも、その業界で培われてきた土台となる技術・知識がある。多くの場合、それは何らかの形で資格化されている。
「資格よりも経験が必要だ」と言う人は多いが、それは狭い範囲の個人の経験でしかない。資格というものは、これまでその仕事に携わった数多くの先人が培った経験や実務、失敗しないためのノウハウをまとめたものであり、それを効率的・効果的に取得できる最短・最良の方法である。
資格が必要ない営業、販売、経理などの一般業務であっても、その技術や能力を高めるための関連する資格は多岐にわたる。またそれは「一つの資格を取れば終わり」というものではなく、その職業にある以上、その知識や技術の習得、勉強は続くことになる。「勉強が嫌い」という人は、いつまでも低い待遇に甘んじるか、他の仕事を探した方が良い。

二つめは、工夫し、チャレンジすること。
「資格よりも経験が必要」という考えは間違いだと述べたが、実務や経験が不要という意味ではない。
資格はプロとしての土台・基礎ではあるものの、弁護士や医師、公認会計士などの難関国家資格であっても、そのステータス、価値は今後どんどん落ちていく。「資格をとれば、30年40年、その道のプロとして高給が保障される」という仕事は、現代社会には一つもない。
資格よりも、戦力となる経験や実務が重視される時代に入っていることは事実だ。
ただ、その経験や実務は、「就業した期間」によってはかられるものではない。他の人に先んじて、短時間でプロフェッショナルになるためには、「工夫とチャレンジ」を忘れないことだ。資格試験合格者は全国に多数いるが、自分の意思と努力によって行った「工夫とチャレンジ」は、困難や失敗も含めて、あなた一人だけの大きな資産・武器となる。

三つ目は、視野を広くもつこと。
仕事というものは、どんな種類・業種でも、大企業・中小企業を問わず、短期的には与えられた職務、業務(ルーチンワーク)の繰り返しだ。毎日、同じ上司のもとで、同じスタッフに囲まれ、同じ仕事をしていると、視野が狭くなってしまう。それは息苦しさにつながり、「もっと他に適したことがあるのでは」「このままでいいのだろうか」と、気持ちが揺らいでくる。

その解決策の一つは、時間的な視野を広げることだ。
今日、明日ではなく、三年後、五年後にどのようになっていたいのかという目標を設定し、それに向かって努力を続けることだ。
それは尊敬できる先輩でも良いし、資格試験でも、将来的な起業でもよいだろう。
これは、20代だけでなく、30代、40代の転職でも同じことが言える。日々同じ仕事をしている人でも、無目的に与えられた仕事だけをしている人と、何か目的意識を持って取り組んでいる人とでは、五年後、一〇年後の仕事ぶりは全く変わってくる。
ほとんどの仕事は短期決戦なく、二〇年、三〇年、四〇年と続くものだ。
目標をもって、職業人として進んでいることが自覚できれば、自分の立ち位置を見失うことはない。

もう一つは、業界全体・社会全体に視野を広げることだ。
仕事は自分のやりたいことだけをやっていればよいのではない。尊敬できる上司もいれば、そりの合わない人とも一緒に仕事をしなければならない。また、どれほど快適な職場でも、毎日、同じ人と同じ空間、同じ仕事をしていると、社内ルールの中でしか仕事ができない「池の中の蛙」になってしまう。そうすると、周囲の人の顔色、短期的な評価ばかりを気にするようになり、自分が何をしたいのか見えなくなる。

同じ業界での集まりや研修などに積極的に参加すると、他の会社では様々な工夫をしていること、またそこで、同じような立場、年代の人が同じような悩みを抱え、目標を持って働いていることがわかってくる。会社という小さな池ではなく、業界・社会という大海の中で自分の仕事、立場、目指すべき方向性が見えてくる。
「プロになる」ということは、その会社の中だけで役に立つ人材になるということではない。その業界、社会で価値の高い人材になるということだ。
  

高い給与が欲しいなら市場価値を意識して働く

私は、「これからの仕事」について聞かれたときは、「自分のやりたいこと、やりがいを感じることを仕事にすべき」と答える。 仕事選びは、「天職を探す」ということでもある。ありきたりのようだが、仕事選びの基本であり、それはどれほど世の中が変わろうと揺らぐことはない。
また、「プロになれ、一流になれ!!」と言うのは、これまでの社会でも言われ続けてきたことだ。
プロになるということは、自らの努力だけでなく、困難な失敗に直面し、叱咤激励されながら成長するということでもある。 自分のやりたいこと、やりがいのある仕事であれば、目的をもって勉強や努力もできるだろうし、多少の困難にはへこたれない。

ただ、これからの仕事選びで、もう一つ、大切なことがある。
それは、人並み以上の給与をもらって、良い生活をしたいのであれば、プロフェッショナルになるというだけでなく、これからの労働市場において、努力して培った能力やノウハウ、技術の価値が目減りしない仕事を選ぶということだ。
プロフェッショナルになるためには、10年、15年と継続した、人一倍の努力が必要になる。
しかし、いまは高い評価を受けている技術、ノウハウであっても、10年後、20年後にはその市場価値が大きく下がってしまう仕事もあるのだ。

これからの仕事選びで最も難しい点は、この「労働価値の変動・不確実性の拡大」にある。
つまり、「自己実現・幸せな人生」と「まともな給与をもらって質の高い生活をする」という命題をクリアするためには、「自分のやりがいのある仕事でプロを目指す」ということだけでなく、同時に「そのプロフェッショナルの市場価値が高くなる知識・技術を選ぶ」という二つの視点が必要になるのだ。

まずは、これからの仕事・働き方の未来が、どのように変わっていくのかについて考えていこう。




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