東京や広島など3都県で特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人で、国が認めていない経営権の売買が事実上行われたうえ、預金約30億円が流出していたことがわかった。「売買代金」は契約額で42億円に上った。流出資金の大部分は回収不能となり、社福は民事再生手続きが適用される事態に陥っている。
この問題の背景にあるのは、社会福祉法人との癒着です。
今回は民事再生となったことから表面化したものですが、その背景にあるのは行政と社会福祉法人の癒着です。毎年監査を受けることが前提であり、このような預貯金の流出がわからないはずがないからです。2018年にアップした、社会福祉法人をクイモノにする人達についての記事を再アップします。
特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人に、都道府県や政令指定都市から、一年間に少なくとも239人の幹部職員が再就職していることがわかった。自治体には社福に補助金を出すなどの優遇をしたり、福祉事業を委託するところがあり、全国の社福の中で一部が職員の天下り先となっている。
朝日新聞 平成26年9月
朝日新聞の調査によると、特養ホームや保育園を運営する社会福祉法人に、昨年度だけで少なくとも239人の幹部職員が再就職しているという。
問題は公務員の天下りだけではない。社会福祉法人の設立や補助金に、地元の県議や市議といった特別公務員が群がっているというのは、この業界ではよく知られた話だ。239人という数には、都道府県・政令指定都市以外の市町村の天下りは含まれておらず、国会議員・地方議員関連の法人については調査されていないために、実数はその数倍、いや少なくとも数十倍にはなるだろう。
社会福祉法人の設立や新規特養ホームの建設には補助金や認可が必要となるため、天下り法人や議員が理事長や理事を務める法人が有利であることは間違いない。「介護だ、福祉だ」と言いながら、一部の社会福祉法人や老人福祉は、完全に利権化しており、公務員の天下り先や、地方議員のお財布として使われてきたのが実態だ。
社会福祉という社会的弱者に対する事業・サービスが、なぜ一般の株式会社のサービスと一線を画して行われてきたかといえば、効率性や営利を追求する民間のサービスでは対応できない特殊なものだから、言い換えれば、本来、利益がでるような事業ではないからだ。
いまでも「介護」と「福祉」という言葉を混同して使う人が多いが、高齢者介護は、老人福祉や社会福祉法人の対象ではない。
老人福祉はすべての高齢者のセーフティネットであり、近年では高齢者虐待、介護拒否(ネグレクト)、介護を拒む独居認知症高齢者への対応といった、訪問介護や通所介護などの介護サービスだけでは解決しない複雑な福祉的な課題への対応が求められている。
「アルコール依存症の息子の虐待が明らかだが、要介護の母親が『転んだ』と言い張る」
「要介護の母親とうつ病の娘が同居しており、生活が困難になっている」
老人福祉の現場にいると、胸が潰れそうになる厳しい現実に直面する。一人ひとり、一つひとつのケースが違い、答えのない難しい福祉課題について、何度も訪問し、時間をかけて話を聞きながら解決策を見出していく必要がある。もちろん、それが解決したからと言って利益や利潤が得られるわけでもない。
そのような対応は、営利法人ではとてもできないため、公益性・公共性を土台とした「老人福祉」が必要なのだ。
この「福祉」に関する法律ができたのは戦後のことであり、それまでは老人福祉に関わらず、児童福祉、母子福祉など福祉施策の基礎は、一部の篤志家や寺の住職などが地域の社会的弱者のために資産を投げ打って、無償・ボランティアで行われてきた。
しかし、現在の社会福祉は全く違う。
少子高齢化の中で、「介護・福祉の充実」が叫ばれはじめ、それに大きな予算が付くようになった。
その結果生まれたのが自治体や一部議員による「福祉の利権化」だ。最近の特養ホームは高級リゾートホテルと見紛うほどの豪華さであり、お金のない人や認知症や手のかかる複合的な福祉課題のある人を排除しているところもある。その一方で、巨額の税金、社会保障費が投入され、固定資産税や事業税などもすべて非課税で運営されているため、莫大な利益を挙げている。今や、その金額は一法人あたり3億円、中には30億、40億の余剰金があるところもあり、全国では二兆円を超えるとされている。
それは福祉のためにほとんど使われず、これに自治体や一部議員が群がっているのだ。
この社会福祉法人に対する天下りが、どれほど日本の社会保障政策をゆがめているのか、二つの視点から述べておきたい。
~自治体と地方議員のやりたい放題~
一つは、指導監査が全く機能しないということ。
社会福祉法人は、日本の社会福祉の増進のために設立された公益法人である。莫大な税金や社会保障費が投入され、非課税で運営されている事業であるため、適正に福祉事業が行われているのか、不正が行われていないか、行政による指導や監査が行われなければならない。
しかし、公務員の天下りや地方議員による運営が行われている社会福祉法人にはチェック機能が働かない。
京都市にある社会福祉法人では、30億円を超える余剰金(それだけでもすごいが)を理事長が勝手に運用し、数億円という莫大な損失を発生させている。
本来、社会福祉法人の資産は準公的財産であり、その運用は、銀行の定期預金や国債など損失が発生しないリスクのない運用に限られている。毎年、残高証明や証書などの原本の提示も求められる。もちろん法律上も理事長が勝手に資産運用することなど許されない。この財政の安定は、実地指導で「いの一番」にチェックされる項目である。
しかし、この法人の理事長は、京都市の社会保障関連部局の局長の天下りポストである。
理事や各特養ホームの施設長も、天下りや関連する議員で占められている。
その結果、莫大な損失が発生するまで全く指導が行われず、長い間、やりたい放題が許されてきた。
本来、制度を逸脱して、社会福祉法人に対して損出を与えた理事長は、その損失を個人で負担させるべきだが、そそくさと退任しただけで何のお咎めもない。どのような流れでその不正が行われたのか、資産の一部を私物化していなかったのか、その後どうなったのかという調査も行われていない。
何食わぬ顔で、今も、その次も局長が天下りをしている。
天下りのポストが足りなくなると、何の規定も作らないまま顧問料として毎月数十万円を払っていたという事例や、地方議員が自分の親族を理事にして何も仕事をしないのに給与を払っていたり、その資金を自分の関連会社に流していたり、関連会社から高額物品を購入させたりと、やりたい放題となっている。公益な資産が不正に搾取されても誰も責任を取らない仕組みになっているのだ。
~介護の給与、待遇が悪いのは誰のせい?~
もう一つは、介護スタッフなどの職員の士気への影響だ。
現在、介護スタッフ不足が多くの事業所で深刻になっている。
その大きな要因の一つは、間違いなくこの天下りだ。
この天下りをする幹部職員は介護スタッフとして働くわけではなく、施設長、事務長などの管理職である。頑張って働いている現場の介護スタッフの給与は300万円~400万円と低いが、仕事もしない理事長や施設長の給与は800万円、1000万円、それ以上のところも少なくない。
このような法人では、施設長は「天下り公務員のポスト」「地方議員の親族ポスト」であり、どれだけ介護スタッフが経験を積んでも施設長や幹部にはなれない。つまり、給与は上がらないということだ。
本来、特養ホームの施設長という仕事はそう簡単なものではない。
介護事故や入所者のトラブル対応、サービスの質の向上など、たくさんの課題に取り組まなければならない。また虐待や暴力など、緊急性を伴う難しい福祉的な課題には、警察や行政機関とも連携して、施設長が率先して動かなければならないこともある。
誤解を恐れずに言えば、老人福祉は通常の高齢者介護とは比較にならないほど精神的に過酷な職場であり、優秀で一生懸命なケースワーカーほど追い込まれ、精神的に病む人も多い。管理者である施設長には、その支援やサポートも含め高い技術、知識と大きな責任が伴うために高い待遇が示されているのだ。
言うまでもなく、老人福祉施設の施設長には、社会福祉士や介護福祉士などの介護・福祉関連資格に加え、在宅や施設での介護や福祉の様々な課題にあたってきた経験豊富でその知識や技術のある人が付くべきである。
しかし、お役所仕事で天下ってきた人は、何の能力も知識も、そしてやる気もない。
仕事が増えたり、自分の責任になるのが嫌で、難しいケースは避けて、部下まかせ。また、働くスタッフに対して適切な指導ができないため、サービスの質はどんどん下がっていく。困難ケースは見捨てられ、その地域の福祉力は低下し、セーフティネットの穴は、どんどん大きく深くなっていく。
法律上は、この老人福祉施設の施設長には、「施設長資格」というものが必要だとされている。
基本は国家資格者だが、特例として「認定資格」というものがある。
それは、数週間程度の通信教育とレポートでとれる非常に簡単なものだ。それを運営しているのが厚労省直轄の公益法人だということを考えると、その闇の深さが見えてくるだろう。
現場を全く知らない、福祉や介護とはまった関係のない管理能力もトラブル対応力もない、天下り施設長がやってきて、高い給与をもらって、新聞読んだり、はんこを押したりするような事業所で、意欲を持って働き続けるスタッフがいるだろうか。
現場で、必死に介護を頑張っている介護スタッフの給与や待遇が上がらないのは、誰の責任だろうか。
彼等を使い捨てにして、その未来を潰しているのは誰だろうか。
これは、保育園などの児童福祉施設、社会福祉協議会なども同じことが言える。
そこに巣くっている人は、「天下り公務員」だけでなく、地方議員やその親族など多岐にわたる。
その人数は、少なくとも数千人、そこに無駄に支払われている一年間の給与だけでも数百億円をゆうに超えるのだ。
介護スタッフが足りない、社会保障費が足りない・・というきびしい時代の中で、それでも自治体はこの天下りを辞めようとはせず、またその親玉である厚労省もそれを止めようとしない。
「介護の専門性の強化」「介護スタッフが足りない」「社会保障費が足りない」「増税、負担増やむなし」と叫んでいる人達が、その陰でどんな利権を得て、どんな不正なことをしているのかを見れば、この老人福祉を隠れ蓑にした闇が見えてくるだろう。
このまま、自治体主導の「地域包括ケア」に突入すれば、どのような事態になるか、想像するだけで背筋が凍る。「地域包括ケアへの取り組みの甘い自治体は消滅する」?で述べたように自治体は次々と消滅し、「福祉利権太り」したシロアリだけが生き残ることになるだろう。
これが、120兆円をこえる社会保障費が投入された、今の「福祉国家 日本」の現実である。
政財官の癒着ならぬ、『政福官』の癒着によって、その基礎を食い荒らそうとしている人たちを排除しなければ、日本の超高齢社会に未来はない。
述べた通り、老人福祉や高齢者介護というのは、高度に専門的な仕事なのですが、その根幹である社会福祉法人が行政や一部の議員、または一部の地域の有力者・実力者によってクイモノにされているという実情があります。また、今回の問題のように、指導監査が実質的に行われていないため、介護や福祉とは無関係の事業に投資されていたり、またその余剰金が本人の懐に入っていたりと、やりたい放題になっています。しかし、彼らが受けるのは軽い行政処分のみ、癒着をしていた行政も「こんどからちゃんとやります」というだけで、誰も責任を取らないのです。
関わった医師本人や、暗躍した公認会計士、コンサルタントの責任は言うまでもありませんが、癒着をし、意図的に指導監査を改竄していた行政関係者も、厳しく処断されるべきだと思います。
このような社会福祉法人の不可解な理事長交代や、介護ビジネスの経営者交代はコロナ禍や介護人材不足などの経営環境の変化によって増えています。次回からは、激増する介護ビジネスのM&Aの闇と課題、その後に続く高齢者住宅バブルの崩壊について特集をします。
今こそ、立ち止まって考えたい ~福祉とは何なのか~
⇒ 児童虐待死亡事件に見る社会福祉の崩壊 ?
⇒ 特養ホームの空床の謎とその課題 (上) ~高級福祉施設~ ?
⇒ 特養ホームの空床の謎とその課題 (下) ~地域福祉崩壊~ ?
⇒ 「やまゆり園」の殺人者の主張は何が間違っているのか ?
⇒ 社会福祉を利権化し、食い荒らすシロアリたち ?
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