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表面的な低価格アピールの高齢者住宅はなぜダメか

高齢者住宅は新しい事業であることから「価格の相場」がない。 そのため「高額だから」と言って質の高いサービス受けられるとは限らないが、慈善事業ではないため「低価格」には訳、カラクリがある。「低価格を売り」にしている、安すぎる高齢者住宅には、相当の注意が必要。

高齢者・家族向け 連載 『高齢者住宅選びは、素人事業者を選ばないこと』 051

高齢者住宅の入居を検討する中で、最初に見るのが金額です。手の届かない高齢者住宅を見ても仕方ないからです。入居一時金が数千万円~数億円、月額費用が50万円超という高額商品から、最近では入居一時金がゼロ、月額費用も15万円程度と、様々なタイプのものがあります。パンフレットを一瞥して「この程度の月額費用なら、年金の範囲内で暮らせそうだな。預貯金で賄えるな」と考える──これは、高齢者住宅を検討するときの、日常的な光景です。

しかし、金額をもとに選んだはずなのに、入居後に「聞いた話と違う・・」とトラブルになるケースは少なくありません。費用のトラブルを起こす事業者は、間違いなく悪徳事業者であり、かつ素人事業者です。
表面的な低価格をアピールしている事業者には、特に注意が必要です。

お金のトラブルを起こすのは悪徳事業者

パンフレットに示されている高齢者住宅の月額費用には、二つの落とし穴があります。
一つは、月額費用と実際に必要な1ヵ月の生活費は違うということです。
高齢者が高齢者住宅で生活するために、必要となる費用について洗い出したものが以下のものです。


パンフレットに示された家賃や管理費、食費などの他、介護保険の自己負担や医療費がかかりますし、スマホなどの電話代などの通信費や趣味、おやつ代、NHKの受診料なども必要です。病気やケガで入院した時に「入院費以外の費用が結構、かかるなぁ・・」と感じることがありますが、それは高齢者住宅でも同じです。

それは、「今の費用」だけではありません。要介護状態が重くなったときには、オムツ代が必要ですし、入院となると、高齢者住宅への支払と、入院費の支払いが重なります。更に、今後は、介護保険の一割負担が、二割負担、三割負担になる可能性があります。「このサ高住は18万円くらいで入れるのか、親父の年金の範囲内でいけそうだな」と安易に考えてしまうと、毎月の生活費が20万円を大きく超えて、資金計画が大きく狂ってしまうということになります。

もう一つの落とし穴は、月額費用に含まれるサービス内容が、高齢者住宅によって違うということです。一般的に介護付有料老人ホームは介護保険の自己負担分を含んで表示してありますが、住宅型有料老人ホームやサ高住は出来高算定のため含まれていません。各居室の電気代や水道代が別途必要になることもありますし、食事サービスが含まれていても、嚥下機能の低下に対応した介護食や、糖尿病食、減塩食といった、特別な食事については、追加費用として徴収しているところもあります。
ですから、パンフレットに「月額15万円」「月額20万円」と書いてあっても、前者の方が安いとは限らないのです。

この月額費用の表示方法や費用の説明からは、事業者の質が見えてきます。
「地域最安値」などとイメージ先行型で安さを大体的に謳うようなパンフレットを見ると、「含まれているのは家賃と管理費だけ」です。目先の安さをアピールしていても、実際に支払う生活費との差額が大きくなるだけです。

一方で、優良な事業者は、価格や費用に対するトラブルを避けるため、他の入居者の例を挙げて、高齢者住宅に支払う月額費用以外の生活費のことを懇切丁寧に説明してくれます。上乗せ分の介護費用や通信費といったことまでを含めた「月額費用見積書」を出してくれる事業者もあります。将来、紙おむつが必要なったときや、特別食が必要になったときの費用も計算し、教えてくれます。

それは、「良心的な事業者だから・・」という単純な話ではありません
事業者にとっては、事前にきちんと説明してもしなくても、受け取る収入は同じです。入居後に「こんなはずではなかった」「聞いた金額と違う」と、入居者や家族との間でトラブルやクレームになり、信頼関係が崩れる方が困るのです。介護保険の自己負担や紙オムツ代などは、説明を受ければ必要な費用だということは理解できますが、「必要な費用なんだから、事前に説明してくれればよいのに」「他のところと比較しても全然安くないじゃないか」と不満に思う人は多いでしょう。
特に低価格化をアピールしているところは、その他の日用品などの値段が高く設定されています。低価格をアピールする事業者は、「大切なことは曖昧にして、とりあえず入居させればよい」「入居させれば、逃げられないのだから、こっちのもの」という事業者なのです。

高いに理由はないが、安いにはカラクリがある

もう一つ、高齢者住宅の価格は、「高いには理由がないが、安いにはカラクリがある」ということです。
分譲であれ賃貸であれ、一般のマンションの場合、立地環境、部屋の広さ、築年数、新規・中古などによって、その価格が決まります。物件数が多いため、不動産価格には市場原理に基づく「相場」というものがあります。
しかし、高齢者住宅は、まだ新しい事業であることや、それまでの「数千万円、高額」というイメージに引っ張られ、「相場」というものがありません。そのため「このサービスレベルで、どうして、そんなに高いのか・・」と驚くようなものも少なくありません。「大手がやっているところ」「費用が高いところ」は、それなりにサービス内容や質が整っているだろうと考えるのは大間違いです。

しかし、高齢者住宅は慈善事業ではなく、営利事業です。
高いに理由はないが、安いにはカラクリがあります。「低価格を売り」にしている、安すぎる高齢者住宅には、述べたような「別途費用を曖昧にしている」という以外にも、相当の注意が必要です。

① 低価格の介護付有料老人ホーム
一つは、低価格の介護付有料老人ホームです。
介護付有料老人ホームの運営費用の中で、大きな割合を占めるのは人件費です。
ですから、低価格の介護付有料老人ホームは、介護スタッフ数が【3:1配置】の基準配置に抑えられており、かつ給与も安いということになります。 「介護付だから安心」という高齢者住宅はなぜダメか 🔗 で述べたように基準配置程度では、重度要介護高齢者が増えてくれば、入浴、食事などの基本的な介護サービスさえ受けることはできませんし、低賃金で過重労働となりますから、サービスの質は低下し、離職率も高くなります。

② 低価格のサ高住・住宅型有料老人ホーム
介護付有料老人ホームは、低価格といっても20万円前後ですが、住宅型有料老人ホームやサ高住は15万円前後、生活保護受給者を対象としたものもあります。有料老人ホームは高額、サ高住は低価格というイメージを持っている人が多いのですが、制度名称が変わるだけで、費用が安くなるはずがありません。
この低価格のサ高住や住宅型有料老人ホームの背景にあるのが、「囲い込み」と呼ばれる不正です。


家賃や食費などを低価格に抑えて入居者を集め、系列の訪問介護や通所介護、または診療所で介護サービスや医療行為を強制的に提供することで利益を上げるという手法です。なぜこのような手法が横行するのかと言えば、介護付有料老人ホームに適用される特定施設入居者生活介護と、サ高住や住宅型有料老人ホームに適用される「区分支給と限度額方式」に大きな開きがあるからです。
下表のように、その差額は、要介護度が重くなるほど大きくなり、一人当たり、要介護3では月額8万2000円、要介護5では13万4000円となります。


そもそも区分支給限度額方式は、一軒一軒離れた自宅に訪問することを前提にした報酬体系です。手待ち時間や移動時間などの非効率性を加味して高く設定されています。制度の矛盾を突いて、これを高齢者住宅に適用し、限度額一杯まで利用させることで「月額費用は安いけれど、事業者の収入は多い」というビジネスモデルを構築しているのです。

この「囲い込み」は、介護保険の根幹に関わる不正です。
もちろん、「系列のサービスを利用してはいけない」「限度額一杯まで利用すること」が不正なのではありません。 しかし、それを事業者が入居者に強制することは、明らかな不正です。
また、このような「囲い込み型」では、区分支給限度額方式の基本である「事前予約方式」「時間・サービスの厳格化」が守られておらず、「臨機応変」で報酬請求だけ区分支給限度額方式という詐欺的な行為が横行しています。
働いているケアマネジャーやホームヘルパーも不正に加担していることがわかっていますから、その質は推して知るべし・・ということになります。

「低収入で行き場のない高齢者のために・・」などと慈善家のふりをする人がいますが、介護だけでなく、医療機関とも結託し、「利用料は10万円安いけれど、介護保険、医療保険収入は30万円以上多い」という貧困ビジネスです。
高齢者住宅は、高額だからと質の高いサービス、手厚いサービスが受けられるわけではありませんが、過度な低価格化には「劣悪な労働環境」「不正請求」などの理由、カラクリがあるのです。

実際、信じられないような事故や虐待、殺人などが起きている高齢者のほとんどは、この低価格の高齢者住宅です。高齢者住宅は慈善事業ではありませんから、「地域最安値」などと、イメージだけで、表面的な低価格をアピールしている事業者は、相当の注意が必要なのです。

ここがポイント 高齢者住宅 素人事業者の特徴

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高齢者住宅選びの基本は「素人事業者を選ばない」こと

  ☞ ポイントとコツを知れば高齢者住宅選びは難しくない (6コラム)
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