高齢者住宅は、特養ホームのような非営利の福祉施設ではなく、営利を目的とした民間の住宅サービス。「わかりやすく説明する」だけでなく、「入居者を惹き付けるための営業活動」という視点は外せない。「相談対応の準備・説明」において、どのような点に注意するのかを整理する
管理者・リーダー向け 連載 『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 058
入居相談の目的は、「正確にサービス内容・価格・リスクを伝えること」「入居者を惹き付けるための営業活動」「信頼関係が構築できる家族の見極め」です。
高齢者住宅は、特養ホームのような非営利の福祉施設ではなく、営利を目的とした民間の住宅サービスですから、「入居者を惹き付けるための営業活動」という視点は外せません。「相談対応の準備・説明」において、どのようなことをマニュアル化するのか、どのような点に注意するのかを整理します。
高齢者・家族の不安をやわらげ、「Welcome」を形にする
「何を説明するのか」の前に、まず大切になるのが、どのように相談者を受け入れるのかです。
述べたように、高齢者住宅は新婚カップルが新居を探しているときのように、「ウキウキ・わくわく」と探している人はいません。住み慣れた自宅で、家族から十分な介護を受けて、悠々自適に生活できるのであれば高齢者住宅には入らないからです。「どうすればよいかわからない・・・」と不安や心配が胸いっぱいで探している人が大半ですし、「突然の介護によって慌てている」「自宅介護疲れで疲弊している」というケースも少なくありません。
そこで、まず大切になるのが、不安や緊張をやわらげるための雰囲気づくり、セッティングです。
まず、大切なのは、必ず個室(相談室等)で説明を行うことです。
人の動きが気になるところでは話に集中できませんし、他の人の声が聞こえるところでは、プライベートな相談はできません。また、個室と言っても、広い会議室のようなところで、ポツンと数人だけで話をするというのも落ち着きませんし、逆に応接室のようなソファや豪華な設えも、説明や質問には適していません。訪問者の人数や状態(車いすの人がいるのか)などを総合的に勘案して、相談室のセッティングを行います。暖房・冷房などの空調やパンフレットや重要事項説明書などの必要な書類を整え、バタバタしないで済むように、来訪予定時間の少なくとも30分前には、迎え入れの準備を完了させます。
来訪時には、相談担当者が出迎えるととともに、説明担当者以外の事務スタッフにも周知しておくほか、管理者・施設長も相談室に出向いて、挨拶を行います。
相談室に通し、来訪いただいたことへの謝辞、茶菓の提供、担当者の部署名、自己紹介、「場所はすぐにわかりましたか?」「今日は寒いですね・・」といった時節の話など雰囲気を和らげ、相談時間(1時間半~2時間程度)の簡単なスケジュールを示し、説明資料をもとに、内容の説明をスタートさせます。
「何を、どのように伝えるのか」 イメージ図など説明資料を準備する
ここで説明するのは、当該高齢者住宅の提供するサービス、及び価格の概要です。
どのような説明を行うのか、何を伝えるのかは、それぞれの事業者で考えることですが、共通するポイントとしては以下のようなものになるでしょう。
ここで重要なことは、「説明するポイントを整理する」という単純なものではなく、「どうすれば正確に、わかりやすく伝えることができるのか」を真剣に考えることです。
繰り返し述べているように、高齢者住宅選びはほとんどの家族・高齢者にとって初めての経験ですし、「介護付・住宅型・サ高住」など高齢者住宅制度が混乱していることや、高齢者住宅事業者によって「月額費用の中身が違う」など非常にわかりにくいものです。「介護付って、要介護高齢者の有料老人ホームでしょ・・・」「介護サービスが付いているんでしょ・・」という程度の知識でしかありません。
「介護付有料老人ホームの指定基準は【3:1配置】ですが、私たちは【2:1配置】の手厚い介護体制を採っています」という制度説明を理解できる人はほとんどいません。その前に「介護付」と「住宅型・サ高住」の介護システムの違いや、「介護付」といっても事業者によって介護の手厚さが違うということを、理解してもらわなければなりません。【3:1配置】【2:1配置】ではなく、定員60名に対して介護スタッフが20名、30名といった方がわかりやすいですし、それが実際の日勤帯や夜勤帯のスタッフ配置にどれだけの差がでてくるのか・・といった比較図を作成して説明すれば伝わります。
同様に、価格設定についても、月額費用を説明する前に、「高齢者住宅によって月額費用に含まれるサービス内容は違うこと」「月額費用だけでは生活できないこと」を伝えなければなりません。食費や介護保険の自己負担を含んで「月額費用20万円」といって、高齢者住宅への支払以外に必要な医療費やオムツなどの日用品費なども必要になるからです。これも、説明資料を作って図表で整理しておけば、わかりやすいでしょう。
高齢者住宅という商品は、介護看護や食事、生活相談などの各種サービス内容や価格など説明すべき内容は多岐にわたりますから、言葉や文字だけで説明をしようとしても伝わりません。正確に伝えるためには、視覚化された図での説明が不可欠です。それぞれに工夫をしてパワーポイントなどでイメージしやすい説明用の資料を作っておけば、「わかりやすい」というだけでなく、当該高齢者住宅の誠意、魅力が伝わるはずです。
一方的な説明にならないよう、説明者には訓練が必要
もう一つ大切なことは、「一方的な説明をしない」ということです。
高齢者住宅や介護保険に対する知識は、それぞれに違いますから、同じ説明をしても、理解度はそれぞれに違います。大切なことは「順序良く、漏れなく説明したか否か」ではなく、「きちんとサービス内容・価格・リスクが伝わったか否か」です。そのためには、入居者や家族の表情・応答を見て理解度をはかりながら進める必要があります。
また、説明時間の管理も必要です。人間の集中力が持続するのは45分程度と言われていますが、制度やサービス内容の説明だと30分を超えると疲れてきます。そのため、できれば30分程度で概要の説明は終了するように心がけなければなりません。
家族からの質問が適宜入って、時間が長くなりそうなときは、一旦説明を中断して、見学を先に行うなどの工夫も必要になるでしょう。
100組の相談者・家族がいれば、その理解度・説明方法は100通りあります。
介護マニュアルの目的は「マニュアル介護」ではない ? で述べたのと同様に、入居相談マニュアルの目的は、「マニュアル的・画一的な相談対応」をするためにつくるのではありません。「何を説明すべきか」「どうすればわかりやすく伝わるのか」を事前に検討するとともに、「限られた時間の中で」「相談者の知識・理解度をはかりながら」「要介護状態や生活状況の聞き取りをしながら」「わかりやすく説明する」ためには、手順整理だけでなく、訓練が必要です。相談対応マニュアルを整備するとともに、ロールプレイングなどを通じて、説明力・相談力を高めていかなければならないのです。
入居相談マニュアルを作成する Ⅰ ~相談・説明~
➾ リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
➾ リスクが大きくなる最大の理由は受け入れ時の説明不足
➾ 「入居説明・相談・見学対応」 3つの目的を整理する
➾ 高齢者住宅 入居相談対応のストーリーをイメージする
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅰ ~申込・受付~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅲ ~見学対応~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~相談・質問~
➾ 入居相談マニュアル 書類整備と教育訓練
➾ 入居相談にマニュアル導入の効果とNG対応
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