RISK-MANAGE

入居説明・相談・見学対応 3つの目的を整理する


高齢者住宅の入居相談には、「サービス内容・価格・リスクの相互理解」「入居者・家族を惹き付ける営業活動」「信頼関係が構築できる家族か否かを見極める」という3つの目的がある。介護リスクマネジメントの8割以上は入居前の相談・説明によって決まると言っても過言ではない。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 055


介護リスクマネジメントの対策実務は、「リスクの種を削減する」「リスクの種が育たない土壌を作る」という二つからなります。
介護事故の削減、感染症予防などの「リスクの種を削減する」という取り組みは進められていますが、事故やトラブルがリスクになる最大の理由は説明不足 🔗 で述べたように、入居後の事故やトラブル、サービス提供責任やその範囲について、サービス提供前に丁寧に説明し理解を得る、「リスクの種が育たない土壌を作る」という取り組みは大きく遅れています。
今、業界を挙げて早急に取り組まなければならないリスクマネジメントの対策実務が、「受け入れ時の対応力の強化」です。介護リスクマネジメントの八割以上は、「入居前の相談・説明・ケアマネジメント」によって決まるといっても過言ではありません。
ここでは、高齢者住宅を例に、リスマネジメントの視点から「入居前の説明・相談・見学対応は何のために行うのか」について整理をします。

目的Ⅰ サービス内容・価格・発生するリスクを理解してもらう

目的の一つは、言うまでもなく、サービス内容・価格・発生しうるリスク等について、正確に理解してもらうことです。 そのためには、初めて高齢者住宅を探す家族・高齢者にも、実際の生活・サービスがイメージできるよう、説明に工夫をしなければなりません。

例えば、「介護スタッフ配置は【2:1】配置」「24時間365日介護スタッフが常駐」といっても、高齢者や家族にはわかりません。「基準は60名に20名の介護看護スタッフ配置ですが、私たちは30名のスタッフを配置しています」「基準では夜勤は2名ですが、3名のスタッフを配置しています」と説明すれば、具体的にイメージできます。また「24時間緊急対応」ではなく、夜間に急に体調が悪くなったり、転倒が見つかった場合、病院や家族にどのように連絡するのか、救急車を呼ぶのか、介護スタッフは付き添うのかなど、実際のケースを挙げて説明すれば、高齢者や家族は、「こんな場合では、あんなケースでは・・」と、自分の病気や経験から、質問を重ねることができます。

入居後の転倒・骨折などの事故や人間関係トラブル、感染症などのリスクについても、理解を得なければなりません。介護付有料老人ホームといっても、24時間365日、介護スタッフが付き添うわけではありません。転倒骨折のリスクやその発生予防対策、その対策限界などがイメージできるよう、事例を挙げて説明する責任・義務は事業者にあります。それ以外にも、他の入居者とのトラブル事例や感染症・災害対策も、事業者の役割や責任の範囲、できることできないこと、家族(保証人)の役割・責任などを、正確に理解してもらわなければなりません。

民間の高齢者住宅は、特養ホームや老健施設とは違い、同じ介護付有料老人ホームと言っても、サービス内容、介護人員の手厚さ、入居一時金、月額費用など、それぞれに違います。一方、大半の高齢者、家族にとって高齢者住宅選びは初めての経験ですから、特養ホームと有料老人ホームの違い、住宅型、介護付などの介護システムの違いさえ理解していない人がほとんどです。病院から早期退院を求められるなどして、「亡くなるまで責任をもって面倒を見てもらえる」「高齢者住宅に入れば安心」「パンフレットの月額費用を見てきた」と、慌てて探している人も少なくありません。このようなバタバタとした中で、サービスや価格、入居後の事故やトラブルについて相互理解が不十分なまま契約・入居になることは、入居者ではなく、事業者にとって安定的な経営・サービスを阻害する「リスクの土壌」であることを理解しなければなりません。

目的 Ⅱ 入居者・家族をひきつける営業活動

二つめの目的は、入居者や家族をひきつけるための営業活動です。
民間の高齢者住宅は、特別養護老人ホームのような福祉施設ではなく、民間の営利目的の事業です。安定した事業を継続するためには、入居者確保は不可欠であり、「見学をしたい」「入居の相談をしたい」という申し出は、希望者に対して事業者の努力や創意工夫、魅力を直接伝えることのできる最適・最大の機会です。
しかし、述べたように、リスクやトラブルに対する相互理解を後回しにして入居者確保を優先すると、入居後に家族からの感情的なクレーム、損害賠償請求、介護スタッフの大量離職で、経営・サービスの崩壊を招くことになります。この入居相談において目的とすべきは、「相談に来た高齢者・家族を逃がさない」ということではなく、「この事業者は信頼できる事業者だ」「この高齢者住宅に相談に来てよかった」と感じてもらうことです。

例えば、月額費用や価格の説明。
「高齢者住宅での月額費用・月額生活費」は、高齢者住宅選びの基本の一つとなる項目です。しかし、欧米と違い「契約書の中身を細かくチェックし、いちいち質問する」という風土もなく、「お金のことを細かく聞くのは、恰好が悪い」という日本人の性格もあり、「月額15万円とパンフレットにかいてあるから、増えても1、2万円程度だろう」と勝手に解釈し、細かく質問しないという人が大半です。
ただ、高齢者住宅はパンフレットに書かれている「月額費用」の中に含まれるサービス内容は事業者によって違い、「月額費用」と実際に必要な「月額生活費」にも大きな開きがあります。その差額が5万円以上となるケースも多く、入居後のトラブルやクレーム、事業者に対する不信の原因になっています。

月額費用や月額生活費については、それぞれの入居希望者に合わせて「生活費見積書」を作成することを勧めています。例えば、要介護4で紙オムツを使用している高齢者であれば、介護保険の一割負担や利用しているオムツの枚数がわかれば、最低限必要となる費用はすぐに計算できます。糖尿病や腎臓病で治療介護食が必要になる場合、それも計算します。レクレーションやイベントにかかる費用、現在かかっている病院の医療費、また日々のお小遣い、散髪代、電話などの通信費など、それ以外に必要な費用を算定すれば、「月額の生活費」が高齢者にも家族にもイメージできるはずです。
高齢者住宅に相談に来る家族は、複数の有料老人ホームやサ高住を回っています。パンフレットに書かれた「月額費用以外」に様々な費用がかかることをわかりやすく説明してくれる高齢者住宅と、「月額費用15万円」と低価格をアピールするだけで、それ以外の費用説明を曖昧にするところとでは、印象・信頼度は全く違うでしょう。

これは、入居者が順守すべき禁止事項や途中退居要件(事業者からの契約解除)の説明、また相談時に行う見学時の対応も同じです。
「居室内ではタバコ禁止」「スタッフルームの近くに喫煙場所を作っている」という禁止事項からは、高齢者住宅で火災が発生した場合の被害の大きさについて説明ができます。見学時に、働く介護スタッフが「こんにちは」と笑顔で声をかけてくれるところもあれば、「靴裏を踏んでダラダラ」「むすっとしたまま挨拶もしない」というところもあります。その雰囲気だけで、その高齢者住宅に対するイメージは全く変わります。

もちろん、説明・相談を受ける中で、認知症の周辺症状や医療依存度の高い高齢者など、相談の段階で受け入れが難しいと判断せざるを得ないというケースもでてきます。ただ、「入居相談にやってくる」というのは、それだけ不安が大きいということです。不安に対して美辞麗句で曖昧にする、費用の詳細についてごまかすのではなく、高齢者介護、高齢者住宅のプロとして、その高齢者・家族が抱える不安や疑問に寄り添い、より丁寧に説明することで、「この事業者に相談に来てよかった」「この老人ホームは信頼できる」という気持ちを持って帰ってもらうということが、中長期的にみれば、何よりも大切な営業活動なのです。

目的 Ⅲ  信頼関係が構築できる家族か否かを判断する

もう一つは、信頼関係が構築できる家族か否かの見極めです。
高齢者住宅は、販売業や飲食業、一般サービス業のように、単発の物販・サービス契約ではなく、入居契約後にサービスがスタートし、その期間は数年から十数年と長期に渡ります。自分勝手な入居者で、他の利用者との人間関係のトラブル、タバコなどの禁止事項の抵触など、「トラブルメーカーになって、他の入居者・家族からクレームがくる」ということでは困ります。それは、高齢者本人だけでなく、家族との付き合いも同じです。特に、要介護状態が重くなり、本人の意思を確認することが難しくなれば、「着ていた下着が古くなってきたので買ってきてほしい」といった依頼を家族にお願いすることになります。

目先の入居率アップのために、来るもの拒まずになると、入居後に「事業者の説明を聞かない」「無理難題を言ってくる」「スタッフに暴言を吐く」といったトラブルが続出します。
また、病院や介護保険施設でも問題になっている「費用の未払い」が、今後、高齢者住宅でも急増することになるでしょう。契約上は、月額費用の支払いがなければ、事業者から契約解除(つまり出て行ってもらうこと)は可能ですが、支払いが遅れるような保証人や家族が引き取るようなことはしません。対象が要介護高齢者の場合、転移先を事業者が勝手に探すこともできませんし、引き受けてくれるところもありませんから、最後は裁判をするしかありませんが、それで仮に勝ったとしても、それが履行されるとは限りません。中には「介護するのが嫌やったら、その辺に捨てとけ」と暴言を吐く人もいます。
入居者を選定した責任は、すべて事業者にかかってきます。事業者の説明を真剣に聞いているか、高齢者の家族を取り巻く関係はどうなっているか、見学などで勝手な行動はないか・・といった、入居後のトラブルという視点で、きちんと見極める必要があるのです。

高齢者住宅の入居相談マニュアルは、リスクマネジメントの視点から「サービス・リスクの理解」「惹き付ける営業活動」「信頼関係を見極める」という、3つの目的を達成するために整備するものです。
「マニュアルに沿って順番に説明すればよい」「書類にハンコをもらえばよい」という単純なものではないということが、わかるでしょう。



入居相談マニュアルを作成する Ⅰ ~相談・説明~ 

  ➾ リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
  ➾ リスクが大きくなる最大の理由は受け入れ時の説明不足
  ➾  「入居説明・相談・見学対応」 3つの目的を整理する
  ➾ 高齢者住宅 入居相談対応のストーリーをイメージする
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅰ ~申込・受付~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅲ ~見学対応~
  ➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~相談・質問~
  ➾ 入居相談マニュアル 書類整備と教育訓練
  ➾ 入居相談にマニュアル導入の効果とNG対応



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