高齢者住宅内の見学対応は、入居相談マニュアルのステップの一つ。「高齢者住宅内の建物設備や入居者の生活を見てもらう」というものではなく「いかに見せるのか」が重要であり、かつ「どのように見られているのか」を、相談担当者だけでなく、全スタッフが強く意識する必要がある
管理者・リーダー向け 連載 『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 059
高齢者住宅内の見学対応は、入居相談マニュアルのステップの一つです。見学は「高齢者住宅内の建物設備や入居者の生活を見てもらう」というものではなく、「いかに見せるのか」が重要であり、かつ「どのように見られているのか」を、相談担当者だけでなく、全スタッフが強く意識する必要があります。
見学対応マニュアル策定のポイントを整理します。
「見学対応」は、事前準備で成否が決まる
高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~ ? で述べた概要の説明が終わると、見学に向かいます。もう一度、部屋に戻ってきますので、コートや書類などはそのまま置いてもらって、財布などの貴重品だけは持って行ってもらうようにします。
この見学対応は「見学時にどうするか」ではなく、事前準備でその成否がほぼ決まると言っても過言ではありません。事前にどのようなことを整理しておくか、何をしなければならないのか、3つのポイントを整理します。
① どのルートを回るか、どこで・どのような説明をするのか決めておく
見学は、「設計・建築にどのような工夫をしているか」だけでなく、「実際にどのようなサービスをしているのか」「どのような生活になるのか」をアピールできる最大の見せ場です。
多くの事業所で、「屋上に上がってもらって、二階に降りてきて浴室を見てもらおう」「浴室やレクレーション室を案内しよう」という説明ルートは決めているようですが、それでは不十分です。その効果を最大限に活かすには、少なくとも「自立度の高い高齢者の場合」「車椅子利用高齢者の場合」「認知症高齢者の場合」など、要介護状態に合わせて複数のパターンを用意し、それぞれ、どこで・どのような説明をするのか、事前に詳細に検討し、整理しておかなければなりません。
例えば、浴室。要介護状態に合わせて、通常の一般浴槽を使うのか、特殊浴槽を使うのか変わってきます。また、最近では「可変性・汎用性」の高い浴槽もでてきています。入居検討中の高齢者の身体機能に合わせて、どのような目的でその浴室・浴槽を選んだのか、その浴槽にはどのような機能があるのか、週に何回程度入浴するのか、どのような入浴方法になるのかなど、実際の入浴風景がイメージできるように説明を行います。
レクレーションルームも同じです。レクレーションは、事業者から入居者に参加を共有するものではありませんし、自立高齢者、要介護高齢者、また男性・女性によっても、その内容や参加頻度は違います。映画環境や音楽鑑賞など、自発的に自由に参加したいという人もいるでしょうし、逆に「生活リズムやリハビリを兼ねて積極的に促してほしい」という人もいるでしょう。ここまでの説明や話の中から、どのようなニーズを持つ高齢者・家族なのかを判断し、同じような要介護状態・生活レベルの要介護高齢者が、どのようなレクレーションを行っているのか、写真を使って説明することもできます。
居室内の説明も、「惹き付ける説明」において重要な役割を果たします。
多くの高齢者住宅を見学しますが、ほとんどのところで見せてもらえるのは「空いている部屋」です。がらんとしたワンルームの部屋に入って、スイッチの位置やトイレや簡単な水回りなどの説明を受けますが、それでは入居希望者に対しては何のアピールにもなりません。
実際に生活している入居者に頼んで、「どのような生活をしているのか」「どのような備品や家具を置いているのか」の実例を見せてもらうことも一つの方法です。「失礼だ」と思うかもしれませんが、「いつも素敵にされているので、見せていただくことはできませんか?」と事前に依頼しておけば、喜んで部屋を見せてくれる高齢者はたくさんいます。男性・女性、要介護状態なと、入居希望者のレベルに合わせて選定しておけば、実際にどのように生活しているのかがよくわかりますし、入居希望者や家族が、実際に入居中の高齢者の生の声を聴く機会にもなります。
見学は、「バリアフリーの建物設備を見てもらうこと」ではなく、入居者・家族に「実際の生活・サービスを見てもらうこと」であり、事業者にとっては「建物設備だけでなく、自分達の提供しているサービス全てをアピールする場」だという理解が必要です。
② 介護スタッフ・入居者に周知をしておく
二つめは、必ず事前に介護看護スタッフ、利用者に周知をしておくことです。
高齢者住宅は、高齢者・要介護高齢者の実際に生活をしている住居です。また、一般のマンションやアパートの内覧とは違い、実際に高齢者が食事や入浴などの生活している場所に入っていくことになります。介護現場からすれば「営業上の見学」とはいえ、実際のサービスの現場に、他の人が入ってくることは愉快なことではありませんし「知らない人がうろうろしている」というのは、防犯上も問題です。多くの見学者がぞろぞろ入ってくると「動物園じゃないぞ…」と怒る入居者もいます。
そのため、現場スタッフには「見学時間」「見学場所」「見学人数」を、朝の申し送りなどでゼンスタッフに周知できるように徹底しておくこと、また入居者にも、凡その時間帯を伝え、ご迷惑をおかけすることを説明しておかなければなりません。
合わせて、もう一つ事前準備として大切なのは「介護看護スタッフの見学対応の研修」です。
見学対応マニュアル、見学対応の訓練と言えば、「相談担当者の研修・訓練」だと考えがちですが、そうではありません。真剣に高齢者住宅を探している高齢者・家族が見学において注視しているのは、実際に介護看護サービスを提供しているスタッフや、実際に入居している高齢者だからです。
しかし、見学していても挨拶もしないで無言で通り過ぎたり、複数の乱れや靴を踏んで歩いていたり、中には、「〇〇ちゃん、何してるの」とスタッフ間の言葉遣い、入居者への言葉遣いが酷いところも少なくありません。見学者は「良いところ」ではなく「悪いところ」に目が行きがちです。相談担当者が、どれほど一生懸命に説明しても、一人のスタッフの何気ない行動、言葉遣いが入居者確保、経営に大きなダメージとなることを理解しなければなりません。
それを防ぐためには、「入居者・家族は何を見ているのか?」「どんなところをチェックしているのか」を、研修を行って現場の介護スタッフにも伝えることです。
見学において「この高齢者住宅は、良いところですよ…サービスの質は高いですよ…」とアピールするのは、現場の介護看護スタッフであり、入居者なのです。もちろん、それらは見学時だけ取り繕うことはできませんから、普段から緊張感と高い意識をもって、仕事をすることが必要です。
③ 見学時の注意点・禁止事項を見学者に説明する
もう一つは、見学者に対して、見学時の注意点や禁止事項を伝えるということです。
述べたように、高齢者住宅は、高齢者・要介護高齢者が実際に生活をしているプライベートな住居です。一般のマンションやアパートの内覧とは違い、実際に高齢者が食事や入浴などの生活している場所に入っていくことになります。特に、要介護高齢者や認知症高齢者は、自分が老人ホームや高齢者住宅に入っていることを知られたくない、要介護状態になったことを人に見せたくないという人もいます。そのため、安定した住居環境やプライバシーを守るために下記のような見学時の禁止事項・注意点について、入居希望者・家族には十分に説明するとともに、目に余る場合には、途中で見学を中止することも含めて説明を行います。
ここで大切なことは、「以上のことは禁止です」という通告・説明ではなく、「入居者の生活を第一に考えている」ということを真摯に伝えることです。そうすれば、「この事業者は、入居者の生活のことを十分に考えてくれているのだなぁ…」というアピールにもなります。
しかし、残念ながら、丁寧に説明をしていても、実際には説明者から遅れてうろうろしたり、かかってきた携帯電話に出て大声で話をしたりする人もでてきます。そのような自分勝手な人や家族が一人でもいれば、必ず入居後にトラブルメーカーになります。ここでも、「魅力をアピールする」だけでなく「家族を見極める」ということが重要なのです。
以上3つのポイントを挙げました。
見学対応マニュアルでは、「ルートや説明事項の点検」「見学前に行う注意事項の説明」「事前に現場への説明」などを決めておくことになります。
合わせて訓練も重要です。「浴室や居室でどのような説明をするのか・・・」は、要介護状態によって変わると言いましたが、同じ半身麻痺の車椅子利用者でも、「右麻痺・左麻痺」によって、スライドドアの開け閉め、トイレ移動時のしやすさ、は変わってきます。それを的確に把握して、どのような説明を加えるのかも、考えておかなければなりません。
マニュアルを整備するということは、マニュアル通りに見学させるということではなく、「その時に何をすべきか、どんな点に注意すべきか」を事前に把握、訓練するということです。
「見学対応」一つをとっても、非常に奥が深いということがわかるでしょう。
入居相談マニュアルを作成する Ⅰ ~相談・説明~
➾ リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
➾ リスクが大きくなる最大の理由は受け入れ時の説明不足
➾ 「入居説明・相談・見学対応」 3つの目的を整理する
➾ 高齢者住宅 入居相談対応のストーリーをイメージする
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅰ ~申込・受付~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅲ ~見学対応~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~相談・質問~
➾ 入居相談マニュアル 書類整備と教育訓練
➾ 入居相談にマニュアル導入の効果とNG対応
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