RISK-MANAGE

転倒・転落・溺水・誤嚥 生活上・介護上の事故


管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 014

高齢者住宅、高齢者施設事業者の事故に対する「安全配慮義務」は、「施設ではなく住宅だから…」「介護付ではなく、サ高住だから…」など事業種別で変わるわけではない。事故の増加は、責任の有無に関わらず、経営やサービスを不安定にする大きなリスクであるという理解が必要。


高齢者住宅、介護保険施設などの事業経営を不安定にさせる要因は、入居者不足やスタッフ不足など、直接収支に影響するものだけではありません。
もう一つ、経営やサービスを不安定にする大きなリスクが、入居者の事故やトラブルです。

高齢者は、筋力だけでなく、判断力、適応力などの総合的に身体機能が低下しています。
転倒、骨折、溺水、火傷などの生活上の事故のほか、感染症や食中毒の発生、蔓延、火災や地震など、様々な問題が発生します。適切な対応ができないと、一つの事故、トラブルが経営の根幹を揺るがす事態に発展します。長期安定的に経営・サービスを持続するためには、その責任とリスクをしっかり理解、把握することが必要です。

事故に対する高齢者住宅事業者の責任は重い

まずは、高齢者の生活の中で発生する事故です。
「入浴中に熱いお湯でやけどした」「車いす移動中に他の入居者とぶつかった」
「食事中に、ご飯がのどに詰まった」「ベッドから起きようとして転落した」
対象は身体機能の低下した高齢者・要介護高齢者ですから、日々様々な事故が発生します。骨密度や筋力、判断力、瞬発力などが全体的に低下していることから、小さな躓きでも、バランスを崩し、上手く受け身が取れずに、骨折や頭部強打などの重大事故に発生する可能性が高いのが特徴です。

「介護スタッフの直接的なミスでない限り、事業者の責任ではない」
「サービス付き高齢者向け住宅は、施設や介護付ではないので、事業者に事故責任はない」
と言う人がいますが、この安易な判断は間違っているというだけでなく、非常に危険です。

特養ホームや介護付有料老人ホームでも、すべての事故が事業者の責任になるわけではありませんし、サ高住でもすべての事故が事業者の責任にならないわけでもありません。
ただ、すべての事業者には、入居者が安全に生活できる環境を整える「安全配慮義務」があります。
この安全配慮義務に、制度や種別は関係ありません。この義務が果たされていない場合、事業者は民事(損害賠償請求)、刑事(業務上過失致死傷)、行政処分などの、法的な責任を問われることになります。
事業者の責任が問われる事故・ケースについて、いくつかの例を挙げてみましょう。

事業者が法的責任を(安全配慮義務違反)問われる事故
◆ 事業者の提供するサービス(介護・看護など)の提供中に発生した事故
◆ 発生が予想される事故に対して、適切な対策をとっていなかったために発生した事故
◆ 事故・急変の発生に対して、適切な処置を行わなかったことによる被害の拡大
◆ スタッフ間の連携・連絡の不備によって、発生した事故
◆ 事業者の管理する建物設備備品が原因で発生した事故

まず一つは、サービス提供中に発生した事故です。
「排泄介助中に転倒、骨折」「入浴中、目を離したすきに溺水」といったケースが挙げられます。
この介助を行っていたスタッフが、介護付・特養ホームの介護スタッフなのか、外部の訪問介護サービス事業者のホームヘルパーなのかによって、責任の所在は変わってきます。「急に入居者が動いたのが原因」という言い訳も聞きますが、どんなケースでも、介助中の事故であれば当該介護スタッフ、ひいては事業者の雇用者責任がゼロになることはありません。

二つ目は、適切な対策をとっていなかったために発生した事故です。
「最近、歩行中にふらついて、よく転倒している」とわかっていたのに、適切な予防策をとっておらず、転倒・骨折したという場合も「安全配慮義務」の違反を問われます。
例えば「入居者が一人で外にでて車にひかれた」という場合でも、その入居者に認知症の症状があったのか、それを事業者がその事実を把握していたのか、家族への連絡、見守りの強化など、適切な対策をとっていたのか否かによって、その責任の有無は変わってきます。
ただ、これは「知らなかった・・」で済む話ではありません。最近は、サ高住でも生活相談、定期巡回を行っていますから、適切に入居者の生活状況、身体状況を把握する義務があります。その変化を本人や家族、ケアマネジャーなどに連絡し、適切な事故予防策を取らなければなりません。

三点目は、事故や急変に適切な処置を行わなかったことによる被害の拡大です。
心筋梗塞や脳梗塞による急変は、事業者の努力によって回避できるものではありません。
しかし、「決められた巡回を適切に行っていなかった」「スタッフコールへの対応が遅れた」「救急車の手配に時間がかかった」などが要因で、症状が重篤化したり、亡くなった場合も、その責任を問われることになります。

四つ目は、連絡・連携不備による事故です。
「ケアマネジャーから食事介助方法の変更指示」「医師からの薬の変更・中止」「家族からの定期巡回方法の見直しなどの依頼」があったのに、その連絡が周知されていなかったために発生した事故も、責任を問われます。これは、介護付有料老人ホームだけ、介護スタッフのミスによるものだけではありません。サ高住・住宅型有料老人ホームでも、家族や外部事業者間の連絡・調整を相談員が行う場合、対入居者・家族に対しては、その責任を負わなければなりません。

最後の5つ目は、建物設備が原因となって発生する事故です。
メンテナンス不足によって、特別浴槽の転落防止柵・安全ベルトが外れ、入浴介助中に入居者が転落、死亡するという事故が多く発生しています。その他、「床がぬれていたために転倒、骨折」 「階段室に認知症高齢者が入り込み転落」 など、建物設備備品が事故・怪我の原因となっているケースは少なくありません。事業者が管理する建物設備が原因となって発生する事故は、安全配慮義務違反となり、事業者の責任が問われます。

このように整理すると、「施設じゃないから・・」「サ高住だから・・」というのは、一番目の「介護スタッフの直接ミスによる事故」だけで、事業種別はまったく関係ないということがわかるでしょう。
また、実際に発生している事故のほとんどは、一つの理由ではなく、「建物設備+介助ミス」「連絡不備+介助ミス」など、複合的な要因で発生します。「直接のミスでなければ責任ないよね・・」「サ高住だから責任ないよね・・」と、目を背けてしまうと、必要な対策が取れなくなるのです。

「責任の有無」と「リスクの有無」は違うもの

もう一つ、事故対策で重要なことは「責任の有無」と「事業者のリスク」は別のものだということです。
事業者にとっては、事故発生そのものがリスクなのではありません。
しかし、事業者が事故の発生に責任はないと考えていても、家族との感情的なこじれから裁判になると、時間も手間も費用も掛かります。
万一、死亡事故が発生すれば、新聞やマスコミにでることになりますし、そうでなくても、地域の医療機関やケアマネジャーなど業界関係者には知れ渡りますから、特に、民間事業者の場合、「死亡事故が発生した高齢者住宅」として、入居者募集、スタッフ募集にも大きな影響があります。

また、人材不足の最大の原因はリスクマネジメントの遅れ🔗で述べたように、事故の発生で傷つくのは高齢者だけではありません。
直接的なミスでなくても、介護事故が目の前で起こると、入居者にケガをさせて申し訳ないという自責の念が重く圧し掛かり、これまで行っていた介護業務一つ一つが怖くなります。同時に、できていないこと、やらなければならないことばかりが目に付き、また同じような事故が起こるのではないかと大きなストレス・重圧がかかります。その結果、責任感の強い、優秀なスタッフほど、ストレスや重圧に押しつぶされるように辞めていくのです。

事故の発生・増加は、その責任の有無・所在に関わらず、高齢者住宅の経営やサービスを不安定にする大きなリスクなのです。事故対策、リスクマネジメントを推進するには、「どこまでが事業者の責任なのか」「どのような場合に法的責任を問われるのか」をきちんと理解することが必要ですが、同時に「事業者責任でないから関係ない」という話ではないのです。
企業・事業者にとっては、「その事故は事業者責任か否か」というよりも、どのようにして、事故をリスクにしないかという視点がより重要なのです。


高齢者施設・住宅 業務上のリスクを理解する

   ⇒ 転倒・転落・溺水・誤嚥 生活上・介護上の事故 🔗
   ⇒ 入居者・家族からの感情的な不満・苦情・クレーム 🔗
   ⇒ インフルエンザ・O157 感染症・食中毒の蔓延 🔗
   ⇒ 火災・自然災害(地震・台風・水害など)の発生 🔗
   ⇒ スタッフの労働災害・入居者への介護虐待 🔗
   ⇒ 要介護重度化対応の不備が全てのリスクを拡大させる 🔗

【介護リーダー向け連載】 事業の成否を決める 介護リスクマネジメント   (トップ)

    ☞ 介護にもリスクマネジメントが求められる時代 (7コラム) 
    ☞ 高齢者施設・住宅 経営上のリスクを理解する (6コラム)
   ☞ 高齢者施設・住宅 業務上のリスク理解する (6コラム)
   ☞ 高齢者住宅 業務リスクマネジメントの鉄則 (9コラム)
   ☞ 介護事故報告書を基礎から徹底的に見直す (11コラム)

    ☞ 介護事故の法的責任を徹底理解する (13コラム) 



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