入居相談マニュアルの整備の最初のステップは「入居相談の流れ」を整理・理解すること。相談受付はどうするのか、どのようなストーリーで説明を進めるのが最も効率的か、効果的に入居希望者を惹き付けることができるのか。ここでは、高齢者住宅の入居相談を例にその流れとポイントを考える。
管理者・リーダー向け 連載 『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 056
「なぜ相談対応を行うのか」 入居相談の目的を整理する ? で、高齢者住宅で行う入居相談の3つの目的を挙げました。その目的を達成するために、必要な項目を洗い出し、ポイント・注意点を検討し、必要な書類・マニュアルの整備、教育訓練を行っていきます。
この入居相談マニュアルを整備するにあたって、最初のステップとなるのが「入居相談の流れ」をイメージすることです。 どのようなストーリーで入居相談を進めるのか、どうすれば最も効果的にサービス内容や価格、リスクを理解してもらえるか、入居希望者を惹き付けることができるのか。
ここでは、高齢者住宅の入居相談を例にそのストーリーを整理します。
Ⅰ. 入居相談・見学の申し込みの受付
最初のステップは、「入居相談の受付・申し込み」です。
入居相談は、必ず「要予約」として、事前申し込み制にします。そのため、見学に適した時間帯、相談対応が可能な時間、日程などを事前に調整しておくことが必要です。直接「見学させてほしい・・・」とやってくる人がいますが、相談には専門の担当者が対応することや、実際に生活している入居者への事前連絡や見学に適した時間もあることなどを説明し、丁重にお断りをします。
高齢者住宅に対するイメージは、相談受付の段階から始まっています。インターネットなどで、必要事項を記入してもらい申し込みを受け付けるというのも一つの方法ですが、たくさんの個人情報を記入してもらうことになりますし、相談担当者の日時調整も必要となりますから、電話での申し込みが基本です。「相談申込受付表」を作成し、何を聞かなければならないのか、何を伝えなければならないのかを整理して、漏れがないように受付をします。電話を受けるのは相談担当者や管理者だけではありません。事務スタッフにも自然な話の流れの中で聞き取り、受付ができるように工夫・訓練が必要です。
Ⅱ. 来訪~サービス内容・価格など概要の説明
二つめは、入居希望者、家族の来訪時の対応、サービス概要の説明です。
「入居相談」はプライバシーの根幹に関わる話が中心になります。人の動きが気になるところでは、話に集中できませんから、必ず個室(相談室など)を準備します。入居希望者本人も来る場合、車いすを準備する必要はないか、暖房・冷房は入っているか、パンフレットや重要事項説明書などの必要な書類を整え、来訪予定時間の少なくとも30分前には、迎え入れの準備を完了させます。
簡単な謝辞、雰囲気を和らげる世間話のあとで、介護システムや医療連携、食事などのサービスの概要の他、費用の概要(入居一時金、月額費用に含まれる費用、含まれない費用、入院時に必要な費用など)の概要から説明をスタートします。生活上の注意点についても事例を挙げて、実際の生活状況がイメージできるように説明を行います。説明漏れがないように、説明すべき事項は事前に整理しておく必要がありますが、同時に「一方的な説明」ではなく高齢者や家族の理解度を確認しながら話を進めること、またイメージできるように、言葉だけではなく図表などを使った工夫や訓練が必要です。
Ⅲ. 高齢者住宅内の見学・ポイントの説明
一通りの説明が終われば、高齢者住宅内の見学です。
高齢者住宅は、入居者のプライベートな生活の場・居住空間であり、それを事業者の都合で見せてもらうという意識が必要です。入居相談がある場合、事前に介護スタッフには見学があることを伝えておく(必ず、朝の申し送りなどで徹底する)とともに、現在の入居者にも、当日に見学のおよその時間帯を伝え、ご迷惑をおかけすることを説明しなければなりません。また、当日、見学を始める前に、写真を勝手にとらないなどプライバシーに十分に配慮していただくよう依頼します。
相談担当者は、事前に見学のルートや説明のポイントを整理し、建物設計上留意した点や、介護事故予防上の一般住宅の設計との違いなどについて、プロの視点から説明します。ただし、家族や入居者が見ているのは、相談担当者が説明している「建物設備」だけでなく、サービスのレベル、スタッフの服装、言葉遣いなど、全体の雰囲気を見られていることを現場の介護スタッフにも自覚させなければなりません。
Ⅳ. 追加説明・質問受付・個別相談
住宅内の説明が終わると、休憩を兼ねてもう一度、最初の部屋に戻ってきます。
そこで、追加の説明や入居者、家族からの質問、個別の事情、心配事などの相談を受け付けます。ただ、高齢者介護はデリケートでプライベートな問題であることや、ほとんどの高齢者・家族は、高齢者住宅選びは始めての経験ですから、「さぁ、何でも聞いてください!!」では質問や心配事を引き出すことはできません。 そこで「入居相談で多い質問」「入居後のトラブル例」といった話から、「転倒や骨折事故の対応方法、その限界」「認知症高齢者への対応」「長期入院となった場合の対応」など、「入居後のリスク」など、その対象高齢者や家族の興味に合わせて話を進めていきます。
あまり相談が長くなりすぎても、家族や高齢者は疲れてしまいますので、当初の予定通り1時間半~2時間程度で終わるようにします。
入居希望者・家族の目的は、「老人ホーム選びの判断材料を得ること」ですから、入居の申し込みや契約を急がせるような言動は厳に慎むべきです。「良い老人ホーム」は、それそれに違いますし、同じ介護付有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅といっても、それぞれにサービス内容・価格設定は違いますから、できるだけたくさんの高齢者住宅に相談、見学をすることを勧めて、クロージングとします。
Ⅴ. 相談対応報告書の作成、アフターフォロー
最後がアフターフォローと相談対応報告書の作成です。
不動産販売のように、「見学いかがでしたか?」「どこか決まりましたか?」などと、営業電話をするところもあるようですが、それは逆効果となります。高齢者住宅は、新婚カップルがのように「ウキウキ、わくわく」と探している人はほとんどいませんし、老人ホームを探していることを、入居希望者本人や他の家族にもまだ話していないというケースもあります。
アフターフォローの一つとして、「生活費見積書」「入居一時金返金一覧表」などを作成し、後日に送付するという方法もあります。ただ、こちらから連絡をする必要がある場合でも、「携帯電話が良いか、何時頃が良いか、メールが良いか」など、細心の注意を払って行います。
もう一つ重要になるのが、「相談対応報告書」の作成です。
相談・見学を行った入居希望者や家族が帰った後で、その内容・概要について報告書を作成します。すぐに入居を検討し、再度連絡してくる人もいれば、半年後、一年後に電話がかかってくることもあります。その時に「どんな相談でしたっけ…」「どなたでしたっけ…」という担当者と、「よく覚えています」「妹さんお二人で起こしいただいて…」という応対をしてくれる担当者、どちらが信頼できるかわかるでしょう。
相談日時、相談者、相談担当者と共に、相談の概要、家族の雰囲気など、気になった点だけでなく、その時のご家族の雰囲気なども管理者・ホーム長と情報を共有しておきます。
以上が、相談対応の流れです。
事業者から見た、入居相談の目的は、「正確にサービス内容・価格・リスクを伝えること」「入居者を惹き付けるための営業活動」「信頼関係が構築できる家族の見極め」の3つです。その目的が達成できたかどうかは、すぐに判断することはできませんが、家族や入居者から、「現在の要介護状態、生活状態」「高齢者住宅へ入居させることの心配・不安」など積極的に相談・質問がでたか否かで、「興味をもってもらえたか否か」「理解してもらえたか否か」の判断はある程度できるでしょう。
この流れに沿って、それぞれの場面ですべきこと、それぞれの注意点、必要な書類などのマニュアルを整備していきます。
入居相談マニュアルを作成する Ⅰ ~相談・説明~
➾ リスクマネジメントを土台とした入居相談マニュアルの整備
➾ リスクが大きくなる最大の理由は受け入れ時の説明不足
➾ 「入居説明・相談・見学対応」 3つの目的を整理する
➾ 高齢者住宅 入居相談対応のストーリーをイメージする
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅰ ~申込・受付~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅱ ~準備・説明~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅲ ~見学対応~
➾ 高齢者住宅 入居相談マニュアル Ⅳ ~相談・質問~
➾ 入居相談マニュアル 書類整備と教育訓練
➾ 入居相談にマニュアル導入の効果とNG対応
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