介護事故報告書の作成は「迅速性」「客観性」「連続性」「共有化」という4つの鉄則があり、事故発生からその収束までの流れは「初期対応」「事故の検証」「報告書の作成」「改善・収束」という4つの段階に分かれる。その全体像を全スタッフに理解させることが第一歩
管理者・リーダー向け 連載 『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 034
介護事故報告書を見直すには、「鉄則」と「流れ」を意識することが必要です。
介護事故報告書策定には、【迅速性】【連続性】【客観性】【共有化】の4つの鉄則があり、事故発生から収束までの流れは大きく「初期対応」「検証」「報告」「改善・収束」の四段階に分かれます。
鉄則と流れに沿って、報告書策定のポイントを整理します。
介護事故報告書の策定は 4つの鉄則に従って
報告書策定には、4つの鉄則があります。
① 迅 速 性
まず、第一の鉄則は迅速性です。
「忙しくて報告書を書く時間がない」という声はよく聞きますが、これは大間違いです。事故の確認、報告、連絡は、他の業務を差し置いても第一に対応すべきものです。「報告書は後で書きます」「対応は追々やります」というのでは、その間に同じようなトラブル・事故が発生することになります。
また、事故発生直後は緊張感を持って対応することができますが、収束し時間が経てば、「骨折とかの重大な事故じゃないからいいか…」「家族も納得してくれたし、まっいいか…」と問題意識が低下し、実行力のある対策が取れなくなります。
これは、事故だけでなく、家族からのクレーム対応も同じですが、「鉄は熱いうちに打つ」が業務改善・サービス向上の鉄則です。
② 客 観 性
二つ目は客観性です。
どのような事故が発生したのか、その事故原因は何か、初期対応が適切だったかというのは、客観的な事実に基づいて整理・検討されなければ意味がありません。
しかし、客観的な報告書を作成するというのは、とても難しいのです。それは、介護事故報告書が上手く書けないのは当たり前? で述べたように、事故発生の原因分析は、そのスタッフの技術・知識・経験に大きく左右される上、書き手に性格にも左右されるからです。
例えば、車いす利用の認知症高齢者の移乗介助中に、車いすのブレーキが甘くなっており、動いて転倒したというケース。これは、「介助ミス」+「建物設備の瑕疵」によって発生した事故ですが、どちらに重点を置いて報告するのかは、それぞれのスタッフの性格によって変わってきます。「私の介助ミスによって転倒させてしまった…」と責任を感じている人は、「車いすのブレーキが甘くなっていた」ということを気づきにくく、また気づいても、言い訳のように聞こえるからと報告しないかもしれません。
しかし、報告書作成の目的は、本人に反省を促すためではありませんし、正確に、客観的に状況や原因を把握できなければ、適切な対策をとることはできません。
③ 連 続 性
三つ目は連続性です。
事故の原因究明、初期対応が適切だったかの判断には、事故発生を中心にして、その前にどのようなことをしていたのか、その後にどのような対応をとったか、という前後の流れがとても重要です。また、介護事故報告書の目的・役割を明確にする? で述べたように、事故報告書の目的には、「事故に関する情報を集約し、家族・関連機関に対して正確な情報を連絡・報告すること」「裁判などに備え、事故発生から対応方法、収束までの情報を一元的に管理すること」も含まれます。
そのため、介護事故の発生前から発生・発見に至る経緯、介護事故の初期対応、家族・行政への連絡、解決対応、事故の収束までを一つの流れとして、わかるように整理することが必要です。
一つの流れとして全体像を把握していれば、いま、どの段階の作業をしているのか、これからどのような対応が必要なのかが見えてきます。
④ 共 有 化
最後の一つは、共有です。
事故報告書を策定する第一の目的は、その事故を検証し、それを教訓・ノウハウとして積み重ね、新しい事故の発生・拡大を予防することです。そのためには、事故の当事者だけでなく、全スタッフが正確な情報、対応策や改善点を共有することが必要です。合わせて、「自分の介護中でなくてよかった」という他人事として捉えるのではなく、「自分も当事者となる可能性があった」という意識を全スタッフが持ち、チーム・事業所全体の問題として捉える雰囲気を醸成していかなければなりません。
以上、4つの鉄則が順守されていなければ、どのような立派な介護事故報告書が策定されても意味はありませんし、その目的を達成することはできません。
事故報告書策定の流れを理解する
もう一つ、介護事故報告書の策定実務において、重要になるのが、事故発生から収束までの全体の流れの理解です。事故発生から収束までの流れを整理すると、「初期対応」「検証」「報告」「改善・収束」の4つに大きく分かれます。
夜間の介護付有料老人ホームで、巡回時に発見した転倒事故を例に挙げて流れを見ていきます。
① 初 期 対 応
第一は初期対応です。
転倒した本人に状況を確認、骨折や打撲がないかをチェックし、表面的に怪我がなくても急変に備えて他のスタッフにも転倒情報を伝達します。転倒の原因が明確であれば、一時的な対応としてその原因を取り除くこと、また、念のためにトイレに移乗するときはスタッフを呼んで欲しいと本人に伝えることも必要です。
同じケースでも、脳出血や骨折の可能性がある場合、すぐに救急車を要請します。その事実を家族・保証人に連絡することはもちろんのこと、翌日には介護保険法に基づいて市町村への報告(一次報告)も必要になります。民間の保険(介護事故等に対する施設賠償保険等)に入っている場合、保険会社にも一報を入れなければなりません。
骨折や大きな怪我を伴う事故の場合、事故原因を家族や行政などに報告しなければなりませんが、初期連絡の段階では一報を入れ、「3日以内」「一週間以内」など期日を切って、事業所内で検証を行い、再度報告することを約束するという方法をとります。
この緊急対応、初期対応については、すべてのスタッフが同じ対応がとれるようにマニュアルで整備しておくことが必要です。
② 事 故 の 検 証
次のステップは、事故の検証です。
介護事故報告書の根幹的な役割は、「事故が起こったこと」を報告するのではなく、「なぜ事故が発生したか」「どのように対応したのか」のレポートすることです。客観的な報告書を作成するためには、事故発生の状況を把握し、その原因の究明、初期対応に問題がなかったかについて検証が不可欠です。
事故報告書策定の中で、最も重要で、かつ多くの事業所でできていないのが、この検証作業です。事故報告書が書けないのは、この検証が十分にできていないからです。
③ 事故報告書の策定
三点目が、介護事故報告書の策定です。
②で行った検証内容を事故報告書にそのまま転記することになります。その上で事故原因を特定し、初期対応に問題がなかったのかを本人ではなく、第三者が判断します。また、その原因を取り除くための改善策を検討します。これ事故報告だけではなく、感染症などの蔓延、食中毒の発生、サービスに対する苦情なども同じ流れです。
④ 改善・収束
最後が、改善・収束です。
行政や家族への連絡・対応について時系列で記入し、問題が拗れないように、誠意をもって事故の収束に向けて話し合いを行うことになります。一方で、報告書で示された事故原因、初期対応の課題について、利用者個別の問題についてはケアカンファレンスで、全体の問題についてはリスクマネジメント委員会等で議論を行い、予防対策について個別対策、全体対策の両面から進めていくことになります。
この全体像の理解ができていれば、「今、どのあたりにいるのか・・」「いま、何をすべきなのか・・」が見えてきます。
もちろん、これは骨折などの重大事故だけでなく、軽易な事故でも、必ずこの流れを取ります。この全体増の流れが理解できていないために、「家族へ連絡しなくてもいいか・・・」「今度から気をつけてね・・」と最後の終息が曖昧で、「あるだけ報告書」になってしまうのです。
事故が発生した場合、その大小にかかわらず、一つ一つ、きっちりと収束させていくことが必要です。
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