RISK-MANAGE

火災・自然災害(地震・台風・ゲリラ豪雨など)の発生


高齢者・要介護高齢者は災害弱者。入居者の生命・財産を守る災害対策の充実は、高齢者住宅の最低限の責務であり、制度基準に関わらず、その責任は重大。「施設ではなく住宅だから・・」「サ高住だから・・」と、災害対策に取り組まない事業者には、事業に参入する資格はない。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 017


高齢者・要介護高齢者は、障害者や幼児と同じように、災害弱者です。
そのため、特養ホーム、老健施設などの介護保険施設は、耐震基準、防火基準ともに厳しく設定されており、スプリンクラー、防火シャッター、自動火災通報装置の設置基準も、細かく定められています。
しかし、同じ高齢者・要介護高齢者を対象としていても、民間の高齢者住宅は、これらの防災基準・防災設備は整備基準の中に含まれておらず、特にサ高住の場合は、建築基準法上、また消防法上は、共同住宅として取り扱われるため、一般の賃貸マンションとほとんどかわりません。

ただ、これは、制度上の違い、制度矛盾でしかありません。
高齢者住宅事業者や設計士の中には、「福祉施設ではないから、サ高住の方が安くできる」と安易に話をする人もいますが、「法律上・制度上必要ない」ということと、「サービス提供上必要ない」ということは、まったく違います。
老人福祉施設も高齢者住宅もその対象者は同じです。
それは、その可能性や被害、リスクの大きさは全く変わらないということです。
特に、夜間に火災が発生すれば、ほとんどの高齢者は一人で逃げ出すことはできず、多くの人が逃げ遅れ大惨事に発展します。制度上は不要でも、運営上は高い耐震耐火建物、防災設備は不可欠です。
しかし、残念ながら、高齢者住宅は介護保険施設と比較すると制度基準が緩いことも相まって、事業者の危機感、責任感も非常に弱いのです。

施設だから・・住宅だから・・は関係ない

「防災基準を満たしていれば、火災が起きても法的な責任は負わない」「福祉施設と高齢者住宅の責任は違う」と考えている人がいるかもしれませんが、それは大きな間違いです。

高齢者住宅事業者には、防災設備基準以前に、入居者が安全に生活できるように、十分な配慮をする義務があります。一般の賃貸マンションではなく、高齢者専用の集合住宅ですから、対象となる高齢者、要介護高齢者の生活・リスクに合わせて、より高い配慮義務、注意義務があります。
それは福祉施設でも高齢者住宅でも、まったく同じです。

火災の発生原因如何を問わず、万一、火災が発生し、入居者が怪我をしたり、亡くなられた場合、経営者は業務上過失致死傷の罪に問われることになります。
2009年、北海道のグループホームで発生した火災では、9人の入居者の内も7人の高齢者が亡くなっています。この火災死亡事故では、運営していた会社の社長が、業務上過失致死で書類送検されています。また、2009年 群馬県の無届施設 『静養ホーム たまゆら』で発生し、10名の入居者が亡くなった火災死亡事故では、当時の理事長に対して、禁錮2年 執行猶予4年の有罪判決が出されています。

それは、「建物設備に不備があった」ということだけではありません。
「サ高住は一般の住宅と同じだから居室でタバコもOK」というところがありますが、部屋の床に焦げ跡がついていたり、他の家族から「火災にならないか心配だ」と相談を受けていたのに、何も手を打たず、火災が発生した場合、刑事、民事双方で、責任を厳しく追及されることになります。

また、消防法上、建築基準法上の基準というのは、あくまで最低基準です。基準がないから、また基準を満たしていれば、火災が発生しても法的な責任を負わなくてよいというものではありません。
事業者の法的責任で言えば、「刑事」「民事」「行政処分」のうち、消防法や建築基準法の行政処分にかからないというだけです。失火、類焼、放火など原因を問わず、火災によって入居者が亡くなれば、経営者、管理者は、ほぼ確実に業務上過失致死に問われます。同時に入所者・家族からは、莫大な金額の損害賠償請求を受けます。
事業者は、高齢者住宅を運営している時点で、制度基準を問わず、入居者の安全な生活に、厳しい重い責任を負っているのです。

火災・自然災害に対するリスク・責任は重大

しかし、残念ながら特養ホームなどと比較すると、有料老人ホームやサ高住の事業者の火災や災害に対する責任、リスクへの感度、認識は高くありません。
「夜間想定などの防災訓練を定期的に行っているか」
「防災管理者、防火管理者を設置しているか」
「防災・防火などのマニュアル整備、入居者への注意喚起をしているか」

と聞いても、「必要だと思っているが、忙しいから・・」はまだ良い方で、「住宅だから必要ない」「最低限のことをしていれば良い」と答える人も少なくありません。

有料老人ホームでも、災害対策マニュアルを策定していても、ほとんどの人がその内容を知らない、防火責任者の名前に退職した人の名前が入っているという事業所も少なくありません。消防訓練を行っていても、緊張感もなく笑いながら、ダラダラと訓練しているというケースを良く見かけます。
これは、事業者・経営者がリスクに対する感度が低いため、スタッフも同じような認識になるのです。

火災や災害は、介護事故や苦情と比較すると、その可能性や頻度は高くありません。
しかし、火災や災害は、発生すれば入居者の生命を奪い、事業の継続を困難にさせる巨大リスクです。
例えば、震度6クラスの大地震が発生し、電気・ガス・水道などのライフラインがストップしたことを想定してみましょう。緊急地震速報に対してスタッフは瞬時にどう動くか、揺れが収まった後に、すぐに何をすべきか理解しているでしょうか。
日中ではなく夜間だったらどうするか。火の元の確認、居室にいる高齢者の安否、デイルームにいる高齢者の安全確保、被害状況のチェックは迅速にできるでしょうか。

また、巨大地震の場合、すぐに救援は来ないために、数日は自分達で生活を維持しなければなりません。暖房器具は動かないために寒く、電気・ガスが止まるため食事の準備もできません。エレベーターも止まり食堂まで高齢者は降りてこられませんし、トイレも使えず、お湯も沸かせません。介護動線・生活動線が分断され、業務量が激増する一方で、スタッフも被災しているため、生命を維持するための最低限のケアさえできなくなるのです。


「安心・快適」と安易に標榜する事業者ほど、その基礎となる「安全対策」は不十分です。
スプリンクラーなどの設置義務が強化されると、「費用の負担ができない・・」「入居者には低所得者も多い・・」などと、さも制度が悪いかのように言い訳する事業者がおり、「補助金をつけろ・・」などと国や自治体の責任にするマスコミもありますが、これは完全に間違いです。
そもそも、「サ高住なので厳しい規定がない」「スプリンクラー・自動通報装置は義務ではない」と、災害対策に真剣に取り組まない事業者に、高齢者住宅に参入する資格はないのです。





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