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「老人福祉」から「介護保険」へ、大きく変わったサービス提供責任


老人福祉による福祉施策の介護から、介護保険制度による介護サービスへの移行で、最も大きく変わったのは事業者・経営者の「サービス提供責任」。介護リスクマネジメントの推進なしには、介護サービス事業、高齢者住宅事業の経営はできない。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 001


高齢者介護は、長い間、老人福祉施策の一つとして行われてきました。
家族が介護できないかわいそうな高齢者、社会的弱者に対する公的支援というイメージが強く「介護は一般サービスと同じ」「利用者・入所者はお客様」という考え方が定着してきたのはまだ、最近のことです。
ただ、高齢者介護が、これまでの行政措置による「福祉施策」から、直接契約による「介護サービス」に変わっても、実際の介護の内容が変化するわけではありません。

介護保険への移行で、最も変わったのは事業者のサービス提供責任です。
2000年までの老人福祉法に基づく介護は、行政からの措置・委託によって行われていました。対して介護保険制度以降は、利用者・家族との直接契約によって介護サービスを提供しています。これまで間接的で曖昧だった事故・トラブルに対する事業者のサービ提供責任が明確になったのです。

しかし、介護業界はまだその変化にうまく対応できていません。
多くの事業者が利用している「ケアプラン」や「サービス契約書」「重要事項説明書」の雛型は、厚労省がモデル化しているものをそのまま流用しており、自分たちで、その中身や法的責任について、詳細に検討、見直しをしている事業者は一部に過ぎません。
また、各介護サービス事業所には、介護サービス提供責任者という役職の配置が義務付けられていますが、その当事者であっても「サービス提供責任とは何か」「どのような法的責任が発生するのか」「どこまで責任を負うのか」について深く考えたことがないというのが現実でしょう。

「高齢者介護は契約によるサービス業」「これまでの福祉からの脱却が必要」というだけでなく、それに伴って「法的なサービス提供責任が生じる」ということを強く認識する必要があるのです。

介護サービス事業の基礎は、3つのマネジメント

介護サービス事業の安定には、「3つのマネジメント」が必要です。

一つは、ケアマネジメント。
介護、看護、食事、相談を含め、適切な生活支援サービスを提供するためには、要介護高齢者それぞれの要介護状態、生活環境、個別ニーズに合わせて、「どうすれば、もっとも安全、快適に生活することができるか」を検討しなければなりません。その検討作業全体をケアマネジメントと言い、その過程や成果を書類にまとめたものがケアプランです。
ケアプランは単なる介護サービスの計画表・管理表ではなく、生活相談、食事、家族の役割も含め、要介護高齢者の生活をどのように支援していくのかという設計図です。
「介護サービスの品質=高齢者の生活の質」であり、その土台がケアマネジメントです。

二つ目が、リスクマネジメント。
高齢者介護は契約に基づくサービスですから、利用者に対して高い「安全配慮義務」が生じます。
高齢者介護は、家族介護代行サービスありません。プロの介護技術、介護知識を使って、個別の要介護状態、生活ニーズに沿って、高齢者が安全に、快適に生活できるよう最大限の支援を行うことです。高齢者住宅や介護保険施設は、単純な介護サービスだけでなく、生活環境の整備までを含みます。
「安全な生活環境の整備=介護サービス提供責任」であり、その土台がリスクマネジメントです。

もう一つが経営マネジメントです。
介護ビジネスは「需要が増えるから事業性が高い」と言うほど、簡単なものではありません。今でも、多くの高齢者住宅で入居者が確保できずにいますし、介護スタッフ不足によって、稼働できていない特養ホームも増えています。介護保険制度の改正、介護報酬の改定など、制度報酬変更によっても、経営は大きく左右されます。
「介護労働環境・経営環境変化への対応=経営責任」であり、そのかじ取りを行うノウハウが経営マネジメントです。


この三つの柱は、それぞれに分離しているものではありません。
ケアマネジメントのアセスメント(課題分析)の中で、その中心になるのが生活上の事故リスクの検討です。その高齢者の要介護状態から、これからの生活において、どのような事故リスクがあるのか、それをどのように予防するのかを、個別・詳細に検討しなければなりません。
ただ、事故リスクをゼロにすることはできませんから、ケアカンファレンスの中で、その予防策の限界も含めて家族や高齢者本人にわかりやすく、丁寧に伝えることも必要になります。

経営マネジメントとリスクマネジメントの関係も同様です。
転倒、溺水事故の発生などで傷つくのは高齢者だけではありません。家族から「キチンと介護していたのか」と心無い言葉を浴びられることもありますし、最悪の場合、介護看護スタッフが業務上過失致死に問われるリスクもあります。
介護看護スタッフが安全に、安心して働ける労働環境を整えるためには、リスクマネジメントの視点、強化が不可欠です。それは、介護サービス実務だけでなく、生活相談、利用時の説明、更には建物設備設計、介護スタッフ配置などの商品設計・プランニングにも大きく関わってきます。
3つの柱となるノウハウ、どれが欠けても、安定的なサービス提供や事業の継続はできないのです。

ここでは、その柱の一つ「リスクマネジメント」について考えます。



高齢者介護にもリスクマネジメントが求められる時代

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