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【R01】 「老人福祉」から「介護サービス」へ、何が変わったのか

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 No1

老人福祉による福祉施策の介護から、介護保険制度による介護サービスへの移行で、最も大きく変わったのは事業者・経営者の「サービス提供責任」。介護リスクマネジメントの推進なしには、介護サービス事業、高齢者住宅事業の経営はできない。



高齢者介護は、これまで長い間、老人福祉施策の一つとして行われてきました。
社会的弱者に対する公的支援というイメージが強く、「高齢者介護は一般サービスと同じ」「利用者・入所者はお客様」という当たり前の考えが定着してきたのは、まだ最近のことです。
ただ、高齢者介護が、これまでの行政措置による「福祉施策」から、契約による「介護サービス」に変わっても、実際に行っている介護・介助の内容が変化するわけではありません。

介護保険への移行で、最も変わったのは、事業者のサービス提供責任です。
老人福祉法に基づく介護事業は、事業者と利用者との直接契約ではなく、行政からの措置・委託によって行われていました。これに対して、介護保険制度以降は、事業者は利用者・家族との直接契約によって介護サービスを提供しています。その結果、これまで間接的で曖昧だった「利用者に対する、事業者のサービ提供責任」が明確になったのです。

しかし、介護業界はまだその変化に、うまく適用できていません。
多くの事業者が利用している「ケアプラン」や「サービス契約書」「重要事項説明書」の雛型は、厚労省がモデル化しているものをそのまま流用しており、自分たちで、その中身や法的責任について、詳細に検討、見直ししている事業者は一部に過ぎません。

また、介護サービス事業所には、サービス管理者、介護サービス提供責任者という介護サービスの中核となる役職の人が配置されていますが、その役職に自分がついていても、「サービス提供責任とは何か」「どんな責任が発生するのか」「どこまで責任を負うのか」「誰が責任を負うのか」を知らない、深く考えたことがないという人が大半です。
そのため、「笑顔、安心、快適」と美辞麗句を重ねながら、家族からクレームを受ければ「勝手な家族だ」「自分で介護したらいい」と文句を言い、事故やトラブルが発生すれば「こっちは忙しいんだ」「事故はゼロにできない」と言い訳ばかりしているのです。

「介護はサービス業だ」と自ら宣言しておきながら、「介護=福祉」という時代から十分に脱却できておらず、これまでとは格段に事業者のサービス提供責任が重くなったという変化に気付いていないのです。

介護サービス事業の基礎は、3つのマネジメント

介護サービス事業を安定させるための柱は、3つのマネジメントです。

一つは、ケアマネジメントです。
介護、看護、食事、相談を含め、適切な生活支援サービスを提供するためには、要介護高齢者それぞれの要介護状態、生活環境、個別ニーズに合わせて、「どうすれば、もっとも安全、快適に生活することができるか」を検討しなければなりません。その検討作業全体をケアマネジメントと言い、その過程や成果を書類にまとめたものがケアプランです。その検討・作成を中心になって行うのがケアマネジャーです。
ケアプランは単なる介護サービスの計画表・管理表ではなく、生活相談、食事、家族の役割も含め、要介護高齢者の生活をどのように支援していくのかという設計図です。
「介護サービスの質=高齢者の生活の質」であり、その基礎となるのが、このケアマネジメントです。

二つ目が、リスクマネジメントです。
介護サービス事業の対象は身体機能の低下した要介護高齢者です。躓いただけでも転倒、骨折し、頭部打撲による脳出血など、重大事故に発展する可能性も高くなります。特に、認知症高齢者は、事故回避や状況判断の能力が大きく低下するため、事故の可能性はより高くなります。その他、高齢者の生活上の危険は、感染症や食中毒、火災・災害の発生など、多岐にわたります。

高齢者介護は契約に基づくサービスですから、利用者に対して、高い「安全配慮義務」が生じます。
高齢者介護という仕事は、家族の代わりに排泄介助や入浴介助を行うことではありません。介護サービスというのは、高いプロの介護技術、介護知識を使って、個別の要介護状態、生活ニーズに沿いながら、それぞれの高齢者が安全に、快適に生活できるよう最大限の配慮、サポートを行うことです。高齢者住宅や介護保険施設の場合は、生活環境の整備までを含む概念です。
「高齢者の安全な生活(利用)環境の整備=介護サービスの提供責任」であり、その基礎となるのが、リスクマネジメントです。

そして、もう一つが経営マネジメントです。
介護ビジネスは、「需要が増えるから事業性が高い」と言うほど、簡単なものではありません。
実際、多くの高齢者住宅で入居者が確保できずにいますし、介護スタッフ不足によって、稼働できていない特養ホームも増えています。また、介護ビジネスは、公的な介護保険制度を収入の基礎とする営利事業という他に類例のない事業です。今後、財政や人材の確保は更に難しくなっていきますし、介護保険制度の改正、介護報酬の改定など、制度報酬変更によって、経営は大きく左右されます。
長期安定的な介護サービス事業の継続、介護ビジネスの基礎となるのが、「経営マネジメント」です。


この三つの柱は、それぞれに分離しているものではありません。
例えば、ケアマネジメントとリスクマネジメントの関係です。
ケアマネジメントのアセスメント(課題分析)の中で、その中心になるのが生活上の事故リスクの検討です。その高齢者の要介護状態から、これからの生活において、どのような事故リスクがあるのか、それをどのように予防するのかを、個別・詳細に検討しなければなりません。
ただ、事故リスクをゼロにすることはできませんから、ケアカンファレンスの中で、その予防策の限界も含めて家族や高齢者本人にわかりやすく、丁寧に伝えることも必要になります。

これは、経営マネジメントとリスクマネジメントの関係も同様です。
転倒、溺水事故の発生などで傷つくのは高齢者だけではありません。家族から「キチンと介護していたのか」と心無い言葉を浴びられることもありますし、最悪の場合、介護看護スタッフが業務上過失致死に問われるリスクもあります。
介護看護スタッフが安全に、安心して働ける労働環境を整えるためには、リスクマネジメントの視点、強化が不可欠です。それは、介護サービス実務だけでなく、生活相談、利用時の説明、更には建物設備設計、介護スタッフ配置などの商品設計・プランニングにも大きく関わってきます。

介護サービス事業は、3つの柱のどれが欠けても、安定的なサービス提供や事業の継続はできません
このように整理するとサービス向上・長期安定経営のためには、「入居者確保」「スタッフ確保」といった目先の問題だけでなく、その背景には「リスクマネジメント」があるということがわかるでしょう。

言い換えれば、事故や虐待事件の増加、離職率の増加、介護スタッフ不足など、現在、介護子業界内で発生しているすべての問題の背景には、「リスクマネジメントの不備」があります。それを見直さない限り問題は解決はしない、長期安定経営はできないのです。

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