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介護事故報告書 作成のポイント ~誰が書くのか~


介護事故報告書の作成に最も重要なことは、第三者による迅速な検証作業。
事故報告書を書くのは事故を発生・発見した本人ではなく、検証した第三者。
この二つのポイントを確実に実践することができれば、事故報告書のレベルは格段に上がる。

管理者・リーダー向け 連載  『介護事業の成否を決めるリスクマネジメント』 035


「どうすれば介護事故報告書が上手く書けるのか・・・」「どのような書式が最もふさわしいのか・・」
高齢者住宅に関わらず、ほとんどの介護事業者、管理者が抱える悩みです。

ただ、介護事故報告書に表れる事業者のサービスレベル? で述べたように、その原因は、リスクマネジメントの基礎となる「安全介護マニュアル」「初期対応マニュアル」「安全建物設備設計」「ケアマネジメント」「連絡報告相談システム」「情報共有・情報管理」などの基本ができていないからです。
これらを無視して、「事故報告書だけを上手く書く」という方法はありません。

加えて、介護事故報告書が上手く書けないのは当たり前? で述べたように、介護スタッフにはその技術・知識・経験、更にはそれぞれの性格にも差がありますから、すべてのスタッフが質の高い、客観的な報告書を書くということは、実質的に不可能です。

しかし、それは「全スタッフが客観的な報告書を書くことは難しい」ということであり、「介護事故報告書を書くのは難しい」と言っているのではありません。大切なことは、介護事故報告書の鉄則と流れを整理する? に掲げた4つの原則、特に客観性をどのように担保するのかです。
実は、それは、視点を変えれば、そう難しいことではありません。
介護事故報告書策定の核心となる二つのポイントを挙げます。

第三者による、事故の検証作業が何よりも重要

介護事故報告書が上手く書けない理由、小さな介助ミスによる介護事故が無くならない理由、介護事故への対応が十分にできていない理由は、すべて同じです。発生した事故に対して十分な検証ができていないからです。

高齢者住宅の『介護事故』の原因は一つではありませんし、表面的な理由の裏には、必ず別の課題が隠れています。事故を起こした当事者が真剣に考えたとしても、それは技術・知識・経験に大きく左右されることになります。その人の思い込みだけで、事故原因を見過ごしたり、違う原因を挙げてしまえば事故の発生を予防することはできませんし、初期対応は正しく行われたのかが判断できなければ、その後の拡大予防に繋がりません。

また、「自分の行為以外の原因に言及することは、言い訳と思われるのではないか・・」「私のミスとなるのは嫌だから、違う理由を探そう・・・」と主観や感情が入ると、その時点で報告書の客観性が保てなくなります。その結果、「目を離した隙に転倒、今度から目を離さないようにします・・」 といった何の原因分析も事故予防にも役立たない反省文のような事故報告書になるのです。

これは、交通事故を考えればわかるでしょう。
交通事故を起こしてしまった場合、「自転車が飛び出してきたから」「考え事をしていたから」「スピードがですぎていたから」など、複合的な原因がありますが、「自転車が悪い」「私は悪くない」ということに感情の焦点が向けば、客観的な原因分析はできなくなります。事故を発生させた当人が報告書を作成しても、客観的な検証ができないのは誰が考えてもわかるはずです。

事故検証は、事故発生・発見の当事者一人ではできないのです。
そのため、客観的な第三者である主任や介護リーダーが中心となって、当該事故を発生させたスタッフ、発見したスタッフ、初期対応に関わったスタッフが共同で行わなければなりません。 また、この事故の検証は、緊急対応・初期対応が終わった後速やかに、他の業務に優先して行わなければなりません。時間が経過すると、緊張感が失われてしまい、記憶が曖昧になってきます。
嘘をつくつもりはなくても自分の都合の良いように、記憶は修正されていくからです。

もちろん、この検証作業は、楽しいものではありません。
事故を起こした本人は大きなショックを受けているからです。
ただ、その目的は責任を追及することでも、ミスを責めることでもありません。原因を追求して、その綻びを修正することです。真面目に一生懸命に働いていても、誰でもミスをしますし、ミスがなくても事故は発生します。怪我の有無・大小に関わらず、事故の原因を究明して、対応策を強化することでしか、新たな事故の発生を予防することはできません。

不幸にも発生した介護事故ですが、それは検証・整理して、全スタッフの共有財産としなければならないのです。事故の状況を思い出すことはつらいことですが、その意義を各スタッフにしっかりと伝え、スタッフへの気持ちのケアも行いながら、事故の検証はしっかりと行わなければなりません。
ここで行われた検証から出てきた事実が、そのまま『事故報告書』になります。あれこれ考えながら書く必要など、どこにもないのです。

報告書の策定者は、発見者・発生者ではない

もうひとつ大切なことは、介護事故報告書は誰が書くのかです。
事故報告者は、事故の第一発見者や事故を発生させたスタッフが書くのが当然だと思っている人が多いのですが、述べたように、当事者が書くと、その技能・知識によって、その質・レベルに大きなバラツキがでてしまいますし、客観性を保つことが難しくなります。

また、事故報告書は、事故の状況や事故原因だけでなく、初期対応、家族への報告、予防対策まで検証・整理しなければなりません。つまり、「発生状況の把握」「初期対応とその課題」「事故原因の分析」「家族連絡とその応対」「予防対策・関連部署との連携」 等がすべて整理でき、その実務を仕切ることのできる人でないと、事故発生から収束まで連続した報告書を書けないのです。

事故報告書は、事故の当事者ではなく検証をした主任・リーダーが作成するべきものです。
その上で当事者に再度確認を求めたほうが、精度の高いものになります。
介護の知識・技術、経験が豊富で、その事業者のリスクマネジメントを理解・推進する中核スタッフが検証し、事故報告書を書けば、自分達の行っているサービスの課題・ほころびが明らかになり、スピーディでスムーズな対策が可能になります。

この話をすると、「介護リーダーや主任は忙しいから、それどころではない」という顔をする人がいますが、それは大間違いです。発生した介護事故やトラブルよりも優先しなければならない業務など何一つありません。それに、慣れてくれば検証作業は10分~15分程度で終わりますから、それほど手間のかかる作業ではありません。
繰り返しになりますが、検証ができなければ、きちんとした事故報告書は書けません。その事故の対応をおざなりにすれば事故は拡大し、更に大きな時間と労力を取られることになり、事故の種に対するスタッフの嗅覚は、どんどん落ちて行くことになります。

残業をして、一人であれこれと考えながら報告書を書くには相当の時間がかかりますし、そのほとんどは主観的な反省文・言い訳文でしかありません。原因分析も初期対応が適切だったのかもわからない報告書を、介護リーダーが読んで、その場にいた他の人にも個別にあれこれ話を聞いて、もう一度本人に確認して、それを何度も書き直させることになれば大変な作業時間になります。
慣れないうちは、少し時間がかかるかもしれませんが、小さな介護事故を通じて、事故やトラブルの原因を一つ一つ潰していけば、確実に未来の事故を大幅に減らすことができます。その結果、事故やトラブルが減れば、無駄な動きをする必要がなくなり、業務はスムーズに動くようになるのです。

また、検証を行う過程で、当該事故を起こしたスタッフも、立ち会ったスタッフも、介護事故に対する知識・技術が格段に向上することになります。次回、事故を発見したとき、他の事故に会ったとき、どうすれば良いか、何が初期対応で必要なのかを身をもって体験することができるからです。
更に、キャリアアップ研修の中で、リスクマネジメントを推進し、事故報告書の検証役、策定役を任せられる中核スタッフが増えてくれば、全体のサービスの質も確実に向上します。
この「検証作業」と「報告書作成者」を見直すだけで、事故報告書は根幹から全く変わるはずです。





「なにがダメなのか」 介護事故報告書を徹底的に見直す

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「責任とは何か」 介護事故の法的責任を徹底理解する 

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「介護事故に立ち向かう」 介護リスクマネジメントの鉄則

  ⇒ 業務軽減を伴わない介護リスクマネジメントは間違い ?
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  ⇒ 介護リスクマネジメントはソフトではなくハードから ?
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