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高齢者住宅に適用される介護保険制度はどうなっていくのか


今後、激増する重度要介護高齢者の住まいはいまだ絶対的に不足している。
「重度要介護高齢者対応住宅」の整備のためには、「サービス提供責任の明確化」「特定施設入居者生活介護への一本化」「監査指導体制・罰則の強化」を基礎とした制度改正が必要。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 026 (全 29回)


「重度要介護高齢者の激増」「高齢者住宅の事業特性」、そして「財源・人材の効率的・効果的運用」など、どの側面から見ても、すべての自治体で、早急に整備を進めなければならないのが、現在の「自立・軽度要介護高齢者住宅」ではなく、「重度要介護高齢者対応の高齢者住宅」です。
高齢者住宅はどこに向かうのか、まずは「制度の方向性」から考えます。

サービス提供責任の明確化

高齢者住宅の制度の方向性の一つは、「サービス提供責任の明確化」です。
入居者や家族は、「介護が必要になっても安心・快適」という高齢者住宅事業者の説明を信じて入居契約をするのですが、サ高住や住宅型有料老人ホームの場合、介護や食事などの生活支援サービスは、各サービス事業者との個別契約です。
実際には「囲い込み」による押し売りサービスで、入居者が選択できないにも関わらず、サービス上の事故やトラブルが発生すると、「サービスの選択責任は個人、高齢者住宅事業者は無関係」ということになっています。事業者都合の「羊頭狗肉」で、高齢者住宅事業者の説明と、そのサービス提供責任の実態とが、かけ離れているのが実態です。

また要介護高齢者の場合、食事や介護サービス内容が劣悪で、介護や食事などのサービスが止まれば、借家権などの居住権に関わらず、生活を続けることはできません。「高齢者住宅事業者が、すべての生活支援サービスを直接提供すべき」というわけではありませんが、高齢者・家族に対して、「安心・快適」と標榜している以上、少なくとも高齢者住宅事業者には入居者が安全・快適に生活できる環境を整える義務と責任があります。

制度上・契約上も、それを明確にする必要があります。
今後は、食事や介護看護など、生活の根幹となる生活支援サービスについては、各種サービス事業者と入居者との個別契約であっても、「複数の選択肢の確保」「サービスの質の担保」「トラブルや倒産リスクへの対応」などが法的に義務化され、高齢者住宅事業者もサービス提供責任を連帯して背負うという方向に進むことになるでしょう。

特定施設入居者生活介護への報酬一本化

二点目は、介護保険適用の一本化・集約です。
今後、絶対的に不足するのが重度要介護高齢者の住まいです。
「施設的か否か」といった思い込みの感情論ではなく、重度要介護高齢者の生活を支えるためには、どのような介護システムが必要なのか、どのような報酬体系が適しているのかを考える必要があります。

「介護保険制度の基礎を知らない素人事業者🔗」で述べたように、現在の区分支給限度額方式のポイント介助だけでは、重度要介護高齢者の生活を支えることはできません。「包括算定の介護付有料老人ホームは施設的だから住宅ではない」「サ高住は一般の住宅なのだから、区分支給限度額で対応すべき」というのは、介護の実務や制度の役割を理解していない素人の意見です。個別ケアという視点でみれば、ケアマネジメントに基づかない囲いこみ型のサ高住の方がよほど前施設的です。

また、今後は重度要介護高齢者住宅の推進のために、軽度要介護高齢者の報酬を削減し、重度要介護高齢者の報酬へのリバランスの方向に向かいます。それと同時に、①で述べた、介護サービス提供責任の明確化のために、高齢者住宅事業者には「特定施設入居者生活介護」もしくは「外部サービス利用型特定施設入居者生活介護」のどちらかを選択させることになるでしょう。

指導監査体制・罰則の強化

三点目は、指導監査体制の強化、罰則の強化です。
本来、「参入障壁の撤廃・緩和」は、「チェック体制の強化」と一体的に行わなければなりません。
しかし、高齢者住宅については、「質より量」と参入障壁を大きく下げただけでなく、事前届け出など、最低限の指導監査体制も撤廃してしまいました。その結果、「介護は儲かる」「補助金がでる」と安易に参入した素人事業者が激増、「無届施設」「囲い込み」といった違法行為が大手事業者にも蔓延しています。また、介護付有料老人ホームでも、適切なサービス管理、スタッフ管理ができないため、介護スタッフによる虐待やネグレクトが日常化しています。

指導監査体制の強化は倒産・トラブルだけでなく、社会保障費の削減のためにも不可欠です。
上記②で、特定施設入居者生活介護に集約されると書きましたが、自立~要支援程度の高齢者が多い高齢者住宅もあることから、一律に「高齢者住宅に対しては区分支給限度額方式の全面禁止」をとることはできません。
しかし、現在の「囲い込み」の多くは、述べたような不正が隠れていることから、目に見える形での時間管理の徹底、要介護認定調査の厳格化、ケアマネジメントに対するスーパービジョン、不正に対する職員を含めた罰則の強化が必要です。

また、「地域包括ケアシステム」として、自治体マネジメントの強化が求められていますが、現行制度では、サービス付き高齢者向け住宅は事後登録でも開設できますから、高齢者住宅整備について自治体が計画・コントロールすることができません。
そのため、有料老人ホーム、サ高住は統合され、指導監査体制や基準は一本化、登録制は廃止され、自治体との事前協議、届け出が義務付けられることになるでしょう。

また、無届施設や囲い込みなどの不正行為に対しては、資格停止、新規受け入れ停止などの行政罰だけでなく、刑事罰を含めた厳しい罰則が加えられることになります。それは事業者だけでなく、不正を行っていたケアマネジャーやホームヘルパーなどの個人にも及ぶことになるでしょう。

以上、三つのポイントを上げました。
「一気に規制を強化すれば業界は大混乱に陥る」と反対する人もいるかもしれません。
しかし、財政的にも人的にも、要介護高齢者住宅の代替施設として特養ホームを作り続けることも、自己負担を介護保険や医療保険に付け替える囲い込みの不正利用をなし崩し的に許容することもできません。また、素人事業者による事故やトラブル、倒産の激増を食い止めることも必要です。
対策が後手後手に回った結果、もうすでにソフトランディングができる時期は過ぎているのです。

高齢者住宅事業は、超高齢社会に不可欠な将来性の高いビジネスです。社会保障費を収入の基礎としているため、法外な利益を求めることはできませんが、地域ニーズに沿った商品設計を行い、リスクマネジメントを基礎とした経営ノウハウがあれば、長期に安定した経営が可能です。
また、一軒一軒、離れた自宅に訪問するよりも、重度要解雇゛高齢者は集まって生活してもらった方が、効率的・効果的なサービス提供が可能となり、それは社会保障費の削減にもつながります。
行政の仕事は、目先の補助金を出すことではなく、事業者の民間活力、創意工夫が活かせるよう、適切な競争ができる環境を整えることです。

制度を安定させることができれば、優良な事業者が必ず参入してきます。
これからのハイパー高齢社会に適用できない制度や、不正事業者・素人事業者を延命させるのではなく、これから50年以上維持することができる制度、商品を再構築していく必要があるのです。




高齢者住宅の制度・商品の未来を読み解く 

  ⇒ 高齢者住宅の制度・商品の方向付ける4つのベクトル 🔗
  ⇒ 現在の特養ホーム・老人福祉施設はどこに向かうのか 🔗
  ⇒ 高齢者住宅に適用される介護保険はどうなっていくのか 🔗
  ⇒ 高齢者住宅の商品性・ビジネスモデルはどこに向かうのか 🔗
  ⇒ 低所得・重度要介護の高齢者住宅をどう整備していくのか 🔗
  ⇒ これからの「地域包括ケア時代」に不可欠な二つのシステム 🔗



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