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悪貨が良貨を駆逐する制度、放置する自治体

制度矛盾によって、優良な事業者が消え、素人事業者が蔓延る

横行する入居者への介護虐待、人質になる高齢者・家族


 

「夜警国家か、福祉国家か」、国の役割として社会保障の分野ではよく議論されるテーマです。
国は、安全保障や治安維持だけを行い、市民生活は民間の経済活動と自己責任を基礎とするのが「夜警国家」、「ゆりかごから墓場まで」と評されるように、国が国民生活全般の安定を目的とするのが「福祉国家」です。その言葉のイメージから、福祉関係の書籍では「夜警国家」というのは警察や軍隊が大きな力をもって跋扈するようなイラスト、福祉国家というのはみんなが幸せに暮らせるバラ色のイラストで示されているものもあります。

ただ実際は、その概念は、単純な対立軸にあるのではありません。
前者を「小さな政府」、後者を「大きな政府」と言うように、「福祉国家」であっても、国の役割の基礎となるのは治安の維持です。それは、警察や自衛隊による安全保障だけでなく、民間企業による自由競争の市場経済をとる国においても、「公平で公正な経済活動」「消費者の保護」が行われるように、制度を整え監視するというのが法整備・行政機構の最低限の役割です。

しかし、日本では、この二つの役割が完全に混乱しています。
この「公平・公正な制度運営」という制度の根幹を蔑ろにしたまま、「介護だ、福祉だ」とバラマキ政策を続けた結果、財政規模だけ「福祉国家」となったのが現在の日本の姿なのです。

~制度矛盾によって、優良な事業者が消え、素人事業者が蔓延る~

現在の高齢者住宅の住まいの課題は3つあります。

「老人福祉施設と高齢者住宅の矛盾」
金持ち優先の福祉施設を整備し続けてきた厚労省の大罪🔗
「有料老人ホームとサ高住の矛盾」
高齢者住宅を全く知らない国交省が作ったサ高住🔗
「高齢者住宅に適用される介護報酬の矛盾」
なぜ、「サ高住」は「介護付」よりも格段に安いのか🔗

これらの制度矛盾は、莫大な社会保障費の浪費につながるだけでなく、優良な事業者が素人事業者、不適切な事業者に駆逐されるという事態を招いています。
「特養ホームが足りない」「老人福祉の充実」と、この10年で約3600施設、15万人分ものユニット型特養ホームが整備されてきました。しかし、述べたように、このユニット型特養ホームの運営には自宅や高齢者住宅で生活する要介護高齢者と比較すると、年間一人当たり180万円多くの社会保障費がかかります。単純計算で増加分の15万人だけでも、年間2700億円、10年で2兆7000億円もの社会保障費が余計にかかる計算です。

このユニット型特養ホーの増加は、民間の介護付有料老人ホームの経営悪化の最大の原因でもあります。
一人当たり年間180万円といえば、月額15万円の差です。常時、半額セールをおこなっているようなもので、民間の経営努力で埋められる範疇を大きく超えています。どれだけ介護付有料老人ホームが努力しても、サービス内容、価格ともに、ユニット型特養ホームには絶対に勝てません

また、本来の対象である所得や収入の多い要介護高齢者が、優先的に特養ホームに入所するため、介護付有料老人ホームには入居者は集まらなくなります。まったく同じサービスで、「30万円の介護付有料老人ホームと13万円のユニット型特養ホーム、どちらを選びますか」と聞かれて、介護付有料老人ホームを選ぶ人はいないでしょう。
「特養ホームは重度要介護高齢者の住まい」とした時点で、介護付有料老人ホームの存在意義は「運悪く特養ホームに入れない人の待機場所」でしかありません。

厚労省は、要介護三以上の重度要介護高齢者に限定した結果、特養ホームの待機者数が減少し、待機期間も短くなったとしていますが、入りやすくなったのは支払い能力の高い人だけです。従来型の複数人部屋の特養ホームは作られていませんから、これまで以上に待機者が集中し、重度要介護であっても、支払い能力の低い低所得者は、より入所が難しくなっています。

これは、介護離職の増加原因にもなっています。
要介護三以上の重度要介護状態になると、24時間365日、排せつや移動など日常の生活動作すべてに渡って介護が必要となるため、訪問介護、通所介護などの「ポイント介助」だけで生活することは難しくなります。「特養ホームにも入れない、もちろん介護付有料老人ホームなんてとても手に届かない」と、その結果、家族が仕事を辞めざるを得なくなる「介護離職」が増えているのです。

 

~横行する介護虐待、人質になる入居者~

しかし、家族が介護できる人は、まだ恵まれているといって良いでしょう。
低所得の独居高齢者など、自宅で生活できない重度要介護高齢者は増えています。
特養ホームに入れない彼らの行き先は、「囲い込み」を行っている低価格のサ高住や無届施設です。
無届施設の数は、この5年で4倍の1200施設に膨れ上がり、サ高住はこの5年で事業者数は3倍に、定員数は6.6倍の20万人を超えています。そのほとんどが「囲い込み型」です。
この「囲い込み」は、押し売り介護だけでなく、「要介護度を不正に上げる」「報酬請求上の介護と実際に行った介助に違う」など、多くの不正が隠れています。

特に、無届施設は、その存在自体が違法です。制度から外れ、行政の眼も行き届かないために、一部では高齢者を紐や拘束具でベッドに括り付けるなど、悲惨な虐待や暴言・暴行が日常的に行われています。本人の預貯金が勝手に引き出され、貴金属が行方不明になるなどの犯罪行為も横行しています。
ある無届施設では、インフルエンザとノロウイルスが蔓延し、三ヶ月の間に24人もの高齢者が亡くなっています。病院や特養ホームでは、感染の届け出が義務付けられているため、一人でも亡くなれば大きなニュースになりますが、24人もの高齢者が一気に亡くなっても、行政も知らないふりで、ニュースにもならないのです。

彼らは、「行き場のない低所得者のためにやっている」「介護スタッフも入居者のために頑張っている」と抗弁しますが、それは詭弁です。入居者の生活を守るための適切な感染症対策や防災対策も行わず、社会保障費を搾取しているのですから、上手くやれば適切に運営している高齢者住宅よりも、高い利益を上げることができます。そうでなければ、これほど無届施設が増えるはずがありません。まともな介護スタッフやケアマネジャーは、このような不正な高齢者住宅では働きませんから、サービスの質も推して知るべしといって良いでしょう。

ただ、悲しいことに、どれほど劣悪なサービスであっても、家族は訴えることができません。自宅では生活できない、引き取って介護もできないため、報道によってそこが倒産したり、「出ていけ」と言われると、どうしようもないからです。
「高齢者や家族が人質になっている」という意味がわかるはずです。

問題があるのは、国の制度だけではありません。
普通に考えれば、「どうして、自治体はお金も人も足りないのにユニット型特養ホームを作り続けるのだろう」「どうして違法だということがわかっているのに無届施設や囲い込みを取り締まらないのだろう」と思うでしょう。
それは、自治体でも、福祉事業を一部の地方議員や天下り公務員が利権化しているからです。

理事長が市会議員や県会議員で、その妻が施設長、息子が事務長と一族で社会福祉法人を私物化したり、都道府県や市町村からの天下り公務員の理事長、施設長というところも少なくありません。介護資格も経験もない天下り施設長の給与は1000万円を超えます。
その人数は、少なくとも全国で数千人規模、彼らに支払われる給与だけで、年間数百億円をゆうに超えます。そのため、知識や経験を積んで頑張って働いている介護スタッフに給与が行き渡らないのです。

最近では、国と自治体の責任の擦り付け合いも始まっています。
無届施設や囲い込みサ高住が増えたのは、明らかに国の制度設計のミスです。
ただ、自治体も、よく勉強もせずに「サ高住は補助金がでる」「特養ホームよりも安上がりだ」と積極的に推進してきたのです。
しかし、トラブルや事故が報告されても、事業者が倒産すると、その受け皿もなく、後始末が大変です。厚労省や国交省は、トラブルが表面化すると、「適切に指導を」と言いますが、自治体は「それぞれの事業者の経営責任」「入居者の選択責任」と見て見ぬふりと、責任の擦り付け合いで、まったく改善が進まないのです。
その結果、このような劣悪な事業者が、どんどん増えているのです。

まさに、「悪貨が良貨を駆逐する制度体系」といっても過言ではありません。
「福祉だ、介護だ、セーフティネットだ」と言えば、なんでも許される風潮の中で、国も自治体も、そして事業者も、困っている高齢者・家族の生活や、産業の育成はそっちのけで、白アリのように社会保障利権にたかってきたのです。
これが日本の超高齢社会、社会保障制度の現実です。
社会保障費は天井知らずのものとなる一方で、その中身は腐ってボロボロになっているのです。

 

 

 

 

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