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「金持ち優先の高級福祉施設?」 を作り続けた厚労省の大罪

莫大な社会保障費と人材を投入して整備されてきたユニット型特養ホーム。しかし、実際は低所得者がその対象から外れ、富裕層が優先されるものとなっている。財政も人材も枯渇寸前というときに、富裕層優先の高級福祉施設を作り続けているのは、日本くらいのもの。

【連 載】 超高齢社会に、なぜ高齢者住宅の倒産が増えるのか 009 (全29回)


特別養護老人ホームはあまりにも不公平で非効率🔗述べたように、現在の高齢者住宅の矛盾の一つは、「老人福祉施設と高齢者住宅」の役割の混乱です。
介護付有料老人ホームであれば月額30万円以上の住宅商品が、ユニット型特養ホームであれば13万円で入居できるというのは、言い換えれば一等地に立つ3LDKのタワーマンションが「公営住宅」として建てられ、当選した人たちだけが市価の半分以下の家賃で入居できる…のと同じです。
今でも、「特養ホームの待機者が多い」「特養ホームが足りない」という人は多いのですが、そのコストパフォーマンスを考えると、入所希望者が殺到するのは当然のことだと言えます。

しかし、特養ホームを巡る最近のニュースや厚労省発表を見ると、「待機者数はいまだ30万人を超えている」という一方で、「一部の特養ホームでは待機者がゼロ、入所者不足というところも…」と矛盾するようなものがふえています。「一部地域では特養ホームが増えすぎているのだろうか…」「市価の半分以下の費用で入れるのに、なぜ入所希望者が少ないのか…」と疑問に思うでしょう。
その理由は単純です。「月額13万円」「市価の半額以下」といっても、その金額を支払うことのできる高齢者、家族は限られているからです。

平均的な年金収入でもユニット型特養ホームには入れない

特養ホームは、民間の高齢者住宅ではなく、社会福祉施設ですから、月額費用が安く設定されているだけでなく、独自の低所得者対策が行われています。
それを示したのが、以下の表です。

しかし、この低所得者対策は、全く機能していません。
実際の運用を細かく見ていきましょう。

第一段階の生活保護受給者は、ユニット型特養ホームは基本的に対象外です。
第二段階は、合計所得が80万円未満の基礎年金程度の高齢者を想定したものです。
ただ、標準の月額利用料は5.2万円ですが、それは、あくまで特養ホームに支払う額ですから、それ以外に健康保険や介護保険料、医療費、被服費、おやつ代などの生活費は別途必要です。それを低く見積もって2万円と仮定しても、月額の生活費は7万円を超えます。現在、国民年金の老齢基礎年金は満額でも78万円、月額に直すと6.5万円ですから、年金収入だけでは足りないということがわかります。

第三段階の年間収入が90万円、100万円、120万円、130万円の高齢者も同じです。
第三段階の人は、月額利用料が8.5万円に抑えられますが、その他生活費を含めると、月額11万円程度、年間では132万円の生活費が必要になります。年金収入だけではユニット型の特養ホームに入れません。
第四段階は公的年金収入のみの単身者で、155万円以上の人を想定しており、低所得者対策からは外れます。しかし、特養ホーム利用料だけで年間160万円となり、生活費を加えると200万円近くになります。

ただ、この計算は日々生活する上で最低限必要なお金だけです。
体調を崩して入院をすると別途入院費がかかりますし、「孫にお年玉や小遣いをやりたい」「葬儀などのためにある程度は持っておきたい」という思いもあるでしょう。
つまり、現在のユニット型特養ホームは、一人200万円以上の年金収入があるか、数千万円の預貯金があるか、もしくは、家族からの仕送りがあるなど、金銭的に余裕のある人しか入居できないのです。

厚労省の発表した「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、基礎年金のみの人への支給額は平均で5.6万円(年間67万円)、厚生年金をもらっている人でも平均支給額は14.7万円(年間176万円)です。夫婦二人世帯の平均支給額は月額22万円(264万円)ですが、一人が特養ホームに入ると、もう一人は60万円で生活しなければならず、これも不可能です。
平均額程度の年金収入だけでは、ユニット型特養ホームには、とても入れないのです。

富裕層しか入れない特養ホームも登場

問題は、それだけではありません。
厚労省の定めているユニット型特養ホームの居住費の基準費用額(一日当たりの家賃相当)は、一日当たり1970円ですが、建築費高騰などの諸事情を勘案し、実際の金額はそれぞれの特養ホームで自由に決めて良いことになっています。
その金額は、平均でも2300円、中には、基準額の3倍の6000円近いところもあります。居住費だけでなく、食費も基準費用額の1380円を超えて、一日1500円~1800円に設定するところも増えています。そうなると、第四段階の高齢者の場合、特養ホームに支払う費用だけで毎月15万円~23万円、生活費を含めると月額18万円から26万円程度、年間の生活費は220万円~300万円となります。

特養ホームは営利目的の民間の高齢者住宅ではなく、老人福祉法に基づく非営利の老人福祉施設です。
このような「居住費を基準額以上に設定する」というのは、「諸事情により、その金額設定でないと、適切な運営ができない」ということが大前提です。
ただし、ホテルコストを高く設定しても、減額対象の低所得の高齢者(第一段階~第三段階)が入所すると、基準額(居住費は1970円、食費は1380円)までしか徴収することができません。その差額は事業者負担となるため、運営を維持するには、低所得者の入所は制限しなければならないということになります。

建築費高騰を負担させることによって入所者が制限されるというのは本末転倒ですし、「豪華な食事を出すから基準額より食費が高い」「一日のホテルコストが基準額より1000円以上高い」というのは、福祉施設ではなく民間の営利事業の高齢者住宅と同じです。居住費が3000円以上などというものは、莫大な社会保障費と介護人材を投入して、福祉施設として整備すること自体が間違っているのです。

その結果、中には第四段階が80~90%と、明らかに富裕層優先にする特養ホームもでてきていますし、この差額を利用して、高い収益を上げている社会福祉法人もあります。「緊急度の高い人」「自宅で生活できない人」ではなく、「お金持ちの人」ばかりの特養ホームもあります。

「特養ホームは、以前と比較して入所しやすくなった」「特養ホームの待機期間は、依然と比較してずいぶん短くなった」といった報道が増えていますが、これは完全にあやまりです。
高い収入や資産、もしくは家族からの支援がない高齢者は、ユニット型特養ホームには申し込むことさえできません。そのため待機者は少なく、多くの地域で申し込みから1ヶ月、2ヶ月程度で入所することができます。一部地域では待機者が少なく、満室にならない特養ホームもでてきています。

その一方で、今でも30万人以上の高齢者が、特養ホームが空くのを待っています。
ある市で「ユニット型」「多床室型」の二つを経営する社会福祉法人の理事長と話をすると、申込の8割は「多床室型」に集中しているといいます。収入や資産のない高齢者は、従来の多床室型に集中するため、これまで以上に、長い間待たされているのです。「多床室型」「ユニット型」で待期期間は二極化しているのをわかっていながら、わざわざ平均して、「待期期間は短くなっている」などと厚労省が発表報道するのは、あまりにも恣意的です。

一部の識者は、「待機者数にも地域差がある」「一部地域では過剰なところもある」などと曖昧な発言していますが、これは全くの間違いです。全国で待機者ゼロというところはありませんし、これから重度要介護高齢者は一気に増えていきます。現在、全国で稼働していない特養ホームが問題になっていますが、それは例外なくすべてユニット型です。
その原因は明らかで「たくさん介護職員がいないと稼働できないから」、そして「高すぎてお金がない人は入れないから」です。

【ニュースを読む】 特養ホーム空床の謎とその課題 (上)  ~高級福祉施設~🔗
【ニュースを読む】 特養ホーム空床の謎とその課題 (下) ~地域包括ケアの崩壊~🔗

この構図は、ショートステイやケアハウスでも同じです。
全国でショートステイが足りないと言われていますが、このユニット型特養ホーム併設のショートステイは空いています。それは、お金のない人は利用しにくい、できないからです。またケアハウスは、老人福祉施設の一つでその整備、運営には社会保障費が使われていますが、中には「入居一時金500万円」などというところもあります。
財政も人材も枯渇寸前というときに、莫大な社会保障費を投入して「社会保障の充実、セーフティネット」だと、富裕層優先の高級福祉施設を作り続けているのは、日本くらいのものです。

そう考えると、日本の社会保障政策、高齢者介護対策が、目先の省庁の利権と補助金目的に作られた、いかに杜撰な制度なのかが見えてくるでしょう。そして社会福祉を食い散らかすシロアリ🔗で述べたように、この福祉利権は、国だけでなく自治体も蝕み、天下りや地方議員のお財布となっているのです。

「特養ホームが足りない」「介護だ、福祉だ」と、利権と選挙目的にこのような無茶苦茶な福祉施策を先導してきた政治家や厚労省の罪は、そう軽いものではないのです。





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